59・・・「対峙」
『お前と話していると心が落ち着く…。もうしばらく近くにいてくれ…』
『はいはい、分かってますよ』
過去に何度も見た光景を夢で思い出し、青年は目を開ける。
何度目だろうか。ここ最近はよく見る。
「もうしばらく…ね」
逆らえない何かに諦め、自嘲気味に溜息をつく。
最近、自分が薄れているような気がする。
「早く来いよ」
誰に言うでもなく呟き、来たる戦いに備え青年は再び眠る。
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一方、ゴグボルケと対峙する蘭太とブクリス。
「あの火山に入れる気がするんだ」
「確かに…マグマが出てこれるのなら入ることもできるはずだけど…、入ってどうするのさ?」
「弱点があれば攻撃する。逆にそれしかなくないか?」
「が、頑張ろう」
マグマが出てくる所=常に溶岩に晒されると言うことは言うまでもないだろう。
つまり、もしそこに弱点があれば自分の耐久性との戦いを強いられることになる。
しかしゴグボルケを討伐するためには避けられない。
「じゃあ、俺前側行くからブクリスは後ろお願い!」
「了解!」
役割分担し、それぞれ火口に突入する。
『思ってはいたけどアッツ!』
『マグマって何度?』
『知らん!とにかく暑い!』
『もー。…これでどう?』
アツアツ言いまくる蘭太を見ていられないのか、ルルが自身の能力を行使すると蘭太の体感温度が下がった。
『あ、冷却か。ありがとうルル!』
『ど、どういたしまして…。あ、なんかそれらしいの見えてきたよ!』
進んで行くといかにも排出器官ですよといわんばかりの突起物が現れた。
「見つけた!あとは脳筋!ぶっ壊す!!」
と、鞘に戻していた剣に手を伸ばしたところで。
シューーー……
音と共に排熱器官が赤く染まる。明らかにマグマが吐き出される前兆である。
だが逃げられる場所があるとは思えなかったので氷で障壁を作る。
直後排熱器官が暴発し、溜め込まれていたマグマが噴出。
「アッツ!アッツ!」
暑さに悲鳴をあげるがなんとか凌ぎ切った。
その時の蘭太はフーッフーッと息を荒げていた。
「ヤロー…。こんな目に合わせおって…!お前なんかこうだ!」
半ば八つ当たり感覚で抜刀・連撃を繰り出し、排熱器官を切りつけ破壊した。
同時に外から悲鳴にも似たゴグボルケの声が聞こえる。
その時ふと気づく。
「あれ…、そういえばこいつの言葉が聞こえないな…?」
『あ…、確かに…。この子はもしかしたら普通の龍じゃないのかも…?』
蘭太は水神龍ラ・アクニリディアの遺伝子を引いているため大体の龍と言語意思疎通が可能である。
のだが今回のゴグボルケは言語どころか意思を伝える気すら感じることが出来ない。
理由は読者の皆様は大体お察しであると思う。
それでも今回のゴグボルケの鳴き声が悲鳴のように聞こえたのは、単にそう聞こえたからに過ぎない。
さて。
排熱器官を破壊され悲鳴をあげたにもかかわらずゴグボルケは弱る気配を見せなかった。
「あれ…?これ弱点じゃなかったのかな…?」
なんでだろなんでだろ、と思っていると再びゴグボルケは悲鳴にも似た鳴き声をあげ…。
排熱器官が復活した。
「ン!?」
まるで意味が分からない。ゲームか?
