仮説
中に入ると広い玄関ホールがあらわれた。足を踏み入れると暗い場所に次々に火が灯され明るくなり、待ち受けている者の姿が二つ浮かび上がる。
一人は男性、もう一人は女性。
どちらも暗めの茶の髪と同じ瞳の色をしており、髪型は男性は短く女性は後ろでまとめているようだ。髪型は違えど、どことなく顔立ちと雰囲気が似ている印象を受けた。服装はどちらも白と黒で構成されたもの。ギリアンの邸の使用人なのだろう。
「お帰りなさいませ」
揃った声が言い、恭しく頭を下げる。頷いたギリアンは、レティーシャを見て女性の方を示す。
「少しの差だが、先に知らせをやっておいた。レティー、彼女の案内に従って。湯あみの準備がしてある」
「湯あみ?」
「ちょうど夜でもある。あんな場所にいたから汚れを落としておいで。色々な話はその後だ」
ギリアンの指がレティーシャの髪を梳かし、微笑んだ。
「お気遣い、ありがとうございます」
「当然のことだ。よく温まって、その間に君が俺に話せることと話せないことを選んでくれればいい」
そういう気遣いでもあったようだ。
レティーシャが事情を隠していることを分かっている上で、すぐに話をするのではなく時間をくれようとしている。
出会ったばかりの、公爵という高貴すぎる地位の人はあまりに優しかった。
「俺も少し、考えたいことがある」
*
急なことだったのに完全に準備された浴室のバスタブで、湯に浸かり体を洗ったあと、同じ女性の案内で通されたのは居間のような部屋。入るなり、くつろぐことの出来そうなゆったりとした空間だと肌で感じた。
「よく温まったか?」
「はい」
「女性の衣服は持ち合わせていないものだから、それですまない」
「いいえ、ありがとうございます」
着替えに用意されていたのはシンプルなデザインと色の衣服だった。使用人の女性の衣服なのであれば申し訳ない。今日出ていくつもりでまとめていた荷物があれば着替えはあったのに、と今さら考えても仕方のないことを思う。
入ってきたレティーシャを迎えたギリアンは、上着を脱いだシャツに黒いベストという姿で歩み寄った。
「失礼」
と一言詫び、レティーシャのしっとりした髪に軽く触れる。
ふわりと髪が浮いた感じがして、レティーシャが何気なく髪に触れると湿っていた髪が乾いていたために、目を丸くする。
魔法を使っただろう本人は、確かめるように触れた髪から手を離した。
「立たせたままだったな。こちらへどうぞ」
差し伸べられた手に引かれていくと、テーブルの側の椅子に止まり、ギリアンは手ずから椅子を引いてくれた。
自然にしているのかもしれないが、この丁寧な扱いにレティーシャは一足先に口を開いてしまう。
「公爵様、私は――」
「レティー」
「はい」
椅子を引いたギリアンを少し見上げると、遮った彼は何を言うのかと思えば「俺のことはギリアンと呼んでくれ。家で公爵と呼ばれるのは堅苦しい」と公爵様、とレティーシャが呼びかけたことに要求したのだった。
とはいえ、自分はこんな扱いを受けるほどの人間ではないからと居心地の悪さを感じはじめていたレティーシャは困る。
レティーシャは侯爵の娘とはいえ、魔力を持たない。貴族の子どもでも魔力を持たない者の多くは生まれたときに、そして個人の身分が与えられる一定の年齢になると平民にならなければならないのだ。
魔力を持ち生まれた者をまとめて『魔法族』と言い、貴族となる。
魔力を持たないただ人は平民。
魔力を持つ者の中にも力の大きさで絶対的な隔たりがあるが、魔力を持つ者と持たない者とではより大きな隔たりがある。
ギリアンは公爵だ。魔力が無ければ貴族ではなく、魔力によって貴族の地位の高さも決まると言っても良い世界で、レティーシャとは住む世界が違う。
そう、本当は親や妹とだって。
「……ギリアン様……?」
「そう呼んでくれると嬉しい。さあ座って。話はそれからだ」
