最終話・・・「平和の時を大切な人と」
グラスミラナがイクスティクスの隙に漬け込み、世界を壊そうとした戦争が阻止される形で終結してから数年が経った。
少しずつ旧日本を含めた元世界の街々は復興し、都市機能も復活していた。
ある日の夜。旧東京のどこかの家に1人の男性が帰宅した。
「ただいま〜」
その男性は黒髪に黒目のごく普通そうな人だったが、背中からは小さな翼が生えており、右目は白金色に輝いていた。
「おかえりなさい〜!今日もお疲れ様〜」
「いや〜生きるのも楽じゃないね〜」
「でも、楽しそうだよ?今の蘭太」
そう。蓮藤蘭太だった。あの日の戦争が終わった後姿を眩ました彼らは結婚し、大衆の生活に紛れて2人で暮らしていた。
そして今まさにルルの中には新しい命が宿っている。
「そう?まあ実際楽しいか。仕事とかいうモノは正直アレだけどルルとの生活が好き」
「むう、なんか恥ずかしい…ご!ご飯できてるよっ!食べよ!」
「あ!ありがとうー!」
ルルが小さな妖精の姿をしていた時は料理の類は専ら蘭太の役目だったが、今のルルは蘭太と同じくらいの身長になっているため家事などの役を受け持ってくれている。
「んお!美味しい!ほんといつも思うけどいつ料理スキル磨いてたの!?」
「本格的に取り組み始めたのは戦争が終わってからよ。まぁ普段の蘭太の料理を見てたってのもあるけどね〜。…あ、そうだ、お仕事上手くやってる?」
「そりゃあもう出来てるよん」
なぜそんな大した学歴とやらを持たない蘭太が自分とルルを養えているのかというと、それなりに上位の役職に就いているからである。
だが不思議なことに蘭太の存在はあまり認知されておらず、騒ぎにならない。
「世界までは行かなくても旧日本には知れ渡ってる私たちがこんな身近にいても意識されないってなんだか変な感じだね」
「解く?」
「やだ」
「即答かい」
「だって私たち自分たちのために戦争終わらせただけで別に『みんなのためにー!』とかいうわけじゃないじゃん?そりゃデュ族のこととかはあるけど全人類とは違うし…」
勿論、そんな摩訶不思議な現象が起こっているのには理由がある。
そんな蘭太達の家にインターホンの音がなった。
「はいはーい」
ガチャ、と扉を開けるとそこには2人の女性がいた。1人はエメラルド色の髪をしており、もう1人はアメジスト色の髪をしていた。
そんな2人を見て蘭太は気まずそう〜な顔をした。
「うげ」
ーーーーーーーーーーーー
FG旧東京本部。
終戦後、この建物が旧日本の新たな国王の業務場になっていた。
名を、影宮火鉈。
彼は元世界へ帰ってきた後精神がズタボロな前国王を国王の地位から引き摺り下ろし、自身が代わりに君臨した。
なぜなら一刻も早く国を復興させ、とある2人組の夢を叶える手助けにしたかったからだ。
だが、その2人組は終戦後火鉈達の前から姿を消したどころかチームからも脱退して今の今まで音沙汰なしのままだった。
「あいつら…、今頃何してんだろうな…。幸せにやってんのかな…」
ふと呟く。現在火鉈のいる部屋にはかつての戦友達がいるが、皆分からないというジェスチャーをとる。当たり前だが。
そんな火鉈の机にFGの職員がコーヒーを置いた。なかなか美味で、なぜかこの職員にしか出せない味なので火鉈はわざわざこの職員にオーダーしている。
「それなりに上手くやってるよ」
「のわっ!?カルナ…さん!?急に出てこないでくれません!?」
「カルナを幽霊みたいに扱うなクズ、イタッ」
突然現れたカルナに驚いた火鉈を蔑むように見ながら言ったイクスティクスはカルナにげんこつを食らっていた。
その様はまるで親が子を躾けるようで…。
「もしかして…今ふと思ったんすけど2人って親子っすか?」
「双子だ。カルナが姉だが」
頭をさすりながらイクスティクスが答えた。なんでも世界という機構が創造と破壊の概念を同時期に生み出したためらしい。
「へえ、それは意外。…それで、なんか蘭太達のこと知ってそうな口ぶりだったけれど知ってるんすか?」
「ん?すぐそこにいるよ?」
えっ?と火鉈が部屋を見渡す。部屋にいるのはかつての戦友、カルナ、イクスティクス、コーヒーを持ってきた職員、その他雑用の職員。
「いなくね?」
「あはは…、まあ分かんないのも仕方ないよね…認識阻害されてるから」
「認識阻害?」
「ねぇ、もうそろそろみんな安定して来たし再会してあげてもいいんじゃない?蘭太くん」
カルナは呼びかける。火鉈にコーヒーを持ってきた職員に向けて。すると…。
