37・・・「満たされない」
「ふぎゅっ!」
雷花は文字通り落ちた。どこまでも白い空間に。
「ここは…?」
あてもなく、だが雷花は歩くことにした。止まっているよりは動いた方が良いからに決まっているから。
そしてしばらくすると。
「あっ…」
2人の男女を見つけた。
彼らは向かい合ってお互いの背に腕を回している。そして額を合わせあい、実質密着している。
それは驚いたが、それよりも。
「何…?この飛んでるモノは…?」
2人の周りを回るように飛び回っている粒子だった。それらはしばらく回ったあと2人の頭の中へ入っていっている。
試しに触れてみた途端、雷花の脳裏にワンカットの画像が映った。炎が上がっていた。
「うっ!これ…は…?」
彼らの、特に少年の記憶だということに気づくのにはまだ時間が要った。
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ある日。
ぼくは家の屋根から見えていた池へ行っていた。ちなみに連れはいない。
理由はなかった。ただ行ってみたかっただけなのだ。兄がいつも見ていた池をすぐ近くで。
「やっぱり…綺麗だったんだ…」
そこにはたしかに自然があった。水、植物、動物が根付いていた。
ぼくは試しに池の水へ手を入れる。すると遺伝子の能力によって手の周りだけ浄化され純水が出来上がり、それを掬って飲んでみた。当たり前だが水の味がした。
…ずっと、ぼーっとする。兄がいなくなってから、ぼくは何か失ってしまったみたいだった。
そして未だ自分の名前の「希望」の意味を理解することが出来ずにいた。
そんなとき。
「あなた…誰?」
背後から声をかけられ、反射でぼくはビクッとする。
振り向いた先にいたのは、青い髪にアクアマリンのような瞳を持った少女。自分と同じ、いや少し小さいくらいか。どこか幼げな容姿に目を見張ったが、それよりも気になったことがあった。
「妖精…?」
前から見ても分かるほどのサイズを持つ、少女の背中から生えているであろう羽の存在だった。これは妖精の至って普通の特徴なのだが、いる場所が場所だった。
「誰なのって聞いてるんだけど…そんなに珍しい?龍界に妖精がいること」
そう。ここは龍界。創造龍が龍族のために作り上げたパラレルワールド。パラレルワールド故動植物などはしっかり存在するが、人間と、それと1つになった妖精族はいないはずなのだ。
「うん。割と。あ、ぼくはデュ・ネイル。君は?」
さくっと名乗り、少女にも名乗ることを求めた。のだが返事は想像もしていないものだった。
「あ…。あるんだ。あなたには名前が…。聞いておいて悪いんだけど、ごめんなさい。私の名前はね…ないの」
「え?」
「びっくりした?私同族から厄介者扱いされてるのよ。生まれた時から。『龍族の血が混ざってる』だとか言われていて…ね」
どういうことなのかよくわからなかった。妖精族というのはそんなにも排他的なのかと思った。だがそれより気になったことが。
「えと、会って間もない相手にそんなべらべら喋ってもいいの?」
ここでやっと少女は「あ」という顔になる。
「ごめんなさい…なんだか感覚なんだけどあなたなら大丈夫かなって思ってしまって…」
どうやらぼくに安心していてくれていたようだった。その安堵もあってぼくは1つの提案をした。
「いや、謝ることじゃないんです。…あ、名前のことなんですけど」
すっと息を吸って。
「………ってどうです?まあ今見たままで印象深かった………ってのを言い換えただけなんですけどね…へへっ。…もし気に入ったら使って下さい。ではぼくはこれで」
何故だろう。何か名詞を言ったはずなのにそこだけノイズが走る。故に何と言ったのかわからない。
気づけばそろそろ帰らねばならない時間だった。ぼくは少女に別れを告げ、帰ろうとした時。
「…ありがとう」
静かな、小さな声を聞いた。そんな気がした。
その日からぼくは毎日その池へ通うようになった。だいたい1人で。時折仲間を連れて。だが仲間を連れて行ったときは気のせいか少女はむすっとしていたため次第に仲間を連れて行くことはなくなって行った。
だがふと気づく。
……仲間の顔が思い出せない。
見えた時も影がかかっていて。
視線を外せばもう思い出せない。
大切な仲間のはずなのに。
かけがえのない時間を共に過ごした仲間のはずなのに……。
そして。
僕が10歳になった時。
地獄は訪れた。
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「カルナ…本当に大丈夫なんですか?」
ウロボロスが心配そうにカルナに寄り添う。
「どうしよう…このままじゃいつか始まってしまう…」
