Mitte
はじめまして、逸材と申します。
今回は駄文で恋愛小説に挑戦してみました。
もしよければ、読んでいただけたらと思います。
ファンタジー世界ですが、その中での戦闘をメインに読みたい方は申し訳ありませんがこの小説はオススメできません。
主に恋愛方面ですので、それを目的とする人にオススメします。
…まぁ、駄文であることには変わりないので、文と物語については期待をしないでください。
では、どうぞ。
小説情報を読んでいない方へ。一応ですが。
Mitte[独]:真ん中
この意味を含んでいます。
まぁ、深い意味はないですが。
ではお楽しみください。
3年前。
私は生まれた。
「勇者」の娘として。
2年前。
私の父は「勇者」として散った。
魔物と統治する「魔王」と共に。
そして、私は3歳になった。
「フィア、パパのお墓参りに行くよ」
「はーい!」
私―――『フィア=マルティ』が元気よく返事をする。
幼い私には、「勇者」と結婚した母は憧れだった。
幼い私には、「勇者」であった亡き父は目標だった。
幼い私には、「魔物」は憎む存在だった。
幼い私には、「魔王」は自分が倒すべき相手だった。
3年前、父が命を懸けて倒した「魔王」。
しかし、主を失った兵は、まったく変わらなかった。
だから、人々の間では、こう呟かれている。
「魔王の血は生きている」
魔王の兄・弟(あるいは姉・妹)、魔王の父親、母親、あるいは息子・娘。
どのような形でも、魔王の血は生きている。
だから、魔物はそれを守るため、戦っている。
「パパ…、私がこの世界を平和にするよ」
父の墓を前に私は、いつもそう誓う。
3歳児の私にかかる重圧。
だが、私はそれ以上に大切な人を殺した魔物と魔王が許せなかった。
帰り道、私は母に手を引かれて歩いている。
「…あら?」
歩みを止める母。
「どうしたの?ママ?」
私が母に話しかけると、母は「だれか倒れているわ」、と呟く。
母の目線を先には、灰色の布を羽織った少年が倒れていた。
「大丈夫!?」
母の手を放し、駆け寄る私。
近寄って、倒れている少年を見る。
灰色の髪の毛の3歳くらいの少年が私の目に入った。
容姿は整っているが、足は裸足で外を歩き続けた所為か、酷く傷ついている。
飢えでやつれているが、生きている。
「ママ!」
「…わかったわ、家で介抱しましょう」
「…ん」
「あっ!ママぁ!目、覚めたよー!」
少年が目を覚ますと、私は喜んで母に報告する。
「私、フィアっていうの!
君さ、倒れていたけど、大丈夫だった?
お父さんやお母さんは?」
起きた相手に質問攻め。
「…俺の両親は殺されたんだ…」
「…!そっか…、魔物に殺されたんだ…」
「…」
悲しそうに、俯く少年。
「そうだ、君、名前はなんて言うの?どこに住んでたの?」
再び質問責めをする私。
「こらこら、目覚めたばっかりなのに、困らせないの」
お椀にお粥をいれて、母が部屋に入ってくる。
「…お腹減っているでしょ?
