71・・・「弟よ、後を委ねよう」
イクスティクスがアクニリディアの消滅を狙って蘭太へ放ったブラックホールは、アクネルが庇うという意外極まりない行動で失敗に終わった。
その結果はイクスティクスの傷を更に抉るものだった。
顔を歪ませ、八つ当たりのように蘭太へ攻撃をしようとした。しかし。
「バルディアム…守れ」
絞り出された小声に応えるように俊敏に動いたバルディアムがイクスティクスの攻撃を阻害した。
それは拒絶を意味していた。
関わるな、という。
そのあとアクネルは崩れるように倒れ、咄嗟に蘭太に支えられた。
「何故だ!何故だ!?お前までも我から離れていくのかァ!!」
後方ではイクスティクスが狂ったように叫んでいたが、徐々に火鉈達の乱入が入りそちらの対処をせざるを得なくなった。
「兄さん!兄さん!しっかりしろバカ兄!!そうだブラッディアン!力を貸せ!」
一方の蘭太も落ち着いているわけではなかった。ものすごく動揺していた。
アクネル、いやデュ・アークの体は光の粉を少しずつ散らしながら薄くなっていた。足の末端などは輪郭が見えるかくらいの薄さだった。
だが自分達にはブラッディアンの瞬間再生能力がある。それを応用すればまだ…。
『すまねえ…俺の力は命まで干渉は出来ない…』
「戦闘用妖精にもどうしようもねぇよ」
アクネル、ブラッディアンの2人に同時に無理だと言われた。
「なん…で…?」
絶望色に染まる蘭太と対称に満足げな表情を崩さないアクネルは口を開く。
「その戦闘用妖精の能力は血肉の能力だ。干渉出来るのは体までだ」
「だからその体を直せば!あんたは死なずに済むんだろ!?だからまだ!ブラッディアンの力が!!」
「そうだな。体が生きていればその通りだ。どれ、言ってみろよ戦闘用妖精。俺の体はどんなだ?」
急に回答を振られたブラッディアンは息を呑む。だが意を決したように言葉を紡いだ。蘭太の口で。
「落ち着いて聞け、蘭太。お前の兄さんの体は、もうすでに活動していない。腐食はなんらかの力で防がれているようだが内臓も動いていないんだ」
「当たりだ。なんでか分かるか?ネイル。俺がもう既に一回死んでるからだよ」
「………」
確かに温度を感じなかった。脈も。
動いて声を発しているのに、生きていることを目の前の肉体は証明できていなかった。
目を見開く蘭太に消えゆく兄、デュ・アークは伝えた。村を出た後の自分を。
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デュ・アークは旅立った後1ヶ月で駆逐派の領土に入り、雑魚は瞬時に屠り巨龍でも手こずらないほどの力を持った。
一本の刀を携え、火を吐く龍の首を落とし、水を司る龍の喉を刺し貫きなど、誰にも見られていないところで良き戦績を出していた。
そんな調子だったのでデュ・アークは2ヶ月も経たない内にイクスティクスの居城へ単身乗り込み、護衛を始末して死滅龍の目の前に現れた。
『俺がお前を倒す!この悪行を辞めてもらうぞ!!』
油断はしていなかったはずだった。
なのにイクスティクスとの戦いは、今までの活躍など何の意味もなかった。レベル5でラスボスに挑むような感じの無謀さであった。
何故5なのかというと、デュ・アークは満身創痍で意識を保つことで精一杯な時に、余裕のそぶりを見せ近づいてきたイクスティクスに一撃喰らわせたからだ。
その痕は今でもイクスティクスの左太腿に残っている。
『へっ…ざまあ見ろや…これが俺の魂の一撃…ってなぁ……』
『貴様…我を傷付けるとはいい度胸だ。それ相応の罰を与えよう』
その一撃がイクスティクスの逆鱗に触れ、デュ・アークは一方的に攻撃を受けた。
1人だったデュ・アークに成すすべはなかった。スーパーボールのようにあちこちへ吹っ飛ばされ、叩き付けられ。それでも彼は喰らい付いた。刃こぼれした刀を持ってイクスティクスへ叩き付け続けた。
そんな健気な様子も死滅龍の怒りを買った。
『どうやら貴様の腕は邪魔なようだ。消え失せろ』
手をかざした時、デュ・アークの腕が肩からちぎれた。
スパッと切れたのではなく、見えない物凄い力で引きちぎられたのだ。
『がぁぁぁぁぁぁあ!!!』
デュ族の浄化作用に「失った部位を再生」する効果はない上、無理やり引きちぎられたことで荒い損失部位となっていたため、実質治療は不可能だった。
『これが神に刃向かった代償だ。我に挑んだことを後悔しながら死ぬといい。愚かなデュ族の戦士よ…ん』
もう本能であった。
デュ・アークは流血と共に掠れる意識の中、イクスティクスに噛み付いた。最期の武器、歯を使って。
『しつこいぞ!死ね!!』
イクスティクスはデュ・アークを蹴り払った。
かさっ…と重みを感じさせない音で倒れたデュ・アークは走馬灯のように村のみんなや家族、そして弟との記憶を思い出し…。
『みんな…ごめんよ……』
そして死んだ。はずだった。それなのに、次に目を覚ました時、目の前には自分を殺したはずのイクスティクスがいた。
気づけば千切れていたはずの腕も戻っている…が脈はなかった。
『…起きたか。デュ・アーク』
『なんでだ』
まるで勇者の目覚めを待っていた姫のように声をかけたイクスティクスにデュ・アークは殺意と警戒を込めて尋ねた。
『なんでお前が目の前にいる』
