交戦開始
評価ありがとうございます!しかもかなりの高評価!!もう一話更新です!!
「コルセア司令!このままでは!」
「分かっている!トリガーランサー隊下がれ!ホームガード隊、入れ替わり次第大盾で防御、隊形立て直しの時間を作るのだ!」
世界大陸の遥か東に位置するコーストロッド帝国のワイバーン騎兵部隊の司令官、コルセア・ハインシュタルトはレッドドラゴンにジリジリと削られ、自国の精鋭騎兵に犠牲をゼロにする事が出来無い指示を歯を食いしばりながら冷静に出していた。
今、コーストロッド帝国は国家存亡の重大な危機に瀕していた。
それは遥か西方にある山岳地帯を更に越えた先にある数百キロに及ぶ長さの渓谷の底に暮らしていると言うレッドドラゴンが何故か我が帝国にまで飛来したのだ。
レッドドラゴンはその名の通り深く輝く鱗が赤色のドラゴンだ。
頭が良く、自身の体躯をどう使えば効率的に"狩り"が出来るかを心得ている。
短い腕だが、大きな爪を有するそれはいとも簡単に小型の飛竜種を裂き、その長い尻尾を振るえばどんなに頑丈に作られた家でも簡単に吹き飛ぶか潰される。
翼は例えミスリルで作られた一級品のランスでも貫く事が出来ぬ強靭性、地に落とし罠に掛ける事も出来無い最悪の災厄クラスの化け物。
それがレッドドラゴン。
「ホームガード隊、生存者半数以下!隊形が崩れます!」
「元の隊形は崩して構わん!生き残れる様に踏ん張れ!他国の救援が駆けつけるまでの辛抱だ!」
慰めを言うコルセア自身、そう早くに救援が駆けつけるとは思っていない。
レッドドラゴン討伐に参加出来る程の精鋭部隊の派遣、それは即ち派遣中の国家防衛力の低下に繋がる。簡単には出来無い事なのだ。
勿論国の精鋭部隊として戦っているワイバーン騎兵達も分かっている、分かっているだけに少しでも時間を稼ごうと碌に通りもしない攻撃を繰り返し、必死に国では無く自分たちにレッドドラゴンの注意を向けさせる。
「くそっ!前回の戦で騎兵隊の多くが損失したのがデカイ、このままでは……!」
「コルセア司令!東南から何かが高速で迫ってきます!」
「こんな時に!小型かっ、少数で良い!ランサー隊を出して追い払う程度に攻撃し……速い!?それに、我々を素通りした!?どういうことだ!」
焦燥感の増した表情から一転、見たことも無い飛龍は奇っ怪な音を出しながら飛んで来たかと思うと、自分たちに攻撃を加えずそのままレッドドラゴンに突っ込んでいった。
「冬子!ドラゴンの翼を狙え!」
「了解!」
一瞬前線で戦う槍と持った兵士と大盾を持った兵士とは別に、指示を出していそうな周りより大きな黒いドラゴンに乗っていた人間とその護衛と思わしき兵士がこちらに敵意を向けたが、それも竹田と雪村がレッドドラゴンに向かっていると思うと攻撃を加えてこようとはしなかった。
突然の乱入者、しかもプロペラの音なんて聞いたことが無い上に、そもそも飛行機を見たことが無いであろう彼等に俺たちはどの様に映ったかは分からない。だが、すぐには敵対しなかった。それでいい。
「食らえっ!」
タタタタタッ、と7.7mm機銃がプロペラのエンジン回転に合わせて発射される。
竹田と雪村の撃った徹甲焼夷弾を多分に含んだ弾丸が、レーザーの様に赤い線を発しながら吸い込まれる様にレッドドラゴンの左の翼に叩き込まれる。
そしてレッドドラゴンの翼は、指を刺して開けた障子の如く簡単に風穴を増やしていく。
堪らず絶叫を上げるレッドドラゴンの姿にワイバーン騎兵の兵士達は驚愕に顔を染める。
だが竹田と雪村は薄い翼膜に穴が開いて当然と考えているのでレッドドラゴンの咆哮の大きさに多少の驚きはあるものの、反撃にレッドドラゴンが吐いた火の玉をクルリと機体を翻して冷静に躱すと、レッドドラゴンの左に向かってバンクし、次の射撃に向けて距離を取る。
レッドドラゴンも負けじと火の玉を吐くが、ここで雪村がレッドドラゴンの興味を引く為に射撃を開始したと同時に出した白色のスモークを目眩ましにも使う。
竹田の右後ろに着いていた彼女はアクロバット飛行で培ったエルロンロールを繰り返しながら、竹田機の周りを飛び煙幕を張ったのだ。
「すまん、助かる冬子」
「サポートをするのは慣れてますから、次は右の翼膜ですね?」
「ああ、右に向かってシャンデルで接近する!」
「了解です」
機体を右に傾けたまま操縦桿を引き、右上に向かって機体を翻したかと思うとあっと言う間に上下の感覚が反転しながら滞空を続けるレッドドラゴンに向き直る。
「お前の翼、零戦の前で無防備に晒したのが不味かったな!落ちろ!」
貫通力の高い銃弾はまた、空を流れてレッドドラゴンの翼を裂き、その巨体を地に落とした。
撃った機銃がプロペラに当たらないって凄いですよね。