襲撃
「・・・・マジかよ」
傍にいるブロウが驚愕の表情で少年を見つめる。あり得ない。と
「だから言ったじゃんかよぉ・・皆信じてくれないから、だから俺は、ううぅ」
「ブロウさん。どうするの?わたしたちは―」
周りを見渡すとすでにパニックを起こしている人だらけで、悲鳴や怒号を上げながら忙しなく駆け抜けていく。
「―どうしたらいいの?」
「そうだよおっさん!俺たちはどうすんだよ!?た、戦うのか?だったら俺も、俺も銃さえあれば戦えるよ!」
「あー・・・・よし決めた。2人はシェルターに避難してろ。みんなが走ってる方向に向かえ。俺は分隊と合流して防衛と猟兵共の支援だ。おら行け!手ぇ繋いでいけよ!絶対に逸れるな!」
え。ブロウ一緒に行かんの?このガキと一緒に避難?
「避難?待ってくれよ俺も戦えるっ俺も連れてってくれ!」
「黙れ!」
「ひぅ・・」
「いいから、今は。いう通りにしろ。お前がこの子を守ってやれ」
いうだけ話して彼は走り去っていった。子供の方も怒鳴られて驚いたのだろう。ビクビクと震えながらこちらを見つめてきた。色々聞きたい事だらけだが、今は年長者としてこのガキを守ってやらなきゃいけない。
「いきましょう!ほらて!はやく!」
「うぇ!?あっうん。わかった!」
近くの人間の流れとともに二人で走ってゆく。目の前にいる大人の大きさと悲鳴が、この小さな体に嫌に染みつく感じがして、とても不快だった。
「状況はどうなってる。」
第4壁の内周。市街地と分け隔たれた防衛本部の基地。他の城壁と連携を円滑に行う為、補給路や物資の分配、駐屯部隊の訓練など何かしら日々忙しい場所で今。隊長たるリミス・シニアンは問いかけた。
これに答えるのは副指揮官たるバーン。若いころから従軍しておよそ20年ばかり。幾たびも戦場に体を晒し、これを生き延びていることからも非常に優秀な人物だ。但し度重なるストレスからか頭の方は少し寂しいものだ。未だ残っている髪を撫でつつ受け答える。
「現在南森林帯からスキンク共がおよそ1中隊規模で進軍。北部前門部平野からスキンクを随伴させつつレックスが2頭。また、偵察部隊から南東の密林に何かしら動きがあるとのことです。」
「平野から?いい的だな。陽動かあるいは突破する策があるのか・・今までのレックスと装備が変わっているか?」
「特別これといってありませぬなぁ。地雷原とバテゥーラ。城壁上からの斉射で対応可能かと」
「ならばいい。問題は南と南東か・・」
「南の森林地帯はいまだ開拓が間に合っておりませぬからなぁ。こちらも地雷原がありますがまず間違いなく城壁に取り付かれるでしょう。」
「だろうな・・一度町に入られると処理が面倒だ。門前に陣を引く。防衛部隊には対小竜兵器と武器の変更を急がせろ。迫撃砲は南に寄せ、森林ごとつぶしてしまえ。そして南東は猟兵と偵察部隊に向かわせる」
「良いのですか?どれほどの規模が動いているのか不明ですよ」
「だからこそだ。騎兵の機動力と偵察部隊の支援で確認する。この襲撃、少なくとも今までの小競り合いと違う。2面進攻はあってもこの規模で行うほど愚かではない。であれば、奴らなりに戦略を整えつつあるのだろう。必ず潰すぞ!貴様は平野の指揮を取れ!バテゥーラに遊ばせるなよ?」
「無論ですとも。では隊長は南部ですね」
「ああ全く、この立場でなかったのなら、私自身の目で見たかったものだ。奴らのとっておきを!」
イライラしつつもどこか楽しそうな表情で彼女は外に向かう。大声で指示を飛ばす姿は、およそ女に見えぬ振る舞いだが、その姿は兵士達にとって美しく、そして偉大な英雄だった。
私と子供―名前はまだ知らない―の手を取りながら今なお必死に走っていた。街中は壁に幾重にも覆われているのだから、現代にいた時よりもはるかに狭いとはいえ、今は小さな娘っ子。かつての体力なんてあるはずもなく、あっという間に息切れだ。ぜーぜーと情けなく涎を垂らしながら走ってゆく。
気づいたら前で走っていた群衆の、僅か後ろばかりを見つめながらのマラソンだ。置いて行かれたら死んでしまうと思うと、殊更必死になってる。手をつないでる子供も涙目だが、私の手を振り払おうとはしない。間違いなく私を置いて行って走ったほうが早いはずなのに。
