ケタケタガラス女
電車ってのは不思議なモンだ。
寝過ごしたら別の世界にいただとか、幽霊が乗車してたとか、体が浮き上がったとか、圧縮されたとか、どう見ても安全じゃないピンで刺されたとか、枚挙に暇がない。
あ、最後のは実話か。
まぁそんなことは至極どうでもいいんだけど、俺が体験した小噺を一つしようかと思ってね。
俺は昔よ、学生をやってたんだよ。ニート出身じゃねえんだよ。エライだろ?
といっても、本物の学校じゃなくて、通信学校とか、単位制学校とか、まぁともかくそういう「学校じゃない学校」「学校もどき」に通ってたんだ。
朝課外もないし、登校は13時。下校はちょっぴり遅くて18時だけど、まぁまぁ許容範囲。
ぐっすり寝れるもんね。
ほんで話の早いアンタならもうわかってると思うんだけど、まぁ俺の通学手段電車なワケよ。
登校するときはめっちゃ空いててシート席に座ってゆったりしてるんだけど、帰りはリーマンとか、塾帰りの小学生とか、外国人とか、ともかく人がたくさん。揉みくちゃにされるされる。皆んな帰宅だからしゃーないけど。
ほんでよ、その日も電車に乗って帰宅してたワケよ。棒立ちでさ。つり革に捕まってゆらゆら。
しかもその日はツイてなかった。自分の目の前に制服を着た茶髪の子がいんのよ。可愛かったけどよ。
え?なんでツイてないかって?
おいおい、冗談も程々にしろよ。最近ホットだろ、痴漢冤罪の話。ホント俺みたいな小市民からしたら困るんだけど、最近は安全ピンでグサッとされたりするっていうじゃん?
しかもとぱっちりでさ。
それ回避しようとするにはもう両手つり革しかねーだろ?見た目チャラいって言われっけど、見た目だけで刺されたら溜まったもんじゃねぇよマジ。
まーよ。一つだけ安心要素だったのは扉の目の前だったってことだな。
俺の前に女子高生。
女子高生の目の前が扉。
扉のガラスあるからガラス越しに反射して両手つり革見えるだろ?ていうか見えるようにつり革に手を掛けてた。横のリーマンから嫌な顔されたけどな。
俺だって保身第一だよ。
んで怖いのはこっから。
俺が乗ってる路線はなんか作りがヘンでさ、阪神高速みたいにビルの中突き抜けるトンネルがあるんだよ。これ目当てで来る外国人とかもいるみたいだしホント面倒なことしてくれたよな。
まぁそれはどうでもいいんだが。
電車がトンネルに入るんだよ。そしたらクッソ気味の悪い女がガラスの向こうからケタケタ笑ってこっち見てんのよ。
怖いっていうより、なんか超ブス。ほんとにブス。
最初は鏡の反射で自分の後ろにブスな女がいると思ったよ。でも乗り込む時に、電車の中の最前列に居たのは別のハゲたリーマンだったのを見てるから、多分違うってすぐわかった。
あぁ、これが噂の怪奇現象とかいうやつなんだなって思った。写メか動画撮ろうかと思ったけど、ここで携帯取り出したりしたらそれこそ誤解案件だからな。何もしなかった。
ここまで大体5秒くらいかな。
そして進行方向から光が見えてきた。トンネル抜けるなーって思った次の瞬間だったよ。
ドガバギィィイン!!!
一瞬、何が起こったかわからなかったね。
今なら順を追って説明できるけど、あのときはマジで混乱した。
ガラスの向こうでケタケタ笑ってたブスがニュッて手を伸ばしてきて、前にいた女子高生の頭を掴んで強引に引きずり込んだんだよ!ガラスの中によ!
当然ガラスの中に溶け込むなんてワケなくてよ、女子高生はガラスにぶつかって頭カチ割れてた。
マジビビった。
チョービビった。
「大丈夫かぁああああ!」
俺はとっさに叫んで女子高生の頭を戻そうとしたんだよ。
そしたら四方八方から刺すような視線が飛んできた。頭がガラスにめり込んでた女子高生から声がした。
「……何してるんですか?触らないでください。キモいです」
まぁ……幻影だったってわけさ。
おかけでオレは社会的に死んだよ。笑えねぇ。学校も退学だよ。おまけにSNSで動画まで晒された。もうやってけねぇ!そう思って海外に逃げたんだけどな。
あ、罰金は払ったぞ。ちゃんとな?
おかけで、アンタと出会って、こうやって駄弁ることができるんだけどな。
それにしても、結局アレはなんだったんだろうな。
気になって、ネットやSNSで調べてみたんだが、それらしい話は一件も無かったよ。この手の怪奇現象には、大抵なんかあるはずなんだけどな。
まぁこんな感じ。
あっ、もうそろそろ時間だな。オッサンとの駄弁りは楽しかったぜ。じゃあな。いやぁ、モヤモヤしてたのを誰かに話せてスッキリしたぜ。
じゃ、アンタの依頼、きちんとこなしに行くわ。建設反対派の娘をぬっころせばいいんだろ?
まったく、ろくでもねぇ商売やってんな、おたくも。そんなに鉄道を作りてえなら、地下鉄にでもしろよな。
え、ジャパンと違って金がないから無理?
ハイハイわーかりましたっと。小言はこの辺にしときますよっと。
ほんじゃ、さいならっと。
今回の話、いかがだったでしょうか。
ちなみにこのあとがきを書いている時間はなんと25時なんですよ。静かですね。変な霊も寄ってきそうです。
さて今回の話は一人語りです。海外のどこかのバーで、男二人何やら面白そうな話をしてる……。それを耳をそばだてて聞いている、という風に書いております。