◆最終話◆帰還〜意外な事実〜
◇◇◇
それにしても安易だ。
こんなに簡単に済む事なのか?
ならば、この4日間って……本気で単なる観光だったんだろうか?
何事もなく、俺達はマンションの一室に案内された。
そして、俺の親父と同じ世界――つっても畑違いだが――に住む、とは云え一生縁を持てる筈も無かった大女優の部屋で、その大女優に面会を果たした。
う〜〜。ちょっと興奮してるかも。
メチャ心臓ドキドキして緊張してるかも。
彼女はゆったりと長椅子に腰掛けて、俺達を見上げた。
五百年間、大女優で在り続けた女の、流石の貫禄の笑みは天女のようだった。
「どうぞ。お掛けになって、王子様方。」
く〜〜〜〜っ!
めちゃめちゃイロッポイぜ!
感動かも。サイン欲しいかも。美人だなぁやっぱり!
腰を下ろした俺達の前に、甘い香りの飲み物が出された。
紅茶………だろうか?
ティー・カップに入ってるし?
「あちらのお茶ですわ。こちらにいらしてからは、お飲みになれなかったでしょう?」
うっ。
アヤしい。
ちょっと飲むのを遠慮した俺だった。
ルゥイは平然とカップに口を付けている。尊大な態度も、この気品も、こうして見ると、王子サマらしく見えない事もナイ。
「で、どちらがルゥイリア殿下ですの?」
「…………俺だが。」
ルゥイが不審そうな眼差しを大女優に向けた。
何か変な事を云ったか?
「判らないのか?こいつはパートナーだ。」
「………。まさか、人間だとでも?」
「そうだ。………と思っていたんだけどね。」
二人はじっと俺を視つめた。
もしもし?
オソロシイんですけど。
この際、ルゥイが俺を視界に映した途端にエラソーな口調を、少しばかり砕けた物云いに変えたのは不問としよう。
こいつ、まだ多少は猫を被ってやがったな。
残っていた猫の存在にウンザリした俺だったが。
そんな事とは知らない大女優が、少し首を傾げて云う。
「私の所にいらしたのですもの。何かトラブルがお有りなのでしょう?」
トラブル係なのか?
日本が誇る大女優が、異界人のトラブル解決係とは知らなかった。
世の中奥が深いぜ。
けれど大女優はもっと奥が深い事を云ってくれた。
ルゥイが簡単に事情を語れば。
「……まさかとは思いますけれど。本当に何の意味もなく、こちらの人間の前に出たと、お思いかしら?」
「違うとでも?」
ルゥイの眉が上がる。
お〜〜い。何だよ、その会話は!
「……リー家の香りがしますわ。だから判りませんでしたの。」
そして。
ナリカの説明はこうである。
たまたま跳ぶ時の事故で地球に来てしまったのは、リー家の血が、リー家の人間がよく通るゲートに反応した為だという推理に間違いは無いだろう。
その場合。
普通は直前にゲートを利用した、リー家の後を辿る筈だ……と。その相手の近くか、でなくとも、相手の位置を気配くらいは辿る事の可能な範囲内に出現する筈。
それが無理な程の、過去や未来には、そもそも跳ばされない筈だと云うのだ。
筈、筈、筈と微妙なんだか頼もしいのか、よく解らねェな。
「途中に別のリー家の人間が居たから、軌道がズレたんですわ。」
「……つじつまは合致する様だな。」
合わさないで下さい。
俺は人間!……の筈なんですってば。
何か、イヤな会話だ。
俺は平凡を愛しているのに、ルゥイに逢ったせいで、今度は異世界人扱いかよ?
そりゃいくら何でも酷いってもんだろう。
「本人、ご存知ないようですけれど。」
と、俺をしげしげと視つめる大女優。
こんな場合じゃなかったらウキウキなんだけどな。
「よく判るな?」
「一応、この世界では演じる事を仕事にしておりますから。多少、読み辛いのは確かですけれど………表情が余り動かなくとも、その程度なら。少々、驚いてらっしゃるようですもの。」
いや。驚愕してます。
少々どころか阿鼻叫喚だ。
余計な事は良いから、さっさとルゥイ異界に帰して、俺は忘れる事に決めよう。
うん。要らん。そんな事実。
「割と血が濃いようですから、ご両親のどちらかが、リー家のご出身だと思われますわ。」
「ふうん?そう云えば二人とも唯人にしてはキレイだ。特に父親は、何か変な感じがしたな?」
「お気付きになれなかったのは、チカラが本来の状態ではない所為ですわね。」
勝手な話を進めるんじゃねェ。
俺は内心で悪態を吐くくらいしか出来なかった。
その悪態も、ちょっと力無い。人間のつもりで生きて来たのに、実は違うんです、って?納得出来るか莫迦野郎!
