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抑えられない想い






 これから戦いになるのにも関わらずヴァネッサの華美な装いが、上空の風に微かに揺れる。

 前方下には青の国の軍勢。

 後方下には赤の国の軍勢。中には貴族も混じり、上にいる少数はいずれも上位貴族。城にいる王の目の役割を果たす炎の鳥が近くを舞い、赤い軌跡を描く。


「今日でここでの決着をつけろということね。わたくしとあなたを送るくらいだもの」


 上空で見えない椅子に腰かけているようなヴァネッサが派手な扇を広げて、真っ赤な唇を上向きに優雅に歪める。戦を目前にして浮かべる表情は王にそっくりだ。

 ヴァネッサから少し距離がある右手、同じく空中に立つギリアンは髪一筋も風に揺らすことなく青の軍勢を見やっていた。

 今日ここで領土を守ろうとする青の国の軍勢を破り、要とされている砦を奪うように言われている。


「あちらの援軍がくる前に片付けよう」


 砦には貴族がいるだろう。だがこちらから公爵が複数出てくることまでは予測しておらず、下位の魔法族しかいないと思われる。それ以上の魔法族が増える前に、砦を奪う。


「ギリアン、急いでいて?」

「俺自身が急いでいると言うよりは、一番手間がかからずに全てをこなせる時は今だ。――何か?」


 扇の影からヴァネッサの橙の瞳が横目でギリアンを見た。


「話してから始めましょう」

「何の話を?」

「レティーシャの話を」

「……それなら、俺にも言いたいことがある」


 ヴァネッサがレティーシャと会ってから、レティーシャを王に近づけようとしていることについて。


「ヴァネッサ、君はどういうつもりだ」

「レティーシャをお兄様の妃に」


 王の妹は即座に答えた。


「文句はないわ。珍しく、制御出来れば使い所のありすぎる魔法。お兄様の魔法を無効に出来る魔力量――ギリアン、お兄様が興味を示したあの娘を譲る気はないかしら」


 レティーシャを王に会わせたことは後悔していない。彼女の魔法が認められ、同時に魔力があることを認められれば実際に魔力を魔法石に込めて証明しなくても良い。王が認めれば。

 その先が予想外だった。まさか王がレティーシャを妃にと言うとは。

 魔法故に。そして魔力量も生家である下位の侯爵家には収まらない量だと考えられる。相応しいと、言えるのかもしれなかった。

 ヴァネッサは王がレティーシャを妃にと言ったこと自体を完全に冗談だとは捉えていない。捉え方は王がレティーシャの魔法によって興味を示しているとだけ見ているのか、どうか。


「ない」


 ギリアンもまた、迷いなく答えた。


「ヴァネッサ、陛下がレティーに興味を持っているのは彼女に陛下の魔法が効かないからだ」

「とても重要なことでしょう? あなたは違うとでも言うの?」

「違う」


 重要なことだろうか。レティーシャを含めて、誰にとっても魔力を含めた魔法能力によって位が定められるこの世であれば重要なのかもしれない。

 けれどギリアンは、レティーシャを見るときに元よりそれは目に入っていなかった。


 好きだと伝えるつもりはなかった。だがどうだろう。王に触れられているレティーシャを見て、酷く心が騒いだ。

 王はギリアンの嘘を見抜き、婚約者でなければとレティーシャを妃に迎えることを彼が決めたならば成されてしまうだろう。

 それは耐えきれないことだと、ギリアンの心は判断し、溜めた想いは堰を切って流れ出した。

 数日前、思わず明かしてしまった胸の内。レティーシャは驚き、動きを止めてしまっていた。


 最初に王に会わせたときだって、咄嗟に婚約者だと嘘をついたのはこのままいけば王の妃になってしまうと反射的に思ったからだ。

 レティーシャが嫌がっているかどうか、彼女のためを第一に考えて述べたかというと嘘になる。嫌だと単純で、明確な思いが出てきた。

 とんでもない我が儘だ。彼女を保護した立場で家族のこと、事情を含めて解決する責任も果たせていないのに。力になりたいと考えて、保護という名目で申し出た。それはきっとやりきることは約束できる。

 その後。もう、彼女に再会する前には戻れそうになかった。


「俺は二年前から、彼女に惹かれて止まなかった」


 彼女に再会して出てきて、大きくなるばかりの想いは抑えられそうにはない。

 それが正しいことかどうかは、分からない。


「二年前……?」

「ヴァネッサ、始めよう。相手が来た」


 疑問を抱いて呟くヴァネッサと話を切り、見据える前方上空には青の国の魔法族が現れていた。

 まずはここ。任務を遂行して、戻る。その頃には、レティーシャに合わせる顔もましになっているだろうか。








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