余は如何にして腐女子生徒となりし乎
足元の悪い中、お集まりいただき、誠に有難う。
本日は諸君に、余は如何にして腐女子生徒となりし乎をお話ししようと思う。
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あれは、まだ女を腐らせる前のこと。
母から頂戴した小遣いを持参し、毎月発売の少女漫画の総合雑誌を買いに書店へ走るのが、私の習慣だった。
バランス栄養食を齧りながら肌色が多い原稿を徹夜で描く今となっては、遠い昔の話のように感じる。
枕は、このくらいとして、そろそろ本題へ移ろう。
余が、少女から腐女子へのターニングポイントとでもいうべき出来事の話をしよう。
思い出すのも忌まわしい。あれは、禍々しい曇り空の土曜日だった。
不健康を絵に描いたような姿の現在からは意外だろうが、吹奏楽部だった余は、授業の無い土曜日もクラブ活動に勤しんでいた。
無論、この頃は、まさか盆と暮れの休みに、即売会という名の戦場へ赴くなどとは、想像もしていなかった。
話を戻そう。ともかく、その日は悪魔が召喚できそうな曇天だったのだ。
下校時、朝の予報に無かった俄雨に振られた余は、通学路の途中にある行きつけの書店で雨宿りすることにした。
大人しく軒を借りていれば良かったのだが、何を血迷ったか、店内に入ってしまった。
聴衆の諸君の中には、嫌な予感がする者もあるのではないだろうか。
そう。余が立ち入ったのは、地方都市にありがちな個人経営の書店である。当然、店主の書籍に関する知識には偏りがある。
それから余も、同人誌に関する知識を持ち合わせていなかった。
そして、悲劇は起こった。
コミックの棚に、無造作に並べられていたのだ。いつも購読していた少女漫画の主人公が表紙に描かれた薄い本が。
余は、単行本か別冊になったのだと勘違いして、昼食代を入れていた財布の中身を確認すると、本の中身は検めないままレジに向かった。
ここで、ハッキリ主張しておく。書店員は店舗の規模と場所を問わず、すべからく同人誌に精通しているべきである。
なぜならば、原作の横に二次創作のビーエル本を置くというトラップが発生するからである。
余は、その無知ゆえの過ちにより、開いてはいけない扉を開き、踏み入れてはならない沼に浸かってしまった。
もう結末は分かったようなものであるが、最後まで話そう。
帰宅した余は、濡れた制服を着替えると、ベッドの上にダイブし、書店の紙袋を開封して読み始めたのである。
その本が、生涯に読むビーエル本の第一号になるとも知らずに。
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これが、余は如何にして腐女子生徒となりし乎の詳らかな全貌である。
ご清聴、深く感謝する。以上。