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ストラッグラーズの遁走  作者: 削畑仁吉
第三章 あるいは穏やかな日々
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第19話『バークディア救出作戦』


 緊急出撃(スクランブル)コールが鳴り響き、ゲオルギウス海上防衛隊所属バランガ・ランガ少尉はチェックメイトされる寸前のチェス盤から逃亡する幸運を得た。急げよ、と部下に命じながら、テーブルに足を引っかけたふりをしてチェス盤をひっくり返す。マグネットの抵抗虚しく、駒が床に散らばった。賞品のワインを手に入れ損なった対戦者が、ああ、と悲鳴をあげる。


「防空圏内に異世界の機動兵器が侵入。数1」

「あれか、……ブ、ブラ、ブラン……」

「敵は『ハーピー』タイプ。第1目標は撃墜である」

「了解」

「ランガ少尉はフェニックス・ガンを装備。後でレポートの提出を求む」

「俺をモルモットにするなよ」


 ぼやくバランガを先頭に、ヘリコプターに似た下半身を持つPB『ムササビ』が空母から離陸していく。


 その目指す先にあるのは、もちろん菜茉莉とバークディアの乗ったエルガエだ。

 そのコクピットでは、飛べども飛べども陸地すら見えてこないことに菜茉莉が癇癪を起こしていた。なんだかんだいって地球は広い。


「は、はは、早く日本に、い、行ってくださいよ。じょー、上陸出来たら後はじ、自分でなんとかしますから!」

「やっているだろう!」


 そこでバークディアは、接近してくる地球の兵器の影に気付いた。数は5。応戦しようとして、思いとどまる。ゲオルギウスとはレネットと草四郎の身柄を用いた停戦協定が結ばれていたはずだ。

 助かった、とバークディアは肩を降ろす。遭難したとでも何とでも誤魔化して、菜茉莉の身柄をゲオルギウスに任せ、さっさと帰ろう。草四郎と食事をとる約束があるのだ、早く帰りたい。


 しかし、指先の強張りがとけないことにバークディアは気付いた。嫌な予感がする。そういえば、モニターに映るゲオルギウスの編隊、もう目と鼻の先だというのに接近スピードが落ちない。

 編隊先頭、中央の機体がスピアーロッドを取り出す。

 バークディアは機体を上昇させた。刹那、彼女がさっきまでいた場所を敵影が急スピードで通り過ぎていく。残りの4機はバークディアの機体を包囲するように展開。


「ゲオルギウスではないのか!? こちらに戦闘の意志はない!」


 バークディアは外部スピーカー最大、英語で呼びかける。

 一番槍を仕掛けた機体のコクピットで、バランガは本部に確認をとった。撃破命令に変更はない。


「攻撃続行! 各機は敵の動きを止めろ! フェニックスガンの実戦試射を行う!」


 バランガの機体がライフルを向けても、バークディアは注意を払わなかった。AEウォール――エルガエにはアクティビティ・エナジィを転用したバリアがある。銃弾程度の運動エネルギーなら問題ではないはずだった。

 ライフルが火を噴いた。バランガの狙いは正確だ。放たれた銃弾は吸い込まれるようにエルガエの胸部に殺到し、バリアの干渉を受け動きを止めた。

 そのまま海面に落下するはずだった銃弾は、だが突然その尻から炎を吹き出す。バリアを突破し、エルガエの右胸に激突。AEウォールを除外すれば、アーラウィルはPBよりもむしろ脆弱な機体だ。爆発が起きた。右胸から煙を噴き、エルガエが失速。


右肺(ライトエンジン)をやられた!?」


 AEウォールは作動している。敵はアクティビティ・エナジィの護りを突破する武器を開発したのか。

 海面すれすれで機体を持ち上げる。パイロットにも衝撃がかかり、菜茉莉が苦痛に呻く。


「なんとか、し、しなさいよ!」

「やっているだろう!」


 気絶していればよかったのに、とバークディアは毒づく。

 敵は何故攻撃をやめない? ゲオルギウスではないのか? ならば反撃してもレネットに問題はないのか? 反撃するのはいいが、勝てるのか?


