誕生にて
気が付くと目の前に父がいた。
いや、なんと思えばいいのか。確かにこの人を私は認知しているが、今しがたようやく目が見えるようになった気分だ。
「・・・・・」
「どうしたんだいメリィ?気分が良くないのかな?そうだな朝からずっと手伝いをしていたのだ。少し休憩しよう」
父は私をじっと見つめてそう話している。濃いエメラルド色の瞳は光の反射で鈍く輝いており、少し怖い。
「うん。すこしつかれちゃった。おへやでやすんでくるわ」
「ああ、行っておいで。また手伝ってほしいときは会いに行くから」
「うん」
私はそう話して見慣れた廊下を進み、自室へと赴く。
もしかして・・転生した?姿形を変えて平行世界とやらに?
・・・違う。なんというか。いきなりこの世界に放り込まれたのではない。思い起こせば確かに、父と母との生活の思い出がある。偽りではないだろう。
おそらく、たぶんだが自我が目覚めた・・のか?小さいころの記憶を遡ると、覚えている最初の記憶が保育園の前に惚けて立っていた事だ。自我が目覚めるってそういうものなのか?現状が分かることと、過去、現代で生きてきた記憶が混じりあって困惑しているのだろうか。
ふぅ、まあ落ち着け。
一つ一つ順序良く考えよう。
自分の名前。メリィ=シニアン。この屋敷に住む一人娘。年齢は、、たぶん4歳。この世界の暦や文化はいまだ不明瞭のため、適当である。まあこの屋敷から出たことないし当然だろう。髪色は薄い金髪で、先端部分は茶色く色ついている。幼女のためとても頼りない体付きだが、今から成長するでしょう。うん。
父の名前はガムル=シニアン。武器職人を生業としており、町のイブリース狩りの人達に提供するそうだ。イブリースとは町を襲う化物とかなんとか。昔ほっぺたをそいつらに引き裂かれたそうで、右の頬の傷跡が痛々しく残っている。茶髪で全体的にほっそりとしており、日中は基本的に私と一緒に店番をしてる。
母はリミス=シニアン。イブリース狩りの隊長をしているそうで、腕っぷしも父よりはるかに強い。髪型はセミロングで金髪。肩に少しばかりかかるくらいの長さで、とても綺麗だ。ただ職業柄、腹筋はバキバキだし、足もすっごく太い。全体的に父より二倍くらい太いのではないだろうか。帰ってくると必ず私を抱きしめてくるけと、いっつも苦しくて、そのたんびに父が大慌てで止めてくる。多分、いつも警備や戦っているのだ。そんな日常が大切なのだろう。帰ってこれる場所は大切なのだ。
外見は現代と大して変わらないが、一つだけ違う部分がある。二人とも右腕の肘から下は金属の義手になっている。何に使うかはわからないけど、大人になると皆義手に代わるらしい。
切り落として変える。とは言わなかった。あくまでも大人になったら変わる と。
・・・いまわかることはこのくらいかな?
改めて鏡の前で身なりを確認する。ゴスロリが来てそうな赤黒い洋服で、フリルやリボンがいろいろとくっついている。スカートはなんかふっくらしているし、靴もあまり履き心地はよくない。多分に装飾されており、服装については誰かの趣味が入りまくってるな。絶対父様だろ。まあ客寄せの事も考えれば合理的かもしれないけど、それでも元が♂のため小恥ずかしくなってきた。瞳は父と同じエメラルドグリーン。あちらよりも少し明るい気がする。
じいっと鏡を見つめていると、何か不安な気持ちになってきた。まあおっさんから幼女にチェンジだ。無理もないよな。てかなんで幼女なのだろう。閻魔様。イケメン金髪ショタでも良かったのよ。
そうして見えない神様?に念じているとふと、異様に鏡に映る自分が異物に見えてきた。さっきまでも妙な気持ちだったが、今はよりも明確に感じる。別人を無言で眺めているようだ
・・・・・・・・
気が付くと 逃げるように部屋を出て父の元へと駆け出していた。
「メリィ?もう大丈夫なのかい?気のせいかさっきより顔色が悪いように思えるが」
「だいじょうぶよおとうさま。ちょっとこわいゆめをみたの」
「怖い夢?一体どんな夢を見たのかな?パパにお話ししてごらん」
「えっと・・えーっとぉー」
やばい言い訳全然考えてなかった。お父様すっごい心配そうな顔してみてきてるし。まあ怖い夢だしな、適当言っていいだろ。
「おきゃくさまに、つれていかれるゆめをみたの・・・すっごくこわかったわ」
瞬間、父様は銃器をカウンターの裏から取り出し、武器を眺めていたおっさんを睨みつけだした。
過保護すぎんだろ夢って言ったじゃん!ほらもうお客さんめっちゃビビッてるし。
「貴様か?・・・・・私の愛しい愛しい娘をつけ狙う輩は貴様なのか・・・?」
「まてまてまてまて落ち着けシニアンさん!夢ッ!夢って言っただけで、俺が本当に狙うわけないだろ!」
ごついおっさんが涙目で叫んでいる。チラチラとこちらと父様を交互に視線を動かしており、ちょっと滑稽だな。なんだか虐めてみたくなってきた。
