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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

ありがとう、お兄ちゃん!

作者: 綾瀬紗葵
掲載日:2017/07/12

 夏のホラー企画参加作品。

 今年は短編として合計7作品上げる予定です。

 こちらは2作品目。

 猟奇的描写がありますので、お読みの際は自己責任にて宜しくお願い致します。

 特に男性が読むと、より多くの悍ましさを感じるかもしれません。

 また、タグを見て苦手な意識を感じた方は読まない方向でお願い致します。





 おい、お前。

 ちょっとこっち来い!

 ……怒ってねぇから、謝る必要はねぇ。

 がりっがりだから、よ。

 ちゃんと飯食ってるか、聞きたかっただけだ。

 ……そうか。

 やっぱり、か。

 好き嫌いがひでぇとか、アレルギーがあるとかじゃねぇんだな?

 とーちゃん、かーちゃんが、飯、ちゃんとくれねぇんだな?


 あぁ?

 悪い子だから、仕方ないって?

 何悪いことしたんだ?

 ん?


 ……そりゃ、お前。 

 悪い子って言わねぇんだよ。

 かわいそうにな。

 お前は悪い子じゃねぇ。

 むしろ、良い子だ。

 悪いのは親の方なんだぜ?

 毒親って言ってな。

 俺の親もそうだった。


 だから、鏡の中に隠れてるのかって?

 や。

 それはまた、別件なんだが……。

 お前……俺とちょっとだけ交代してみねぇか?

 この中に居れば美味い飯も食えるし、優しい人達がうんと遊んでくれるぜ。

 つーか、切実に飯は食せねぇとやべえなぁ……。

 うし! 決めた。

 すぐ戻ってくっから、ここにいろよ?

 いいな?


 おーい、爺さん!

 幼稚園児ぐらいの小さい子が好きそうな飯しこたま作ってくれ。

 今、ミラーハウスに虐待児童が逃げ込んでんだよ。

 かわいそうにな。

 自分が悪い子だって思い込んでてよぉ、がりっがりなんだ。

 頼むぜ!

 たぶん好き嫌いはねぇっつーか。

 好き嫌いがわかるほど、物食わせて貰えてねぇと思う。


 おーい、姉ちゃん!

 添い寝を頼むわ。

 俺じゃねぇよ!

 ミラーハウスに逃げ込んきた虐待児童だよ。

 良い子みてーだからよ。

 何日か甘やかしてやって欲しいんだ。

 俺、どんなもんか様子見てくっからさぁ。

 あー大丈夫だって!

 無茶はしねぇよ。

 

 よしよし。

 ちゃんといたな。

 良い子だ。

 どれっ、交代っと。


 やりてーことやったら、戻ってくっから。

 美味い飯食って、皆に甘やかして貰うんだぞ!

 遠慮すんな!

 お前が今まで、良い子でいたご褒美なんだからな!



 おとなりのおじちゃんが、たのしいところだよって、おしえてくれた、ゆうえんち。

 おとうさんとおかあさんと、いっしょにきたかったけど、そういったら、またなぐられて、けられるから、ひとりできた。

 

 ゆうえんちは、ひろくてくらかった。

 どこがたのしいのかな? っておもったけど。

 ぴかぴかひかるところにいったら、おおきなかがみのなかに、おにいちゃんがいてびっくりした。

 

 おとうさんみたく、いきなりおおきいこえでよびつけるから、こわいひとなのかとおもったら。

 すごくやさしいひとだった。


 おこられてばっかりのぼくを、よいこだって、いってくれた。

 おいしいごはんをたべて、あまやかしてもらえって、ぼくをかがみのなかにいれてくれたんだ。


 かがみのなかにはいったら、しろいおひげのおじいちゃんと、すごくきれいなおねえさんがいて、みたことないおいしいごはんを、いっぱいたべさせてくれた。

 にこにこがおのおばあちゃんが、ここでねればいいって、よういしてくれたおふとんは、おおきくてあったかくてふかふかだった。

 おねえさんが、いっしょにねましょうね? っていって、となりでねてくれた。

 ねるまで、おにいちゃんのぼうけんばなしをたくさんしてくれて、うれしかった。

 おにいちゃんは、くちはわるいけど、とってもやさしいこなのよって、いってた。

 ぼくも、そうおもう。


 こんなたのしいゆめをみたのははじめてだなって、おきたら。

 おねえちゃんがいて、おはようって、いって。

 おじいちゃんがいて、おはよう、あさごはんできてるぞって、いって。

 おばあちゃんがいて、おはよう、ごはんたべたら、みんなでいっしょにゆうえんちであそびましょうねって、いってくれた。


 うれしくて、うれしくて、ぼくは、わんわんないた。


 

 うん。

 予想通りに屑だった。

 屑は死ね。

 つうーか断罪されろ。

 

 俺は逃げてきた男の子の身体を模した。

 と言うか。

 鏡の中では俺でいられるが、鏡から出たら交代した相手になる。

 それが、俺が鏡の中の住人となった時の約束事だ。

 

 男の子の記憶を頼りに帰宅した家に入った途端、どこほっつき歩いてんだ! と父親らしき男に蹴り飛ばされた。

 さっさと服を脱いで、そこに寝なさいよ! と母親らしき女に服を引き破られる。

 へらへらと笑う爺さんと同じくらいの年齢の男は、ズボンのベルトを外していた。

 ナニは当然のように勃起していた。

 

 こんの、ペド野郎がっ!