「強引じゃない?本当にもう…」
職員は応え、指を鳴らすとまるで靄が晴れるように認識がクリアになり…。
「やほ。FG旧東京本部戦闘部隊…じゃくて国王専属部調理科所属の蓮藤蘭太です、ドヤッ」
清々しいほどニッコリとしていた蘭太は敬礼しながら名乗った。
「なんだよ…、こんなすぐ近くにいたのかよ…!」
ため息をついた後、火鉈は笑った。単純に嬉しかった。
ーーーーーーーーーーーー
時は遡る。
「うげ、とはなんだお前。神龍の2人が来たんだぞ喜んで迎えろ」
「脅しかなんかすか…?」
「もーイクス?そういうのはダメだって!まあそんなわけで中入れてよ〜」
「あぎゃー…、まあ寒いし仕方ないか〜」
玄関で立ち話となると寒いのでひとまず中へ迎える。
懐かしい顔ぶれだが、なんだか気まずかった。
なぜなら。
「それで?どうしてみんなの前から姿を消したの?チームからも抜けて」
絶対こう聞かれると思っていたからだ。
だがすぐには答えられなかった蘭太は質問に質問で返すことで時間を稼いだ。
「それより、なんで2人は俺たちのこと見えたんだ…?」
「時間があれば解けるからだ。とはいってもまさか真・限界突破が消失しないからっていきなり奮発するとは思っていなかった」
そう。あの終戦の日、蘭太達は姿を消したのではない。他者全てに自分達のことを認識できなくさせたのだ。具体的には他者と出会ってもただの一般人とみなされ、『戦争を終わらせた2人組』と見られることがないというもの。
それが例え名前で彼が蓮藤蘭太と名乗ってもである。
「俺たちは1度リセットを図らなきゃいけなかった」
ぽつぽつと蘭太は口にし出した。
「あの日のまま何もしなけりゃどう足掻いても俺たちは今の生活は得られなかった。どうしても俺たちがやったことは取り消せないから常に人目に晒されることになる。そんなのは真っ平御免だ」
彼らが求めているのは普通の、本当に普通の生活。家庭を築いて愛する相手と暮らして子を育んでいく、そんな生活。その生活に有名人扱いは不要なのだ。
だが、カルナ達はその能力効果を解いて欲しかった。一部だけだが。
「でも、ボクたちみたいに君のことを心配している人がいるんだ。火鉈くんとか…。あそこまでやる必要はなかったんじゃ…」
「あの日は超広範囲を広げないといけなかったから見境なくやっちゃった。…そうだね、確かに心配されてるね」
「知ってるの?」
「そりゃもう、蘭太はいつも彼らを見てますから」
ルルが入ってきてそう言った。
「悪趣味だね…」
「違う違う、国が安定軌道にのるまで俺たちに依存しないようにしてるの!」
どういうことかというと、彼らは火鉈達のすぐ近くで観察していたのだ。
そしてそれがある程度進み切った所でまた現れる予定だった。
「それなら〜、もう大丈夫なんじゃない?大分安定して来たし!ルルちゃんも…!」
カルナはじっとルルを見て腹に触った。
「ひぅっ!?」
「いい反応…ルルちゃんも母になるんだねぇ…色々尋ねてね?5体の子を育て上げた先輩のボクが教えてあげよう…!!」
「つってもカルナの出産経験は一回だがな、フフッ」
「うるさい!龍なんだから仕方ないでしょ!?」
「イクスティクスさんはその手の経験はありますか!?」
「ないぞ。産み担当はカルナだからな」
「イクスゥ!!苦労を知らんモンがー!」
\ゴッ/ \イダッ!/
わーきゃー喚く3人を少し距離を置いて見ていた蘭太は思った。
これは女にしか分からんな〜。
と、
そういえばカルナとイクスティクスって龍だったわ忘れてた。
そして、
一戸建てで良かった…。
と。
その次の日、蘭太はようやく火鉈達の前に現れた。
ーーーーーーーーーーーー
「やー、みんなほんとにお疲れ様だよー。ほい、コーヒー」
コト、コト、と部屋の全員にコーヒーを置いていった蘭太はそう言った。
「お前はずっと何してたんだ?」
「生活基盤づくり。あ、ここでの給料フル活用してるか職奪わないでね、国王影宮火鉈サン?」
「コノヤロ、人に国の復興押し付けて自分らは自分らのことしてたのかぁ…!」
「自己中だもん、俺たち」
「自覚あるだけタチ悪りぃなオメェ、解雇してやろうか?」
「頼むから冗談でもほんとにやめてください。土木関連行きますよ」
「稼ぐ気満々じゃねえか」
「家族養わないといけないからね〜」
現在、旧日本では急速に復興が進められているが、それは都会の話であって地方の復興がまだ手付かずになっている。
なので現在土木関連の人材が物凄く需要アリなのだ。
ひとまず元気そうで良かった。
