33・・・「兵器の準備運動」
ブラッディアン。
そう名乗った奴は頭を踏み潰した動物からの返り血で下側が赤く染まっていた。
そんな無残な有様を見て、真麗は呻いた。
「そんな…まさか…ありえない…」
もしかしたら戦闘用妖精に対抗できる戦力になるかもしれないと思ったソレがものの数秒で殺処分された。期待の分だけこのことには衝撃を受けざるを得なかった。
「はあ、『ありえない』?」
静寂の中の声だったのでブラッディアンにも聞こえたようだ。
「こんなゴミクソ雑魚に遅れをとってる程度じゃあの戦争でまともに戦えるかっつーのバカが。ンなのも知らねぇのか?終戦からたった200年程度しか経ってねーのに伝承もろくにされてねーのか?」
呆れたように言う。
「パッと見た感じ理性ぶっ飛ばしてキチガイにして?体も狂わせて筋力のリミッター強制解除?まあ確かに人間の限界まではいってるわな。けど残念。所詮人間だ。貧弱で脆弱な人間だ。兵器と、少なくとも人間よりは強い『隣の者』らの闊歩してたあん時の戦場じゃクソの役にも立たねえよ。つかなんの需要があんだ?意思疎通もできねえ人間とかよ」
話す間ずっと鍵山の方を向いて蔑む表情を絶やさないブラッディアンに対し鍵山は配下に指示した。
配下は変身、ではなくアサルトライフルを構えた。こっちの方が早く攻撃に移れると判断したのだ。
「お?」
ダダダダダダダ!!
ヒュンヒュンヒュンッッ
様々な音を立てて銃から撃ち出された弾がブラッディアンへ直撃する。変身も何もしていないブラッディアンは血を上げ倒れた。
「ッッ!!!」
その様子を見たルルが涙を浮かべながら声にならない絶叫を上げる。
違う者の意識が表に出ているだけで、蘭太の体には変わりない。それを傷つけられること自体ルルには耐え難いことだった。
だがブラッディアンはすぐに立ち上がった。傷はまた何事もなかったかのように治り、埋まっていたのであろう弾丸は再生とともに抜け落ちていった。
「くっ…!いってぇなァゴミがァァ!」
咆哮。それだけで配下は怯んだ。
そしてそれが命取りとなる。
ブラッディアンの姿が消えた、と思った瞬間同じ場所に現れると同時に配下の首がぽんと飛んで血を吹き上げて倒れた。
戻ったブラッディアンの指には赤い液体。さっき殺した配下のものだ。それを舐める。
「ゲエエエエエ……これ本当に血かぁ?まずすぎんだろ!?もういい、どうせまずいんだ採取はやめだやめだ!」
だがそこで「あ」というふうに抜刀して手に持っていたデュアルブレイガンで指の腹を軽く切り、出てきた血を舐めた。つまり蘭太の血を飲んだ。
「あ…はあああっ……美味え…堪んねえ…!!」
思わずガッツポーズ。だがそこを狙うように残った配下が射撃した。
果たしてその弾は、当たらなかった。代わりに配下の1人がまた首チョンパされた。
「ひっ…!!」
残った者は恐怖の声を上げた。
「クソ雑魚は大人しく尻尾巻いて逃げるか跪いとけ鬱陶しい。あともう分かってると思うがその銃は無意味だかンな?」
そう。文字通り無意味である。
先程ブラッディアンは「いてえ」と言っていたが本当のことを述べると全く痛くない。ならば何故咆哮したのかというと。
「クソ雑魚って4文字も使うのも怠いから今からテメェらのこと『ゴミ』っつーけどよ、ゴミ風情にこの体を傷つけられること自体俺にとっちゃ気に入らねぇの、わかる?」
ブラッディアンは体の胸の中央に親指を立てた右手の親指を当てる。
「こいつは俺にとってようやく見つけた安住の地。それを失うのは誰だって嫌だよな?そういうことだ」
こういうことである。
ブラッディアンは戦闘用妖精として製造されてからずっと落ち着いていられる場所を持たなかった。常に戦場にいるから当然なのだが。
それは先の戦争が終戦してからもだった。今度は用済みとして処分しようという人間達に追われる日々を過ごした。
そんな中約10年前、たまたま居候していた施設で1人の少年と出会い興味で血をとってみたところ、彼基準では史上最高の味で気に入ってしまったのだ。
なんというか、人間と龍の味、そして仄かに妖精の味がちょうどよく混ざり合ったくどくなくそれでいてあっさりしすぎない味だったのだ。
「ぐぬぬぬ………!」
「ゴミ」やら「クソ雑魚」やら言われてプライドの高い鍵山の怒りは爆発寸前だった。
「まっどーのこーの言ってんが、結局言いたいのはこれだな?『今時の若いもんは力も技術も雑魚いなぁ?』」
「黙れえええぇぇぇぇぇぇ!!!」
鍵山の怒りが爆発し、変身してブラッディアンに攻撃を仕掛けた。
突進の勢いを利用してブラッディアンを殴った。
「うおっ!?」
数歩後ずさりさせられたブラッディアンは口元を笑わせる。しかし目は笑っていない。
「ゴミィ…傷つけんなっつったよなぁ??」
再びブラッディアンは剣で親指の腹を切って血を滲ませる。
彼は心底嫌そうな顔をする。