「では、その方に御依頼なさった方が宜しいでしょう。私がお帰しすると、それなりに外交的処置が持ち上がりますし。実は手一杯なものですから、一ヶ月ばかりお待ち戴くようになりますの。」
「………一ヶ月。」
呆然と呟いてしまった。
それは、非常に不味いだろう。
俺の神経は4日で破綻寸前だぞ?
それを更に一ヶ月って!
「別にそれでも構わないけどね。確かに必要ない金なら遣わずに済めば、それに越した事は無いな。」
別にルゥイが散財しても、俺の懐が痛む訳ではないが。……と云うより嬉しいくらいだけどさ。こいつが損するなら。
しかし。
一ヶ月のオマケ付きは戴けねェな。戴けねェよ。
「そうですわね。リー家の人間で、今こちらに永住している人物など、そうそう居るものではありませんもの。つまり……」
「口止め料替わりに頼めそう……かな?」
二人は共犯者の笑みを浮かべて視つめ合った。
「ちなみに、リー・シェイディでもリー・ディストミラルでも無かったのでしょう?」
「違った。こいつはともかく、父親にディストミラルの血は無い。アレは、噂に聴いた、失踪者だな。」
何だその……ともかくって。ついでに親父?もう何も聞きたくない俺だった。
だが、ちらりとナリカが俺を見て。
ニッコリと笑って云った。
「あなたのお父様って、シェン・川崎でしょう?」
何で知ってるんだぁぁぁぁぁ!
クッソゥ!
この流れでこう来たら、本気で俺は人間じゃねェのか!?
親父!!
許さん!!
「やはり、余り動揺してませんのね。ショック?と云うより、怒ってますの?表情が読み取り難い方ですわね。」
感心したようにナリカは云った。
「ああ。こいつの父親は歌手だったな。そう云えばリー・エディス・シェンは歌が上手だったと聞いた事もあったか。」
「ええ。昔から良いお声でしたわ。まさかエディスの総領息子がエリジュアスを離れて結婚も出来ないでしょうに。あっさり駆け落ちなさって、今ではアーティストと呼ばれても………単なる歌い手ですもの。」
「それも、リドマークの姫君の台詞とは思えないけどね。」
その女は役者なんぞをやっている。
人の事を云える立場かと、ルゥイの眸が告げていた。
「うちは、兄妹そろって変わり種ですの。」
「蒼月の利夜を変人扱い出来るのは、あなたくらいだろうね。」
クスクスと笑うルゥイは楽しそうだ。
楽しそうだが……。
気に障る。
元はと云えばこいつのセイだ!
“ガツン”
俺は立ち上がるり様に、ルゥイの後頭部を殴り倒した。
「………っ!いつもいつも。気安く殴るなっ!何か恨みでも有るのかっ!?」
「有るに決まっとるわっ!このボケッッ!!!」
むしろ、恨みしか無いと云えるだろうよ。
大女優は少しばかり………呆気にとられた様子だった。
☆☆☆
「父さんは?」
帰るなり開口一番尋ねると、母は首を傾げた。
「さあ?明日迄には帰るんじゃねェの?」
「…………そう。」
どうでも良さそうに応える母に、いつもは何とも思わない俺だった。が、ちょっとは思う。もう少し興味持ったれや。一応愛しいダンナだろう!?とかな……これが本当に駆け落ち夫婦なのかよ。
ナリカ・ナルミ……情報ミスじゃねェの?
