殿下目覚める
やあ、皆さんこんにちは。突然だが私の今の状況を説明させてくれ。私も何がなんだかわからないのだ。
私は寝ていたみたいだ。目を開けるとベッドの中にいた。それはもう何人も寝ることができるのではないかと言う大きさで、シミひとつない真っ白な何とも言えない極上の手触りのベッドである。さらにはこの枕もすごい。頭が包み込まれるような柔らかさと、決して頭が沈み込まない弾力を兼ね備えている。つまりだ、とんでもなく豪華なベッドだ。語彙力がないのは勘弁してくれよ。本当に言葉で表すことが難しいほど、質のよいものなのだよ。
そして、身体が重く感じながらも上半身を起き上げてみると二種類の人間がいることが見てとれた。1つは全体的に黒色の服を着た人間。もう1つは白色の服を着た人間である。そして、この二種類の人間に共通して言えるのは、起き上がった私を見て驚愕していると言うことだ。皆目を見開き、時が止まったかのように固まって私を凝視している。それに見かねて私は言葉を発した。
「誰だ。君たちは。」
そこからはもう一種の地獄絵図だったよ。
喜びと悲しみが混ざったような表情をする者や、ただ単に涙する者、絶句する者、驚愕する者、大慌てで部屋を出ていく者、誰一人まともに私の言葉にこたえてくれる者がいなかったよ。
しばらくしてから数名が落ち着いたのか、私に尋ねてきた。
「お名前はお分かりですか。」
白い服を着た老人が、私に恐る恐る訊ねてきた。
「名前だと?」
ここで私は初めて気づいたのだ。
「・・・・私は誰だ?」
自分の名前がわからない。自分の年齢も。自分のことだけではない。この場にいるものや、家族のことさえも全く思い出せないのだ。言葉や物の理解できるにもかかわらずだ。
だが、不思議と恐怖も混乱もなかった。むしろ何もわからないことが当然かのような不意義な感覚だ。私の発した言葉に驚きを隠せない老人に落ち着かせるように、力強く、はっきりとした声で尋ねた。
「どうやら自分自身のことがわからないみたいだ。すまないが、私は誰なのだろうか。」