78・・・「命と引き換えに」
ブラッディアンによって気絶させられた蘭太は虫の息のまま横たわっていた。
無理やり体を動かしていたときでも彼はどことなく体が重そうで、横になった時は死んだようになる。これは一種の症状である。
それは魂の損傷という。
生き物は体という殻で魂が守られている存在なのだが、体が限界値を超えて負荷を受け続けると魂にまでそれが及んでしまうのだ。
魂も体と同様受けたダメージを修復することは可能だが速度が絶望的に遅いという問題があって、修復速度を比べると魂は体の5倍以上は時間をかけてしまう。
勿論そんな速度では戦闘中に受けた際の復帰はほぼ不可能であることは言うまでもない。
そして最もタチの悪いのは、魂は体とは異なるため既存の再生治療が全く効かないことだ。
だからこそ、ブラッディアンと雷花は…。
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イクスティクスの居城へ挑む前夜。
「相変わらず汚ねぇな…いつ綺麗になんだろうかね…」
蘭太と分離して、皆が寝静まった後龍界特有の紫色に汚れてしまった夜空を見上げていたブラッディアンの元に雷花が来た。
「寝ないの?朝動き出すのは早いわよ?」
「そういうお前も寝てねぇじゃねえか」
「なんだか眠れなくて…ね。…私達は生き残れるのかなって不安で」
雷花は自分の死を恐れていた。蘭太達と最終戦に挑むことには変わりないがやはり怖かったのだろう。
「知らね。でもどうせ死ぬんなら意味ある死に方したいけどな」
だからブラッディアンはこう答えた。数年前まで殺戮兵器として数々の命を奪ってきた者が言える最大限の言葉だった。
「意味ある…死に方?」
「誰かのために戦って、最悪死ぬ。これが兵器である俺ら戦闘用妖精の理想なんじゃねえかって俺は思った。勿論死なないのが1番だけどな?」
ハハハ、と軽く笑う。それに対して雷花は何か考える素振りを一瞬見せ…、何かを決めたようだった。
「ブラッディアン。もしあなたが命を賭けるっていうのなら私も付いて行っていいかしら?」
「まあ無理だな」
「どうして?」
「まず俺だけの判断でお前の命まで道連れというのが気に入らん。お前がお前の命を賭けるって決めるのはお前自身だ。そこは貫け。お前には意思がある。だがその上で俺に付いてくるってんなら俺は最大限『これで良かった』と思えるようにする」
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「オラァ!遊ぼうぜ!!」
装甲を纏ったブラッディアンは2本の剣を持って踊るように振るう。
「貴様、相変わらず楽しそうに戦うな?」
「褒め言葉?サンキュー!」
礼を言った直後、グラスミラナの腕がポンと飛んだ。油断の隙を突いて雷光で加速させた斬撃を与えたのだ。
だがその切れた腕は1秒後には主の元へ繋がっていた。
「ほう?やるじゃないか。さすが兵器だな」
今度はグラスミラナがサクッとブラッディアンを切断。防御無視の限界突破を自身に付与していたため、ブラッディアンの装甲は意味を成さなかった。
「いやーこえぇ。装甲意味なしかよ」
こちらも切断面を繋ぎ直し、ブラッディアンは呟く。
双方けろっとしているが状況はブラッディアンが不利ということには変わりない。
「逃げるなら今の内だ。兵器であろうが神に勝つことは不可能なのだからな」
「1人ならな。けど残念、俺ら逃げる気は無いんだわ」
「なるほど。貴様も死にたい派か。ならば望み通りにしてやろう」
「やれるもんならな!」
返事と同時にグラスミラナが消え、ブラッディアンの肩から血が噴き出した。
「ふん、見えないか?」
限界突破で視認不能な速度で動くグラスミラナは声だけ残し背後から追撃を行ったが、攻撃を止められた上脇腹付近に貫かれた感覚を得た。
「…何?」
「あのさ?まさか俺がただ棒立ちで食らいっぱなしだなんてバカなこと思ってなかったろうな?」
1本の剣でグラスミラナの剣を防ぎ、もう1本で反撃を成功させたブラッディアンは文字の羅列が音速で流れる瞳を見せつける。
一瞬の動きの停止を突き、ブラッディアンは剣を引き抜いて回転しながらグラスミラナに4筋の斬撃痕を刻み込み距離を取る。
「それはなんだったっけな?」
「さあてね?悪いが教える義理はない」
傷口を直しながらグラスミラナは尋ねるがブラッディアンは答えない。
ちなみにこれはブラッディアンの演算能力による未来予測である。これまでの経験を元にグラスミラナの動きを割り出しているのだ。
事実上唯一の対抗手段のため種バラしをするのは割とまずいことなのだ。
そしてそれすらも長くは効かない。
だがそれでいいとでさえ今のブラッディアンは思えている。
2回目は辛うじて成功し、3度目はもう通用しなくなった。
「面倒だ。消えろ」
