43・・・「悪夢再来」
「オォォォーーーーーン!!!!!」
地を揺るがすほどの龍の如き咆哮が響き渡った。
「火鉈!これってもしかして!」
「遠いが間違いねぇ!行くぞ!」
4人は全力疾走で音源へ向かう。
ちょうど見つけたいものが自ら居場所を教えてくれたことに運の良さを感じつつも不安が募る。
『頼む…間に合え!』
祈らずにはいられない火鉈だった。
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「おおぉぉ!!!」
声と共に打ち出された拳が吸い込まれるようにアクネルの胸部装甲へ打ち付けられる。
「のあっ!…やるねぇ!いいぞその調子だ!もっと感情を曝け出せ!!」
アクネルはポーチから青色の弾丸を取り出し、狙撃銃形態にしたバルディアムへ装填。
loading sonic!
反応音が流れた後、引き金を引く。
enchant!
打ち出されたエネルギーがアクネルへ付与される。
アクネルは主に2種類の特殊弾を使用する。
1つは解放弾。実体化するエネルギー弾である。代表例は今つけている龍化装甲。発射時には「release」と鳴る。
もう1つは付与弾。先ほどの弾のように使用者に特殊効果を与えるための弾である。発射時には「enchant」と鳴る。
効果を付与されたアクネルは先ほどと比にならない速度で動き出す。そして不意打ちが如く蘭太に猛攻をした。
「ぐっは!」
『なんだよ!?急に早く!!』
だが一方的にやられる蘭太ではない。すぐに雷の力で加速しアクネルに対抗する。
速い。どれくらいか言えば側からは雷と風圧による草や水達の動きのみというぐらいだ。
そのうち彼らは見えるようになった。
互いの手を掴み合い、拮抗している。
「アンタ…なんか待ってる戦い方してるな?」
怒気を孕んだうめき声で蘭太が問う。
「そう見えるか?ならそうなのかもしれない…なッ!!」
手を振りほどき蹴りをするがすぐに避けられる。
さて。
別にアクネルは待っているわけではない。ただネイルの感情をさらに引き出したいだけである。故に刺激を続ける。
「さてネイル、まだお前は俺を倒せてないな?俺を倒せない程度じゃあ全然ダメだ」
「何…?」
「憎いだろ?俺のことが。そんな相手に手こずってるんだよ、お前は。そんなんじゃ人の希望はおろか自分の希望すら守れねぇな?」
「……!」
ギリッと音がする。
怒り?焦り?どっちにしろ感情は高ぶっている。
彼は知らなかった。
ハーフフェアリーとなった弟が背負った、ある特定の条件下における制限時間が切れた時に訪れるものを。
再度攻撃を仕掛けようとした蘭太が壁に激突したかのように頭を仰け反らせ、頭と胸を押さえて呻き出した。
『あぅ…!これは…ッッ!!』
体が負荷に耐えられなくなっている。全力で意識をはじき出そうとしている。
『蘭太!まずいよ!』
激痛に耐えながらなんとか意識を繋ぎとめ、蘭太は1つ可能性を導く。
確かこの前スチール相手に暴走した時、変身解除をすれば意識が戻っていた(主観客観混ぜて出した結論)。
ならば、変身中にこの症状が出れば変身解除すればいいのでは?