 いくつもの疑問符が意識の間を通り過ぎるのを振り払う。戦場で迷うな、自分が生き残ることを最優先に行動しろと教えられてきたし、また部下にもそう教えてきた。


「デートの約束があるのでな……! ここで死ぬわけにはいかない!」


 夕食を一緒にとるというだけの話は、いつの間にか彼女の中でデートにまで発展していた。




 草四郎は格納庫に飛び込む。パイロット用の耐衝撃スーツは既に着用済みだ。

 彼としてはこのまま菜茉莉を追いかけるつもりだった。カーマインが信用出来ない以上、ゲオルギウスとの停戦協定も疑わしい。海上に出たエルガエが攻撃されないとも限らないのだ。仮に停戦協定が有効でも、好き勝手に飛び回っても許されるというわけではないだろう。

 だから草四郎は、最悪の事態になる前にブランシュ・ペロネーで菜茉莉を捕まえるつもりだったし、ASTもそう判断すると思っていた。

 だが実際は、ペロネーのコクピット手前で彼はホモ・レプティリアの兵士達に通せんぼをくらう羽目になる。


「貴様に行かせるわけにはいかん。ドサクサに紛れてペロネーを地球(イアケシ)の軍に売り渡すつもりなのだろう?」


 謹慎から明けたばかりのカロテス・バシリスクがその屈強な体躯で草四郎を威圧しながら言い放つ。1度はバークディアを謀殺しようとまでした危険人物にもかかわらず、彼はまだバハムートに居座っている。ASTもそうほいほい気軽に時空間を行き来できるわけではないから、仕方のないことだった。


「じゃあどうするんですか。まさか放置するとでもいうんじゃないでしょうね?」

「まさか。苔森菜茉莉にはスパイの容疑がかかっている。逃がすわけにはいかん」

「スパイ……? あの人は、そんな大それた人間じゃ」

「どうだかな」


 カロテスは鼻を鳴らす。


「とにかく、この件は我々で処理させてもらう」

「しかし、殿下……」


 兵士の1人がおずおずと挙手する。カロテス一派とは違ったエンブレムを身につけている。ラガルティッハ陣営の兵士だろう。


「殿下には1度、バークディアを予断で抹殺しようとした前科がございます」

「だからどうした。もしあの小娘が地球のアーラウィルを呼び寄せていたら、おまえ達に対処出来るのか?」


 ラガルティッハ派の兵は目を逸らした。

 地球に来て最初の戦いでラガルティッハ派に属するアーラウィル乗りの多くが戦死し、今残っているのは素人に毛が生えたような者ばかりだ。そういうわけで、ますますカロテス達イングワナ派が調子に乗っている。


「とにかく、艦長の指示を待つしかありませんよ」


 ルアンが取りなすように言った。


――そうだ、蒼次は何をしているんだ。菜茉莉が出て行ってから時間はどんどん経っているというのに。


 草四郎はブリッジがあるであろう方向を睨みつけた。


『何を騒いでいる!』


 アルマジロトカゲめいたマッチョのホモ・レプティリア――バハムートの副長が何もないところに突然現れた。ブリッジから転送されてきたホログラム映像だ。


『パイロットは持ち場につけ!』

「我がイングワナのパイロットは既に出撃準備済みです」

『ならあなたはここで何をしている、カロテス殿下?』

「それはもちろん、この小僧がこの混乱に乗じてエルダーアーラウィルを持ち出さないように見張っているのですよ」


 副長は疑わしそうに目を細めたが、カロテスは涼しい顔でそれを受け流した。


「副長さん、兄……司令はどうしろって言ってるんですか」

『奪われたバークディア機の追跡は、桜芝草四郎とブランシュ・ペロネーに任せる』


 はあ!? とカロテスが驚きの声を上げた。ややわざとらしい。


『バークディア機がゲオルギウスの哨戒部隊と交戦状態に入ったという情報が入った』

「交戦……? だったら、早く助けに行かないと!」


『今すぐ出撃して間に合う可能性が最も高いのは、ブランシュ・ペロネーだ。そしてペロネーを動かせるのは、現状、桜芝草四郎しかいない』

「イアケシには泥棒に追い銭、という言葉があるそうですが、司令はイアケシ人でありながら知らないらしい。もしその小僧がエルダーアーラウィルごとそのまま向こうに寝返ったら、司令は責任をとってくれるのでしょうな?」