勧められるままに座った向かいに、丸いテーブルを挟んでギリアンが座る。後ろにある絵画と言い、上品なデザインの椅子や揃いのテーブルと言い、さすがにギリアンは馴染んでいる。入る者が間違えれば場違い、不自然に浮くところが一切無い。
(ここは、ギリアン様の空間そのものなのね……)
傍らのワゴンではポットがティーカップにお茶を注ぎ、ナイフがケーキを切り分ける。勝手に、ひとりでに。
公爵ともなればこんな風に手を動かすように魔法を使うのだろうか。レティーシャの両親も侯爵とあって魔法能力は高い部類のはずだが、これほどまでに魔法を日常使いしているところは見たことがなかった。妹が時折来ると魔法を見ることもあったけれど……人目を避けるために離れにいたからだろうか。
両親や妹が遠慮してそれほどレティーシャの前で使っていなかったからなのか、単に見る機会がずれていたのか、侯爵と公爵の間にも地位間の力の関係があってギリアンが公爵ゆえなのかは分からない。
見入っている間に、ケーキとカップがミルクと砂糖入りの容器を連れて、それぞれ皿に乗ってレティーシャの前へとやって来た。
「熱い内にどうぞ」
「ありがとうございます」
ティーカップを持ち上げるとお茶が香り高く嗅覚を刺激した。良いにおい。
「……おいしい」
一口飲むと、無意識に声が出た。
「それは良かった」
ギリアンが微笑み、レティーシャは少し頬を赤くしてティーカップを手のひらで包み込んだ。
ケーキはチーズケーキであっさりとした甘みで美味しかった。しかしレティーシャはそれに浸りきれない事情があるものでギリアンの方を窺うと、彼は分かっていたみたいに「先に話をした方が良さそうだな」とカップを受け皿に戻した。
「レティー、君の事情を話せる範囲で聞かせてくれるだろうか」
「はい」
ギリアンが与えてくれた時間のおかげで、レティーシャの思考は一旦落ち着いていた。起こったことを理解し、整理できた。
世の中では特殊な部類であろう自分の身の上も話すことが出来たのは、ギリアンが良い人で言ってもいいと思えたことと、明かさなければならないと思ったからだ。
話した。
魔力がなく当然魔法を使えないのに、貴族である家にいたこと。家族がどこの誰だかは話さなかった。魔法の使えない者が娘にいたと知れれば、罰せられるかどうかは分からないにしても、どんな風に見られるか。
伯父は必ず激怒する。家族は、どうだろう。
家から連れ出され、森に連れて行かれて男性から聞いたことも話した。家族がレティーシャの存在を消そうとして青の森に連れて行かせた、という内容だ。信じられないことだけれどとも付け加えて。
唐突に家から連れ出され、森に連れて行かれ殺されそうになり、炎で間一髪のところで男性は去り、炎で意識が朦朧としていたところにギリアンに助けられた。一連の出来事をようやく起きたことだと受け止められても、家族がということが本当だとはどうしても思えず、思いたくなかった。
「……そうだったのか」
ギリアンの反応が変わることを覚悟して、レティーシャはじっと待つ。テーブルの下で手を握って、ギリアンを真っ直ぐに見る。もう言ってしまった、後はなるままに。
ギリアンは長く沈黙していたと思う。静かで、時間の経過を感じられるものはなかったから正確な時間は分からない。
黒紫の瞳の視線が上がり、再びレティーシャを捉える。
「魔力がないと言ったな」
「はい」
「魔法は使えたことはないと」
「ありません。生まれて魔力を測定したときに数値はゼロでしたから、使えるはずもありません」
「そうか」
口を閉じ、ギリアンはまた黙した。
しかし今度は短く、沈黙はすぐに破られる。
「確かめたいことがある。少し、いいだろうか」
「……? はい」
予想した反応のどれでもないギリアンの様子に戸惑いつつ、レティーシャは促され立ち上がった。
部屋を出て、別の部屋に案内される。
「座って待っていてくれ」