「はぁ、、はぁ、、ねぇ、あなた、、どうしてわたしをっ、、おいていっていかないの?そっちのほうが、、ぜったい、、はやいわよ?」
「はぁ?そんなことできるわけないだろ!さっきのおっさんに一緒に逃げろって言われたじゃんかよ!つうかお前もう息切れかよぉ情けねーな!」
「ッ、、」
子供特有の遠慮ない罵倒に答える気力すらでないが、どうやらこの子は律儀にブロウの話を守るようだ。間違いなく恐れや責任感からくるものだろうけど、ちょっぴり嬉しい気持ちになる。
「ああもうお前抱っこして走ったほうが早いわこれ!」
「わっちょっと!?」
「あーばーれーんーなーよ!さっさと追いつかないと、マジで置いて行かれるぞ!」
いきなり抱きかかえたかと思うと猛ダッシュだ。こっちは中身はあれだが見た目は美少女だというのに何ら遠慮がない。
「お前軽いし、大丈夫だ!絶対追いつく!」
「・・・ありがとう」
「う、うるせぇよ。お礼はあとからたっぷり頂くからな!?覚えとけよ!」
「はいはい」
こうしてまた走りだすが、この町の地形は本当に複雑だ。ろくに区画整理されていないのだろう。大通りかと思いきや行き止まりだったり、かと思えば小道が傍にあるなど、歪な通路事情となっている。おそらく外周を囲う壁のせいではなかろうか。緊急に整理したせいで、こうした道になっているのかも知れない。
そうして前の集団に追いつこうとしたとき、突如としてそれは起こった。
『バガァ――――ン!!!』
「「!?」」
物凄い轟音と共に、僅かだが振動が私達を襲う。今の『何か』で建物が崩壊するなどの被害はなさそうだが、それでも経験した事のない音と振動に。周囲の脇道や街道から悲鳴が木霊し、パニックに陥っていた。
「おいおいおいおいおいい!なんっなんだよ今の!?なぁなんなんだよぉ!」
「しっしらないわよ!いいからはやくにげなきゃあぶないわ!」
「逃げろって何処に行きゃいいんだ!?みんなあっちこっちに行って、分かんねぇよぉ!」
涙目になってこっちを覗きこまれるが、そうはいっても私もろくに確認していなかったのだ。ヤバい。本気で泣きたくなってきた。そうしている間にも周りは何処かに逃げ回っているので、いよいよ道がわからない。
だがさっきの音はたぶん、敵からの攻撃なのだろう。もしこちら側の攻撃なら、こうまで慌てないのではないか。そして衝撃から察するに、壁に何か撃ち込まれたのかも知れない。なおのことシェルターに逃げ込まれなけば悲惨な事になること間違いなし。自殺願望を今一度味わうつもりなんて毛頭ない!絶対に生き残ってやる!
「まわりのひとにきいて!しぇるたーどこって!」
「えっあそうか!聞けばいいじゃん!なあそこのおっさん!シェルターってどこにあるんだ!?」
こうして子供は周りと話すが、まるで話を聞く意思がない。悲鳴だらけで声が届かないのだ。
どれだけ声を上げようとも、みな血走った目で走り去っていった。
「うおおどうする!?皆聞かねえし、なあどうする!?俺、死にたくない!死にたくないよぉ・・」
「・・・・・」
シェルターの場所も分からない。もしこの攻撃がカタパルトみたいなものだったら壁があっても安心なんてできないだろう。こうなったらもうあそこしかないだろう。町なら必ずあるであろう。あの施設に!
「ねえ!まんほーるってあるかしら?もしくはげすいどうのいりぐち!そこならきっとだいじょうぶよ!さがしましょう!」
「下水・・!そうかそこか!場所なら分かる!俺の仕事場のすぐそばだ!場所もそんなに遠くない!」
どうやらあるらしい。まあこれほど文明が進んでいるのだ。汚水を処理するうえでスペースが限られている以上、下水道は必然だろう。
「よっしゃ行くぜ!しゃんと掴んでろよ!」
「ええ!もちろんよ!」
こうして私達は地下に希望を見出して走り出した。絶対に生き残ってやると、互いに励ましながら。
毎回毎回遅くて申し訳ありません。もし毎回みてくださる方がいらっしゃるのなら、今後はなるべく早く書きたいと思います。