イクスティクスは自らが作り出した「抜け殻の龍」共を使役し、次なる集落を襲撃している。言ってしまえば魂なき死者と生者の不公平な殺し合いである。
ちなみに「抜け殻の龍」は普段こそすれ大した苦戦もせずに消すことができるのだが、イクスティクスが使役している時のみその範疇に入らない。
イクスティクスの効果によって「抜け殻の龍」は魂を奪われたその時の状態を常に更新し続けるのだ。これにより少し傷つけるだけでは倒せず、すぐに修復されアンデッドのように動き続ける。
ちなみにイクスティクスは一度に百単位もの「抜け殻の龍」を使役することが可能、らしい。
だからといってやつらは不死身ではない。
これはあくまでイクスティクスが使役している時のみである上、体ごと木っ端微塵にしてやれば倒すことは可能である。
だが、厄介な相手であることには変わりない。じきに現在襲撃されている集落も限界を迎える。
ならば何故援護しないのか、それは。
「ボクたちの兵達…どれだけ残ってる…?」
「5000ほどです。とても援護に送れるほどの余裕はありません」
少なすぎるのだ。向こうは軽く万を超えているのに対し、こちらは5000ほど。そして残った龍族の保護に当たらせている。
あくまで一度保護に当たらせた龍族を守ることで精一杯なのだ。
「ですが、まだ龍界では戦争という戦争は起こっていません。まだ大丈夫かと」
「は?」
安心させるためにウロボロスはそういったのだろう。しかしそれはカルナの心を逆撫でした。カルナはウロボロスの胸ぐらを掴んで喚く。
「お前元世界のこと考えたことあるのか!?今のイクスティクスが龍界だけで満足すると思うのか!??」
ひとしきり叫んだ後カルナはむせこむ。もちろん顔はウロボロスから背けて。
カルナは恐れていた。
今は何とか龍界での被害を抑えつつある。だがその影響で殺戮をできなくなったら?
決まっている。元世界へ赴きそこでまた殺戮をする。何のためかはわからない。だからこそ止められない。どうすればいいのかわからない。
「で、ですが、基本龍界と元世界とはゲートでのみ繋げられる状態です。そこを封鎖すれば…」
「できると思ってるの…?疲弊したボクらで?」
「う……」
「それにねウロボロス。ゲートは元からあったものじゃない、何かが作り出したものだってのは知ってるでしょ?それで?ゲート使ったのは誰だと思う?」
ウロボロスはキョトンとする。当然だ。カルナなどに対してウロボロスたち他の龍族はすでに出来上がった龍界に引っ越してきただけなのだから。ゲートを通って。
だからウロボロスはここで凄まじい驚愕に見舞われる。
「イクスティクスだよ?」
「!」
「彼女が、元世界と、ボクが作った仮初めのパラレルワールドをゲートって形で繋げたんだ」
それならば。
イクスティクスはいつだって元世界へ自らの軍を率いて突入できる状態にあるわけじゃないか。
ウロボロスは恐れを抱いた。
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「抜け殻」と、生きた龍が戦っている。その様子を空から見る者が1人。
「もっと…もっとだ。もっと死のエネルギーを増やせ…我の願いのため…」
イクスティクス。死滅龍。
すべてはカルナのため。自分の信じる物を貫く。その意思は変わらない。
そんな彼女の元へ、近づく者が1人。
「そんな呪詛みたいにぶつぶつ言ってるととても神龍とは思えない上美しくないですぜ?」
「黙れ」
「へいへい」
おちょくるように喋るのはショートの黒髪で青い目を持った青年。背中からは翼を広げているが、どこか蘭太のそれと似ている気がしなくもない。
その青年をイクスティクスはキッと睨む。
「お前は何さりげなくサボっている?早く殺してこい」
「もう殺っったってもー」
青年はじゃきっと肩に担いでいた大鎌の刃を見せる。
その刃の先には血が滴っていた。
「ほらね?」
「足りぬ」
「ええ……」
あんま殺りすぎてもなーと青年はぼやき、戦場に戻ろうとするが、イクスティクスは呼び止めた。
「おいお前」
「なんです?」
「そろそろ龍界で狩れるものが枯渇してきた。次殺るとするならお前ならどこを選ぶ?」
「俺に聞くなんて珍しいですねぇ。……それなら元世界なんてどうです?」
「元世界?」
「そう。元世界。オススメですよ。この世界じゃ満たされないってのならね。それに…」
「それに?」
「『希望』がいるだろうから、ですかね」
青年はいたずらっぽく笑い、大鎌を担ぎ直して下の戦場へ戻っていった。
「ふむ…」
イクスティクスは顎に手を当て考えるそぶりを見せる。そして彼女もまた口に笑みを浮かべ…。
「良いな」
呟く。
あい!どうも、どらっごです!
もうちょっと記憶編(自称)は続くかなって思います!
えっと、特に述べることもないと思いますので…、ではでは、また。