「そんなこと言ってる場合ですか。あんたはバークディアさんが死んでもいいんですか!?」


 よしたまえよ、と桐枝が草四郎の肩を引く。


「彼等の心配はもっともだよ」

「でも、部長!」

「らしくないぞ、桜芝クン」

『かまわん。私が責任を取ろう』


 今度は蒼次のホログラムが現れた。


『もっとも、桜芝草四郎はASTの一員ではない。命令を拒否する権利があるが、どうする?』

「行きますよ」草四郎は即答する。「2人が襲われてるなら、尚更だ」

『では出撃だ』


 蒼次は少し笑ったようだった。

 カロテス達を押しのけるようにして、草四郎はペロネーのコクピットに乗り込んだ。その隣を通り過ぎる瞬間、胸ポケットに入れていたミントがカロテスに向かって舌を突き出すのにつられて、草四郎はカロテスに視線を走らせた。

 カロテスは、してやったりと言わんばかりの笑みを浮かべていた。草四郎の背に寒気が走る。何かひどい間違いをしてしまったような気がした。


「司令殿、我々イングワナ隊も桜芝草四郎の監視兼援軍として、後続で出撃してかまいませんな?」

『好きにしたまえ』


 イングワナ派の兵士達が慌ただしく去って行く。ラガルティッハ派の兵士達にあってはバークディアを案じる様子もなく、自分達が出撃しないですんだことに安心する素振りさえ見せた。

 なにか、納得がいかない、という思いが草四郎を支配する。


「だから()うたやろ」


 草四郎の表情を読み取って、ミントが苦笑いを浮かべながら言った。


「地球はどうか知らんけど、ASTもそないええもんちゃうて」


 イングワナの連中は組織内の権力争いに明け暮れ、そのためなら仲間も見捨てる。ラガルティッハの者は誰がババを引くか押しつけあっている始末だ。

 そして蒼次の話が本当なら、地球もまたロクなものではない。

 蒼次の言葉が甦る。


――世界はいつだって俺に、これが現実だ、受け容れろと絶望的な事実を押しつけてくる。だが俺は嫌だね、まっぴらごめんだ。気に入らない世界は徹底的に否定してやる。


「……バークディアさんを死なせたくない」


 ペロネーを出撃用エレベーターに向かって歩ませながら、草四郎は自分に言い聞かせるように呟く。


 少し前の自分であれば、そうは考えないはずだった。なんで俺がそんなこと、と、頼まれないうちは格納庫に顔を出すことさえしなかっただろう。しかし草四郎は自分の意志で格納庫まで赴いたし、最悪カロテスと敵対するとしても出撃するつもりでいた。


「おかしいな。あの人が俺をどう思ってるか、そういうのとは関係なく、俺はあの人を助けたいと思ってる。理由はわからないけど、バークディアさんがいなくなったら嫌だなって思う」

「そりゃ、仲のええ相手に死なれるのは誰だって嫌やで」

「……そうか。普通なのか」


 だとすれば、今までの自分には仲のいい相手がいなかったのだな、と草四郎は今更ながら我が身の孤独を知った。

 東京にいた頃は全てが流れ作業だった。学校と職場と家を往復するばかりの日々。他人もただ自分の前を流れすぎていく物体でしかない。当然、彼等1人1人にさしたる感情を抱くことはなかった。姉や妹さえ、深く関心を持っていなかった気がする。

