不運か幸運か
「これ、お願いします」
「・・・」
俺は男子生徒から本を受け取り、本についているバーコードを専用の機械で読み取ってから男子生徒に本を手渡す。
そう今、俺は図書室にて図書委員の仕事をしているのだ!
といっても、この作業を繰り返し行うだけのすごく退屈な仕事なのだがそこはしょうがない。同じく、図書委員である蘭城は先程放送で先生に呼び出されていたためこの場にはいない。
「・・・あっ」
(また、誰か来たのか)
図書室に通じる扉が開き、うんざりしながら一瞥してから後悔した。
「一之瀬・・・」
そこには学年のアイドル(勝手に俺が呼んでいる)である一之瀬 千夏が俺の方を見ながら突っ立っていた。
「正輝・・・」
俺が彼女の名前を無意識に出してしまったように彼女も俺の名前を無意識に発する。
「っ!」
しかし、すぐに正気に返り手元にあった本を開き読書に没頭しようと試みる。それを見て、一之瀬は寂しげに表情を曇らせた後、本棚に向かっていった。
俺は本を読むことによって無心を保とうとする。
(無理に決まってんだろうが!!)
が、無理だった。知らないふりをしていてもチラチラと本を探す一之瀬を方を見てしまう。
(駄目だな)
しかし、すぐに思いとどまり本に没頭しようとする。
「今いいかな、正輝」
「一之瀬・・・」
そして、今度は一之瀬に阻止された。俺たちはお互いに惹かれあうように見つめあう。
「昔みたいに『千夏』って呼んでくれないんだね」
一之瀬はさびしげな表情をしながら呟くような小さな声を出す。
「・・・どの口がほざいてんだよ」
すぐに正気に返り、一之瀬の手に握られていた本を強引に奪った後、本のバーコードを専用の機器で読み込む。
「・・・ごめんね」
一之瀬は苦しそうに謝罪の言葉を呟く。
「謝るくらいなら最初からやんなきゃよかったろうが」
対する俺も苦しげに言葉を絞り出す。
「うん、そうだね」
俺が差し出した本を受け取ってから一之瀬は図書室を出て行った。
「胸糞悪いことさせやがって」
悲しそうに図書室から出て行った一之瀬を見て、俺は思わず悪態をつく。
別に裏切られた腹いせに一之瀬をどうこうしようとは思っていない。恨んでいないと言ったら嘘になるがそこまで憎んでいるわけでもない。
裏切られたあの時は動揺していて何も考えられなかったが、今ならば分かる。一之瀬が俺を裏切った件について完全に悪いのは周囲にいたあの屑共だ。一之瀬はあの屑どもに強引に従わせられていたといっても過言ではない。
俺が気に食わないのは一之瀬が「すべては自分のせい」だと考えていることだ。裏切られた俺が言うのもあれだが、あれは自意識過剰とも言えるだろう。おそらく、一之瀬の考えていることは・・・
「例え、周囲の人間に流されてやってしまったことでも私が正輝を裏切ってしまったのは変わりようのない事実。だから、私には許される権利はない」
といったところだろう。
(人の気持ちってのは難儀なもんだな)
どうやってもうまくいかないということに舌を巻く。
「やっ!やってるねぇ~」
そんなことを考えていると先生とのお話を終えた蘭城が勢いよく扉を開けて入ってきたかと思いきや、俺のことを全く考えない能天気なセリフを発してきた。
「・・・」
何も知らない、元気が取り柄な蘭城に空気を読めというのも酷な話かとも思うが、俺は無言で蘭城に近づいていく。
「な、なに?」
困惑する蘭城に向かって片手を出し、その頭を覆いかぶせるように掴む。
「えっと、正輝さん?」
「ふざけんな」
いきなりのことで片言になってしまっている蘭城に向かって、静かに言い放ったのち頭をつかむ手に力を込める。
「えっ、痛い痛い!」
「少しは空気を読めよ!」
今日も図書室は平和でした(嘘)
ついに一之瀬と主人公の止まっていた時間が動き出す!!
作者)うぉぉぉ!!!砂糖だ!砂糖が足りねぇ!!