「珍しいな?苦手なんじゃないのか?」
「用がある。」
「ふうん。」
俺達の会話は短い。
代わりにルゥイが愛想を振り撒いて、少しばかり親子の会話を繰り広げた。
まいったな。
さっさと帰って来ねェかな。
あ。Boxつなげば良いのか。
連絡したいなんて、初めての事だから思い付かなかったぜ。
俺は自室に戻ってから、Boxをポケットから取り出した。
スルッと小さな美女がカードの上に立つ。
「誰に?」
「親父。」
「オッケーオッケー!珍しい事もあるものねェ!」
豪快に笑ってカード内に引っ込んだ。
何でこいつ、こんな美人なのにこうかな?
いつも思うが、人格設定間違ったのか俺。
「少おし待ってね。ミーティング、もう少しで終わるらしいから。」
「どれくらい?」
「10分かそこらみたいよ。」
そして十分を過ぎた頃、親父から折り返された。
美女の言葉に頷くと、美女は親父の姿に変わった。
「どうしたんだい?珍しい事もあるもんだね。」
「………ルゥイが人間じゃねェって、知ってたな親父。」
三度も云われた台詞は、敢えて無視した俺である。
薄情息子って言葉が脳裏をカスめたが、知った事ではなかった。
今大切なのは
「人間じゃないとはヒドイなあ。恋人だろう?」
「誰が恋人だっ!?」
呑気な台詞に怒鳴り付けると、親父はキョトンとしている。
「違うのかい?」
脱力。
そうだな。
こういう奴だったな。
だから関わりたくないのに。
「リー・シェン。俺は事故でコチラに跳ばされてね。酷く難渋してるんだ。出来たら送り返して貰いたいんだが。」
「…………………事故?」
ルゥイに代わると、親父は呆然とした。
そして。
「すぐ帰る。」
俺が見た事もない、真剣な顔で云い捨てて、姿を消した。
乱暴な切り方は、親父もショックを受ける事が有るのだと教えてくれた。
☆☆☆
「それで?君は、俺を連れ戻すつもりなのかな?」
初めて見る顔だな。
冷たい笑みを微かに浮かべた親父は、何か別人のようだったりする。
妙に真剣な眸をして、帰って来るなり云った台詞がこれだ。
ルゥイは例の見下し顔で云い返す。
「俺はリー家の事情に口を挟むつもりは無いね。君が希んだとしてもゴメンだ。」
その言葉に親父は少々戸惑い気味だ。
「君は……リー家の人間じゃあないのか?」
「フライサのテンの王子だ。君が家を出た後の事だから知らないだろうが、白で蒼位を戴いている。」
それに何の意味が有るのかは知らねェが、親父には絶大な効果があった。
固い表情が解けて、ホッとしたように口調も和らいだ。
「そう……でしたか。」
良かった……と続けて、口元が緩んだ。
「どうりで偉そう……いえ。」
親父……。聞こえてるぞ。
だがルゥイは気にしなかったようだ。
「そう。俺がエラソーなの事に不思議はない。偉いんだからな。」
ルゥイ………お前の性格って、やっぱり。
親父もちょっと驚いたみたいで
「そうですか……。」
などと、マヌケ以外の何物でもない呆気にとられた表情で、相槌をうった。
返事のしようが無いのは解るが……、やっぱり親父には真面目な顔を長く続けるのは無理なんだな?
しょせんボケボケな父であった。
これが俺の親父かと思うと、複雑な心境にもなろうと云うものだ。
「ああ。じゃあ……取り敢えず、私の事は秘密にして戴くと云う事で。」
「ま、そういう事だな。」
あっさりと。
取引成立とばかりに。
話は纏まった。
ちょっと待て。
そこ迄、簡単に済むのか?
俺の苦痛の4日って………。
「洋。俺は本来の姿に戻る。」
「戻れば?」
何の気無しに応えた。
何を今更云うかな…とも思った。
当然の事だとも。
でも。
イキナリ戻るか?驚くだろうが!
ホントに。
一瞬の事だった。
俺の一言が終わらないくらいの間に。
サラリ。
波打つ青銀の髪。
クリーム色の滑らかな肌。
しなやかで………美しい天使。
瞬く眸は不思議な紫。
俺が、一目惚れした天使と、翼がない以外まったく変わらぬ姿である。
当たり前だが。
「ああ……やっと戻れたな。やっと帰れる。」
そう云って。
悪魔かおのれは!?って云いたくなるような、性格の悪さが滲み出た笑みを浮かべたが。
やっぱりキレイだ。
何かやだ。コイツ。
クソッ。最初に一目惚れしたのが敗因か?