 幼児売春斡旋とか、死ぬだけじゃ許されねぇよ。

 コレが、実の親のやることか?

 あぁ?


 俺は口に突っ込まれた、糞爺のナニを噛み切った。

 肉の感触も噎せ返る血の臭いも、懐かしいくらいだ。

 どうということもない。

 あの子にされなかったと思えば、むしろ喜ばしい。


 全裸のまま、外へ走り出る。

 ご近所さんらしい人達が、痛ましそうに遠巻きで見る前で、俺は口の中身を吐き出した。

 家の中からよろよろと出てきた糞爺が、下半身血まみれにして、俺に罵声を浴びせる。

 惨状を理解した、何人かのご近所さんは嘔吐した。

 

 一人の女性が走り寄ってきて、ごめんね! ごめんね! って震える手で俺を抱きかかえながら、電話をした。

 警察に、だった。


「もしもし! 虐待児童を保護しました。全身傷だらけの酷い状態です。救急車もお願いします! 急いで来て下さいっ! 場所は○○町の例の家です。おわかりですね? やっと! やっと子供が逃げてきてくれたんですっ!」


 どうやらあの子は、これだけ酷い目に遭っていながら、外へは逃げなかったらしい。

 逃げるという選択も、助けを求めるという選択もなかったのだろう。

 両親のいかれた教育の賜だ。


「もう、大丈夫よ。やっと。やっと助けられる! よく生きていてくれたわ……間に合って良かったぁ……」


 女性の声は興奮で掠れていたが、慈愛に満ちてもいた。

   

 もしかして周囲は、随分とあの子を助けようとしてくれていたのだろうか。

 あの子が、助けの求め方を知らなかっただけで。

 他人を頼っても怒られないのだと、知らなかっただけで。


 だとしたならば、俺よりずっと良い。

 

 あの子が逃げられないようなら、そのまま代償を払ってでもミラーハウスで匿うつもりだった。

 自分の非を微塵も認められず、逃げてくる馬鹿阿呆ばっかりだったから、今までそんな気は一度も起きなかったけれど。


 こちらの世界で、生きていけるのなら。

 その方が良い。


 完全に両親やその他糞どもから逃げられるまでは、しばらくこのままで。

 環境が整って、あの子が極々普通の子供みたいに、幸せに、生きていけるまでは。

 俺が、全ての身代わりとなろう。



 ゆうえんちは、とってもとっても、たのしいところだった。

 おじいちゃんは、いつもおいしいものをくれて。

 おねえちゃんは、いつでもそばにいてくれて。

 おばあちゃんは、いろいろなことをおしえてくれた。


 ぼくのかわりに、かがみのそとへいったおにいちゃんは、むかし。

 ぼくみたくいじめられていたおとうとを、たすけられなかったんだって。

 じぶんはおとうとよりいじめられていたけど、いっしょうけんめいかばって、かばいつづけたけど、たすけられなかったんだって。

だから、ぼくのことはぜったいたすけたいって、ちかったんだとおもうよ?

 って、おしえてもらった。


 ぼくはゆうえんちで、みんなにやさしくしてもらって、いっぱいたすけてもらったから、おにいちゃんに、もうだいじょうぶだよ、またおうちにもどっても、がまんできるよって、いいたかったんだ。

 

 けど、おにいちゃんは、なかなかかえってこなくって。

 ぼくのかわりにいじめられているんじゃないかって、すごくしんぱいだったけど。

 しばらくしたら、おにいちゃんは、うれしそうにわらいながらかえってきて、ぼくにいったんだ。


 もう、だいじょうぶだ。

 おまえのちちおやとははおやと、おまえをいじめていたにんげんはすべて、ろうやにはいった。

 わるいことをしていたからな。

 おまえは、ずっとがまんできたよいこだったから、これからはしあわせになれるんだぞって、ぼくのあたまをなぜてくれた。


 なぜてもらっているあいだに、あたたかいものがいっぱいからだのなかにはいってきて、ぼくには、たよりがいのあるおとうさんと、やさしいおかあさんと、かわいいいもうとまでいて、みんながぼくをだいすきで、ぼくもみんなをだいすきな。

 そんな、あたらしいかぞくができたんだって、わかったんだ。


 みんなみんな、おにいちゃんが、なんにもできなかったぼくのかわりに、してくれたんだ。

 あたらしい、やさしいかぞくを、つくってくれたんだ。


 きっとよろこぶから、いってあげてって、おねえちゃんがおしえてくれたことばを、ぼくは、やさしいみんなのおかげでできるようになった、えがおで、おおきなこえで、うれしいってきもちをいっぱいこめて、いった。

 

 ありがとう、お兄ちゃん!



    

 お兄ちゃんが鏡の中の住人になった時の話も書いてみたくなりました。

 ただこう、今回の話より救いがなくなりそうだったので保留。


 男の子は、新しい家族と幸せに生活します。

 彼にとってお兄ちゃんは、永遠のヒーローで尊敬できる唯一の兄です。

 お兄ちゃんは、男の子を救えたことにより、過去の深い傷は癒やせずとも、楽になった面が確かにありました。

 時々もう一人の弟とも思っている男の子の様子を見に行っては、ほっこりしたりもします。

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