愛することをアキラメナイ
初めまして。奈菜と申します。
投稿するのも初めてのため、拙い文ですが、お楽しみ頂けると幸いです。
どこか懐かしい視線を感じて。
ゆるりと顔をあげる。
視線の先にいた人を見て、体が固まった。
そこにいたのは、会いたくて会いたくて、でも二度と会えないと諦めていた愛しい人。
***
「ちこ」
近付いてきた彼が優しく私の名を呼ぶ。
その声に、昔じゃない、昔よりももっと昔の記憶が蘇る。
大好きだった、でも最後まで一緒にいられなくて、苦しい思いをした前世を。
お互い想い合っていたのに、身分差に阻まれて伝えれなかった恋を。
蘇った記憶に涙が零れる。
あれ、私、泣いちゃってるじゃん。
そんなことを思ったとき、
すっと伸びてきた手に涙を拭われて。
「ちょっとカフェにでも入ろうか。」
彼がかけてくれた声に、こくんと頷いた。
「いらっしゃいませ~
店内、お好きなところにお座りください」
元気よくかけられたら声に軽く会釈をして、隅にあった席に座った。
「コーヒーと…カフェオレでいい?」
彼の声にまたこくんと頷く。
「じゃあ、それでお願いします」
カフェオレ好きなの、覚えててくれたんだ。
小さなことに心が踊る。
「ちこ」
「はい」
小さな小さな返事なのに、彼がとっても嬉しそうに笑うから。
思わず口元を綻ばせた。
運ばれてきたブラックのコーヒーを傾けて。
彼はぽつりぽつりと話す。
彼の名が今世でも、三井誠だということ。
前世では財閥のお坊ちゃまだったが、今世では有名な会社の社長だということ。
やはりブラックのコーヒーが好きだということ。
目は今も悪く、黒縁のメガネを愛用しているということ。
一つずつ、新しい彼を知っていく。
彼を愛しく思う気持ちが一つずつ積み重なっていく。
丁寧に言葉を紡いでくれる彼を見つめてると。
あぁ。あれから100年たったのに。
私、まだこんなにこの人のこと好きだったんだ。
自分の重い気持ちに気付いた。
こんなに重いもの、彼に伝えれない。
愛しさばかりで満たされていた気持ちにひびが入る。
しばらく昔の、そして今の話をしたあと、
「ごはん、食べに行かない?」
軽く誘われたけど、
「ごめんなさい、どうしても今日しなければならないことがあるんです。」
彼に執着してはいけないから。
愛しい人に、嘘をつく。
それでも、
「じゃあまた会いたいから、連絡先教えて。」
あんなに優しい笑顔になんて、かなわない。
できるだけ近付かないように。と思いながら、メールアドレスだけを教えた。
「 」
「え?何か、言いましたか?」
「ううん。じゃあ、絶対また会おうね」
彼が何を言ったのかはわからなかったけれど、
微笑みだけを返して、その場を後にした。
**
ピロン
今日もまた一通だけメールが届く。
『From 三井誠
To 石川ちこ
今日、ごはん、行かない?』
表示された名前に心が揺れる。
彼と会ってから一週間がたとうとしていた。
毎日、一通だけ来るお誘いメールに、
忙しいからすみません。とか、今日は少し体調が悪いので…とか、小さな嘘をつく。
行きたいけれど、行けない、彼からの誘い。
彼は避けられているのに気づいているのだろうけど、彼を縛りつけないためには、こうするしかないのだ。
嘘を吐き続ける心にたまる影。
本当に体調まで悪くなってきたような気がする。
今日は、少し高いけど、タクシーで帰ってしまおうか。
そう思ってタクシーに手をあげかけたとき。
きれいな手に指先を掬われた。
「ちこ」
一番会いたくて、会いたくない人の優しい声が、私の名前を呼ぶ。
「ちこ」
そんなに何度も呼ばないで。
今世でも私のことが好きなのかと勘違いしちゃうじゃない。
「離して」
震えそうになる声を抑えて、一言だけ告げる。
『どうして』
痛いほどの視線が理由を問う。
「……今日は、家でしないといけない仕事がたくさんあるの…」
「ちこ」
そんなことじゃないだろって。
全部言ってみろよって。
優しい声が語ってる。
彼の手から伝わる体温に固まった心がほどける。
「だって…」
こんなこと言いたくなかったのに。
「好きすぎるんだもの。」
言葉がこぼれだす。
大きな目をさらにみはった彼を見て、目を伏せる。
「あのときからもう100年もたってるのに、まだ好きなんて……。
重すぎるでしょ?」
100年先も愛を誓う、だなんて、みんなできないことだから素敵だと思うの。
本当に100年も愛してしまったら、重たいだけ。
「だから、離れなくちゃと思って。」
繋がれていた手を離す。
「ごめんなさい、気持ち悪い思いをさせてしまって。
せっかくごはんにも誘ってくれたのに、一度も行かなくて…ごめんなさい。
さようなら。」
愛しい人に背を向ける。
100年の想いもこれでたちきれることを願う。
駅に向かって、一歩踏み出そうとした。
「待って。」
けれど、足はいともたやすく動きを止める。
声を聞くだけで、気配を感じるだけで、決心が鈍る。
「ちこの想いは悪いこと?」
「うん」
決して幸せとは言えなかった前世に貴方を縛りたくない。
今度こそ、自由に生きてほしい。
「俺は、嬉しいけど?」
思いがけない言葉に振り返ると、ぐっと距離を縮められて。
次の瞬間、彼の逞しい腕の中にいた。
「ずっと好きな人に、ずっと好きでしたって言われて嫌がる奴いねぇって。」
私を抱きしめる力が強くなる。
彼の鼓動が聞こえる。
「ずっと、ずっと、好きだった。
生まれ変わってもまた会えて、本当に運命だと、
今度こそ、2人で素敵な思い出を作れると、そう思った。
今までも、もしかしたらどこかで会えないかと、ずっと探してた。
やっとのことで見つけたお前を。
もう離さない、いや、もう離せない。」
それほどまでに思ってくれてたなんて。
こんなに大切な人を私は手放そうとしてたなんて。
あたたかいものが頬を伝う。
「離さないで」
呟いた言葉に、彼が息を呑むのが分かった。
耳元に唇を寄せられ、
「もう絶対、離してやらないから覚悟しとけ」
少し低めの掠れた声が聞こえた。
彼の激しい想いに心が震える。
「大好き」
キスの合間に伝えた言葉に。
「アイシテル」
吐息のかかる距離で彼は微笑んだ。
読んで下さり、ありがとうございました!
「」はたぶん誠が、離さないとかかっこいいことを言ってるんだと思います。
どんな声色で、どんな表情で言っているのかはご想像にお任せします。