お粥で良ければ食べてね」
お粥を近くの机に置く母。
それを見て目を輝かせる少年。
そして、れんげを持ち、おかゆを食べ始めた。
「…おいしい…です」
元気の無かった顔が笑顔になる。
おかゆを食べ終わった後、私は彼に色々な話を聞いた。
彼の名前は『ジル=フローレス』。年齢は私と同じ3歳。
1歳で両親を殺され、小さい内からひたすら盗みや野宿で過ごし続けてきた。
たった3歳で自分だけで生きようとする…、勇者の私より凄いな…と、私は思った。
ジルは家がないから、母と私と過ごすことにした。
家族が増えて私も楽しかった。
だがら、いっぱい話をしたんだ。
ジルもたくさん話してくれた…、おもに野宿のことだけど。
私もいろいろ話をした。
さすがに私が勇者だって知ったときはジルも驚いていたけど。
だけど、私が勇者であるということは、私は必ずいつか魔王討伐の旅に出ないといけない。
だから、私はその日まで普通の女の子として、ジルと過ごした。
彼には、誰もが羨む「才能」があった。
修行しても
剣術を鍛えても
魔法を覚えても
彼は私より強かった。
だから、私が彼に惹かれたのは当たり前だったのかもしれない。
最初は、私は「勇者」として、彼の「才能」に惹かれた。
だから、彼と接して、もっと強くなりたいと思った。
接して、彼は、優しいと知った。「人」は勿論、「魔物」さえ傷つけることを躊躇う。
だからこそ、私は彼を、一人の「男」として、好きになったのかもしれない…。
もし、普通の女の子だったら、告白するのに…。
だけど、私は「勇者」。だから、「魔王」と倒すまで…使命を果たすまで、我慢しよう。
15年後、私は18歳になった。
同時にジルも18歳。
「…明日か」
幼い時からは想像できないようなクールな声で呟くジル。
彼は椅子に座っていて、その対には、私が座っている。
「うん、私は明日、魔王討伐の旅にでる」
「…そうか」
机のコップを持ち、中の飲み物を飲むジル。
「…怖くないのか?」
「え?」
「…人間の希望を背負って、戦うのが、怖くないか?」
「……」
ジルの言葉に少しだけ俯く私。
「…ねぇ、ジル?」
「ん?」
「…私の事、応援してくれる?」
「…何を今さら…」
机越しのジルが私の肩に手を置く。
「勿論」
「なら、私はどんなことでも頑張れる!」
元気にいう私。
フッ、とジルも笑う。
「…ねぇ、ジル?」
私は言いにくそうに呟く。
「…次はなんだ?」
「私さ、もし、世界が平和になったら、ジルとここに行きたいと思っているんだ」
懐から1枚の絵(スケッチ)を出す。
そこには、1枚の綺麗な山が書かれていた。
「…ここは?」
「ミッテ山…、知ってる?」
「…詳しくは知らない、旅の商人から『世界の中心の山』と聞いたことくらいはあるけど」
少しずつ自分の体の体温が上がってきているのがわかる。
でも…、私は今日言うって決めたんだから…。
「…この山には言い伝えがあってね。
一組の男女がね、…この山の頂上で告白したら…、あ…えっとね…」
体がとても熱い。
それくらい緊張している。
ジルも心配そうに「大丈夫か?」って言ってくれてる。
「うん…、ここで愛の告白したら…、その愛は永遠になる…って言われてるんだ…よ?」
「…そっか」
そっけない返事だけど、少しだけジルの声には緊張がある。
「あのさ…、だから、私が魔王討伐の旅から帰ってきたらさ…、
一緒に…、この山の頂上まで…行きませんか?」
…私の顔、きっと真っ赤なんだろうな。
ジルをちらっと見ると、ジルも少しだけ顔を赤くしてる。
深呼吸をして、ジルが言った。
「あぁ、勿論だよ」
その言葉を聞いた私は、机越しのジルに抱き着いた。
フィアからの告白を受けた夜。
俺は一人、荷物をまとめていた。
フィアが旅にでる…、魔王討伐の旅に…。
前々からわかってた…、3歳から、これは運命だったはずなのに。
フィアから貰った「ミッテ山」の写真を持つ。
泣きたくなる気持ちを抑え、家を出る。
家に一礼。
そのまま振り向かず次は村の門から出る。
当然、村に一礼。
そこに、一人の男が来た。
「…来たか、アンバー」
40歳くらいの男が反応する。
「…決意は、ついたのですか?」
「あぁ、フィアは…明日、旅に出るってよ」
「…左様ですか」
淡々と呟く男、『アンバー=グレス』。
「…ご両親の敵は…?」
「…お前こそ、今、ここを襲えば、勇者を殺せるのに、何故襲わない」
「…何度も、私の心は常にジル王とともにあります。