帰るから……かも知れない。
もう、居なくなるから、少しだけ、正直に見る事が出来る。
すっげェ迷惑な奴だったけど。
エラソーでイヤな奴だけど。
思いっきり振り廻されて、二度と来んなって思うけど。
でも。
キレイ………だよなぁ。
溜息を……ついてしまった。
「では。」
「うん。」
と親父が云う。
ルゥイが親父に頷き、俺を振り返る。
「洋。吉岡夢美によろしくな。」
「……お前はなあ!っ……………。」
怒鳴り声は、尻切れトンボになった。
消えて。
しまったから。
嘘だろう?
ルゥイが来た時の事を思えば、不思議はないのかも知れない。
でも。
こんなにアッサリと?
俺が殴る間もなく。
怒る間もなく。
掻き消えてしまった。
「………すげェ。」
手品じゃないんだから。
これは少し……ひど過ぎる。
余韻もヘッタクレもない。
バッサリ……切り捨てられた気がした。
異世界に帰れって、本気で思ってたのに。
いざ帰られると、呆然としてしまう。
「びっくりした。」
呟いた俺に、父は笑う。
「また逢えるさ。」
「…………………それは……。」
イヤだ。
多分。
逢ったら、多分イヤだと思う。それは迷惑でしかない。
もちろん、それは気休めで、逢える訳も無いんだが………何が一番イヤって、万が一にも再会して、どんなに迷惑して怒っても、また……別れる時にはショックを受けるだろう自分が、めちゃめちゃ、ヒジョーに、すこぶる、イヤッ!!なんである。
まあ。
一度キリなら、人生には面白い事があるのね?で済ませられるって事だな。
☆☆☆
そして。
日常が戻って来る。
いつも通り朝が来て。
ルゥイの居ない、日常がある。
母はルゥイの事を覚えてなかった。
父は知らないフリをしていた。
何だかなぁ。
そして。
学校に行っても、誰にも、何処にも、ルゥイの影はない。
俺の隣の席には、4日前迄とは違って、それ以前と同じように、田町が座っている。
「…………謎だ。」
呟いた俺を、不思議そうに見上げる友人に、俺は首を振り、何でもない事を伝える。
何で机が増えたり減ったりするかな?
魔法って何でもアリなのかよ?
イヤ、増えたのは転校生の為に運んだんだから、イキナリ消えたのが問題なんだよな。
悩みつつも、俺は端やんの力作をスラスラと解いてイジメてやるし、友人達と弁当を食べたりする。
女の子にラブレターを貰って、嬉しいと感じたりもする。
平々凡々と時間は過ぎて行く。
そして。
部活では、この女に纏わり付かれるのだ。
「川崎ィ。元気ない?」
無視。
「何か悩んでるの?」
無視だ。無視。
白い手が、搦め捕るように本を取り去って、俺は初めて顔を上げる。
「邪魔をするな。」
「留衣くんのセイかな?」
「…………。」
ガク然……とした。
コイツって一体?
動揺しまくった俺だが、多分他の連中には判らない。俺は己の鉄壁な無表情に感謝した。
しかし、父親が人間では無いと知った俺に怖いものなどあろうか?
無い。
「よろしくと云っていた。」
今になって、この台詞の意味が解る。単なる嫌がらせでは無かったって事だな。
「そうお?川崎ってば相変わらずねェ。驚いてくれても良いのに。」
充分驚いとるわ。
驚きすぎて、どっかオカシクなったかと思う程だ。
世の中ってマジに侮れねェな?
「ねェ川崎。もしかして知ってた?あたしが人じゃないって。」
「知らん。」
まあ、普通の人間だと思った事もないが、だからと云って異界人と部活を一緒にしているなどと、一体誰が想像するかってんだ。
「ふうん?じゃあ、留衣くんの事、知ってて黙ってる人が割と居るって事は?」
「知らん。」
つうか……マジか?
誰だよそれ?つうか割と?割とってどれくらい????
