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63・・・「禁忌が手を出す禁忌」


「これ…だけか…」


魂の抜けた声を火鉈は漏らした。

直後、何かが来る音がする。ざわめきもする。戦闘音もだ。


だが火鉈はそんなものには目をくれず心を暗闇へ落とした。

万といた旧日本軍は今はもはや百数人しかいない。

残りは言わずもがな全員死んだ。弔う遺体もない。


この絶望的状態ではとても戦う気になれなかった。

こんな時蓮藤蘭太(あいつ)ならどうしてるのかな、と思ったりもする。

しかしあいつは行方不明。命を賭して龍の大軍を引かせた。

あいつなりの信念があったのだろう。

多分、この戦争を終わらせるとかそこらへんだろう。

もし次にあった時自分達は置いてかれていないのか?


『いや…無理か。あいつは俺達の手の届かないとこまで行っちまった』


そうだ。蘭太は自身に宿る3つの属性を使いこなすだろう。単属性しか扱えない自分達など足手纏いだ。

なのに、心は囁く。


力が欲しいと願ってはいなかったか?


と。


『ああ、願ったさ。けど俺はそんな器じゃない』


そう思うならそうなのかもしれないな。けど力は得ようとして得る物だぞ?

肝に銘ぜ。蘭太は特殊だがお前は凡人だ。凡人が特殊個体と同じように力を得られると思うな、甘ったれるな。


『凡人…』


この戦争を終わらせたいのだろう?ならば強くなるしかない。あるいは終わらせられるものを支えるに相応しい力を得るしかなかろう?


正しいと信じることに使う意思が固ければ例え悪魔の力に手を出そうが我が物とできるはずだ。


『なるほど…な』


火鉈は目を開ける。

前には起きるのを待っていたと言わんばかりに火龍が鎮座していた。目は黒く染まっていた。

いや、生きているのか死んでいるのかを確認しようとしていたのか。


「はぁ…あの闇の龍の闇に侵食でもされたか?…いや、どうでもいいわそんなの。共鳴変身」


紅蓮の焔製の装甲を身に纏い、鋭い目つきで闇に侵食された火龍を睨め付ける。


「てめぇが生きてたって証はこの身をもって残してやるからさ、てめぇの遺伝子…寄越せ」


炎と炎がぶつかる。


数分後、戦闘を終わらせて戻ってきた彼方達が見たのは力尽き、死を待つ火龍の側に跪く火鉈。

その火鉈はどこからか持ってきていたスーツケースを開け、中から注射器を取り出し火龍に突き立て、血を取る。


「火鉈…?」


彼方のその呟きが聞こえるわけがなく、火鉈は採取した血が入った注射器を今度は自分の肌に突き立てる。


「ッ!?バカ!それはッッ!!!」


しようとしたことがようやく分かり、スチールが止めようとしたが時すでに遅し。

注射器の中身は全て火鉈の体内へ入っていった。

同時に。


「ぅぐっ!?ぐぅあああああぁぁぁあああ!!!!」


悶え、転がり、全身から炎と闇が吹き出す火鉈。


龍族の遺伝子は格下生物、つまり人間などに追加されれば強大な力となる。順応できればだが。

その確率は極めて低い。「ゼロ」と言った方が楽ではないかと思うほどの低さだ。僅かな抵抗が体へのダメージを高めるからである。


過去の大戦中にも龍族の遺伝子を人間に注入する実験は行われたが、全て失敗。

被験者は皆全て龍化したという。その後を知る者はいない。

龍の体を作ろうとする龍の遺伝子が人間の体を維持しようとする人間の遺伝子に勝るのだから当然の結果と言える。


【返せ…】【寄越せ…】【これは我の体だ…!】


体内に潜り込んだ遺伝子が体を掌握しようとし、火鉈の口で怨嗟の声を上げる。

だが火鉈には譲る気は砂一粒分もない。


「違うな…」


声を絞り出す。


「この体は俺のもの…だ。てめぇは俺に負けた。てめぇは俺の力になるんだよ…!」


【嘘をつくな…】【下等生物風情が図に乗るな…!!】


「その下等生物に負けたお前は?」


問われた途端火龍側の声が止まる。ぐうの音も出せないのだ。

下等生物とみなす相手に負けた火龍、立場は更に下ということだが、それは誰より本人が認められない。


【ふざけるな!!】


「ぶハァっ!?」


龍の怒号と同時に火鉈の口からは大量の血が吹き出す。

火龍の遺伝子とそれに混ざる闇が怒りで活性化したのだ。

火鉈の体は限界を迎えつつある。だが彼はこの状況を求めていた。


【我が貴様より下等だと?真の上下関係を思い知らせてやる!!】


「そっくり…そのままブーメランの如く返してやる…!てめぇは人の思惑すら見抜けねぇ雑魚だってなぁ…!」


【なに…?】


「ばーかばーかばかトカゲ!…げほ、教えてやる、俺はてめぇの活性化した遺伝子が欲しいんだよ!」


なるほど、では活性化を止めよう。

そんな融通は利かない。なぜなら一度活性化させた遺伝子は任意で止められないのだ。

だから火鉈も口に出せたのだ。


「てめぇは下等生物とみなした相手に最後まで手のひらで踊らされた…どうだ?今のお気持ちをどうか一言くださいよ…?悔しいだろう?」


【ウウゥ…貴様ぁぁぁーーーーー!!!!】


「なんとでも言えよ!闇如きに負けて破壊しか能のなくなったてめぇがこの戦争を終わらせるって決意の俺に勝てると思った時点でてめぇの負けだ!俺とお前の戦いは始まってすらなかったんだよ!!」


