72・・・「双龍、想いを伝えよう」
「これで良かったのかい?兄さん」
背後から幼い弟に声をかけられ、デュ・アークは振り向く。
幼きネイルの後ろにはデュ族の面々がいた。
ここはどこまでも青い空間。
鳥居のようなものでアークとネイルは隔てられていた。
「お前も…死んでたのか?」
「いやいや、ぼくは古いぼく。今外で頑張ってるぼくは新しい蓮藤蘭太、だよ」
「むっつかしいこと言うな?」
「こうとしか表現出来ないの」
「ほーん。…で、ここはなんだ?一見魂がずっとここに留まっているように見えんだが」
「ここはバルディアムの中。あと魂は留まってないよ。さすがにそんな鬼畜じゃないさ。残滓が残っているだけ。時期にここにいるみんなも次の命に宿って消えていく。ぼくは残るけどね、死んでないから」
にか、とはにかみながら弟はそう言う。
おそらくこの鳥居は通ることでバルディアムの一部になることを意味する。
ならば通ろう、そう思ったのだがアークは足を止めた。
「なあ、俺は恨まれているだろうか?」
「んー?」
「村を襲わせたのは俺だ。つまりみんなを殺したのは俺だ。そんなやつがのこのことそっちに行っていいんだろうか…って」
んー……とネイルは悩む素振りを見せた。
殺されていないネイルにとっては殺された者の気持ちは分からない。
だがネイルは答えた。同族が殺されたのを見た立場として。
「若干許せないって気持ちはあるけど、少なくとも今のぼくは許せるよ。兄さんが未来のためにとった選択だったのなら。…村長さんはどうなんです?」
ネイルは後ろを向いて村長を呼びだした。
「余は良いと思っておる。どの道一点に集約させねばならなかったからな」
村長は言った後、自身の体を光に包み龍の姿へ変化した。
再び現れたのは巨大な水神龍、ラ・アクニリディアだった。
結構驚いた。村で何気なく話していた相手がまさか神龍とは全く思っていなかったからだ。
「余は見ておった。悩むお前を、余ら一族のことを思っていたお前を。そしてお前は悩んだ末に未来のための選択をした。それならば余に責める道理はない。どの道余らは未来のために動かねばならなかったのだから」
「そう言ってもらえると…救われますね」
「ふっ、他人思いなやつよ」
「けど罪を犯したことには間違いないです。…ここを通れば、あいつの…蓮藤蘭太の力になれるんですかね」
「そう思えばなれるだろう」
「そうですか。じゃあ、まだやることは残ってるみたいっすね」
そう言ってデュ・アークは鳥居を通り、バルディアムの一部となった。
そう、まだ終わってはいない。戦争も、自分の罪滅ぼしも。
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イクスティクスはおかしくなりそうだった。
的確に蘭太を狙って放った攻撃が唯一の味方であったアクネルに妨害され、彼は消滅した。
長期的に見ればこの散り方が良かったのかもしれない。
なぜならアクネルの体は既に消滅が近かったのだ。
イクスティクスに倒され、蘇生されたのちのアクネルの体は消えないようにイクスティクスが龍力をかけて分子レベルで固定したものだった。
その龍力は最初に掛けられた量に依存し、それがもう少しで尽きようとしていた。つまり強制的な死が近づいていた。
そのことを1番理解していたのは体の持ち主、アクネルことデュ・アーク本人。
そして、デュ・アークは蘇生後「アクネル」と名乗った理由は2つある。
1つは敵の立場になるから。アークはイクスティクスの元で動くため、周りからは寝返ったと思われるのは確実。なので名乗る名前を変えることで名を捨てたと思ってもらうほうがどの道寝返るにしても動きやすい。
そしてもう一つは何のために動いているのかを思い出すため。
アークとネイル、2つの名を繋げることで自分は未来の弟のために蘇生後の命を使うということを自覚するのだ。
この2つの理由から、アークはイクスティクスの実態を知ってから「アクネル」という仮の名を使うことになる。
そういう背景があったのだが、イクスティクス本人は自身の感情で全く気づいていなかった。
心が壊れそうなイクスティクスの横目に映るのは微動だにしない蘭太。彼女はそれが無性に許せなかった。
