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◆7話◆行動〜帰還日は結局いつだよ?〜

◇◇◇


 何故、街に出るのか?


 それはルゥイの希望である。

 昨夜、Boxを眺めつつルゥイは云った。


「これ、試したかったけどな……。」

「そう云えば、チチンプイで出さなかったな。」

「……チチンプイはやめろ。」


 嫌そうに見据えられた。

 すぐに視線を俺のBoxに戻して嘆息した。


「長期の滞在なら、一応支給されるんだが……それでも申請時の注意点とか半端ないんだぞ。」

「………。」


 何でまた?

 所詮デジタルじゃねェの?そりゃ、人類の半分近くはBoxの世界しか知らないけど……生身はそれぞれ別の場所に存在するんだし。

 正直、リアルに紛れ込まれる方がビビるんだが。

 疑問を提示しようとした、その時。ルゥイは云ったのだ。


「帰る前に入って見たかった。」

「良かったら使うか?」

「えっ?」


 是非使え。そして帰れ。うん。俺は全然構わない。

 ルゥイは呆然としている。


「や…でも……ホントに?」


 あの厭味な顔付きが、うっかり天使に戻って、ちょっと中身が中身だから嫌あな感じがした。


 コレに惹かれるのは……ちょっと…………。


「でもこれ、パーソナルデータ、ダダ漏れになるんじゃ……。」

「あ、平気。俺Box殆ど入らねェから。多分誰も俺じゃないとさえ気付かねェ。」

「………そんな莫迦な……。」


 だって、Boxでは実際の顔とは限らねェし。

 何たって俺はBox内データ、リアルで誰にも渡してねェもんよ。

 放出禁止してるし。

 一応、アッチの学校にも在籍してるが……なんと一度も出席してねェんだな………って。


「ちょっと待て。」

「やっぱりダメだろう?」


 寧ろ安堵したかのようなルゥイ。

 ちげェよ。


「俺がBox通学するって云った時は、お前も行くって云わなかったか?」

「…………。」


 云ったよな?うん。俺は聞いた。


「……もしかして、お前に付いていくなら、特別許可が出るかも?」


 可愛いフリなんぞ、今更利く訳ねェだろ。


「もし?」

「試す価値は有るかなあと?」


 ん?やっぱり連絡は出来ないのか?


「さっきは支給とか云わなかったか?その場合はどうやって手配するんだ。」

「…………お前の云うチチンプイで。」


 魔法かよ。

 もしかして?が付く魔法って……怪しい超能力みたいじゃね?


「ダメな場合はどうなるんだ?」

「………多分、死にはしないと……暫く寝込むとか…かな?」


 こいつ。

 結構………。


「お前って、自分の世界では、もしかして学者とかそういう系?」

「そういう系とか云うな。……何で解った?」


 うん。

 何か、自分が興味持ったものに対してはスゲー莫迦なところが、学者系。


 それにしても異世界人に言語の乱れ指摘されるってどうよ?

 知ってて乱してんだから良いんだよ。放っとけや。


「で、使うの?使わないの?」

「…………………つか………う…わない。」

「……それ、どっちだよ?」


 呆れた。

 尚も一人葛藤するルゥイが不気味だった。


「……いや……………でも………やっぱり。」


 まあ勝手にしろや、と放置したら、結構な時間が経過して返却された。


「使わねェの?」

「ノーマルタイプに干渉する事は禁忌だ。」


 きっぱり云って、Boxカードを俺の胸ポケットに勝手に突っ込み、その癖……未練たらしい顔。


「ノーマルタイプ?その区分けだと、俺とか学校の奴らは何になるんだ?」

「お前らはレア種だろう。」


 はあっ?

 いや、2階梯からリアル許されるんだぜ?

