45・・・「三重の共鳴」
蘭太、ルル、雷花、3人の体が突然赤い光に包まれる。
「あ……」
体の隅々までが修復されていくこの感覚。ものの数秒で光は消えたが、さっきまでの痛みは完全に消えており、切断された右腕も元どおりだ。
これは…きっと。
ーーーーーどうだ?俺様の力ーーーーー
「うん。最高だ!」
「あははは!!」
歓喜の声を上げながら鎌を振りかぶり狂気的な様子のアクネルが突っ込んで来た。火鉈達の妨害を受けてはいるが本人は完全に無視している。
「オラ!動かねぇと穿っちまうぜぇ!??」
「残念。悪いけど俺1人じゃないんだ」
「は?」
瞬間。ブリザードと落雷がアクネルに命中し、アクネルは弾き飛ばされた。
「のあっ!?」
「この…よくもやってくれたわねあんた…!」
「えちょ、ステイステイ」
憤慨するルルを宥めつつ、アクネルを見る。彼はまだ立てるだけの体力を優に残しているようだ。
「蘭太、手伝い要るか?」
火鉈達が側にきた。
じゃあ、お願いしようかなと言いかけた途端。
「要らん」
蘭太の口を使ってブラッディアンが喋った。左目が赤く光っている。
「え…あっ!お前まさか…乗っ取って…!」
「違う違う!もう乗っ取ってねえよ。返したって。奪う気も無くしたし…けど不便だな…分離できればいいんだが」
「お前体ないの?」
「お前の記憶摘出手術の時の特殊エネルギー源で使わせて無くなっちまった、てへ」
「なんか複雑な感じ」
火鉈達は少し困惑した。何せ1つの体で蘭太とブラッディアン2人の意識が会話しているのだ。同じ体を使っているため口調は違えど声の高さとかは完全一致である。どっちが喋っているのか判断するには左目を見なければならない。
「紛らわしいっ!!」
「あーすまんすまん。ひと段落ついたら体作るからそれで勘弁してくれ」
赤い左目で喋っているからブラッディアンだろう。
その時、コツコツと地面を刃物で叩く音がする。アクネルが「まだかい?」と言いたげな目をしている。なぜ律儀にも待つのか。本当に奴の目的とやらは分からない。
「まーとりあえず手伝いは要らん。こんなとこで体力浪費すんなや」
左目は赤い。
「やけに自信ありげだね?」
左目が黒くなった。蘭太だろう。
「俺様の力、ちゃんと使いこなしてくれんだろ?それなら心配要らねえよ。…あ…っとこれ以上は控えとくぜ。さっきから俺が出る度にルル・イーリアの視線が痛いんだ。余程お前じゃないと気に入らないみたいだ」
赤。
「そうだね」
黒い左目に戻った蘭太はすぐ側にいたルルと雷花の頭を優しく撫でる。ルルは花が咲くように笑顔になり、雷花は穏やかに笑う。
笑顔は蘭太にも移り、蘭太も笑みを浮かべた。
「また、頼むよ」
2人は粒子なって蘭太に溶け込む。すると髪色が水色地に変色し、前髪の左側に細く二筋の赤と黄色のラインが浮かび上がる。さらに左の黒目が三等分されるように仕切られ、上に青、蘭太から見て右に赤、左に黄色と変色した。
その状態で蘭太は火鉈達の方へ向き、
「じゃあ、もう一回いってくる」
とだけ言って兄と向き合う。
「やー、やっぱいたんだな。隠れてても存在感感じるって相当だぜ?ブラッディアン」
「テメェ、俺がいるって気づいてたのか」
ブラッディアンが蘭太の口で話す。今回は彼に話が振られているためやむなし。
「薄々な。じゃなかったらあんな腕切り落とすなんて事しねえよ」
「ほんと博打好きだな」
「お前は大体人助けの類に関しては大体ギリギリにならないと出てこないからな。敢えてギリギリのラインまで追い詰めた訳よ。まぁ結果オーライじゃねえか」
「ビルからビルへみたいなすごく危ない綱渡りさせてくれてありがとさん」
「そりゃどうも。じゃあ再開しようか。とりま俺に見せてくれよ。その新しい力をな!」
蘭太は左手で右手首を持ち、右足と右肩を後ろに引く。
今度は3人と共鳴をする。ならすでに掛け声は決まっている。
「三重共鳴、変身!」
蘭太の足元、右背側、左背側に青、赤、黄色と円が作られ、中から水、赤い液体、電流で出来た龍型エネルギー体が現れ、蘭太の周りを水の龍は上から被さり基礎の装甲を形成。電流の龍は一度後ろへ回り込み、左肩から右足のラインを辿るように突っ込み雷結晶を作り出す。
ここまでは二重共鳴と同じである。
さらに赤色の龍は右腕と右の翼を囲むように回り、溶け込むとその部分の装甲に赤色が加わり、紫色になる。
そして強制的にデュアルブレイガンの鞘が腰の位置に移動。何事かと思い見ると氷で出来た両刃の剣が2本ぶら下がって…いない。まるで見えない鞘に収まっているかのように浮いている。
これで変身完了。以前と比べ、かなり変化している。
甲を前にして右手を横に突き出すと、落ちていたデュアルブレイガンが意思を持ったかのように跳ね上がり、手に収まった。
「いくぜ、兄さん」
据わった目でアクネルを捉え、蘭太は地を蹴る。
体感でわかるこのスピード感に若干の驚きつつも剣を振りかぶり、振り抜くが避けられる。
だが焦ることなくその下向きの勢いで深くしゃがむと頭上を大鎌が横切っていく。通り過ぎたところで足を伸ばしジャンプ。剣で下から切り上げた。
「ぐわっ!」
たたらを踏むアクネルに、空いた左手で背中の氷剣を投擲すると同時に距離を取る。
当たると同時に砕け散るが、すぐに背中に補充するように氷剣が作られる。
『一回で一本…。やっぱり属性エネルギーだけで武装の形成は難しいみたいだ』
『無限に湧くんならいいんじゃね?それにメイン武装は右手のもんじゃねえか』
『確かに…そうかも』
loading heal!enchant!