それが、勇者を殺さないという意思であれば、私は従います。
たとえ、私の主君…、あなたの父君の敵であってもね」
「…お前は優しすぎる」
「…あなたこそ、魔王とは思えない優しさです」
そう、『アンバー=グレス』がジル王と、魔王と呼び、慕う男こそ…、
俺だ。
「…前の勇者…フィアの父親が使っていた剣は?」
その瞬間、懐から1本の長い剣を取り出すアンバー。
「折れていた物を、直しておきました。
しかし、完璧な剣ですな。質量、切れ味、長さ、どれも素晴らしい」
「…感謝する。その剣は、明日、フィアに渡しておいてくれ」
その言葉に、一礼をして、剣を懐にしまうアンバー。
「もう一つ、頼んでいいか?」
「勿論でございます」
「おそらく、明日の朝、俺が居ないことで村は少し混乱するだろう。
…お前に、全てを伝えてほしい」
勿論、俺が魔王であることも、だ。
「わかりました」
「…俺は行く」
「ジル王、一つ、よろしいですか?」
背中を見せる俺を引き留めるアンバー。
「ん?」
「…愛するものと戦う、たとえ相手が人間でも苦しくありませんか?」
「そうだな、苦しい。
だが、俺が死なないと、兵である魔物はずっと人を襲い続けるだろう」
「そうでございますね、彼らの生存理由は、王を生かすため…、古来よりの教えですから」
「失礼しました」と呟くアンバー。
「…だから、人と魔物が何をしているかを見るんだ。
人が、魔物を恐れずに戦う力をつけている…、大切な世界を守るために戦っているんだったら、俺が死ぬ必要はない。
だが…、もし、魔物が…、逃げ惑う人を殺し、この世界の混乱を招いているなら…、俺は死ぬべきだ」
「そのための旅ですね?」
「…あぁ」
「お気をつけて」
そう言うアンバーを見ずに、俺は、空間の魔法を唱え、その姿を消した。
私が旅立つ日。
なのに、ジルが居なくなったと大騒ぎ。
私はこんな状態で旅には出たくないから、とりあえず家に居る。
「…ジル」
いつも呟くと、「ん?」と、綺麗な横顔を見せてくれるジルが居なくなった。
何があったのか、とにかくそれだけが不安だった。
「…お願い…、戻ってきて…」
私がそう呟いても、誰も居ない無人の家の中では意味がない。
「魔物だー!」
その言葉に反射的に体が動く。
近くにあった母親が打ってくれた、とても軽い剣を持って表に飛び出す。
数人の男が囲んでいる相手は、おそらく魔物であろう人。
その姿はマントを羽織っていて、手はマントに隠れていて武器を構えているようには見えない。
私が来て、見ている村の皆が道を開けてくれた。
私はそこを走り、囲んでいる輪の中に入る。
「…おや?暑苦しい男達ばかりだと思っていましたが、可愛いお嬢さんも居るではありませんか」
囲まれている男が言う。
「可愛いお嬢さん―――いえ、勇者『フィア=マルティ』様、少し、お話よろしいですか?」
その言葉を聞いた瞬間、その魔物は私の目の前にいた。
「…っ!」
多分、高度な魔物だけが使える特殊な空間移動の魔法だろう、と私は思いながら、剣を抜く。
だが、それをする前に私の手元の剣が奪われる。
「…!」
「ご安心を。私は、貴方達に危害を加えるつもりはありません。
もっとも、それでも襲ってくるのなら、正当防衛をさせていただきますが」
淡々と呟く男。
怖い。
魔物と戦ったことはあるが、それとは違う威圧。
おそらくここで魔法を放ち、抵抗した瞬間、殺される。
そのことを理解したのか、囲んでいた人が剣を収める。
「解っていただいて嬉しいです。
すまないね、恐ろしい思いをさせて」
その言葉で私の剣が手元に戻ってくる。
「さて、順にお話をさせていただきましょう」
その言葉を放ち、語り始めた。
最初に語ったのは、自分の正体。
名前は『アンバー=グレス』。
人間っぽい容姿だけど、ドラキュラみたい。
魔王の側近らしい、年齢は41歳。いらない情報だけど教えてくれた。
次に、私の手元に父親が使っていた剣が手渡される。
それには誰もが驚いた。
話によると、それは魔王の命令らしい。
「その剣はおそらく世界に存在する剣の中でも最高の物、大切にお使いください」って言ってた。
そして、次は―――
「…魔王様がどこに居るのか、やはりそれは知りたいでしょう?」
「ええ、勿論よ」
「…何から話しましょうか…」
暗い顔になるドラキュラ…、アンバー。
しばらくして、決意をした顔で話し出す。
「皆さんには、とても重要で、同時に信じがたい事実をお話ししたいと思っています」