 そりゃ2階梯の奴らは、あんまり登校しないけどよ。

 レアって。


「千年前なら、みんな表に居たから、接触くらいで煩く云われる事もなかったらしいがな。……まあ俺は人間なんかより、このシステムが気になるんだが………地球独自のシステムだ。」


 と俺の胸ポケットを透視してBoxカード見てるんじゃ?って熱の篭った眼差しが凝視する。


 う。今カード持ちたくないかも。

 何だろう?こいつの眸って、アレだよ………時代劇とかで見る……オタク?みたいな。

 確か昔の日本にはアキハとかアキバとか云うオタクの聖地があったとか……歴史の授業ではアキハバラが有力な説だったか、ちょっと眉唾なトンデモ系の歴史な割に、研究する奴らは大真面目だ。


「まあ良い。システムはともかく、表は大分観光したし、そろそろ帰る手配をしよう。」

「観光……したか?」


 いつの間に。

 と、思ったが。

 ルゥイは重々しく頷いた。


「ああ。学校などは千年前の日本を模した状態だと云うしな。興味深かった。」


 だが、そんなものよりシステムが……と云いたげな眼差しが、実はかなりの執着を示して、ちょっと怖いんだが。


 パルスの世界に関わる事くらい、リアルに紛れ込むよりマシじゃん?等と、純粋に云えなくなりそうだ。


 アッチって実は知識と技術さえあれば、割と何でもアリらしいからな。

 階梯が高くても、Boxにしか出掛けない奴が存在するらしいが、そいつらは大概かなりの違法ショートカットを駆使すると云う。

 俺には解んねェ世界だが、ルゥイはもしかして………その手合いなのかも。俺のBoxで犯罪はやめろ。


 やっぱり使われなくて良かったかも知れん。


「お母さんと一緒に買い物も行った。人込みが無いのは仕方ないが、アレもデータで知るレトロ仕様で中々面白かった。」


 あの母と買い物?

 それこそ、いつの間に………。


「取り敢えず満足したから帰る。」


 ああ、そう。

 何だか色々情報入って、ルゥイ帰還の喜びが湧かないが……いや、良い事だよ。俺は大歓迎だよ。

 しかし。


「どうやって?」

「……聖架プロダクションという会社に行く。案内しろ。」


 命令かよ。

 つうか何で芸能プロダクションだよ?

 出し抜け過ぎる。

 高笑いして「諦めろ」と云われた時は、まだまだこの生活が続くのかとガク然としたもんだが……、どういう心境の変化だ?つい先程の事だぞ???


 それとも……単なる嫌がらせ発言だったのか。有り得るな。

 俺はため息を吐いた。

 帰ると云うのだがら、もう考えるのはよそう。こいつに振り回されるのも最後かと思えば、耐えられる。

 そう思って、俺は黙って頷いたのだ。


☆☆☆


 ルゥイの説明によると、彼等の仲間が日本に滞在する場合、その容姿の美しさから、モデル等を仕事に選ぶ安易な人物が少なからず居るとか。


「よく来るのはリー・一族で、彼等の場合は、恋愛済ませたらさっさと帰るし、自分勝手な奴らなんで、プライバシーが保てない仕事なんて滅多に選ばないけど……。それでもキレイな人間が多いから、興味は持つようだ。」


 どうも面食いの集団であるらしい。


「キレイってのは凄く価値のある事だ。チカラそのものだよ。心も躯も能力も、総てが美しければそれだけ素晴らしいんだ。」


 彼等の価値観は、美に重点が置かれている。

 そもそもリー一族とやらの血を引く故に、跳び間違えたと云うルゥイである。リー家の人間と違って、処置をしてないからパートナーなしにはチカラも使えず、それも限定されるとか。


「処置って?」

「色々と。元々リー家の奴らは、チカラの抑制を覚える為にこっちに来るんだ。人間と交わる事で、道を作って開放する。気の高ぶりが、そのままチカラを暴走させる彼等が、恋を覚えて生まれた時からの心の枷を取り除く。それでも大丈夫なように、お目付け役と一緒に来るんだが、星ひとつ潰しかねないチカラだから、暗示に近いものが掛けられている。」