おっさんをじっと眺めたのち、「あっ・・・・・」と呟き父様の後ろに隠れんぼ。
「fuuuuuuu…」
「嬢ちゃん!?」
父様がガシャっと銃をコッキング。本気で狙っております。流石に可哀そうだしもうやめておこう。
「・・・ごめんなさいおとうさま。じょうだんよ」
「ああメリィ。本当に心配したんだよ~?あんまりこんな嘘をついちゃダメじゃないか~」
叱っているはずなのに嬉しそうに抱き着いてくるお父様。髭がっ髭がジョリジョリするっ全国のちびっ子はこんなことをされていたのだろうか。おかけで物凄い鳥肌が立っているよ。
「全く勘弁してくれよ・・・」
「ああ済まないねジト―君。娘には後できつーくお仕置きしておくよ」
物凄く不安になる言葉が出てきた。お仕置きってなに?この父親、我が子可愛さで人の道を踏み外しそうでめっちゃ怖い。
「ほんとうにごめんなさいじとーさん」
「ああ、ほんとにな。次同じ事あったら親父さんに頭ふっとばされそうだから気を付けてくれよ。」
「キチンと謝る事もできるとは・・やっぱりメリィは優しいねぇ~」
「・・・・」
流石に流れを変えよう。罪悪感が酷くなってきた。
「おじさまは、なにしにきたの?」
「あ、ああ。新しく武器を新調しようと思ってな。今のライフルじゃ如何せん大型の鳥に当たらんし火力も足りん」
「ほお、最近襲来が多いと聞くが、武器を変えるほどか」
「足りん足りんまるで足りん。装弾数も多く、それでいて持っときやすいやつで頼むぜ」
そう話すとカウンターにライフルをガタリと置き、お金が入っているのだろう袋も持ち出している。
ジャラジャラと大量の硬貨が入っているのだろう。外の物品の相場がわからないため、非常に気になる。
「ふむ・・・では〈ステック〉にするか?4発まで装弾でき、火力もまあまあだ」
「それ高級品じゃねーか。型落ちか、中古で頼めねーか?」
「ふむ、少し待ってくれ。見繕うため裏に入る・・・娘に手を出すなよ・・?」
「しねーよ!?頼むからさっきの事は忘れてくれよシニアンさん・・」
そう話して父様は裏の保管室に向かっていった。
・・改めて気にかけると、この世界の銃器は経口が非常に大きい。そのため銃の携行性・重量を考えると、装弾数は一発か精々2発。4発も入る物は高級なのだろう。人に撃ったら間違いなくひき肉になる。
この屋敷の中でしか過ごせていないため、外の内情は伺い知れないが、イブリースとかいう奴ら用だろうな。
「おじさまも、まちをまもっているの?」
「ああそうだぜ。奴ら完全に俺たちを餌としか見てないからな。嬢ちゃんの母ちゃんと共に、毎日お仕事だよ」
「そうだったの・・じとーさん。さっきはほんとうにごめんなさい。わたしたちをまもってくれているひとなのにひどいことをしてしまったわ」
「そう反省してくれるだけで十分だよ。まあ、本当に気を付けてくれよ?隊長に勘違いされるとそれこそ殺されるぜ」
「ねえじとーさん。いぶりーすってどんなひとたちなの?」
「・・・いいかい嬢ちゃん。あいつらは人じゃあねえ。大きな大きなバケモンだよ。大きな口をしたトカゲや、気味の悪い魚共。人を攫って食っちまう鳥とかな。小さい奴でも俺たちと同じ大きさだぞ?全く、おかげで毎日忙しいぜおい」
「まあ・・こわいわ・・」
なるほど、過剰火力かと思ったらそんな事情があったのか。正直、敵対生物がいるにしても精々がライオンぐらいのものだろうと考えていたが、そんなに楽なら人類は今頃大手を振って繁栄しているだろう。しかし魚もか・・思っていた以上に外敵は多そうだ。
「ジト―君。用意が出来たぞ」
「おお、助かるよシニアンさん。どれ・・〈ステック〉の中古か。ありがたいぜ」
「排莢の仕方は元のライフルと同様だが、装填はボックスタイプのモノだ。ただ、ボロボロだった奴を修理しただけで、欠けている部品もやはりある。大まかな手入れの仕方や道具はおまけでやるから大切に使えよ?」
「さんきゅ。ンじゃまた見回りに行ってきますわ。隊長にどやされたくないしな」
「ああ、気を付けて行ってこい」
お互いにいい笑顔で別れを告げている。何度か見た記憶があるし、お得意様なのだろう。そして今の私にとって大切な情報源だ。この繋がりは大切にしたい。
「じとーさん。きをつけてくださいね。またおはなししたいわ」
「応任せとけ!何回でも話に来るから嬢ちゃんもいい子でな」
ポンポンと頭を撫でで、彼は店を出て行った。
その日のお客様はジト―さんのみで、他のお客は入らず、武器の整備や品出しするだけで終わった。
まあ整備といっても拭くだけなんだが。
ふと、外の景色に目を向けると夕暮れの街並みから一人の少年がこちらを見つめていた。日に当たっていたため顔は影のせいでよく分からなかったが
その瞳が
酷く印象的だった。