長く短い一日
外に出た瞬間強烈な光が目を覆う。ランプや零れ日が主だった光源の室内と違い、その明るさはあまりにも違っていて、それでも私の体は目に染み込むように光を受け入れてくれた。
ゆっくりと、初めて開けるように目を開くと、そこには想像以上に発展した世界が広がっていた。
立派なコンクリートでできた住宅や、区画整理されている道路。点々と街頭も設置されており、およそ現代、いや近代といってもいい眺めがそこにはあった。私の屋敷周りだけが特別そうだった可能性もあるが、それでも予想していたものとはだいぶ違う。もう正直。めちゃくちゃ感動した!
「わああぁ・・」
「どうだいメリィちゃん。すげぇだろ?今はちょうど昼時だから、うまい屋台もやってくる。行こうぜ!」
「うん!」
ブロウに手を引かれながら町を練り歩く。少しして住宅街から途切れ、町を一望できそうな広場についた。柵があってよく見えないが、私の屋敷はどうやら高台にあったようで、坂を緩やかに下って街中に向かえるようだ。
「ブロウさん。だきあげてくださる?もっとちゃんとみたいの」
「おういいとも。そらっ」
肩車され、改めて目の前の光景に圧倒される。目の前にはこの場所よりもなお高い壁がそそり立っていた。
巨大な壁が、円柱状にぐるりと囲っており、その歩廊部分には大量の兵器らしき物と巡回している兵士が見える。今私達がいる高台よりも高く、その守り様はよほど重要な場所だと伺わせる。
「あのたかいとうはなにかしら?」
「ありゃ行政機関やら村長とか、この村の重要な奴らの住むところだよ。我らが隊長もよく出入りしてるな。ま、普通の奴はいけない場所さ」
「へーすごいのねぇ」
「といっても、上の狙撃班は毎日大忙しさ。"バトゥーラ〟あーとにかく威力とサイズがバカデカい銃で、四方八方四六時中狙ってるし、その整備、点検は・・俺も一回やったが、とぉーにかくメンドイ」
「それと、壁はこれだけじゃない。1番目を中心に2番、3番、4番と別れてるんだ。上から見るとたぶん4重マルだな!初めが一番高く、だんだんと低くして、それぞれの部隊の射線を確保してるんだ」
「まっこれくらいでいいかい?腹減ったし、市場に行こうぜ!」
「ええ。わたしもおなかぺこぺこ。いきましょう!」
~市場にて~
「ほい。メリィちゃんは普通の方な」
「あ、ありがとうブロウさん」
渡されたのはサンドウィッチ。チキンみたいなお肉とレタスがぎっしり詰まって、非常に食べ応えある代物だ。明らか幼女が食える量じゃないだろこれ
「うめぇぞー俺はこいつにサワーソースかけまくって食うのが流行るとみてるんだが、俺以外はあんましやんねーんだよなぁ」
ちなみにブロウは3つほど購入。となりでむしゃむしゃと美味しそうに頬張るが、吐き気を催す程にヴィネガー臭がきつい。流石に面と向かって言えないが、周りも分かっているのだろう。同情の目があちこちから伺えていた。店主なんて苦笑いでこちらを見ている。好意的に考えればブロウはこの場所では有名なのだろう。今後活動するときには、もしかしたらブロウの名前を出せば融通が利くかもしれない。
「ブロウさんつぎはどうするの?」
「んーそうだなー・・菓子屋とか行ってみるか!俺は普段行かないし、メリィちゃんはそっちのほうがいいだろ!」
「おかし・・ええいいわ。いきましょ!」
ブロウと一緒に次の場所に向かおうとしたその時―――
「おいそこのチビ!お前、上の工房のガキだよな!」
ちっこい子供が喧嘩売ってきた。
外見はあまり裕福ではなさそうで、シャツにオーバーオールを付け、作業用だろう革の手袋とブーツを履いている。漂ってくる油の匂いからも、何等かの労働者だが・・・
「お前、銃売ってんだろ!?俺にも一丁くれ!撃てればなんでもいいからよぉ!」
「おいおいおいおい坊主落ち着け。たくっなんなんだいきなり・・」
必死になって詰め寄ってくる少年をブロウが阻んでくれた。それでも少年は睨みつけるようにこちらを見つめてくる。
「・・・そんなこといわれてもできないわ。わたしがうってるわけじゃない。とうさまがうってるだけですもの」
「それに、銃が撃ちてぇなら大人になってから持てばいいだろ。お前見たところ8か9くらいだろ?あと2~3年すればすぐ―」
「今すぐじゃないと駄目なんだよ!いいからさっさとくれ!頼む!」
「何でそこまで焦ってんだ。あぁクソ大人しくしろっ!」
「違うんだよ聞こえたんだ!もうすぐイブリース共が来るって!確かに聞こえたんだ」
「はあ?誰から聞いたんだそれ。まだ巡回の報告はなにもねぇし、お前もしかして噂話でこんだけ盛り上がってたのか?」
「ちがっ・・・ああもう信じてくれよ!なんか、頭の中で響いたんだよ。あいつらが来るって!人間を求めて、デカいのも引き連れて来るって!」
《ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!》
突如として町中に警報が鳴り響く。
市場で談笑していた年増の女性達や屋台を食べ歩き進む青年も、すべての人間が止まり、その場で立ち尽くしていた―――