そうして、語られる。
「…今の話はすべて真実です」
そう言って、話が終わる。
驚き、泣き、怒り、私の母親は気絶する始末。
おそらく私の顔も驚いているんだろうな。
「…ねぇ、嘘だよね。
ジルが…、私が恋した人が…魔王だったなんて…!」
「真実です」
「…違う!彼の両親は…、魔物に殺されたって―――」
心の限り叫ぶ私を、アンバーが一言で切り捨てた。
「彼が一言でも『魔物に両親を殺された』と言いましたか?」
「な…!」
「過去のあなたがそう思い込んだだけでしょう」
その言葉で私は、記憶をたどる。
記憶をたどると、彼との…ジルとの思い出が蘇り、涙が出てくる。
だが、自分が覚えている限りでは、彼が「『魔物に』両親を殺された」とは言ってない。
「…もう一度言います。
貴方方がこの村で過ごしていた彼は紛れもない『魔王』です」
「…ねぇ、聞かせて」
そう呟く私に、律儀に「何でしょう」と返すアンバー。
「ジルはなんで私を殺そうとしなかったの?」
「…先代の魔王様もそうでした。彼らは優しすぎるのです。
彼らには魔王の椅子があまりにも似合わない。
おそらく、両親を失い、途方に暮れていた時、助けてくれた貴方を命の恩人だと感じたのでしょう」
「…あなたは?どうして勇者である私を殺さないの?」
「簡単です」
そう言い私に向き直るアンバー。
「私の御心は、常にジル王と共にありますから」
「……そう」
「私からは以上です。
もしかしたら、また伝達係として、貴方の前に姿を現すかもしれません」
そう言い、一礼するアンバー。
その姿が音もなく消えた。
そして、村には、多くの人のすすり泣く音だけが響いた。
あれから1年――――。
誕生日があるかなんてあまり覚えていないが19歳になった。
俺は、一人世界を回った。
村の門が破壊されていて、中には人の死骸が大量にある村にいくつもあった。
荒廃した城も数は少なかったがあった。
それ見るたびに心が痛む。
そして、必ず思う。
―――――俺が居なければ。
アンバーの話によると、フィアは予定日の次の日に旅に出たらしい。
おそらく俺を追っているんだろう。
会いたい。俺の大事な人。
だけど、出会ったら、俺は「魔王」、フィアは「勇者」として、戦う事になる。
旅をしながら、ずっと思い続けた。
俺は生きていていいんだろうか。
「…久しぶりだな、アンバー」
少し髭が生えた俺の前に、変わらない容姿のアンバーが現れる。
「…ジル王、頼まれていた物です。
カミソリ、マント、それと1週間分の食料です」
「ありがとう」
カミソリで髭を剃りながら言う俺に対し、アンバーが話し始める。
「…伝えてまいりました。
ジル王の居場所…を」
「ありがとう」
「…決心はついたのですか?」
「ああ」
「左様でございますか」
髭を剃り終え、カミソリを置く。
そして目の前の男の名を呼ぶ。
「アンバー=グレス」
「はい」
「…フィアに正々堂々と勝負を挑め。
今回は殺す気で、な」
「…わかります、彼女が自分を変えてくれるほどの力を手に入れたか…、それを図るのですね?」
「…生意気だな。家臣のくせに」
「その言葉お返しします。私より33歳も年下なのに…ね」
フッ、と笑うアンバー。
「…アンバー、最後までありがとう」
「いえ、私こそ、貴方様に仕えられて幸せ者です」
深々と一礼をするアンバー。
「では、ジル王。
…お元気で」
空間魔法で消えず、俺に背中を向け、去っていくアンバー。
その姿を見て、俺は頭を下げた。
ジルを追って1年。
1年間、血の滲むような努力をし続けた。
荒廃した村を見て、燃える城を見て、ジルはどう思っているんだろう…。そう思った。
彼の事だから、「俺なんて死ねば良いんだ」なんて思ってなければ良いけど…。
「フィアちゃーん!次の村行くよー!」
「あ、うん!」
遠くからローブを羽織った私と同じ年くらい女の子が叫ぶ。
横には、鎧姿の青年がこっちを見ている。
「ごめんね、二人とも」
私が勇者として旅に出ている中、二人の仲間が出来た。
簡単に言えば、魔法使いの女の子と戦士の男の子だ。
「…行こうか」
無口な男の子が言う。
「うん」
「良し!次の村へごー!」
テンションの高い魔法使いの女の子を先頭に村を出る。
「…魔物だよ!」
その言葉に、反射的に剣を構える私。
横でも無口な彼が槍を構えている。
数は1匹…、マントを羽織っている。
人間っぽい容姿だし、一人かな?