レティーシャを椅子に座らせたギリアンは、隣の部屋に繋がるドアを開けて向こうに消えた。
部屋は実に簡素な空間だった。机と椅子、物がまばらにしか入っていない棚くらい。何が始まるのか予想ができず、レティーシャが戸惑う中、戻ってきたギリアンは手にしたものは机の上に置いて棚から一冊本を抜いて机のレティーシャの近くに置いた。
「本全体でなくてもいい。ページを浮かせることは出来ないかやってみてくれないか」
魔法の初級である物体を手を使わずに動かす魔法を試みるよう言われ、レティーシャは昔妹に教わったことがあるように試みてみる。が、もちろんこれまでがそうであったと同じで風でも起こらない限り一ページ足りとも浮くことはしない。
(やっぱり、出来ないものは、出来ないわよね。魔力がないのだもの。でも、どうして……)
落胆はない。
昔は妹がレティーシャに魔力がないのは勘違いだと主張して、教わった魔法の使い方を教えてくれた。レティーシャも物を浮かせようとしたり、花の色を変える努力をしたり、……全て出来ることはなかった。
だから今思うのはなぜギリアンはこのようなことをさせるのだろうか、ということだ。言ったことを確かめようとしているのかと思ったものの、今度はギリアンが魔法で浮かせた本に触れてみるようにと言われてますます分からなくなる。
とりあえず言われた通りに触れても、本はふわふわ宙に浮き続ける。
「あの、ギリアン様……?」
レティーシャが本から手を離したあとにさすがに声をかけてしまうが、本を机に落としたギリアンは真剣な顔つきで「説明はするが、最後にもう一つだけいいか」と言うので、レティーシャは小さく頷く。何が何やら。
「何を、するのですか?」
人差し指を額につけられ、ただならぬ雰囲気に感じられて問うてしまう。
「ある魔法を使う。他に比較的穏便そうな魔法が思いつかないが、もしも効いてしまった際にも害はないものにするから安心してくれ」
「魔法を、私に……?」
比較的穏便そうな魔法が思いつかないとはどういう意味なのか。今まで優しかったギリアンと上手く言葉が擦り合わせられず、レティーシャの心臓だけが勝手に先走る。
緊張して、触れる指に意識が集中して――――待てども何も起こらないまま、ギリアンは指を離した。
「なるほど……」
何も理解できずに見上げるレティーシャに気がついたギリアンは微笑み、
「怖がらせてしまったな。すまなかった」
落ち着けるようにゆっくりとレティーシャの頭を撫でた。
「何の魔法をお使いになったのですか?」
「さっきのか。君を強制的に眠らせる魔法を使った」
なぜそんな魔法を。
手を引いたギリアンは、椅子に深く腰掛けレティーシャを見る。
「君は魔力が無いと言ったが、俺にはそうは思えなくてな。確かめさせてもらった。今から説明しよう」
言いながら、彼は隣の部屋から持ってきて机の上に置かれていた、一見すると四角い石のようなものを手に取り手でいじりはじめる。
「青の森で炎が君を避けていた」
「はい」
「気づいていたかもしれないが、あれは魔法の炎だ」
燃えるものなどない地面が激しく燃えていた炎は、レティーシャが違和感を抱えていた通りただの炎ではなかったらしい。
「あの魔法は森に人がいようものなら容赦なく燃やす意思を持った炎でもある。燃やされずに炎の中を歩いたり立っているためには打ち消すしかない。俺は魔力を出してあの場を歩いていた。基本的にその方法しかないからだ。だが、君は魔力がないと言った」
四角いものをいじる手が止まった。
「これは魔力を測るときに使われる魔法道具だ」
計ってもいいかと聞かれ、頷くと魔法道具が首と胸元の間辺りに当てられる。見下ろすと、目盛りがついているのが見てとれた。
「……ゼロだな」
数分経ち、目盛りが動かないまま魔法道具は離された。
