73・・・「人よ、王より滅びを命じよう」
巨大なクレーターが形成され、盆地のようになった場所に再び蘭太達は亜空間から現れた。
蘭太を除く全員が唐突の出来事に当惑していた。
「なんだ!?一体何だってんだ!?」
こういう時、火鉈が1番わかりやすかった。
そんな彼らに上空から声がかかる。
「あーあ、つっかえねーイクスちゃんと共にみんな潰してやろっかなーって思ってたのにさー、余計なことしてくれんじゃんかー?」
初老の男のような声だった。
その男を視界に収めた途端、イクスティクスは恐れる表情をする。
「グラス…ミラナ…!」
「ちっちっち、行けないなぁイクスちゃぁん、俺様のことは『王』と呼べってあれほど言ったろうがァ!??」
後半キレ調になった男はイクスティクスに向かって黒い闇を放つが蘭太による空間転移で消滅させられた。
「へえ?これくらいならあっさり消せるってか」
「あのさ、あんたは何なんだ?」
「はぁ…スルーした挙句俺様の事をしらねぇってロクでもなさすぎだろ。お前でも風の噂程度に聞いてたと思うんだが?」
男は蘭太に対し「そんなことも知らないのか?」体で首を傾げた。
のだが、蘭太が自分のことを知らない可能性も視野に入れていたようでかつて旧日本国王達に行った仕打ちはしなかった。
「さて、仕方ねぇから俺のことを教えてやるとするか」
そう言って男は話し始めた。
「俺様は厄災級の大黒柱にして傲慢の厄災、『王』だ」
「嘘。それだけじゃない。あんたからは厄災級以外の気配も感じる」
「へぇ?よくお気づきで?大抵はこんだけですんなりなるほどって受け入れてくれんだがなぁー。……さて、お前冥界って知ってる?」
にやにやしながら一息ついた男は蘭太にそう尋ねた。
当然蘭太は知らない。彼が知っているのは元世界と龍界のみだ。
「魂の輪廻の終着点。廻りを終えた消えゆく魂が行き着く最期の世界だ。んで、そこにも世界を司る神がいるわけで、名をグラスミラナという。…そう、俺様だよ」
魂の輪廻、それはとある個体が死を迎えた時に中に入っている魂が抜け、転生という形で別の体に宿るというシステムだ。
だが回転寿司が永遠にレーンを回らないように、魂も永遠に死と転生を繰り返すわけではない。一定量輪廻を廻り続けた魂は輪廻から抜けとある世界へ行き、魂の終わりを迎える。
その行き先が冥界と呼ばれる世界なのだ。
冥界にはグラスミラナのような神のほかに冥界生物と呼ばれる特殊な生き物が存在している。
「俺様は神なんだよッッ!!魂の終わりを担う世界のな!!」
と宣っていたのだが、蘭太は顔をしかめていた。
どうにも人物が一致しない。蘭太にはグラスミラナに既視感があった。
おそらく他の厄災級もおなじである。
「グラスミラナ?俺の記憶が正しければ…あのおっさんは施設長だったような…でも『王』?」
目の前の者がグラスミラナなのか施設長なのか王なのか。
いや1つにせいや、と突っ込みたかった。
蘭太は男のもう一つの一面を見たことはあったのだが、思い出すことは非常にまずいことであった。
そんな蘭太を鼻で笑い、グラスミラナは言った。
「全部だよ。全部俺様さ、エクシーデット。ミストの長も、冥界の神様も、厄災級の大黒柱も、全てな!」
エクシーデット?と蘭太は聞き返す。まるで聞き覚えがない。自分のことを指しているというのはわかるがそれがどういう意味を持つのかは…。
いや、薄々察していたような気がする。
「エクシーデットって…限界突破のこと?」
「そうだよ。お前が限界突破能力者第1号だ!!素晴らしいよ!この俺様がこういうんだから素晴らしい!!」
ガッハッハ!と大笑いしたのも束の間、グラスミラナは嘲笑う顔になる。
「でも残念、その力があってもこの戦争は終わらせられないんだなぁ」
「終わらせる、絶対に」
「ああ、終わるさ、全ての魂が消えた時な」
「そんなことはさせない!」
蘭太はイクスティクスを下ろし、グラスミラナの前に距離を置いて立つ。
「ボクもさせない。命はそんな理由で消しちゃいけないんだ!」
「右に並ぶ。我も、もうその考えには添わんぞ!グラスミラナ!」