「う、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
地面にありったけの衝撃波を叩きつけ厄災級を怯ませその隙に蘭太へ迫り、胸の装甲を掴んで持ち上げる。
蘭太の目は伏せられ、その瞳を見ることはできなかった。
追いかけようとした厄災級、及び禁忌能力者はカルナに手で制された。
「なんのつもりだカルナ!?」
「待って。様子を見させてほしいんだ」
その視線は、まるで胸ぐらを掴むように装甲を持ち上げで喚き散らすイクスティクスへ向けられていた。
「なんでだ!?何故なんだ!!何故アクネルはお前じゃなく自分の死を選んだ!!何故貴様が生きているんだ!!何故我から皆離れていくんだ!??」
「………」
「何か言えよぉぉお!!!」
どうしようもない感情をぶちまけるようにイクスティクスは涙を撒き散らしながら蘭太を殴った。何度も。
まんま八つ当たりである。だが蘭太は黙って殴打を受け続けた。
「なんなんだこの感情は!?何故我がこんな想いをせねばならん!?何故!?何故ぇぇえ!!」
どかっ!どかっ!と殴るイクスティクスの拳はやがて傷つき、だんだん殴る位置が降りていき次第に蘭太の胸に顔を押し付けて同じ部位に拳を打ち付けるようになった。
「なんで…どうして…………」
その時にはイクスティクスの声は今にも消えそうに掠れていた。
「“悲しい”っていう感情、あんたにもあるじゃないか」
伏せられた目を持ち上げた蘭太の右目は赤い輪郭をとった金色の光の焔をあげていた。蘭太の両目は確かにそれぞれ一筋の水が流れていた。
限界突破。
蘭太も自分の感情と闘っていたのだ。兄を死なせた自分、そしてイクスティクスが憎いという負の感情と。
だがそれではいけない。兄は自分になんと言った?
“イクスティクスを助けてくれ”と言った。
その言葉を無下にするわけにはいかない。自分達の理想を貫くためにも、こんなところで折れることがあってはならないのだ。
だから蘭太は怒りを超える。そしてイクスティクスの向き合う。
「かな…しい?」
「何かを失って崩れたくなる感情…。それが悲しいっていうもの。…けどね、あんたは物凄い勘違いをしている。あんたのそばにいるべき相手は兄さんじゃない。カルナなんだ」
「…無理だ。我はカルナとの間に溝を作ってしまった。もう戻れない。あの子の隣に立つ権利は我にはもうない」
「本当にそうかな」
「え…」
蘭太の右目が黄金に輝きイクスティクスの意識は何処までも白い空間に連れ込まれた。
「ここは…」
「精神世界。ほら、進みな。そして本心で話すんだ」
とん、と蘭太はイクスティクスの背中を押す。
つんのめったものの立ち直したイクスティクスが見たのは、待ってましたと言わんばかりのカルナ。
「カ…ルナ…」
「ボクも急にここに飛ばされてびっくりしてるけど、久しぶりだね、こうやって会うのは」
にこっと笑うカルナ。
「イクス、ボクはやっぱりキミといたいな。キミの他の人とかといても、キミといる時の安心感はないよ。…それに、なにより寂しい。戻ってきて…ほしいな」
そんなカルナを見ていたイクスティクスは突然膝を折って頭を地面につけた。
「ごめん…なさい…!カルナ…!」
それは土下座だった。イクスティクスが生涯で初めて行った行為だった。
「我…わたしはずっとあなたのためと思ってやってきてそのためなら全てをかなぐり捨ててやる覚悟だったのに…いつのまにかそんな自分に溺れてあなたのことを忘れて……あなたにまで迷惑をかけて……!」
どうやらイクスティクスはカルナ相手には一人称は“我”とは使わないようだ。
自分の行なっていることが必ずカルナのためになると信じて疑わなかったイクスティクスは、カルナ本人に否定されても無理矢理押し通していた。
いずれ為になる、そう自分に思い込ませ、悪魔にまで手を出すことにも繋がった。
その結果得たものは喪失。
カルナとは別れてしまい、かりそめの孤独癒しとして側にいてもらっていたアクネルには消滅され、挙げ句の果てに世界を壊そうとまでしていた。
そんな自分が許されるわけがない。
だが自分は世界の破壊を防ぎたい彼らには殺されない。死よりも酷い仕打ちを受けることは必至。