「ゴミにこれを見せんのも嫌なんだけどよ?これ以上体傷つけられるとガチでキレそうだからもうやっとくわ。『震血変身』」
ポチャンッと血が地面へ当たると同時にブラッディアンは傷を塞ぐように人差し指を重ねて止血。
流れた血は何倍にも増量されて、まず体をビーカーのような形で囲む。
次に外側の4方向に巨大な注射器が生成され、ビーカーの内部へ突き刺さり中に入っていた赤い液体を送り込みビーカー内部を体全部が覆われるまでそれで満たした。
最後にビーカー内部で前側を隠すように作られた翼がビーカーを内部から割るように広げられ、変身が完了した。
見た目は蘭太の共鳴変身状態とさして変わらないが、装甲の色が全て赤色になっている。
「マジかよ!あいつ単体で変身できんのか!?」
火鉈が驚愕の声を上げた。
変身の時の声でわかるように、ブラッディアンは「共鳴」をしていない。なのに変身出来るのだ。
だがそんな火鉈を意に介さず、ブラッディアンは首をゴキゴキ鳴らしている。
「ん、ああ…久しぶりの変身だなー、思い出すぜードラゴンぶっ殺したり鬼とかの心臓をいかに綺麗に取り出すか遊んだり…。ま全部捨てたけどな!」
思い出に浸っているようで、その顔は少しにやけていた。
ふとブラッディアンが鍵山を見ると、彼は恐れの感情からか立ち尽くしたまま固まっていた。
「…は?俺が装甲纏っただけで動き止めるとかチキン過ぎやしねえか?」
歩いて近づき、顔の前で手を振ったりしているが、鍵山は恐怖で視線しか変えられない。
やがて痺れを切らしたブラッディアンは、
はあーーーっ
と巨大なため息をついた。
「んだよ張り合いねぇなぁ…もういいわ」
拳を振りかぶり鍵山の顔面を殴り飛ばした。少し下向きだったのか、鍵山は地面をこすりながら壁に激突し、強制的に変身解除された。
たった一撃で変身解除へ至らせる火力に他の者は息を飲んだ。
だが当のブラッディアンは心底つまらなさそうな表情をしている。
「あーあ、これが200年前の戦士達が命を賭して守った人間ねー。しょうもな」
てくてくと鍵山に近づき、倒れたままでいる鍵山の頭を掴み上げる。
「おいゴミ。お前に選択肢をやるよ。なんで蘭太、この体の主を殺ろうとしたのかを答えるか黙って死ぬかだ」
「ひっ!わ、わかった話す!だから命だけは…!」
「ああ考えてやるよ。早くしろ」
「我々が作り出した動物級はドラゴンを殺すことを望んでいた!そしてそいつの探知に任せていたらたまたまその子が当たっただけだ!」
「ほぉーん」
ブラッディアンは脳内でまとめる。
つまり。自分らで作っておきながら後は知らないという、無責任極まりない奴だったということだ。
「なんだ。テメェ生存価値ねえな」
冷たく言い放たれた言葉に鍵山は目を見開く。
「な!おかしい!話せば死なずに済むんじゃないのか!!?」
「はぁ?何時何分何秒この星何回回った時俺がそんなこと言ったか?一言も『お前を生かしてやる』だなんて言ってないぜ?俺が問うたのは『答えるか死ぬか』だ」
鍵山の表情は絶望色に染まる。ようやくわかったのだ。ブラッディアンの意図が。
ブラッディアンはハナから鍵山を見逃す気はない。
ただ蘭太を襲わせた理由を知りたかっただけにすぎないのだ。
そこから鍵山は発狂したように喚き暴れた。駄々っ子のように。
だがその行為は逆にブラッディアンのヘイトを稼ぐ結果に終わる。
「いい歳こいたオッサンがガキみたいに喚くなうっせえ!そんなにガキになりてえなら死なせてやるから来世でそれになってテキトーにおっぱい吸っとけクズが!!」
ブラッディアンの右目が光ると同時に鍵山の動きが止まる。死んだのだ。
ブラッディアンは現在、厄災級である蘭太の体を使っている。それ故か『生体干渉能力』を使用可能なのだ。
仕組みは至って単純で、ブラッディアンの血の能力で鍵山の全身を巡る血流を止めただけである。まあそれだけで十分殺せるのだが。
ぽいっと死体を捨て、ブラッディアンは今度は火鉈達の方を向く。
短時間4人を殺したブラッディアンに対し火鉈達にも恐れの感情が芽生えていた。
のだが…。
「あー、ちなみに俺はでっかい方が好みだ。多分蘭太もな」
「「「「「この変態!!!」」」」」
唐突なる告白にルル、雷花、舞、彼方、真麗の綺麗にはもった怒声が轟いた。
男性陣は呆れた表情、ブラッディアンは鳩が豆鉄砲を食らったような表情をしていた。
まあなんというか、せっかくの空気が台無しである。
どうも、どらっごです。
深夜テンションで後半書いたのでちょっとアッチな単語が入ってますがたまにはいいでしょう(笑)。
さて、ブラッディアンの変身場面ですが、実はモチーフにしてるものがあります。「ビーカー」のところがヒントですね。
ピンと来る人には一瞬でわかってしまうかもしれません(笑)。
それではこのらへんにして。
では、また。