だけど、あの魔物…どこかで…。
「お久しぶりですね。フィア嬢」
聞きなれてはいないが聞いた事ある声で言う。
その言葉で動こうとしていた仲間たちがとっさに止まる。
「…アンバーさん?」
「覚えていてくれたんですね。1年ぶりです」
そこにはドラキュラの男が立っていた。
見覚えのある、優しい男だ。
「…誰?」
男の子が呟く。
「魔王の側近だよ。旅に出るとき、村で出会ったの」
「おっと、お仲間さんでしたか、私は『アンバー=グレス』。
ご紹介いただいたように、魔王様の側近です」
一礼するアンバー。
「で?魔王の側近が何の用ですか?」
杖の先を向けながら、女の子が叫ぶ。
「…ご安心を、戦うつもりはありません」
「信じられない」
即答する女の子。
男の子も槍を構えている。
「ならば、信じなくても結構です。
伝言です――――、魔王様は…『ミッテ山』の頂上付近に居ます」
その言葉と同時に、消えるアンバー。
「あっ!」
私が声を上げるが、もうどこにも彼の姿は存在しない。
「何なの?アイツ。
というか、なんて言ったの?」
「…『ミッテ山』の頂上、魔王が居るって」
「そうだね…、『ミッテ山』に…彼が…」
そう言って、私はかすかに見える『ミッテ山』を見た。
その6日後。
ミッテ山、頂上より50m下。
私は、そこに一人で立っていた。
やはり、この姿はジル王にも見ていただかなくては。
彼が恋する勇者の強さ、そして、おそらくだが…、私の最期を…。
山の頂上を見ると、綺麗な緑の山に1つの黒い点が見える。
「…アンバーさん」
振り向くと、そこには、3人の男女。
「…6日ぶりですな。勇者と、そのお仲間たち」
そう言う私は、懐の杖を構える。
「ここからなら、魔王様に見えます。
魔王様が頂上に居ます」
3人の表情が変わる。
「おそらく、貴方方の事も見えています。
見せてあげてください。魔王様を…、変えられるだけの力を!」
その言葉で、ゆっくりと剣を引き抜くフィア。
二人もそれに倣って、武器を構える。
「今回は、『手を出さない』とは言いません。
貴方方を全力で攻撃します」
――――ジル王、そして、今は亡き先代の魔王。
貴方方は、真に生きるために必要な物を見せてくれた気がします。
――――さようなら
最初は絶対に勝てないと思っていた。
だけど、いやだからこそ、血の滲む努力をした私。
仲間の援護もあって、その力は歴然だった。
「…っ!」
私の魔法で怯んだ隙に、彼から貰ったお父さんが使っていた剣で彼の胸を刺す。
目の前で体の力が抜けるアンバー。
「…やったか」
対して傷ついていない男の子が呟く。
「アンバーさん…」
「…非常に強い。お見事です。
魔王…さまを…ジル…王を…す…くって…――――」
彼の体から剣を抜き、地面にそっと寝かす。
「強そうな人だったけど、普通に勝てたね」
後ろで女の子が私に言ってくる。
「…うん」
元気無く呟く私に、女の子の手が肩に置かれる。
「…行って。私と彼は、ここでこの人のお墓を作って待ってる」
「…え?」
今まで旅をしてきた仲間なのに…?