 それが、ここ数日のゆったりした時間の流れの中で変わった。歯車のように生かされ、心まで歯車のようになった少年は、歯車でなくなったことでようやくわずかばかりの人間性を取り戻しつつあったのだった。


 エレベーターが上昇する。海面を割り、バハムートの昇降式発進口が太陽の下に顔を出した。


「桜芝草四郎、ブランシュ・ペロネーで出撃します!」


 ペロネーはその場でふわりと100メートルほど浮かび上がり、一拍おいて弾丸のように前方へ飛び出した。背後のバハムートが瞬く間に海に浮かぶ1つの点と化し、見えなくなる。

 草四郎の焦燥がペロネーに伝わり、推進装置に規定量以上のエネルギーが割り振られた。鋼鉄の鳥人は鋼の風となる。


「――おったっ!」


 レーダーに友軍機(エルガエ)を示す青いマーカーと、その周囲を飛び交う4つの赤いマーカーが表示される。


「レールガン、セーフティ解除」

「この距離で当たるかいな! レーダーで捉えただけで、カメラに映ってさえないんやで!?」

「相手が怯めば、それでいい!」


 ペロネーの左腕から、電磁加速された弾丸が飛翔する。偶然か、それとも草四郎の狙い通りか、放たれた弾丸はちょうどバークディアの目前で槍を振り上げたPBの頭部に命中した。

 だが、いかんせん距離がありすぎる。人間でいえば頬を引っぱたかれたくらいの衝撃でしかない。しかしそれで充分だった。突然の衝撃に動きを止めた敵は、バークディアの振り上げたトマホークに両断された。

 その間に、ペロネーはバークディア機をかばう位置まで移動する。


「バークディアさん、無事か!?」

「は、はい、損傷多大なれども乗員に異状なし。苔森さんも無事です。逆にこっちは2機屠ってやりましたよ」


 草四郎はバークディアの機体に目を走らせた。右エンジンは大きく損傷し、首から上はそっくり無くなっている。何度も攻撃に晒されたであろう盾はもはや身を守る役に立ちそうにない。装甲に刻まれた裂傷に至っては数え切れない。

 まだ浮かんでいるのは奇跡だ、とミントが呟く。

 この様子では戦うも逃げるも無理だろう。残る敵影は3つ。バークディアを守りながら、倒せるか?




「ブランシュ・ペロネーが出た。交戦する」


 バランガは司令部に指示を請う。


「少尉、ブランシュ・ペロネーとの戦闘は認められない。ただ、ハーピータイプの機体は必ず撃破せよ、どうぞ」


 司令部がエルガエを撃破したがっているのは、あの機体が生還することでせっかくの新兵器の情報が敵に渡るのを避けるためだ。いずれは解析され対抗策をとられるのは必至とはいえ、それは遅ければ遅いほどいい。その気持ちはわかるが、それを実行出来るかどうかは別問題だ。


「こちらバランガ、好き勝手いうな。こっちは2機もやられてるんだぞ――どうぞ?」

「まもなく援軍が到着する、健闘されたし。以上」

「以上じゃねえ! おい、どうぞ?」

「…………」


 くそったれが、とバランガは200メートルほど先に浮遊する異世界の機動兵器を睨みつけた。ブランシュ・ペロネーは傷ついた我が子を守る野生動物のような風格で、一歩でも近づけば噛み砕いてやると言わんばかりの眼光を放っている。

 不愉快だ。むしろ無人機2体を失ったかどで始末書を書かされるこっちこそ、奴の喉笛を噛み千切ってやりたい。


 ペロネーが動いた。バランガが無人機の統率を行っているのを見抜いたのか、それとも偶然か、まっすぐバランガに向かってくる。


「くそが!」


 ハーピータイプの機体がノーマークになるのを承知で、バランガは無人機達に自分を守るよう指示を出した。無人機が火線を張るが、ペロネーはそれを潜り抜けプラズマブレードを振り下ろす。バランガが回避出来たのは、運でしかない。