しかし、これには大きな問題があったが、無論構っている暇はない。
『変身を…解く…!』
『そんな!戦闘中だよ!いくらなんでも…』
『これしかないんだよ!』
決断し、蘭太の装甲が光る。変身解除だ。
そこに、1発の弾丸が撃ち込まれた。
その弾丸は正確に蘭太の胸へ直撃。仰け反らされた。
『うぁ…そん…な』
たかが1発。されど1発。それは蘭太の変身解除をキャンセルさせ、悪夢をはじめさせるには十分すぎるものだった。
アクネルは聞いたことがあった。制限時間についてだ。
ハーフフェアリーは体の均衡を保つため一定以上のストレスが溜まると「暴走」という現象を引き起こすのだと。それがどんなものなのか少し気になったのだが、今回はうまくいかなかったのだろうか。
ドサッと小さな体が倒れる。
「んあ?死んじまったのか?情けねえ」
背を向けるアクネル。その背後で。
倒れた蘭太の体がかさっと音を立て逆再生のように立ち上がった。
「……ん?」
そして、見る。
なんの感情も宿らぬ顔をそして、ハイライトの一切が消えた、両の目。
アクネルは本能的に「やべえ」と、冗談抜きで感じた。
その何の心も宿らぬ瞳は、対象を発見すると見開かれる。
姿が消えた。時にはアクネルは猛スピードで吹き飛ばされた。
その勢いで辛うじて崩れるのをこらえていた橋に激突。橋は崩落した。
『がはっ…なんだ?反応が追いつかねぇだと??』
先ほどの一瞬で何が起こったのかは彼も理解している。瞬時に距離を詰めたネイルがアクネルを蹴り飛ばしたのだ。
だが問題はそこではない。
見えるのに反応できない速度だということが問題である。
『くそっ、厄介だな…後出しは一切効かないってか…』
かといってなす術がないわけではない。
相手の動きを予測して動けばいいだけ。まあそれが難しいのだが。
と。
突如上方向に向け巨大な水の柱が作られる。勢からして鉄は余裕で切り裂く水圧だ。
それがアクネル目掛け降ろされる。
「そんな見え見えの攻撃食らうかよ!」
難なくサイドステップでかわす。軌道上にあったものは呆気なく切り裂かれている。
だが水流は消えなかった。何事かと思えば、水流は水平に持ち上げられてアクネルのいる方へ薙ぎ払われたのだ。
「まじかッ!??」
ブリッヂでなんとかやり過ごす。薙ぎ払う速度が予想よりも早かったため跳んでは避けられなかった。
高圧水流によって街に縦と水平に深く細い溝が穿たれた。
言うまでもなくネイルによるものである。
『どうしちまったんだあいつ…?さっきまでとまるで人が変わったみたいじゃねえか!?』
見るからに攻撃による反動を無視した行為である。このままではあいつは果ててしまう。
『それはダメだ…!こんなところで死なれゃ困るんだよ!』
危機感を覚えたアクネルはネイルの異常を治すべく、立ち向かう。
ネイルの放つ圧縮水弾を避けて接近、大鎌を剣を持たない左側から叩きつける。
ガァァァン!!と音が鳴り、ネイルは左腕の装甲で攻撃を受け止める。
お返しとばかりに振るわれた剣撃を大鎌の持ち手で迎え撃つ。
この状態で拮抗が成立するあたり、今のネイルは前へ進む動きしかしないのだろう。
「おい!お前いきなりどうしやがった!!答えろ!ネイル!!」
アクネルは叫ぶ。自分が引き起こしたのは確実だが、逃げるわけにはいかない。
対するネイルは無言のまま。眉ひとつ動かさない。
そのまま無言で脚を放り上げた。顔だけを見ていたアクネルは気づくのが遅れ上へ蹴飛ばされる。
そのアクネルを追いかけ飛翔するネイルは追いつくと、アクネルを踏み台にしてさらに上昇。
踏み台にされたことで地面に叩きつけられたアクネルは、真上で水達を脚に纏わせ今にも落ちてくるネイルの姿を見る。
「くそがッ!!」
エンチャントソニックの効果で初速から高速で動き、なんとか直撃は回避したがネイルの着地と共に引き起こされた水蒸気爆発からは回避しきれなかった。その場所は大きく抉れ、クレーターが出来上がった。
ごろごろと吹き飛ばされ、橋の残骸へぶつかることで停止。
『くそ…どうすりゃいい…?アレを止めるには…?殺さなきゃいけないのか?いやだめだ!それじゃ俺の計画が…!』
なんとかして殺さずに今の状況を抜け出さねば。そう焦るアクネルだった。
その時。視界の端に4人の人影。
「なっ!蘭太!?」
…ランタ?
4人のうち1人ははネイルのことをそう呼んだ。奴らは新しい敵か?
「何暴走してんだよ!壊すだけの機械に成り下がるんじゃねえ!」
ぱっと見味方のような振る舞いをする彼らに反応したネイルは銃を形どる手を突き出し、水を溜め出した。
あのモーションは高圧水弾を撃ち出すつもりだ。
まともに食らえばまず無事ではないその攻撃の予備動作を前にして、危険を感じた彼らは変身する。
見過ごすことも出来た。
だが。
『仮に味方だとしたら、そんな相手を攻撃するよう教えた覚えはねぇぞネイル!!!』
今までで最高記録を叩き出す速度でかつ正確に懐から取り出した弾丸を装填。
loading wall!release!