「純粋で優しいフィアちゃん。
そんなフィアちゃんが、隠し事をしているんでしょ?」
横で黙ってみていた男の子も、近づいてくる。
「…余程の事だ。おそらく、魔王と、何か因縁があるんだろう?」
「…二人とも…」
「私達は大丈夫。全ての決着を、フィアちゃんの手に委ねるよ」
「……」
剣を鞘に納め、背中を向ける。
「…ありがとう!」
そして、頂上に向けて、走り出した。
頂上直前。
後10歩も歩けば頂上だ。
看板もあり、そこにも「ミッテ山・頂上」と書かれている。
足音が聞こえる。
流石に足音じゃあ、誰かわからない。
だけど…俺の予想なら…。
足音が止まる。
その足音の主は自分の後ろに居る。
息遣いが荒い。
俺は呟いた。
「…久しぶり、フィア」
彼がそう呟き、私に向き直る。
「1年ぶり」
そこには、何も変わらない、ジルが立っていた。
泣きそうになる気持ちを押え、語る。
「…ずっと、会いたかった」
「…俺も。
でも、会ったら終わってしまう。全てが」
そして、今日、俺とフィアは出会ってしまった。
腰から、1本の剣を抜き取る。
「…私は…、ジルとは戦わないよ…?」
「…仲間を連れてきてか?」
怒りの顔をするジル。
「いや、そんなつもりは…」
「…ここを二人で登ろう。その約束を裏切って…」
この時、私の頭の中は真っ白だった。
「…辛いんだ。
俺が居なければ、死ぬ命はなかった。苦しむ命もなかった。
…アンバーだって、フィアの親父さんだって」
今までの旅を思い出す―――。
俺は、何度そう思ったのだろうか。
「…終わりにしよう。
全ての悪夢を――――」
「…悪夢じゃ…無い…!」
精一杯否定するが、理由の無い否定では、彼を納得させることはできない。
「私は――――」
それ以上は言えなかった。
彼の放った火球を反射的に躱す。
次の瞬間、ジルの剣が真上に見えた。
私はとっさに剣を抜き、それを受け止める。
昔は、歴然とした腕力の差があったのに、今では殆ど差が無い。
俺の一撃を受け止めたフィアは、俺と距離を取る。
逃がさず2発目の火球を放つがあっさり躱される。
その後、連続で火球を放つも、殆どが躱される。
命中しても、決定打にはならず、おそらくフィアが倒れることは無い。
強い。昔よりも…いや、確実に今の俺よりも――――
火球を放つ。命中。
その隙を狙って、俺はフィアの胸に剣を突き立てた。
私の胸に迫ってくるジルの剣。
刺されば死ぬ。確実に。
怖い。死ぬのは、嫌。
そう思った瞬間、私の体は動いた。
剣を向ける、彼に。
そして、彼が向かってくる形で、それに突き刺さる。
「…嫌!死なないで!!」
私の膝の上で口を血で汚すジルが居た。
彼の胸には、私の剣が刺さっていた部分が真っ赤になっていた。
「…私は―――私は!」
涙がジルの顔に落ちる。
よくある物語みたいに、それで目を覚ますのがハッピーエンドなのに。
「私は…、自分を選んでしまった…!怖いと思って、自分の命を選んでしまった…!
あなたを愛する資格なんて無い!」
怖かった、死ぬのが。
彼を助けたら、私は勇者としての期待を裏切る。そんな自分が嫌だった。
「―――勇者なんて、私は大好きなあなたを救えなかった。
勇者なんて…、そんな資格無い…っ!」
ただひたすら泣くが、彼は目を覚まさない。
「…そうだ、ここは…」
1年前の約束。
ここの頂上での、愛の告白が永遠になる―――
彼の重い身体を抱き上げる。
頂上まで、10歩、その道を彼と共に歩く。
「…ジル、お願い!
頂上だよ!目を…目を覚ましてよぉ…!!」
彼は動かない。
「私…あなたの事が好きなの!
お願い…お願いだから…」
それでも彼は動かない。
私は彼を救えなかった。
私は彼との約束を守れなかった。
私は彼を…殺してしまった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
綺麗な夜空の中、彼女の泣き叫ぶ声が響いた。
だが、彼女は、そして、死したジルは、その役目を果たした。
世界の中心で、魔王が死に、その世界の空気が変わる。
誰もが、人も魔物も、全ての生物が、魔王の死を知った。
同時に、人の希望で、魔物にとっては殺すべき人だった、勇者―――フィア。
彼女が心の奥底から悲しむ。
彼女の叫びは、人が今まで抱いていた魔物への嫌悪を、恐怖を消すには十分だった。
そして、魔物もまた、人の優しさを知り、その心を改めた。
――――全ての人が、そして魔物が、救われたのかもしれない。
俺は…、これを望んでいたのかもしれないな。
フィア、お前は俺を殺したんじゃない。
俺の意味を示してくれた。
それだけで、俺は救われたよ。
俺は、そんなフィアが…、自分のためでなく、いつも人のため、使命のために戦うフィアが…
大好きだ。
ありがとう。
俺の大好きな人
THE END
駄文ですいません。
でも、この謝罪を読んでいる人が何人居るんだろう。
パクリのつもりはありませんが、他の著者様の小説を確認していないため、似ている等あるかもしれません。
今回の小説を読んで、もし、色々改善すべき点がありましたら、教えていただけるとうれしいです。
では、また、別の小説で会えたらと思います。