ひとまずこのままでは埒があかないため一度火山から出てしばらく待つと、もう一つの火山からブクリスが出て来た。
「どういうことなんだ!?排熱器官らしきところを壊したら声の後にすぐ再生したぞ!?」
「待って待って!そんないきなりまくしたてられても分かんないって!」
「あ、すまん」
「とりあえず整理しよっか」
1つ。排熱器官の破壊と同時にゴグボルケは悲鳴をあげる。
2つ。2個ある排熱器官を破壊すると再生し、活動を再開する。
つまり、排熱器官はゴグボルケの弱点であることには変わりないのだが、両方を破壊すると復活してしまうということだ。
かといって破壊しきらないとこのマグマの勢いはおそらく止められない。
「ん…まてよ」
ゴグボルケにとって排熱器官は大切な器官のはず。なぜなら奴は体内のマグマを主にここから排出しているためここが機能しなくなれば排出できなくなるからだ。
ならば1個でも破壊されればすぐに治せばいいはず。
なのに2個破壊されなければ再生しないのは…。
「奴はもしや…破壊されたと認識した回数で再生しているのか…?」
「どういうことだ?」
「仮に…だけどあいつの排熱器官の再生が無意識でしか行われないものとするとさ、何かしらの条件を満たさないと再生が実行されないことになるよね。破壊されたら再生…だったらわざわざ2個壊されてから再生するわけないし、だったら何なのかって思ったらやっぱり認識の方なのかなって思って」
つまり、ゴグボルケの排熱器官は、2つ破壊されたという認識があって初めて再生が行われるということだ。
もっと砕いて述べれば、「破壊されたという意識が2回存在しなければならない」ということ。
よって導き出される解は…。
「完全破壊の方法は…同時破壊だ」
「同時!?どうやって合わせるというんだ?」
「いや、俺とあんたでは合わせれない。でもね」
同時破壊と言うのは容易いだろう。だが難易度はかなり高い。
なぜなら見えないし、聞こえないのだ。お互いが。
なので蘭太とブクリスでは合わせるのは不可能。
だが、同時破壊を実現するのは可能だ。
「俺達ならやれる」
蘭太が右腕を横に突き出すと、そこから赤と黄色の粒子が外へ流れ出てもう一つの体が生成された。
見た目は赤い蘭太。所々に黄色のラインは入っているが。
ブラッディアンだ。
「オーケーオーケー了解だ。同じ精神を共有してる俺らなら見えずとも聞こえずとも意思を合わせれるってな」
「そういうこと。ブクリス、あとは俺達でやる。あんたには別をお願いしてもいいかな?」
「ふっ…人使いが荒くないか?」
「すんません」
「悪いとは言っていない。排熱器官の完全破壊が出来ない僕がいても邪魔だからね。…頼んだぞ」
言い残しでブクリスは降りていった。
「…さて!ぶっ壊すか!震血変身!」
装甲を纏ったブラッディアンと共に蘭太は再びそれぞれの火口へ入っていく。
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「オラ!どうした!届かんぞ!」
グラビティは飛んでくる酸をベクトル弄りで弾き、圧力ベクトルを用いてアディヨンポリズを遠方から殴る。
この龍は哀れだ。そうグラビティは思っていた。
なぜ腐食したら体で生きねばならないのか。
実に哀れだ。
「そろそろ…疲れただろう?この飽きの厄災が楽にしてやる。ただしここら一帯を酸塗れにした罰を受けながらな」
グラビティはアディヨンポリズの胴体中央に乗る
この龍は哀れだ。
そこにいるというだけで腐った体による酸で全てを溶かし去ってしまうからだ。そこにあったであろう街や、花も全て。
幸いなのはここは盆地であるため酸がダイレクトに海へ流れ出ることはない。
「死ね」
強大な圧力ベクトルが働き、アディヨンポリズの体を2つに分断した。
「厄災の特権・生体干渉能力」。
厄災級のみがもつ、防御機構を無視し、中枢の体に直接能力を当てることを可能にする能力である。
ただし、
・対象に触れねばならない
・同じ厄災級には効かない
と言った条件はある。
今回グラビティは罪を痛みで感じさせるためにアディヨンポリズを爆散させなかった。
だがそれが今回のグラビティの失敗であった。
カラカラカラカラ……
キシキシキシキシ……
2つの鳴き声が聞こえる。
「……?」
異変に訝しむグラビティは見た。
2つに分断されたアディヨンポリズの上半身と下半身がまるで別の生き物のように自立し動き出したのだ。
片方は2本の足に長い首そして一対の翼。
もう片方は足と首は同じだけだが翼の代わりに巨大な腕。
ガララララララァァァァ!!!!!