もはやパニック。
「例えば誰だ?」
知りたいような知りたくないような。
ちょっぴり怯えつつ、俺は尋いた。
吉岡夢美は愛らしく首を傾げた。
「ん〜?そうね、田町とか?」
「……アレも異界人だと?」
ガキの時から連んだ親友まで異世界生物?つうか、俺が云えた義理じゃねェけどよ。
どんよりした俺に吉岡は首を振る。
「やあね、田町はドール持ちじゃないの。しかも本物のドール持ち。普通の人間があんなに高い階梯な訳ないでしょう?」
待て待てまて!!
詰め込み過ぎだぞ!吉岡夢美!
ツッコミどころが満載だ………普通の人間?
いやいやいや…ちょっと待て。
整理しよう。
本物のドール持ち?
「なら偽物のドール持ちが居るのか?レプリカでもなく?」
「レプリカはロボットでしょ。ちゃんと契約してなきゃ意味がないもの。田町みたいに階梯変わった人はまず本物ね。」
「ドールが、何かするとか?」
「うん。確か田町って小さい頃ドールに治して貰ったんじゃない?」
そうだ。
それまでは、Boxと家の中しか知らなかったと云う。
「ドールは人間が好きだから、例外は居るけど…普通聖野や私達とは関わらないわね。だから田町は地球人。」
聖野も何か有るのか?つうか私達って何だよ……吉岡夢美と同類項って、有り得ねェだろ。
「本物のドール持ちは第2階梯以上よね。特に田町なんかは相当強いかな。何たって私達と同じ第4階梯だもの。」
無邪気に、だが、他の部員に聴こえないように、吉岡は云う。
再度、俺は動かない表情に感謝していた。
でなければ今頃、相当醜態をさらしていたに違いない。
今になって思い出す。
『ノーマルタイプに干渉は赦されない』
あの野郎。
知っててバックレやがったな。
ふつふつと、怒りが沸いた。
吉岡が咽の奧で、猫のように笑った。
「フフ。だから川崎って良いのよねぇ。私ねェ、動じない男が好きなの。」
前言撤回しよう。
俺は自分のポーカー・フェイスが恨めしいっ!
何でこんな奴らに係わり合わなきゃならねェんだ!?
こいつもまた知りたくも無い事情教えてくれやがって!!!
俺は怒りのまま立ち上がる。
「吉岡夢美。」
「なあに?」
「俺に近付くな。」
「どうして?」
どうして?
どうしてだと?
あれだけ云った俺に、尚こいつはそう云うのか。
たった4日の間に、俺は何度告げただろう。
覚えていないからと大目に見ていたら、ちゃっかり覚えていて、しかも、人間ではないと云う。
そんな女は。
「嫌いだからだっ!」
そうだ。
嫌いだ。吉岡夢美。
何度でも云ってやろう。
頼むから気付いてくれ。
俺は。
「心の底からお前が嫌いだ!吉岡夢美っ!!俺の傍に寄るんじゃねェっ!」
初めて。
俺が吉岡夢美に怒鳴ったのを見た奴らが、一斉に部室ね隅にと退いた。
確かに田町は余裕そうだな。
それが普通なのか、見慣れたからかは、俺は知らん。
知りたくもナイ。
「虫ずが走る程っ!寒気がする程っっ!!世界中の誰よりっ!キ・ラ・イ・ッなんだっお前がっ!」
「そうお?私は川崎が好きよ。」
怒鳴られてる奴が、語尾にハートマーク付けて喋るんじゃねェ!
つうか。
「少しは俺の話を聞けっ!!!」
ルゥイ。
俺は、やはりお前とは再会したくない。
こんな日常で、お前にまで付き合うのはゴメンだ。
キレイな、キレイな、天使を夢見て、俺はたまに切なくなるかも知れない。
それでも。
俺は決して、お前に逢いたいとは思わないだろう。
…………出来たら。
こいつにも、帰って欲しいな異世界へ。
そう思いつつ。
もし、本当に帰ったら。
また。
俺は、寂しいと思うのだろうか?
そんな事を考えた。
その日。
部室の中で叫ぶ俺は、もう一人の天使に捕まった自分を知っていた。
世の中って。
あなどれねェよな。
まったく
☆☆☆