「確かに君には魔力が無いと魔法道具は示す。しかし炎の中何もせずに無事でいるということは不可能だ。そこで、あのとき炎の避け方は魔力で一時的に打ち消しているにしては様子が異なっていたことを踏まえ、俺は一つの仮説を立てた」
魔法道具は机に戻し、ギリアンはレティーシャに向き直る。
「魔法を働かせない魔法。無効果する魔法が使われた」
「そのような魔法があるのですか?」
「ある。とは言っても魔法書に名前と効果が書いてあるだけで広くは知られておらず、使える者を俺は見たことがないが……レティーはその魔法を無意識に使ってしまっているのだろうと俺は思う」
「私が……?」
「それも生まれつき。とても特異な例だ。自覚は全くないんだろう?」
「はい。ですが、魔力がないのに魔法自体使えるはずがないのでは」
「レティー、君が魔力がないと言う根拠は?」
魔力がないと確かめたばかりなのに、レティーシャが魔法を使ったと言う矛盾。ギリアンは指で魔法道具を叩く。硬質な音がした。
「生まれたときに魔法道具で計ったからだろう?」
「はい」
「魔法道具というのは魔法が込めれた魔法石があることで働くもののことだ。つまり魔力を測る際にも魔法が使われる。その際に、既に目覚めていた君の魔法は魔力を測る魔法を無にしてしまった。魔力がゼロだと魔法道具が示していたわけではない。そもそも魔法道具は働かなかった、と考えるべきだ」
「…………」
上手く、飲み込めない。
それに魔法なら移動魔法や髪を乾かしてくれたときのあれも魔法だと思うから、効いていたのではないだろうか。
「ただしむらがあるのだろう。炎には働いた、移動魔法と髪から水分を奪ったときは働かなかった。さっきしてもらったように物を浮かせた魔法にも働かなかった。眠らせようとした魔法には、働いた。自分に直接向かう力、今までのことで言うと害をもたらそうとする力は必ず無効化される。魔力を計る魔法道具で働く魔法は、直接魔力に触れる魔法だ。その関係で弾いてしまったのかもしれない……と俺は考えている」
つまり、何だろう。これまでの話で言うと。
「――私には、魔力があるということなのですか?」
「俺の仮説が正しければ」
魔法道具の魔力を測る魔法を無効化する魔法を使ったから、魔力が検知されなかったと。そう言うのか。
「そんなこと……」
(あり得ない)
と言いたくなるのは、今まで生きていた十七年、貴族なのに魔力がない娘とひっそり過ごすことが当然になっていたからだろうか。
「魔法を、妹に教わっても、使えなかったのに……?」
微かな声で呟くと、ギリアンは動揺しているレティーシャを気遣う目で、教師が生徒に教えるような優しい口調で答える。
「君が使える魔法は、おそらく一つだと思った方がいい」
「一つ、ですか」
「魔法を無効にする魔法。――レティー、君の魔力自体はとても大きいと思う」
「でも」
微笑みが聞いてと言っている気がして、レティーシャは口を閉じる。
「魔法を無効にしているものが魔法であるのなら、限りがあるはずだ。例えば俺と他の誰か魔法を使える者が互いに攻撃し合うとする。攻撃が通るのはどちらか片方、力が強い方の魔法だ。これと同じで、相手の力が強ければ魔法を無効にする魔法は力を発揮できず、防げないはずだ。そして、レティーと俺が会ったあの場を燃やし尽くそうとしていた炎は、そこらの魔法族が生んだものではない」
強い魔法を使える人の魔法だったという。上位貴族でも対抗することは難しい、と。
「それほどの魔法の力を無効にするにはどれほどの魔力と、質の高い魔法が必要か。レティーは一つの魔法に特化し、他の魔法が使えないというのが今の一番高い可能性だ。生まれつきという特異点も働いているのだろう。魔力がそこそこある者でも稀に一つか二つしか魔法が使えない者がいるんだ。……君の場合はその魔法の内容が問題を呼んだようだが」
ギリアンは魔法道具を見やり、ため息をつく。
