75・・・「神よ、我が血をもってその力を抑えん」
無感情に、無表情にただただ火鉈を攻撃するようになった舞をグラスミラナは横目で見た。
「残念だ。あの女はすでに恐怖で塗りつぶされていた。もう貴様の介入があっても無くても無駄なのだよ」
「く…あんたの傲慢の厄災の権限能力は一体なんなんだ?」
蘭太はグラスミラナの権限能力の内容を知ってはいない。ただ右目が光っていたから使っていると分かっただけだ。
「ふむ。そうだな、教えてやっても悪くない。俺様の権限能力は『王』に相応しく、俺様に恐れを抱いたものの完全支配能力よ。発動条件は至って単純、俺様のことを恐れるだけだ。そうすれば相手は俺の忠実な傀儡になり、楽になれる」
完全支配。その範囲は魂にまで及ぶ。
つまり舞はグラスミラナを恐れてしまったことで、体の制御はおろか魂すらグラスミラナに乗っ取られてしまったのだ。
現に今の彼女は意識を失った状態で火鉈を襲っている。
「あの女に下した命令は…なんだっけな。そうそう、『焔の禁忌能力者を殺せ』だ。良かったな、貴様の敵は増えなくて」
「ふざけるな!何も良くない…!あんたは人の心を踏みにじってんだ!やっていいことと悪いことの区別もつかないのか!?神のくせに!」
「俺様が基準なのだよ。俺様が良しといえばいいことになり、俺様が悪しといえば悪いことになる」
「お前…!自分勝手にも程があるだろ!!」
蘭太はバルディアムにピンク色の弾丸を装填した。
ローディング、レーザーセイバー!エンチャント!という音と共にバルディアムから光線による刃が出現し、グラスミラナに触れる部分を少しずつ焼いた。
「どこまで傲慢なんだ!!誰一人として世界の中心じゃないことくらいわかるだろう!?」
「傲慢?何を当たり前のことを言ってくれるんだか。俺様は傲慢の厄災だぞ?傲慢じゃなくてなんなんだ。貴様には分からんかな。人間相手の唯一の面白み、絆を弄ぶ愉悦がな?」
「絶対に許さない…!!!」
突如、グラスミラナと蘭太の大剣の触れる位置から氷が張り、グラスミラナを氷漬けにしていく。
「なんだ?これは…」
「見た目通り氷だよ…!」
その氷はグラスミラナを完全に覆い、動きを封じた。
その前に立った蘭太はレーザーセイバーを発し続けているバルディアムを大上段に構え。
「叩っ斬る!!」
ジャンプし、その際にできた落下の勢いを利用して大剣を振り下ろす。到底この程度では殺せないと分かっているから全力で。
光線を纏った大剣は氷ごとグラスミラナを切り裂いていき、地面に激突し、氷は砕け散った。
光線が衝突した地面は黒く焼け焦げていた。
「いたたた…容赦ないなぁ」
真っ二つに斬られたグラスミラナの頭が喋り、分断された二つの体が初めから斬られていなかったかのように元どおりになった。
「もう一つ聞く。なんで舞を狙って乗っ取った」
復活したグラスミラナに蘭太は尋ねた。グラスミラナに対し恐れを抱いているのは彼女だけではないのに、何故舞が優先的に狙われたのか。
「簡単だ。あの女は俺様に毒を流したからだ。この俺様を毒で汚した罪を死よりも酷く味わわせてやろうと思ってな」
「それだけで…?」
「それだけ?充分すぎるぞ。裁きを受けるに相応しい罪だ」
グラスミラナはワームホールを作り、その中に通じる亜空間から十字架のような剣を取り出して蘭太に叩きつける。
「無論貴様にはそれ以上の罪がある。あの女より苦しめてやるから感謝したまえ」
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「抹殺」
「やめろ!やめてくれ舞ッッ!!」
火鉈は防戦一方になりながらただひたすらに舞の攻撃を凌いでいた。
仮初めの反撃をするも、無意識に手加減してしまう上、当たっても全く意に介さず連撃をかましてくる。
当たり前だ。今の舞は変身を解かれた状態で火鉈に攻撃を仕掛けてきている。迂闊に攻撃してしまえば殺しかねない。
なのに、変身を解かれているはずなのに舞は装甲を纏った火鉈ですら防御姿勢をとらなければならないほどの火力で攻撃をしてくる。グラスミラナによるものだ。
「抹殺、抹殺」
舞はそうとだけ口にしながら今度は致死量の毒を練り込んだ矢を至近距離で構えた。
「ッッ!!」
構えから軌道を予測し、すんでのところで躱した火鉈は舞の弓矢を弾き彼女の腕を掴んで倒した。
「やめろって言ってるだろ!!目を覚ませ舞!!お互いこんなことしたくねぇだろ!?」
「……心など関係ない。私は王の忠実な僕として、貴様を抹殺する」
「うそだろ…がはっ!!」
押し倒されていたにもかかわらず、舞は火鉈との間に足を割り込ませ火鉈を蹴り飛ばした。グラスミラナによる攻撃力上昇効果が付与されているため、火鉈にとっては痛手である。
「対象の抹殺、その遅延を問題視。共鳴変身」
紫色の粘性液体をその身に纏って装甲へ変化させた舞は弓を片手に持ち矢を放ちながら火鉈へ突撃した。
