委員決め
「え~、今日はクラス内での委員を決めていくぞ~」
週に一度のLHRで先生はそんな話を切り出してきた。
「まずは学級委員を決めて、あとはそいつに任せるから。とりあえず、やりたい奴とかいるか?」
先生がそう呼び掛けると予想通り二人の男女が手を挙げた。
女子の方はもちろん一之瀬 千夏で
男子の方はサッカー部に入部したイケメン君こと『八上 彰』。すでに上級生から一度告白されているとの噂がある男子だ。本人は何も言っていないのであくまで噂レベルの話だ。
(まぁ、正直どうでもいい話だが)
委員を決めると言っても俺はやるつもりなど微塵もないので窓から言える桜の木をボーっと見ていた。
「んじゃあ、あとは一之瀬と八上に任せるわ。決めたらまとめて報告しに来いよ~」
そう言って、先生は教室から出て行ってしまった。なんとも、自由な性格のようだ。
「それじゃあ、決めていこう。委員ごとにやりたい人を募って男女一人ずつならそれで決定。二人以上いる場合は話し合いかじゃんけんになるんだけどいいかな?」
八上の確認に、クラスの数人が頷く。
「じゃあ、委員名を言うからやりたい人は手を挙げてくださいね」
一之瀬の呼びかけと共にすごく退屈な時間が始まった。俺は特に興味もないので腕に頭を乗っけて寝ることにした。
「マサ君・・・起きてよ~」
寝ていると聞き覚えのある声がかかる。
「・・・なんだ、お前か」
その声の持ち主が蘭城なのを確認して適当に返す。
「なんだって何よ~。美少女が起こしてくれる、これほどうれしいことは男子はないんでしょ?」
蘭城は恥ずかしげもなくほどほどに膨らんだ胸を張ってそう言ってくる。
「俺にそんな特殊な性癖はない」
なんだか馬鹿にされている気分だったので反論しておく。
「それよりも、これ手伝ってよ」
蘭城はどこからか出した一枚のプリントを俺に渡してきた。
「図書委員の任命書名?」
そこにはそう書かれていた。そのまま下に行き、説明らしき文を読む。
『クラスで図書委員に選ばれた生徒はこのプリントに自分のクラス、番号、名前を記入し図書室の司書である小林先生に提出してください』
説明文を読んだ後に、下の署名する欄を見る。
一年Aクラス 35番 蘭城 遥
未記入欄
「それじゃあ、書いて提出しておいてね~」
「ちょっと待て」
そのまま流れに乗って退出しようとする蘭城の肩を俺は遠慮なく掴む。
「これは、どういうことだ?」
俺はプリントを手に尋問を開始する。
「・・・」
蘭城は振り向かず、何も言わない。ただ、俺の手から逃げようとしていることは分かる。
「俺は寝ていたんだが、これは一体どういうことか教えてもらえないかな?」
振り向かない蘭城の真正面に行き、できるだけ優しげな笑みを浮かべながら語りかける。
「・・・」
蘭城は俺から目をそらしつつも何も言わない。
「なぁなぁ、黙ってちゃ何も分からないんだが?」
そこで遂に蘭城の限界が来たのか俺の手から素早く抜けるなり土下座をしてきた。
「す、すみませんでした~!」
清々しいほどの土下座だ。頭を下げる際に額を床にぶつけたのかゴツンという鈍い音もした。
「・・・何か弁明はあるか?」
「だ、だって、私だってやるつもりなんてなかったけど断れない雰囲気にされて、それでマサ君がのんきに寝てるのを見てなんか頭に来てやっちゃいました」
「ほうほう、つまりお前は周囲に迫られて断れない状況になってしまったときに寝ている俺を見て巻き込んだ。と言うわけか」
俺が要点をまとめて言うと、蘭城は土下座をやめ、あざとく上目使いで俺に許しを乞いてくる。
「しょうがなかったんだよ~」
何がしょうがないのかよく分からないが俺は溜め息をつき、席に座りなおす。
「・・・仕方ねぇなぁ」
俺は勘弁してそのプリントに自分のことを書いていく。蘭城もその様子を見て目を丸くする。
「許してくれるの?」
「別にここまで来たら許すも何もないだろ」
放課後になって俺と蘭城以外いなくなった教室を一瞥してそう言う。
「ありがとね~」
蘭城は可愛らしくはにかみながらお礼を言ってくる。
「調子に乗んな」
「痛っ!」
なんだかイラッときたのでとりあえず小突いておいた。
その後は蘭城と一緒に図書室の司書にそのプリントを提出し、一緒に帰った。
「正輝・・・」
そんな俺たちの後姿を誰かが見ていたことを俺はしる由もない。
作者)ぜひ、巻き込まれてみたい!