見ると、アクネルは緑色の粒子を浴び、体力を回復させていた。
別にずるいとは思わない。何せ蘭太の方はブラッディアンのお陰で完全回復しているのだから。
「あー。効くねぇ。すぐ砕け散るっつっても剣は剣だな。けどそんなもんか?」
「そんな訳ないじゃん」
蘭太は左側に剣を向け、上に弧を描くように肩を回す。すると同じように左から右へ大量の氷剣が生成。見方によっては尾羽を広げた孔雀に似ているかもしれない。
「おぃおいまじかよ」
見えているだけで100以上あるのは確実。その剣達が蘭太の、剣を前へ向ける合図によりアクネルへ向け飛翔する。
「チッ!アホだろこんなんまともに捌けるかっつの!!」
loading burst!release!
弾を装填して射出。実はまだレーザー砲の弾があるのだが凪いでいる時間が惜しい。
『これで少しは…!?』
目を疑った。氷剣達はまるで統制された群れのように巧みに散弾の網を潜り抜け、躱し、一本も欠けさせることなく前進したのだ。
止むを得ず鎌で弾くが、防ぎきれるわけもなく。
幾数もの剣がアクネルを直撃し、衝撃で地面のものが巻き上げられた。
それが晴れた後、大鎌を支えに膝をつくアクネルの姿があった。
「へへ…上等だ。変化する前と後じゃ全然被ダメが違う。…よし。潮時だ」
大鎌を狙撃銃にし、紫色の弾を装填。
loading!gate!
「目的は達成だ。俺はここらでお暇させてもらうぜ」
「あっ!待て!」
「別に来てもいいが…空見てみな」
促されるまま空を見ると、龍が飛び回っていた。所々では火災も起こっている。
「そこの4人はきっとお前に用があってわざわざ乱入したんだ。そのお前が俺と一緒に龍界へ戻ったら…ここの状態は悪化するだろうよ」
蘭太が歯噛みする。
「帰る場所のことをまずは優先したらどうだ?私情を優先する必要は今はないからよ。何。俺らはまた嫌でも会うさ。次も戦場でだがな」
「戦場…?」
「ああ。こんなにめちゃくちゃ荒らされたら戦争になるだろうからな」
「そんなことは…!」
「ない。とは言い切れないさ。絶対な。人間の歴史には銃弾1発で起こった戦争もあるくらいだしよ。…まあ仮に戦争が起こったのなら、せいぜい終結の方に努力しな」
またな。と言葉を残し引き金を引く。魔法陣が上部に展開し、アクネルを飲み込むように降下、地面と接すると消滅した。
「………」
「蘭太…」
「火鉈。抜け殻の龍、何体いるか分かる?」
抜け殻…?あとで聞くか。
そう思って火鉈は予め渡されていた探知機を見る。
「ええと…このエリアだけで…700!?密集し過ぎじゃねえか!??」
このエリア、というのは旧関東地区の沿岸部である。
確かついさっき火鉈達だけで倒した龍は体長が優に10mを超えていた。そんな奴らがこんなところに700もいるとなると被害は考えたくもない。
「700…少し時間はかかるけど多分いける」
「本気か??」
「ほとんど本気。だけどまだこの力のこと分かりきれてはないから慣らしも兼ねて」
言うと、蘭太は空へ飛び上がる。流石に見えない相手への攻撃は厳しい。
上空から見る旧東京は凄惨なものだった。
各地から火の手が上がり、戦闘が起こっている。
『一体につき一本。ルル、行ける?』
『問題ないよ』
『雷花、使った分の操作は?』
『大丈夫』
『ブラッディアン。マルチロックオン、頼むよ』
『お前の体力次第だがな』
左から右へ、弧を描いて大量の剣を生成。眼下の龍達の位置を記憶する。一体、十体、百体と。
「く…」
一時的とはいえ、膨大な記憶を要するその攻撃は脳や体に負荷がかかる。鈍痛が響き、視界が暗くなってきたところで、ようやく視界に入る分の記憶が完了。
「OK、射出ッ!!」
剣を振ると、作られた氷剣の一本一本が異なる方向を向いて飛んでいき、抜け殻の龍達に突き刺さる。体の保持力を持たない彼らはそれだけで致命傷となり、弱々しい鳴き声をあげ、砂細工が崩れるように消滅した。
発射と同時に鈍痛も抜けていく、発射までの一時的な記憶を捨てたことで負荷が無くなったのだ。
そのまま地上に降りると、既に変身を解き、俯いた舞だけがいた。
「あれ?3人は?」
「無理矢理帰還してもらいました。というか私だけ残されました」