乱入者とネイルとの間に撃ち込んだエネルギー弾が着弾、そこから巨大な壁が出現し、水弾を受け止めるが硬質の悲鳴をあげる。水弾が強すぎて早くも耐久が半分を切ろうとしている。
その間にアクネルは乱入者のところへ行き、頑張って4人まとめて連れ出す。
同時に壁が音を立て崩壊。水弾が乱入者達のいたところへぶつかり爆発する。
連れ出した4人を放し、アクネルは新たな弾を装填。
loading smoke!release!
今度はネイルへ向け放つ。ネイルに当たった弾はそこで煙を焚き、体を覆った。おそらく視界を遮られたネイルはしばらく動かない。
その間にアクネルにはすることがある。
「おい、お前ら」
連れ出した4人に呼びかける。
「あいつの状態はなんだ?」
「お前見るからに敵だよな?敵に易々と情報を教えると思うのか?…それに」
乱入者のうち、紅蓮の装甲を纏った男はアクネルの胸ぐらを掴む。
「お前が引き起こしたんだろ!!この状況を!それなのに悪びれる様子もなく質問?バカにしてんのか!!」
こいつらが来るまでここにはアクネルとネイルしかいない。そこでネイルが暴走をしたということは原因はアクネルにあると考えるのが当然だ。
「暴走は体が危険な状態にあることの何よりの証!お前はそれを起こさせて何がしたかったんだ!死なせたかったのかよボケが!!」
暴走…。体が…危険。
確かにその臨界状態にしたのは自分だ。だからこそ。
「なら見殺しにするのか!?」
声を押し殺して反論する。
「いいのか!?お前らは見殺しで?俺は嫌だね。だから意地でもあいつを治す。今あいつに死なれたら俺達の計画は頓挫するからな!」
真正面から向かい合い、本気さを主張。男は悩むそぶりを見せて、問うた。
「お前はあいつのなんだ?」
「兄だ」
簡潔に答える。
「…チッ。仕方ない。親族免除だ。教えてやる」
「日鉈!」
「後始末までしっかりしてもらわないとな?暴走させるだけさせて姿眩まさなかっただけまだマシだとして、逃げないって保証はない」
制止を図る仲間を止め、日鉈と呼ばれた男は語る。
「まずあいつの状態は『暴走』。一定ラインのストレスや負の感情を溜め込んだ時に心身の崩壊を防ぐための最後の砦。…お前、なんか心当たりあるだろ?」
「怒りを煽った」
「畜生が。確実にそれが原因じゃねえか。それで、解除方法は2つ。力尽きるのを待つか、強制変身解除をする。後者は確実かは分からない。何せ俺らも暴走なんてそうそう見てないからな」
元より暴走は生涯に一度もせずに生を終える者が多いほどの発生確率である。
ならばなぜ暴走について内容が知られているか?それは「怒りの厄災」のせいである。
所謂権限能力とやらを発動させるために怒りの感情を要するソレは、通常よりも負の感情を溜める速さが早いという危険を持つ。
「そうか…わかった」
結局、倒さなければならないということは分かった。ならそうするのみ。まだ今回の目標は達成していないのだから。
「やることが分かればやるだけだ。落とし前はつけさせてくれ」
「元よりそのつもり」
乱入者改め情報提供者に礼を述べ、アクネルはバルディアムを狙撃銃形態にし、赤色の弾丸を装填。
loading!maximum!enchant!
撃ち出されたエネルギーがアクネルを満たす。
ようやく煙の晴れたスモークからネイルが降り立つ。
「ネイル。俺は悪いと思ってる。けどこっちとしてもお前に死なれるのは勘弁だ。…だから、荒療治してでもお前を治す」
大鎌形態にしたバルディアムを構え、アクネルは再びネイルと交戦する。
どうも、どらっごです。
新年早々暴走じゃぁ!主人公の体をぶっ壊していくゥ!!
え、ひどいですねって…?
あいや、偶々時期が重なっちゃっただけなんです。特に意図はしてませんね…。
ではでは、また。