「昔は魔法を使ってはじめて魔力があると分かったと言うから便利にはなったものだが、思わぬ弊害だな。生まれつきの才能のはずが、魔力を測るための魔法を無効化したことで、魔力も魔法の存在も、それらの制御の必要性も認知されなかった。無意識の賜物のままここまできたのであれば、むらがあるのも当然かもしれない。制御の術を習っていないのだからな」
「ギリアン様」
「ん?」
「私には、魔法が、使えるのですか……?」
両手が微かに震えた。
ギリアンの話はとても信じ難いことで、しかし彼は真面目に言っているようだった。そしてその話を信じるのであれば、レティーシャは。
「一つだけ、だけれど。だがレティー、今の世に使える者が他にいないとすれば、その一つだけの魔法は君の『唯一の魔法』と言える代物だ」
魔力を持つ者は魔法が使える。魔法は本や人から学び、習得する。しかしこの世に存在されると記される全ての魔法を誰もが使えるわけではなく、向き不向きがある。力量にもよる。
威力も魔力と技能により変わる。
これら点は魔力を持つ者全てに当てはまる点だ。
だが魔力の大きさを始めとした魔法能力で決まる魔法族の階級には、より上位になるためには条件がある。
その人のみ、もしくは限られた血統にのみ継がれる『唯一の魔法』『固有の魔法』を持っているかどうか。
誰もがこの特有の魔法を持てるわけではない。その人そのものを表す必殺魔法とも言われ、どれだけ優れた者でも特別な資質を持たなければ使えない魔法を得ている者はたった一握り。公爵または侯爵の上位者のみだとか。
「仮説だらけで心もとないかもしれないが、君が魔法を無効にしていることは先ほど確かめた。無効にしたことは事実で、それを成すには魔力が不可欠だ。君には魔力がある。これは間違いない」
出会ったばかりの人は、レティーシャが無かったと思っていたものがあると保証した。
聞いているはずが、未だ頭が完全には理解し受け止めきれず、レティーシャはぼんやりする。
魔力がある。一つだけだけど、許された魔法があるかもしれない。
「レティーの周りの者が気がつかなくても無理はないな。もしも魔法が無効にされたことに気がついても、測定器はゼロを示すことに変わりはなく、測定器の判断は絶対だとされる」
生まれつき魔法が使える例も稀で、それも簡単な魔法ではなく世にも稀な無効化の魔法だとは、喜ぶべきことなのに。とギリアンが続けて言うことは耳を通りすぎた。
周りの人。家族。そうだ、家族だ。
「レティー、家族へ知らせるか?」
今日の事情は話しており、原因はレティーシャに魔力が無いことで引き起こされたことだと言っていた。
その原因と全ての根本がひっくり返る説が出てきたところで、ギリアンは聞いたのだろう。
「確かレティーを青の森に連れて行き殺そうとした者は君の親に命じられたと言ったのだったか。これも仮説としておこう」
「……はい」
もしも、万が一そうだとしてレティーシャに魔力があると分かればどうなるだろう。レティーシャはあの家にいてもいいことになるのか。でも、ままならない魔法が一つ使えるだけのようで。
「それについて提案がある。真実を含めて、俺が君の家の様子を調べよう。それが分かるまでここにいるといい」
「……よろしいのですか……?」
「保護を申し出る者は、中途半端な気持ちではそうしない」
恐る恐る尋ねるレティーシャとは反対に、ギリアンはすんなり肯定する。
「俺の元でよければ、どうだろう」
手が前に差し出される。ギリアンを見ると、首が傾ぐ。
炎の中から連れ出してくれただけでも恩があるのに、一人になってはこの先不確かでどうすればいいのか迷う道筋を示してくれると言うのか。
「ありがとうございます……。……お世話になってもよろしいでしょうか」
レティーシャが手を重ねると、ギリアンは柔らかく微笑する。
「魔法の制御と魔力があることを示せる手立ても探っていこうか」
「お願い、致します」
本当に、何と優しい人なのかと思った。