「どうしてまた?」
じっと舞は蘭太に目を向ける。
「突然ですけど、蘭太さん。私は今、貴方に聞きたいことがあります」
「な、なに急に」
「黙って聞いてください。…私は貴方が来たときから自分のプライドとか、自分の常識がめちゃくちゃになりました」
「ごめん…」
「だから黙って聞いてくださいって言ってるじゃないですか、もう。調子狂う…。うぅ…、その、だから貴方には強めに当たってたんです」
確かに舞は自分には少し毒を吐くような話し方をしていたか。でもそれが彼女なのだろうと思っていた。
「禁忌レベルが最高のはずなのにって思ってました…。蘭太さん。どうして貴方は強いんですか?どうしてあんな…ぅっ、腕を切り落とされても立つなんてことが出来たんですか?」
舞は待った。きっと自分の力について模索している(火鉈曰く)蘭太なら、何かしらの答えは返ってくるのだろうと。
「知らないよ」
だからこそ、簡素な答えに驚いた。
「え…」
「だって俺の力は与えられたものだよ。自分で鍛えた訳でもないし」
「じゃあ…」
「あ、それにこの力は俺のだけじゃないし。俺とルルと雷花とブラッディアン、4人揃って初めて使える力だよ?だから…答えるとするのなら…、誰一人欠けさせたくない・お互いを信じたいって思いがあるから、かな」
この答えが役に立つかは分からないけど、少なくとも仲間を大切にする気持ちは大事だと思うよ。と蘭太は言った。そして今気づいたのか変身を解き、歩き出すのだが。
「…あれ?みんなどこへ歩いて行った?」
さっき語ってた時の真剣そうな表情はどこかへ飛んで行き、困った顔な蘭太が舞の方を向く。
「……。いつものとこです。行きますよ」
蘭太を先導するように舞は歩き、言われた言葉を反芻する。
『お互いを信じて…欠けさせない…普通な考えだと思うけど…いざやるとなると違うのかな』
………………。
これにて、旧東京に突如出現した龍族の一件は一旦落ち着いた。
後に発覚したのは、龍族が現れたのは旧東京だけではなく、時間を置いて世界各国に現れたということ。多大な被害を受けたが、苦しくもなんとか討伐しきったという。
旧東京での死者、千三百万人中の四百万人。ほとんどが一般階級変身能力者だった。
世界人口は、人口が全体の五分の一失われた。
この事件は「龍族世界侵攻」と呼ばれる。
ーーーーーーーーーーーー
龍界。駆逐派拠点城。
「ただいま戻りましたー」
「うん」
仕事帰りのサラリーマンのように部屋に入り挨拶するのはアクネル。相手はイクスティクスだ。
「相当死んだみたいっすね。いつのまにか」
「お前は向こうで何をしていたんだ?」
「何ってまあ、ちょっと懐かしい奴と戯れてたんすよ」
「そう」
「それで?満足いく量は溜まりましたか?」
「いや。まだ足りない」
「そうですか」
「なぁ」
「なんです?」
イクスティクスがアクネルに迷うような目を向けてくる。その表情ですら美しいと思う自分は魅せられているのかもしれない。
「我の行いは、合っているのだろうか?最近不安になってきて…」
「大丈夫ですよ。あんたはこれが正しいって思ってやってきたんですから。きっといつかはカルナさんも分かってくれますって」
「そう…だと嬉しいな。すまない。気が滅入る話をしてしまって」
「構わないっすよ。いつでも相談は受け付けます」
少し満足した様子で布団に絡まるイクスティクスを見て、アクネルは静かに歯噛みしていた。
はいどうも、どらっごです。
たまに「シリアス展開」とか外部で聞いたりしますが定義がよくわからないのでシリアスですとは言いません。
人口削減、都市機能麻痺…。1番長い時間侵攻を受け、かつ国土も狭い旧日本ですから仕方ないといえば仕方ないのですが…ね。
装甲を纏えるハーフフェアリーといっても所詮は脆い人間の強化種にすぎません。
あと、ブラッディアンくんが加わったことで使えるようになったあの剣乱舞。あれはブラッディアンくんが自立兵器ということから演算能力に優れているでしょと言うことで導入させていただきました。蘭太くんという容量が持つ範囲内なら演算能力で暴れさせられるかも?と若干わくわくしてます…!
ではでは、また。




