祟りじゃ!
俺がバイト終わりに公園のベンチに腰掛けていた時のことだ。
何か視線を感じると思ったら公園の入り口のところで
見知らぬ婆さんがじっと俺の方を見ている。
100mくらい離れているのに気づくということは、おそらく相当な目力で見つめられているのだ。
やだなあ怖いなあと思っていると
その婆さんが土煙を巻き上げながらこっちに迫ってきた。
婆さんが全力疾走するだけでもだいぶおかしいが
走行フォームは完全に短距離選手のそれだ。
多分あれは婆さんじゃない。婆さんの皮を被ったウサインボルトかヒグマのどっちかだ。
ボルトは逃げ遅れた俺の前に立ち両肩を掴んで叫んだ。
「祟りじゃ!」
……は?
「何ですかいきなり」
肩で息をしていた老婆はいきなり俺の隣に座った。
そこは彼女の定位置だろ。彼女居ないけど。
「お主には良くない物が憑いておる!今すぐお祓いが必要じゃ!」
あ。これ完全に霊感商法だ。
「いや、そんなこと言われても、別に不幸とかじゃ無いですし……」
「お主、今までどこに行っておった!?」
なんだその浮気を疑う奥さんみたいな言い方は。
「バイトですよタリーズってカフェで」
「祟りぃず!?」
「タリーズ!何だその売れない上に呪われそうな芸人のコンビ名は!」
「違う!ワシが聞いておるのは出身地の事じゃ!!」
ああそっちか。いっやどっちにしろ意味が分からないけども。
「鳥取です」
「タッタリ!?」
「トットリだよ!砂丘で有名だろ!」
「馬鹿な……!あの不毛地帯に人が住んでおるというのか!?」
「お前失礼だな!」
鳥取県大好きな俺はすこぶる気分が悪くなる。
「かったりいから、もう行ってもいいか?」
「たったりい!?」
「カ!」
何なんだよこのババア。絡み方がその辺の不良よりよっぽどウザくてタチ悪いぞ。
「もしや、お主、マンションの床はフローリングじゃあるまいな……」
「……畳だけど」
「祟りじゃ!」
「畳じゃい!!」
「お主、何なんじゃさっきから!完全に祟られておるぞ!」
「お前の脳みそが祟られてんだろ!」
「このまま放っておくとお主の手先が手羽先になってしまうぞ!」
「どんな祟りでどんな細胞分裂だよ!」
もう構ってられない。さっさとここを離れよう。
「やっぱり俺はもう行くぞ!」
「たっパリ!?」
「祟りじゃねえのかよ!しっかり祟れよ!」
俺がベンチを立ち上がり公園から出ようとした時、
急に手に激しい痛みが襲う。
手に目をやった俺の血の気が一瞬で引いていくのが分かった。
なんと手の先の方から鳥の羽のようなものがドンドン生えてきているのだ!
「な、何だこれ!何だこれ!」
「それ見たことか!そこでジッとしておれ!」
本当に祟られてたのかよ!
何より本当に手先が手羽先になるのかよ!
「ペリコーンペリコーン!」
老婆が数珠を手に叫んだ。お経とかじゃないんだ……。
スッと痛みが引いていく。
俺の手から生えていた羽も抜け始めた。
***
「ごめんなさい。あなたのことを疑ってました」
俺は老婆に向って頭を下げた。
「ええんじゃ、ええんじゃ。無事でよかったわ」
除霊で力を使い果たしたのか、老婆はベンチでぐったりしたように座り込んでいた。
「しかし、あれはなんの祟りだったんでしょうね」
「ああ、あれはワシが飼っておった鳥の悪霊よ」
ん?
「え?どういうことですか?」
「じゃからワシが護身用に飼っておる鳥の悪霊がお主に取り付いたんじゃ」
……。
「今朝方、餌をやるときにカゴに封を掛け忘れてしまってな。その隙に外に出たのよ。慌てて気配を追いかけたらちょうどお主に取り憑いたところだったんじゃ」
「お前の存在が祟りだわ」
終わり
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