首を震わせ十に及ぶ頭が吠え猛る。
「こいつは…」
さて、アディヨンポリズは別名何であったか?
ドラゴンゾンビである。
不死の化け物の象徴。
どれだけ殺されようが、体を引きちぎられようがしぶとく生き、ただ肉を求める哀しき存在。
アディヨンポリズは最初から10の頭を持っていたわけではない。
中心となっているのは2頭の双子龍である。
2頭の龍がたまたま喧嘩した時にたまたま王に目を付けられ捕らえられ、先に捕らえられていた8頭の龍と混ぜられたのだ。
だから体が腐るのだ。最初から複数の頭を持っているのならば体がそれでも大丈夫な構造を取るに決まっている。
だが1つの頭を持つことが前提の個体同士が混ざったところでプラスなどされない。
そしてその融合は更なる悲劇を生み出した。
捕らえられ、負の感情がたまっていた8頭の龍達と、喧嘩し、こちらも負の感情がたまっていた双子龍が1つになったのだ。
正気が保てると思うか?
否。彼らの精神は崩壊した。自我などとっくになくなっている。抜け殻の龍と大差ないのだ。
「哀しいな」
彼らは見ることは出来ない。花も、街も。
『こんなに哀しく、面白くない戦いはあったろうか…?』
全く高揚しない。
それどころかつまらない。
「飽きた。すまんな。少しでも手加減した俺が悪かったよ」
グラビティの右目が強く光る。
飽きの厄災の権限能力。
それは対象に飽きた時、対象の正の感情と何かを欲する感情を奪い取り自身の害がない分吸収。
そのあと鬱憤晴らしの如く力をぶちまけるというものだ。
「お前に正の感情があるとは思えんが…。まあ未練は無い方がちゃんと逝けるだろう?寄越せ」
アディヨンポリズから粒子が漏れ出、グラビティに吸収される。
「はーん?食欲、こんだけか。本当哀れな奴だ」
デカ溜息をつき、グラビティはアディヨンポリズに手を伸ばす。
すると2頭の龍が苦しそうにもがく。
グラビティの権限能力で超強化された圧力ベクトルの力で外気圧を増幅されているのだ。
「ここではお前らは報われない。今度はあの世で静かに幸せになるといい。さらばだ、哀れな龍達よ」
手を握ると同時に龍の姿が消える。
最大まで引き上げられた外気圧によって体がミクロレベルまで潰されたのだ。
これでアディヨンポリズを倒したことにはなる…が。
「さて、酸の海どうするかな」
むー、と唸りながら考える。
「とりあえず無害なものに変えるか。出来れば無害な気体に」
元素同士の繋がりをベクトル弄りで外してやればどうにかなるだろう、うん。
そして作業に取り掛かること数十分。酸の海は消え、権限能力は収まった。
「ふーー……」
「おーい!グラビティ!」
額の汗を拭うグラビティを真麗が呼ぶ。
「なんだ生きてたのか」
「生・き・て・ま・す!すいませんねぇ!」
「いや冗談だ。それで?なんかあったのか?」
「用がなくても話しかけるという可能性を考えないのあんたは?」
「ないのか?」
「あるわよ。ありますよ!…アレ」
真麗が指差した方向は山だった。
その中腹に、いかにも入り口と言わんばかりの巨大な扉があった。
おそらく酸の海で溶かされ、露出したのだろう。
「なんだ…あれは?」
「分からない。けど行ってみる価値はあると思うの」
こいつ元世界を守るという役目忘れてないか?
とは思ったがそこには何か大事なものがある気がした。
「…同感だ。行こう」
どうも、どらっごです。
アディヨンポリズの退場思ったより早いかな…と思ったんですけど相手が相手なのでこんなもんなのかなとも思ってます…。
ん…そうでもない?まあここらへんは感覚ですよね!
さて残るはゴグボルケですね。蘭太くん、頑張れ!相互蘇生なんかぶっつぶせ!うおおおおお!
ではでは、また。