 無人機達はバランガを巻き込まずにペロネーを攻撃出来る位置を即座に算出、実行。しかしペロネーはそれを見越した上で、即座に自らの最適な位置に移動した。1発の銃声。2機の無人機は同時にサイドローターを撃ち抜かれ、海面に墜落。盛大な水飛沫が上がった。

 機体が重なる、ほんの一瞬を狙われた。敵の技量にバランガは肝の冷える思いをした。自分の勝てる相手ではない。

 一目散に尻尾を巻いて逃げずにすんだのは、心強い報せが――援軍の到着が知らされたからだった。




 ペロネーが背後を振り返る。エルガエとペロネーの間に割り込むように、ダークレッドのPBの一団が飛来しつつあった。


「まだ来るんか!」


 まずい、と草四郎はペダルを踏み込む。敵の移動速度が速い。ブースターを使っているのか、新型か。バークディアを流れ弾に巻き込まないよう、距離を取っていたのが仇となった。

 さっきまで戦っていた背後のPBがこちらに銃を向けるのが肌でわかった。

 草四郎は基本的にアーラウィルのバリアを信用していない。いくら銃弾程度なら無力化出来る程度の強度があるといわれても、弾丸が飛んでくるのが感じられれば動いてしまうのが人情だし、当たらなければそれに越したことはないからだ。

 だがこの時は、最短距離でバークディアのフォローに駆けつけるのに頭がいっぱいで、まあいいやと思ってしまった。


 それが仇となった。


 衝撃と共に機体が激しく揺さぶられ、モニターにレッドアラートが表示される。


「背面スラスターとスタビライザーに損傷! 推進力30%低下!」

「!」


 ミントの報告に血の気が引く。間に合わないと悟ってしまった――感覚的に。気のせいだと思いたかった。脳裏を走る不快な未来予想図を拭い去るように、体勢を整え、再度ペダルを踏み込む。背後に殺気。バリアを無効化する、あの第2射が来る。


「上からは攻撃するなと言われたが、足止めくらいは……!」

「邪魔だ!」


 草四郎はくるぶしのビームキャノンを起動。自動照準で背後の敵に狙いを定めた小型砲台はバランガ・ランガを消滅させた。


 モニターに映るエルガエが四散したのは、それと同時だった。


「……草四郎殿!」


 炎に呑み込まれるコクピットで、バークディアが叫ぶ。しかしその後に続けるべき、伝えたい言葉のほとんどは、もはや言っても仕方のないことだと彼女にはわかっていた。

 だから、彼女はこう続けた。


「――姫様を――」


 それが、ラガルティッハの戦士、バークディアの最期の言葉となった。

 ペダルは踏みっぱなしではあったが、ペロネーは動きを止めた。草四郎の心は空虚に支配されていたからだ。


「草の字! 敵が来る!」


 接近するダークレッドのPBに、ミントが恐怖の叫びを上げる。2体のPBが左右からペロネーの腕を取る。


「――桜芝草四郎だな?」


 威圧的な外観からは想像出来ない、穏やかな声が敵機から発せられた。


「君のことは大佐から聞いている。上手くブランシュ・ペロネーを盗み出してきたようだな」

「…………!?」


 ミントがこちらを凝視する気配が伝わってくる。胸に痛みが走ったように草四郎には感じられた。


「違う……俺は……」


 警告音。後続のカロテス達がやっと戦場に辿り着いたのだ。ペロネーがいるのにもお構いなく、ライフル銃を乱射する。あるいは、奪われるくらいなら破壊してしまえという心算なのかもしれない。


 ペロネーの右肩を押さえていたPBが火を噴いた。


「桜芝草四郎、ここを離れるぞ」

「お――俺は――」


――あいつ等は元々、おまえたちを同じ人間とは思っちゃいないよ。


――地球はどうか知らんけど、ASTもそないええもんちゃうて。


 どうする。俺はどうすればいい。

 このままカーマインのところに連れて行かれるか、あるいはこの場でカロテス達と共に戦い、地球に決別するか。そのどちらを選んでも、自分自身が幸せになれる気が、全くしなかった。





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