外の世界
「ヒト アツメタ?」
「ウン」
周囲は闇が黒く塗りつぶすように広がり、未だ燻り続けている建物の傍、彼らは話していた。
戦利品をつまらなそうに弄り、数匹は余った肉片を舐めている。
トカゲのようではあるが、二足で立ち、ツヤのある鱗にすらりと伸びる尻尾。器用に手を使う様は人間によく似ている。
彼らはリザードマン。こん棒や投石で獲物を狩る、小賢しく、さりとて人よりも強い種族。
「イキテルノ イッパイ?」
「スコシ」
「シンデルノ イッパイ?」
「イッパイ!」
「バカ!」
花飾りを付けた一匹は吠える。命令されているのは生きている人間を集めること。殺すことではない。無論人間も無抵抗ではないので殺す事自体に問題はない。だが余りにも殺しすぎだ。普段のうっ憤を晴らすためとはいえ、これでは飼い主からのお仕置きがくる。恐れた花飾りは他を殴りつけ吠えた。
「ツギノバショ サガセ! イッパイイキテルノ サガセ!」
≪フシャー!!≫
付近にいたリザードマンもまた吠え、武器を持ち、周囲に駆け出してゆく。他の脅威を刺激しないよう、静かに、だが素早く。
雲が途切れ月明りが周囲を満たす。
花飾りの後ろ。森の中に無機質な大勢の目が光り輝く。それらは花飾りの命令を今か今かと待っていた。暴れることを。大規模な狩りを。
カーテンから零れる朝焼けに俺は起こされた。
「ううんまぶしい・・」
時計の針を見ればまだ朝早く、柔らかいベッドに身を預けたい欲望が沸き上がる。まだ子供だし、寝る子は育つっていうし、仕事したくないし・・
再びまどろんでいたその時ドアがバンッと開かれた。
「メリィおはよう!ほら朝だぞ起きな!」
「おかあさま・・あさはしずかに・・」
「ほーうまだ起きんかーそーかそーかー」
いくら母が怖くても睡眠欲には勝らない。生前はろくに眠れない日も多かったのでなおのことだったのだがああああああああ!
「ごめんなさいごめんなさいおきますおかあさまぁ!」
「んーいーんだぞぉー私も可愛い娘をずぅーっと抱きしめたいからなぁ~♡」
「メリィ!悲鳴が聞こえ・・あああー!」
筋肉に包み込まれている中、二度と逆らうまいと誓った朝になった。
叩き起こされてからは特別変わったことはなく、昨日とほとんど変わらない一日だ。父の手伝い(といっても掃除程度)を行い、たまに来る男達と話し、笑顔を振りまく。別に下心があるわけではない。単純に彼らの武勇伝が面白かったのだ。今が女の子というのもある。彼らの話し方や笑顔が、男の頃と違い物凄く優しい。気持ちは分かる。分かるが中身は男なんだよな~
「なあ親父さん。まだメリィちゃんを外に出してやらないのかい?もういい年なんだし、いいんじゃねいの」
「・・・・だめだ。こんなにかわいい娘が外に出てみろ。どんな魔の手が待ち構えているか・・ッ。もし、もしメリィに何かあってみろ、私は何をするか自分でも分らんぞ!」
「・・・・」
「・・・・」
間違いなく不審者は父になるだろう。
「メリィちゃんは、出たくないのかい?街中も楽しいところは多いし、それだけ可愛いんだ。友達も大勢できると思うがな~」
「ええい惑わすな!メリィ。外は危険だらけなんだ。パパはそれが心配で・・」
「ええ。おそとにいってみたいわ。もっといろんなこと、わたししりたいの」
正直、父の不安はよく分かる。俺だって小さな娘を一人でだすのはごめんだ。昔もよく妻と言い争ったもんだ。
「だからおじさま。わたしをえすこーとしてくださる?」
「うん?俺?はははメリィちゃん。俺はまだおじさんじゃないぜ!まだ20にならねぇしな!」
知ってる。若いほうが色々融通利きそうだし楽だろ。
「じゃあえっと、おにいさん?」
「そだったまだ名乗ってなかったな。おれはブロウってんだ。ジト―部隊の、まあ~なんだ。兵士だよ」
「じゃあブロウさま。いっしょにいきましょ!」
「あっメリィ!?待ってまだパパは納得したわけじゃ」
「おかあさまならいってこいっていうはずよ。ねえおねがいおとうさま。わたし、そとにいきたいの」
この際上目遣いで両手をにぎにぎポーズ。これに落ちない父親はいない。
「ッ・・・なら私と一緒に!」
「親父さん。大丈夫ですよ。俺が傍についてますから。絶対危険な目になんか合わせません」
「・・だが・・」
「それに、親父さんは仕事があるでしょ。俺は今日は非番だから、自由にできます」
ブロウはじっと父を見つめた。静かに、数秒か数分かわからない時間が過ぎていく。
「おねがい。おとうさま・・」
「・・・・・分かった。メリィ。行っておいで。ブロウ君。分かっていると思うが~」
「分かってますとも!任せてくださいよ親父さん。じゃあメリィちゃん。俺から離れずにな!」
「ええ。ありがとうおとうさま。ブロウさん」
こうして俺は外に出ることが出来た。この世界がどうなっているのか。ようやくこの目で見ることが出来る!危険かもしれないが、俺はとてもワクワクしながら外に走った。