それどころかブラッディアンはグラスミラナの圧縮した闇を全身に受け、切り飛ばされた。
「ごはっ」
飛ばされて転がった先にいたのは意識のない蘭太とかルナだった。
「…よう」
「…なにが…『よう』だって…?」
陽気そうにカルナにそう言ったブラッディアンの体は光の粉を散らし、透けていた。
「釣れないねぇ…最期くらいいいじゃねぇか」
「最期…?どうしてキミは無駄死にに等しいことをしたの…?雷花ちゃんも巻き込んで…」
「無駄死に?違うな。それに雷花は自分の意思で俺と一緒に命を賭けたんだぞ?」
けらけらと体を消滅させかけながらも笑う。
「しかし、こんなにも愉快な死に方があるとはな」
それに対して反射的に叱咤しようとしたカルナはブラッディアンの据わった目をみて口を閉ざした。
ふざけていないことなんて分かりきっていたはずなのにそれに気づかなかった。
「キミ達は…なんで…?」
「俺の戦闘用妖精最高クラス能力、完全復旧を使うためさ」
「…っ……すごい決意…だね」
カルナは下唇を噛んだ。目の前の戦闘用妖精を責めることはもうできない。
完全復旧。
戦闘用妖精第1号・ブラッディアンのみが持つ彼の最高クラスの固有能力。
その効果は身体又は魂のどちらかの傷を完全に治すというもの。既存の治癒系能力では干渉不能な魂にまでも干渉可能なほど強力なものである。
しかし、この能力の行使はどうあがいても必ず1度しか出来ない。
なぜなら行使のためにブラッディアンと彼と同化している者が死ぬ際のエネルギーを使うからだ。
つまり使用者の死と引き換えに無類の治癒を発動するということになる。
ちなみに巻き添えにした数だけ能力行使の対象を増やすことが可能である。
「でも…キミ達2人ってことは…」
「私達の死をもって蘭太くんとルルちゃんの魂を治す。私達の中では最高の死に方だと思いますよ」
ブラッディアンの左目が金色に光り、雷花の声がした。
直後体の透けが深くなった。
「…時間ですね」
「ねぇ…!何か、何か遺したい言葉とか…!蘭太くん達に伝えたい言葉とかないのかい!?ボクが、ボクが伝えるから!」
「…そうですね、私からは『ルルちゃんを大事にしてね』かな」
「んじゃあ俺からは『お前の大切なモンはいつだって隣にいるぜ、隣の者を大事にしな』で。ああ、先に逝った兄弟に自慢できるぜ…」
その言葉が最期だった。
戦闘用妖精と二重妖精は体と共にその体と命を散らした。
「う…くっ…けほ」
2人が消えた後蘭太は気づいたようにむせこみルルと分離した。
しばらく呼吸を整えた後、彼はすぐに気づいてしまった。
「カルナ…雷花さんとブラッディアンは…?」
カルナは答えなかった。目を伏せて顔を逸らした。
「カルナ…?何か…言って……」
蘭太はすでに雷花とブラッディアンの気配が自身の中からも消失していたことに気づいていた。
それが受け入れられなくてカルナに尋ねたが、彼女の反応が蘭太に残酷な現実を突きつけた。
「嘘…うそでしょ……」
「…ルルちゃんを、大事にしてね」
「……!」
「…お前の大切なモンはいつだって隣にいるぜ…、隣の者を大事にしな」
「………」
「雷花ちゃんとブラッディアンがキミに伝えたかった言葉…だよ。命を賭けてキミ達を復活させて、命を賭けてキミに伝えた想いだよ…」
きっと殴られるだろう。
なんでお前が治さなかったんだ!とか言われて。
だがいつまで経っても拳は来なかった。代わりに嗚咽が聞こえた。
「う…ぐ…あああああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
蘭太は地面に額を押し付け、喉が悲鳴をあげるほどの大声を上げながら地面と顔を涙で濡らした。
ルルは呆然と虚空を見つめていた。
凄まじい喪失感が彼らを襲っていた。
神って…なんなんだろう。
号泣する少年と虚空を見つめる少女を見てカルナはふとそう思った。
崇められるもの?絶望を与えるもの?
違う。
彼らのような絶望にうちのめされそうな者に希望を与えるものだ…!
「キミ達は!2人で助け合う希望なんだ!!」
そこへグラスミラナの斬撃波が押し寄せる。
「創世!絶対壁!!」
「キャンセル」
グラスミラナのそのたった一言でカルナ達を守ろうとした壁は消失し、斬撃波を防ぐことすらできなかった。
その様を見ながら自身の無力さを、痛感していたカルナの前に、蘭太とカルナを守るように青髪の少女が両手を広げて立ち塞がった。
「……ッ!?ルルちゃん!!!!!」
カルナの絶叫がその場に響いた。
どうも、どらっごです。
最終章は統一したタイトル形式で行こうかなと思っていたのですがちょっと苦しかったので今回はとりあえずスタイル変えます。
薄々察していたかもしれませんがまさかの主要キャラの退場ですね…。本当にこれで良かったのだろうか…。そして多分書き忘れたことはないはず…。
それでは、また。




