部活動見学・続
「じゃ、じゃあ、話を続けましょうか」
再び、咳払いをし竜胆さんが話を進める。頬が少し赤くなっていることから我を忘れて俺に迫っていたことを多少なりとも恥ずかしかったのだろう。
「あなたたちはもう陸上部に入部すると思っていいのかしら?」
真剣な表情に戻った竜胆さんは話を切り出してきた。
「俺は入るつもりです!」
「俺も入ろうかと思っています」
大林と俺は入部の胸を告げる。一方、『俺についていく』といった蘭城がどうするかは知らないため少し気になっていた。
「陸上部ってマネージャー志望でも入れますか?」
少しの間、沈黙したのち蘭城はそんな質問を先輩の二人にした。
「う~ん、マネージャーか~」
その質問に竜胆さんは難色を示す。
それもそのはず、本来陸上部にマネージャーが付くということは滅多にない。強豪校であればついているところもあるだろうがそれはほんの一握りだ。
陸上はサッカーやバスケとは違い、個人種目だ。もちろん、4×100メートルリレーなどの例外はあるが基本的には個人種目に分類される。マネージャーは選手を支える役職なのでその競技についてわかっていないとサポートすることは難しい。
そのため、ほとんどの陸上部ではマネージャーがいないのだ。その他にも、単純に陸上と言う種目が他の運動部であるサッカーやバスケなどより人気がないなどの理由もある。
「ん~、いいんじゃない?」
剣呑な雰囲気が漂う中、部長こと笠間さんは簡単に許可した。
「本当ですか!?」
「ちょ、ちょっと!」
その許可に蘭城は歓喜の声を漏らし、竜胆さんは戸惑いの声を漏らした。
「だって、本人がやりたいっているんだから僕たちにそれを却下する権利はないでしょ?」
「それに、マネージャーとはいえ女子部員が増えるのは瑞樹もうれしいでしょ?」
笠間さんは竜胆さんを納得させるようにそう話す。
「まぁ、そうなんだけど・・・」
その言葉に竜胆さんは渋々ながら同意する。
「なら、いいじゃないか。僕は君のことを歓迎するよ」
その後、先生に知らせなければならないということもあり解散となった。
「まさか、お前がマネージャー志望とはな」
帰り道。すっかり日常となった蘭城との帰り道を歩きながら先程のことを話す。
「そう?」
蘭城はいつも通り笑みを浮かべながら気分よさげに答える。蘭城はあのカフェでの一軒以来、俺に対して顔に薄気味悪い笑みを張り付けて応対することはいつの間にかなくなっていた。
「あぁ。そういえば、何で入ろうと思ったんだ?お前ならどこでも引っ張りだこだろうに」
俺はふと気に合ったことを聞いてみる。クラスの男子の中には女子にアピールするためにサッカー部やバスケ部などの王道スポーツをやり、女子生徒にモテようとする男子生徒は俺が知っている限りでも結構な数ほどいた。
そして、その活躍を見せるために可愛い子や気になっている子をマネージャーに誘うのだ。学年のアイドルである一之瀬はもちろん、美少女に分類される蘭城もクラスの内外から「マネージャに来ないか?」と誘われていたのを俺は知っていた。
「言ったでしょ?私、あんまり知らない人と仲良くしたくないの」
その言葉を聞いて、俺は思わず「俺とおまえも知り合ったばかりだろうが」と突っ込みそうになるが堪える。
「そうかよ」
突っ込むのをやめたため、良さげな言葉が浮かばず返答がぶっきらぼうになってしまう。
「でも・・・」
「?」
「陸上部に入ろうと思った一番の理由はマサ君とた~くさん一緒にいられるからだよ?」
そんな恥ずかしいセリフを一方的に言い、蘭城は走り去って行ってしまった。
(・・・今のは卑怯だろう)
その言葉を聞いた俺は呆然としたのち、柄にもなくドキドキしてしまい頬を赤くするのだった。
「マサ君とた~くさん一緒にいられるからだよ?」
作者)そんな言葉・・・言われたみたいっ!!