カルナとイクスティクスが横に並び、他の厄災級と禁忌能力者も集まる。
1対多数なのにグラスミラナは笑ったまま。
「なるほどこんだけね。いいぜ戯れてやる。せいぜいじわじわ絶望しながら死んで行きな」
「…行くぞ!!」
掛け声と共に蘭太達は動く。
亜空間転移を利用した蘭太のみ瞬時に死角から現れグラスミラナにデュアルブレイガンを叩きつける。
それをノールックで止めようとしたグラスミラナの手をすり抜け、剣はグラスミラナを斬りつけて蘭太は一旦離れる。
それに続くようにグラスミラナを外気圧が抑え、飛来した鉄塊や武器がぶち当たる。
「いてっ!…というわけでもないんだなー」
グラスミラナの傷跡はすぐに治ったが、ついた傷は蘭太によるもののみだった。
つまり厄災級の攻撃でも蘭太にしかダメージを与えられないということのようだ。
これでは戦力が足りない…と思った矢先、グラスミラナの背中で炎が炸裂した。
「あっち!?てめェなんで効くんだゴラァ!!」
グラスミラナの回し蹴りを身を屈めて回避した火鉈は炎を纏った拳を再び当てる。
その殴撃で後ずさったグラスミラナは火鉈の炎に闇が混じっていることに気がついた。
「あ、そういうこと。お前ヘルヘイムの遺伝子を龍を介して取り込んだか。チッめんどくせぇ、龍耐性を消されたのがここで響くとはなあ」
グラスミラナが傲慢でいられる理由。それは基本の攻撃が効かないからである。
だが、イクスティクスをねじ伏せ、自分と目的が一致していると思い込ませる過程の中でイクスティクスに龍耐性、つまり龍族からの攻撃を無効化する能力を消滅させられたのだ。
当時のグラスミラナにとっては痛くも痒くもないできごとだったが、今ではひとまず4人が自分にダメージを与えられる存在ということになる。
しかし裏を返せばグラスミラナの注意を引ける者は4人しかいないということだ。正直少ない。
そしてさらに言えば常に意識を引けるのはたったの1人。蘭太だけだ。
棒立ちでいたグラスミラナを疾風のような斬撃が襲う。
不意をついた蘭太は2回斬撃した後、反撃を避けてバルディアムを抜刀して切りつけて蹴り飛ばした。
「傲慢は自分自身を殺すことになるよ。それを心に刻んで退場しろ」
ベルトのバックルから赤い弾丸を装填し、マキシマムエンチャントを受けて一歩踏み出した時。
「それならお前も自らを殺すことになるなァ?エクシーデット?」
足が止まってしまった。
「ふっ、お前ら、自分の力がどこから来たものかって考えたことあるかなぁ?例えば、厄災級の能力とかー?」
「それは…」
「あエクシーデットは答えなくていいわお前知ってるか分かんねーから。その代わり他の5人に聞いてみよっか?」
問いに対し、グラビティが「あんたが配った」と答える。
「そう、正解!じゃあなんで配ったか分かるかなー?俺様ケチだから慈善事業で人間目線のチート能力配ったりしないんだよねー」
「……」
「タイムアウトー。まあ答えられたらびっくりなんだけどさー?いやー、俺様力がもっと欲しくってね?大体の大罪感情の力は粗方極まったんんだが一個だけどうーにもグレードアップしなくって困ってたんだよなー。だから感情豊かな事だけが取り柄の人間を仕方なーく使ってあげようと思ったわけよ。210年くらい前だっけな?そしたらその人間は跳んで喜んでたよ!すぐ死んだけどな、カモフラージュのために他の感情能力を貸した他の奴にな。面白かったよ?そこから死んでは植え替えての作業ゲーだったけど」
「まさか…その一個って…」
「お、ま、え、の、や、つ、だ、よ!アハハハハハハ!!上手く出来上がってくれたよ!!全部俺様の力!それの強化ご苦労さん!」
厄災級の能力は元は1つの個体、冥界の神グラスミラナの能力だったのだ。
だから数億もいるハーフフェアリーの中でたったの7人しか存在しておらず、どの禁忌能力者をも圧倒する程の力を保持していた。
そしてグラスミラナがこのような力をわざわざ人間に貸し与えた理由は「怒りの厄災」にある。