「そうだ蘭太。俺らの今日の仕事終わったら付き合え。全員で飲むぞ」
「年、大丈夫?」
「もう成人済みだバカタレ!あーもうオメーに拒否権ねーからな!飲むぞ!」
えぇ…と困惑する蘭太に舞が囁いた。
「想像で酔いが出来上がってます。諦めて下さい。あとルルさんを連れてくるかはあなたが考えてください」
「えええぇ……」
結局蘭太はその場の全員に連れられみんなと飲みまくった。
取り込んだアルコールを取り込むや否やすぐに分解して無害化していた蘭太以外のみんなはベロンベロンになり蘭太によって各々の家にぶち込まれたのはまた別の話。
その日からも復興は続く。世界は確かに平和になっていった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
さらに数年が経った。
「ほへー!綺麗なとこだー!」
【だろー?ここまで来るのに苦労したぜー!】
蘭太はブラッディアンとソファに座りながら通話していた。彼らは元世界、龍界問わず様々な場所を旅行している。資金源はよく分からないが。
そして彼らは絶景ポイントなどにたどり着くとどこであろうが蘭太に通話してくる。その度に新たな刺激になるから煩わしさはないが、明らかに電波通ってなくね?というところからでも通話が繋がるためどうやっているのか気になるところではある。
【ほんじゃーなー!子育てガンバー!】
「またね〜!」
通話が切れた所で蘭太の背中に子どもが乗りかかってきた。
「お父さんー!ブラッディアンさん?」
「そうだよ。てかタイミングギリギリ遅かったな…。話したかったろ?」
「うん!だけどまた今度の機会にする!」
その子はそう言うや蘭太の膝に寝転んだ。
蓮藤瑠蘭。蘭太とルルの間に生まれたこの女の子の名前だ。年は8歳ほど。
ちなみにルルは元世界で戸籍とやらを取るため蓮藤瑠流という名前でおり、この2人の名前をそれぞれ合わせた名前が娘の名である。
瑠蘭が蘭太の膝で寝転ぶときは決まって構って欲しいときなのだが、基本は蘭太の話を聞きたいだけである。
「ねーお父さん続き聞かせてー!お父さんの昔ー!」
「好きだなー、別に武勇伝でもなんでもないんだけど?」
「かっこいいよー!守りたいものを命がけで守ってるお父さんヒーローみたいだもん!」
「あ、そんな感じのこと言えば良いって学習しやがったなこの小娘!誰の入れ知恵だ…!」
「お母さん!」
「ルルぅ……」
なにしてんねん的な顔で机で読書をしているルルに呼びかけるが、
「ふふ、いいじゃない?蘭太は今も昔もかっこいいよ?瑠蘭にも胸を張って話せるって!」
「そういうもんかな〜?…まあいいか。どうあがいても過去は変えられないし!それじゃあ完全俺主観だけど始めるとしますか!まず俺たち2人は龍界っていうこことは違う世界で生まれてーーーーーーー」
蘭太は娘に自分の人生を話し始めた。
楽しいこと、悲しいこと、怒り狂ったことほとんど全て。
かつて厄災という存在だった少年は、希望へ変わったことで後に「二世の壊戦」と呼ばれた戦争を終わらせて再び平和を勝ち取った。
人類はこれ以上戦争を起こさないための努力を怠らず、二世の壊戦の後に人類が引き起こした戦争は存在しなくなった。
これから彼らは平和な世界を家族として生きていく。
その先に苦しいことがないわけがないが、2人の愛と2人が見出した言葉がある限り負けることはない。
「瑠蘭。災いは、永遠に災いをもたらすわけじゃない。それを乗り越えた先に希望がある。父さんたちもそうやって今日まで生きてきた。だから忘れないでほしいな」
“希望は必ずある。どんな絶望的な時でも”
いかがだったでしょうか。どうも、どらっごです。
蘭太くんとルルちゃんはこれからの世界を生きていきますが、そこから先を僕が書く必要はないでしょう。なぜなら彼らは自由だからです。
ちなみにこの作品は何もプロットを立てずに1年くらいで終わろうと思って妄想を頼りに軽率に書き始めたのと、元々の僕の語彙力がないため非常に拙いものになってしまいましたが、次第に方向性が決まってきたものだと思っています。
生きるということがとても素晴らしいこと、生きているだけで喜んでくれる人が必ずいること、そして大切な人は意外にすぐ近くにいる、そんな風な感じが伝わればいいのかなと、僕はそう思っています。
最後になりました、拙い文章ながらもここまで厄災と人×妖精を見ていただきありがとうございました。最後まで書ききれて本当に良かったです。読者様には本当に感謝しています。
それでは。