どうせそうされるのならば今のうちに全力で懺悔しておきたかった。
「良いんだよ。キミが間違いに気付いてそれを正したらいいんだ。今からでも出来る。もちろん罪は償ってもらうけどね?」
その声と共にイクスティクスの頭にカルナの手が添えられた。
「今からでも…やり直せるのか…?」
「やり直しは出来ない。けど未来を変えることはできる。キミ自身が今から行動して未来を変えるんだ」
「変える…うん、変えてみせる。わたし自身が変わってぁうッッ!!?」
「イクス!?」
イクスティクスは急に心臓部を抑え、過呼吸になりながらは倒れ込んだ。
そしてイクスティクスの口からは全く別の男の声がする。
「いけないなぁイクスティクスちゃぁん?世界はぶっ壊してなんぼって俺様と一致したじゃぁん?それ破る気?死にたいのかなぁ?」
ちなみに精神世界は魂が目に見える形で存在する世界故、念話の類も全て聴くことが可能になる。
「死ぬ…嫌…我は……」
「ヤだよねぇ?死にたくないよねえかわいいイクスちゃん?だからぁ、俺様の言うこと聞こうなぁ?」
「嫌……ふぐぁぁあッッ!!」
「我儘なんだよガキが!!嫌々言ってねぇで黙って俺様の言うこと聞いてりゃ良いんだよ!!」
「我…は!カルナのた…めに!世界を直す…!お前とは…縁を切って…やる!!」
「ざけんな!死ね!!」
「イクスティクス、その言葉待ってたよ」
何者かがイクスティクスの魂を破壊しようとした瞬間、体への干渉を遮断された。
いきなり苦痛から解放されたイクスティクスが見たのは右目の金色の焔を光らせていた蘭太。
蘭太はその限界突破の力によってイクスティクスに取り憑いていた所謂悪魔の存在に気付いていた。
だが、敢えてすぐにコンタクト遮断をしなかったのは、イクスティクス本人に“お前との関係を切る”と言ってもらう為だった。
だが完全に干渉を解消させるには至らない。ここからはイクスティクス個人の戦いだ。
「クソガキが…余計なことしやがって!!」
尚もイクスティクスの口で喋る何者かをイクスティクスは自分の魂にもかかわらずビンタをかました。
「いって!?ガキ!何しやがる!!」
「早く出て行けよ…!いつまでも我を縛りやがって、わたしの弱みに漬け込みやがって!!」
「ハッ!お断りだな!どうせあのクソガキのせいで今体への干渉が出来てないだけだ!解けりゃまた元どおり!こんな神とかいう物件立ち去る理由がどこにある!?」
「害虫はお断りするよ!我はやっぱり世界は壊さない!もうお前と意見は一致しない!出てけ!!関係解消だ!!」
「と、いうわけでお前のイクスティクスへの干渉を永久遮断してやります!じゃあの!」
「ふざけんなガキがぁぁぁぁーーーー………」
蘭太によって叫びはノイズへと変化し、何者かの気配が完全に消えたことをイクスティクスは認知した。
それと同時に意識が精神世界から切り離され、龍界へと戻ってきた。
「お疲れ様、イクスティクス」
気がつくとイクスティクスは蘭太に頭をぽんぽんとたたかれていた。
イクスティクスは溜息をついた後蘭太に言う。
「…中々いないぞ」
「何が?」
「家族を奪った相手に八つ当たりすらしないやつは」
「兄さんにしたから俺は中々の内だけど?」
「すまない、撤回する」
「え、あの」
ともあれ、イクスティクスが世界を壊す気を失ったおかげでこの戦争は終わりを迎える。
『終わったのね…』
『はーめんどかったぁー』
『脱力しすぎよー!』
……はずだった。
みんなに安堵感が生まれてきたその時、蘭太は身の毛もよだつほどの圧を感じ、近くにいる全員ごと亜空間に転移させた。
転移完了の直後、蘭太達のいたところには巨大なクレーターが爆発音のような轟音と共に形成された。
どうもー、どらっごです。
新元号、令和になりましたね。
令和記念話とかは…ないですね、そんなもの計画すらしてませんでした。
さて、
次話からラス…ボス?がようやく登場です。
誰なのかは気づいている方は気づいていると思いますよ。僕はそういうのは隠すの不得意なので()
とは言っても最終章ってまだ大して話数を稼げていない現状なので頑張って10話オーバーは目指したい…!そう思ってます。
……GWで加速したい!!(と思っているせいで若干走り気味…)
それでは、また!