ちなみに厄災級の感情能力は七つの大罪のそれにならっており、怒り、つまり憤怒以外の感情の能力をそれぞれ与えたのにも理由がある。グラスミラナ曰くカモフラージュだが、それよりも怒りの厄災を与えられた者による一強を避けるためだ。
自分が何者にも覆されない最強だと気づいた途端、人間は進化を辞める。それではグラスミラナの目的は確実に達成されないのだ。
そして怒りの厄災に求めていたのは正しくその進化であり、具体的には蘭太が解放した「限界突破」能力にある。
傲慢であり強さも兼ね備えたグラスミラナにとっては限界突破能力の解放条件である「怒りを乗り越える」ということが出来ない。怒るという事象がまず起こらないからだ。
故にやむなく人間を利用することにしたのだが、失敗の連続だった。
思ったより人間は脆弱で、自身の怒りの感情すらまともにコントロールできないというのはグラスミラナにとっても想定外だった。と言っても他に適正な種族は存在しなかったため、ガチャ感覚で該当者が死ねば次の者に移し、死ねば移しを繰り返していた時に記憶を失った水神龍の末裔でありながら人間の一種である龍人のデュ・ネイルに目をつけた。
ただの人間で駄目ならば龍族の血を流す人間を利用してみようと思ったグラスミラナはネイルに怒りの厄災の感情能力を植え付けた。
それから5年足らずで暴走した時にはまた失敗かと落胆したが何故か生きており、そこからまた5年経った時にも暴走した時には今度こそ…、と思っていたら怒りの感情を超えていた。
その時からグラスミラナは既に人間に対する用事を完了しており、世界を殺す準備を本格的に進めた。
「…と、言うわけでね、返してもらうわ。とりあえず絶望しな?お前らはただの人間なんだってな」
グラスミラナの右目が金色に強く光ると同時に蘭太を含む厄災級が右目を抑えて苦しみだす。
「お、おい!?お前らどうした!?」
「目…が…!」
厄災級でない者が心配しだす。
厄災級の彼らを襲っているのは目が捻り出される感覚である。だから反射的に目を塞ぐように抑えていた。
『蘭太!全員の厄災権限能力が野郎に戻るのはマズい!どうにか出来るか!?』
「どうにかって…目が痛くてそれどころじゃない…!」
『痛いから動けねぇんだな!?んじゃあ俺ら3人で黙って肩代わりするからなんとかしやがれ!ぐッ!』
ブラッディアンの声が終わると共に蘭太の目の痛みが収まる。今のうちにどうにかせねば。
「どうする…?どうする…?」
「考えても無駄だよ!抗っても俺様のところに戻ってくることは変わらない!」
どう抗っても奪われることは避けられない。ならば…。
『じゃあ…、1個ずつ厄災権限能力を消滅させる!』
今にも離れそうな金色の輝きを増幅させ、蘭太はまず欲望の厄災権限能力を消滅させた。
まだグラスミラナには違和感程度にしか認識されていない。
『次は暴食…次は飽き…次は…』
1つずつ消していくが、肝心の怒りの厄災権限能力は最後にしか消せなかった。
何故ならこの消去作業で使っている能力が正しく怒りの厄災の限界突破能力だからだ。
だからそれまでバレなければ良いのだが…。
「何コソコソやってるのかと思えばー?やってくれるねぇ!?」
ガックン!と体から何かが引っ張り出される感覚と共に蘭太の口から血が吐き出され、膝から崩れ落ちた。
同時に右側の視界が失われ、すぐに手を当てて再生したが手には血が付いていた。
ブラッディアンやルル、雷花が痛がっていないところから察するに、あの感覚の直前に痛覚の肩代わりがキャンセルされたのかもしれない。
蘭太の右目は黒い状態で再生したが、すぐに青色へ変化した。
左目でグラスミラナの方を見ると、彼の右目に1つだけ金色の光が溶け込んでいくのが見えた。
「間に…合わなかった…」
どうも、どらっごです。
ラスボス、王でした。
知ってた?まあそうかもしれません()明らかアヤシイムーブしてましたもん。
そして厄災級のアイデンティティである権限能力の剥奪イベントです。
よくある能力使用不可モノと思っていただければそれで良いかな〜と思いますよ。
永久に使用不可ですけどね。
全然関係ないですけどもうすぐGW終わりですね、絶望ですね。(泣)
では、また。