『…?ああ、そうだな、当然の疑問だ。ずばり答えてやろう、我が貴様を蘇らせてやったのだ。魂の輪廻にちょちょっと干渉して、な?』
神龍達曰く、魂とは体という器に入っている期間と、体から抜け出て新たな体へ入るまでの期間をぐるぐる廻る存在なのだという。
本来なら魂は、
体→天界→体→天界→体(以下ループ)
と居る所の移動を繰り返すのだが、イクスティクスはそこへ干渉し、体から抜け出た魂を再び同じ体へ戻したのだという。流石に2度は不可能らしいが。
体の修復?それはイクスティクスの「滅」の能力で「腕の損失」をなかったことにすることで直した。
なのだが、デュ・アークに理解出来なかったのはそこではない。
『アホなのか?敵を蘇生するとか、殺して下さいとでも言ってんのか?』
『殺せるとでも思っているのか?』
『ぶっ殺してやる』
瞬時にあしらわれたのは言うまでもない。
逃げることも考えたのだが、何故かイクスティクスに全力阻止される上、
『失敗しました。俺今死体っす。あの、すいませんでした』
と言って帰れるわけもないので、イクスティクスの始末を図りながらもあしらわれるということを繰り返しながらイクスティクスとデュ・アークの共同生活が始まった。
神と死体である。大して食事を必要としない。
そうして暫く経った時、デュ・アークは不思議に思ったことがあった。
時折イクスティクスは悲しげな顔をするのだ。そして創造龍であるカルナの名をボソボソと寂しげに呟いていた。
さらに気になったのはイクスティクスが今の行いを辞めようか迷う素振りを見せているということだった。だがその度に彼女は頭を抱え、独り言のように何者かと会話した後、まるで今までの迷いなど忘れたかのようにイメージ通りの冷徹な彼女へ戻っていた。
かと思えば暫く経てばまた悲しげになり、デュ・アークに積極的に話しかけ、暫く経てば頭を抱えて冷徹に戻り…
そんなイクスティクスを見ていたデュ・アークは自然に殺意が減衰していった。
『そうか…この人は…』
デュ・アークはイクスティクスの現実を知ったことで、未来のために動くことを決意した。
具体的には、一族のなかで「希望」と言われた弟のための行動を。
例えば弟がいないタイミングで村を襲わせ、村の一族に神器を作ってもらうこと。
そこを境に弟の消息が途絶えたときは魂が抜けそうだったが、そんなわけはないと信じて、いつか弟に手渡すために自ら神器を回収しに行った。
その神器は、既に死体であったデュ・アークを適合者と見なさず、中途半端な力しか発揮しなかったが、所持していることに意味があったため本人にはなんの問題もなかった。
後々、弟の存在が元世界で感知され、機会を見ては悪役として絡んで強化を図っていた。
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「つーわけで…だ」
兄は目配せしてバルディアムを操作して、蘭太の背中へ取り付けた。その瞬間所持権限が蘭太へ移った。
【我が祖なる活動遺伝子を全身細胞に検知、適合者と見なします】
蘭太の脳内にシステムアナウンスのような声が響き、背中のバルディアムが大鎌から大剣へその姿を変えていた。
【選択可能形態、ラージソードモードまたはライフルモードとなります。バックルを展開します】
シャララララーーッと蘭太の腰にベルトが装着された。正面には動きに支障が無いような形の箱が付いていた。
試しに開けてみると弾は1発分だけ。
どうやら任意の弾が自動でここに召喚されるらしい。
「美しいぜ…バルディアム背負ったお前…」
掠れた声で兄は言った。
「まさか…これが神器だったなんてね…」
「全然そう思わなかったろ?演技成功…ってな…あそうだ…、2度目の最期に…1つ頼まれてくれるか…?」
「え?……分かった…」
「助かる…あの人を、イクスティクスを助けてやってくれ…あの人は俺で孤独を癒そうとした…。だがそれは本来あっちゃならん…あの人はもっと側にいなきゃいけない人がいる…」
「兄…さん…」
「…俺なんかじゃなく、カルナがお前にとって大事な人だろがっつって目を覚まさせてやってくれ。解き放ってやってくれ…俺には出来なかったことを…頼むぜ」
「……うん…分かったよ…。任せて…」
「すま…ねえなぁ…いっつも頼ってばっかで…こんなろくでなしでも嫌いにならねぇで…やってくれ…」
消えゆく腕を伸ばして蘭太の頬へ手を添える。
「ああ…あったけえなぁ……」
目が熱くなるのを感じた。
弟は生きている。これからも生きてくれる。だから自分の為せることは終わった。満足して逝ける。
最期に生者の温もりを感じてデュ・アークは死体故に流れるはずのなかった涙を流した。
デュ・アークの体が光の粉を散らし、風に吹かれて消えていった。
「後は頼んだぜ…」
そんな声が聞こえた。
蘭太は散っていった光の粉を暫く見つめていた。
重みを感じなくなった腕を落とし、地面を涙で濡らしながら蘭太は顔をうつむかせた。
どうも、どらっごです。
今話をもってデュ族は蘭太くんのみとなりました。
そして、神器・バルディアムが蘭太くんの手に渡り、真の姿を見せましたね。
これにより大鎌or狙撃銃モードだったのが大剣or狙撃銃モードへ移ります。
なんで狙撃銃はそのままかといいますと、武装のサイズのせいです。
ではでは、また。