だから…、と血まみれの口で紡ぎ、仰向けの状態で拳を空に突き上げ、


「俺の不戦勝だ、雑魚ォ」


その拳で胸を殴る。

それが最後の決め手となり、火鉈の体から吹き出ていた炎と闇が霧散する。


残ったのは荒く息をする火鉈だけ。


「ハァ…ハァ…ん?」


気づけば彼方達がすぐ近くまで来ていた。


「アッドウモデス」


「火鉈」


「?」


はてなマークを顔に浮かべる火鉈に彼方は氷点下を下回る視線で…。


「なんか言うこととすることあるよね?」


その場の全員が察する。

火鉈は痛む体を秒で起こし、正座し、手を地面に当て頭を下げて。


「勝手に大博打してすいませんでしたァァァァァァ!!!!!!」


土下座&大声で謝罪。

当然だ。すればほぼ確実に龍化すると言われた輸血を無断で行った(許可を求めても絶対降りないが)のだ。

彼方達はまるで仲間を失う様を見せられているようだった。


怒らない方が無理強いである。

そこからは割と懐かしい光景。具体的には親が子を叱る光景。


「なんでやろうと思ったの!?」


「今のままじゃ力が足りないと思いまして…」


「筋トレしろ!」


「今からしても間に合わねぇよ!?」


「あの輸血よりはよっぽど無難よバカ!龍化する可能性しかないのよ!?」


「龍化する気は毛頭ござらんかった!」


「ええいうるさい!二度とこんなことしないでよ!胃が痛いわっ!!」


「それについては本当に申し訳ないと思ってます!二度としません!ごめんなさい!なにすれば償えますか!?」


火鉈って…こんな姿あるんだなぁ…と後ろから見ていた3人は思う。

ギャーギャーうるさいため生き残りの視線が全て火鉈と彼方に注がれていた。


「死なないこと」


それ故に急に大人しい声になった彼方の声に皆が無言で驚く。それは火鉈も同じ。


「…あぇ?」


「そんな間抜けみたいな声出さないで…()()()()()()()()()ことを要求したの。これ以上あなたのあんな姿は見たくない」


「あ、了解です……。……もっと羞恥系のさせられるのかと思った」


「そっちのがいい?」


「嫌です」


「でしょうね」


「ふぅ…」


火鉈はようやく緊張が解けたようだった。

そして同時にそのまま倒れる。


「っ!?火鉈!火鉈!?」


そんな声を聞きながら火鉈の意識は暗転していく。



…あれ?俺死んだ?

いやいや、おかしいでしょ。


死ぬなよ?→はい

って流れで逝くパターン?

ダメでしょ。いや認めねー。

ここで神様とか出てきて


『転生しよ?(ニコッ)』


ってしてきたら殴る気自信しかないわー。


そんな転生とかもしさせれるんならね、こう要求するよ。

俺を!元に!


「か゛え゛せ゛ぇ゛ぇ゛ーーーーー!!!」


「ひぃっっ!!?」


素でビビる声が聞こえ、それに驚き目を開ける。


音源を見ると、ドン引きしてます風の体制で舞が顔を青ざめていた。


「お…おはよ…ヒナタ…さ…ん」


「なんでそんな怯えてんのイデッ」


間抜けヅラする火鉈の頭を彼方が手刀で叩く。


「不意打ちであんなことされたら誰だって驚くわよ。それで?体調は?」


「なーんか俺罪重ねてるような…、え?体調?おかげ様で治ったよ」


「そう。よかった」


激しい戦闘のせいでどうやらロクに道具はなかったらしく、火鉈は倒れたまま仰向けにされて放置状態だったらしい。看病も特に出来ないので見守りをしていたようだ。


ようやく復帰した火鉈は、スチールと彼方達に問う。


「みんな、これからどうする?」


総じて、思い当たらない、と答える。

どうしたものか…と悩む火鉈達。

その時、火鉈の右目が赤黒く光る。

そして火鉈にとあるものの存在を伝える。


それは…どこか清らかで、あまねくすべてを浄化するような存在。

それは…どこか大きく、あまねくすべてを作る存在。


「感じる…これは…」


その存在がなんなのかは分からない。だがそこに行かねばならないような気がした。


「俺…行くよ」


「どこに?」


「どこかはわからない。けど俺を導くものがある。それを辿れば…きっと」


「ンなら、俺も尾行させてもらおうかな?」


スチールがうなじをかきながら言う。


「どーせここに残ってもすり減んの待つだけだろ?それはつまらん。それならその先が魔鏡であれお前の行くとことやらに行ってみた方が楽しそうだ。…もちろん、お前らも行くだろ?」


スチールは彼方達に問いを投げる。彼方達は愚問だと言わんばかりに肯定し、付いていくと伝えた。

が。


「ま、待ってくれ!」


旧日本軍の1人が火鉈達を呼び止める。


「あ、あんた達こんなどこがどうなってんのか分かんねえとこ進むのかよ…?ここにいた方がよっぽど安全じゃ…」


彼らの言い分もよくわかる。

火鉈達の身を案じているようだが、それ以上に火鉈達を守り役として利用したい気持ちも、よく分かる。


だが固まった心というのはそう変わるものではない。


「悪いな。信念のためなら自分の身をも賭けるバカが仲間にいたんだ。俺達もそれなりの覚悟で行かないと俺達の信念を通せないから…じゃあな」


火鉈達は歩き出す。なんの根拠もない、ただの気配を頼りに。


『なぁ蘭太、生きてるだろ?』


火鉈は心の中で呟く。


『次会ったらさ、見せてくれよ。お前の信念、決意を』


どうも、どらっごです。


久しぶりの強化回ですねぇ。

火鉈君のこれからの活躍に期待っ!筆者はしますよぉー!


…5章の区切りどこにしようかなぁ


ゴホン、ではでは、また。


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