なぜ突撃なのか、それは、舞の弓が近接武器でもあるからだ。
彼女の弓は手で握る部位以外は前方に刃が付いており、中〜近距離戦闘を可能にしている。
舞は突撃の勢いを殺さず、火鉈に弓を叩きつけるが炎の鉈で受け止められる。
「クッソ!!なんで戦わなきゃなんねぇんだ!!?」
ひとまず二本鉈を生成し、弓を一本で弾きあげ、胴体の装甲にもう一本の一撃を当てる。
「絶対目ェ覚まさせてやる!なんとかして!!おらぁぁぁ!!」
そう。なんとかして。
人知を超えた異常事態に、火鉈は手探りで解決方法を探すしかなかった。
そして同時に火鉈にはグラスミラナに対する憎悪が静かに芽生え始めていた。
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「はぁぁぁぁぁ!!!」
声を出しながら蘭太は大車輪のごとく回転し、その大剣を振るう。だがその剣筋はだんだん鈍くなっていた。
蘭太とて生き物である。体力の限界が近づいているのだ。
対するグラスミラナは神。無尽蔵の体力どころか、まずもって体力という概念がない。
大剣の刃をグラスミラナが受け止めた時、蘭太は血のにおいを感じた。
そして喉に何かがこみ上げ、それを吐き出すと口からは赤い液体が飛び散った。
「おや?お疲れのようだな。ならばくたばるといい。第1の退場者はお前だ」
グラスミラナは空いた手をワームホールに通し、その先の脈打つものを掴んだ。
「あっ……!?」
その瞬間蘭太は目を見開き自身の胸を見た。
そう。グラスミラナが掴んでいるのは蘭太の心臓。
「さらばだ。小さな希望くん。…死ね」
グシャッッ!!と生々しい音が響き、蘭太ははね上がられたように顔を上げながら血を吐き、グラスミラナに突き飛ばされるまま後ろへ、ドサっと倒れた。
『そんな……こんなとこで……』
心臓を潰され、掠れ行く意識をなんとか繋ぎ止めながら蘭太は死に抵抗した。
だが体は死を予期したのだろう。蘭太の意識に走馬灯が映る。
『やめろ…俺は……!』
その走馬灯を見ないようにしていた走馬灯は蘭太にとあることを思い出させた。
“デュ族はその血に浄化の力を持っている”
『そうだ…!まだ終われない……!!』
『オラ!再生完了だ!!』
思い出した蘭太に、ブラッディアンが声をかける。彼は心臓が潰されたその瞬間から再生に着手していたのだ。
とは言っても心臓が治っただけである。全身の痛みは治っていない。
しかしそれで十分だ。今は立てればいい、次の一撃を決めれれば今はそれでいい。
とても重いバルディアムの装填部を開け、本体を蘭太の血で出来た池に突き立てると、バルディアムは自らその血を取り込み、
ローディング、ドラゴンズブラッド!
と鳴った。
それと同時に刀身から青い光が噴出し、蘭太はそれを構えてグラスミラナへ再び挑む。走りながら突き刺すように。
「うおおおおおあああああああ!!!」
さながら飛翔する龍のようなイメージを抱かせる形で、受け止めようとしたグラスミラナの手を削り、蘭太はその刃をグラスミラナへ突き立てる。
ぶつかった部位からは波紋のような衝撃が発生した。
「なに?こんなものが…ん?」
グラスミラナはすぐに異常に気づく。なぜなら自身の能力効果が明らかに減っているのだから。
「貴様、一体なんの小細工を!?」
「浄化と言う名の消去!!あんたの能力効果を削ってやる!!」
バルディアムを介し、アクニリディアの遺伝子がグラスミラナの能力効果を消去していく。
そのままで保っておけばいずれグラスミラナを無力化できたかもしれないが、心臓が治っただけに過ぎない蘭太の体はすでにボロボロであった。
「ごほっ!」
ごぽっと口から血を吐き出した蘭太は残る力を絞って突き立てる腕に力を注ぐ。
「水神龍の浄化機構発動!神の災いの力を除け!!」
波紋の幅が極限まで狭まり、弾けるように光った後衝撃とともに両者を弾き、消えた。
体力の限界値を振り切った活動を続けたため、蘭太の体は渾身の一撃を続けることができなくなっていた。
吹き飛ばされ転がされた蘭太の装甲は解け、動きを止めた。
掠れる意識を強引に繋ぎながら虫の息ほどの呼吸をすることしか今の蘭太には出来なかった。
投稿頻度を高めるとは()
どうも、なかなか有言実行が出来なくてすいません。どらっごです。
ひとまずここら辺でアップしておきますね。ひー。
空いた時間を見つけて「よし、書くか」と思った時に書くというスタイルでいるんですが、なかなか進まないですねー…。
あまり長引き過ぎるとずっと蘭太くんサイドが不利な状況ばかりなので早めたいんですが…。
まあ、とりあえず「よし、書くか」と思う頻度を高めるところからのようですね。頑張ろ。
あと、なるべくなら今のサブタイトル形式を貫きたいと思ってはいるんですけど流石にキツイかなぁと思ってしまったらその話だけ変わってるかもしれません。
それでは、また。