「………。」


 長々しい説明をされたが、全く解らん。

 もう少し簡単に云えねェのかよ。


「俺はこっちに来なきゃならない程、リー家の血は濃くないし……つまり、チカラの有無じゃなくて、仕来たりなんだけど。だから、カギが心に無いから、こっちではそのまま、リー家の血に反応した掟が躯に負荷を掛ける。」

「どういうんだ、その掟って?」


 首を傾げた俺に、ルゥイは笑う。


「うん。地球そのものに掛けられた魔法。リー家の奴らは、その魔法に引っ掛からないように処置して来るのさ。魔法は地球を護る為のもので、それが無ければ、こっちの世界が危険な程の暴走を招きかねないチカラを、俺が有してるって事だね。」

「………。」


 つまり、ルゥイが暴走したら、地球が破壊されちゃうかも?でもって、そのチカラが大きいと、掟が適用されて安全弁が発動する?

 納得しかけたのに、ルゥイは更に難しい事を云う。


「でも俺は心のカギが無いって云ったろ?つまり、俺にとってはリー・一族がこっちで学ぶ事は既に修得済みなわけ。」


 解る?と云われても。

 俺は考えつつ解答を導き出す。


「つまり……お前にとって、その安全装置は要らん事でしかない?」

「正解。」


 一種のセーフティーの役割をする、地球が持つ魔法は、リー家の血筋に反応する。そのチカラの大きさ次第でセーフティーも強く作用する。それに引っ掛からない様に、処置をしてリー家の人間は来る……そのセーフティー代わりとなるお目付け役と一緒に。


 安全弁など無用でしかないルゥイが、何の準備もなく跳ばされて来て、その装置に引っ掛かった。それで、リー家のお目付け役と同じ様な役目として、パートナーが必要だ………と、そういう事か?


 こいつは説明が下手だな。


「お前……自分の考えや知識を、人に伝える術を学べ。」


 やっと今迄の事態を納得した俺に、ルゥイは非常に嫌そうな顔をした。


「莫迦と語る趣味は持たない。」

「………。」


 謙虚さも学べ。


 俺は心の底から思ったが、まあ良い。

 こいつはもうすぐ帰るんだ。


 まさに今。帰る手配をしに街に出たところじゃないか?こいつの周囲の人間達には気の毒だが、こいつは帰還するのだ。

 あと少しの我慢だ。


 いや……。

 ちょっと待て。

 だが手配?とやらをしたとしても、実際に帰る迄にどれくらいかかるかは不明だと気付いた。


 何て事だ……うっかりにも程が有る。


 ガク然。

 立ち止まり立ち尽くす俺を、ルゥイは不審そうに振り返り、すぐ納得したように頷いた。「ああ、ここか。」


 いつの間にか到着していた。


「ルゥイ。」

「何?」

「今日手配したら、帰還日はいつだ?」

「さあ?」


 さあ?さあって?さあってどういう事だよ!!!


「早ければ明日かも知れないし。一年後かも知れない。交渉と便次第だろう。」


 かなりな衝撃だったが、手配しない事にはルゥイを帰還のルートに乗せる事すら適わない。

 俺は深く嘆息した。

 諦めるな、俺。

 ルゥイに任せきりにせず、総てを見て、口出し出来る場面を見逃すな。


 もしかしたら。

 本当にすぐにルゥイは帰るかも知れないじゃないか!!

 日本最大の芸能プロダクション。聖架プロの前で、俺は自分自身を鼓舞した。


「やっぱり入るの?」

「来るっつったのはお前だろ?」


 俺は気の進まない様子のルゥイを、有無を云わさず連れてビルの中に入った。

 受付で親父の名前を出して


「身内です。此処にいるって聞いたんですが。」

「第2会議室ですね。お待ちになりますか?」


 Boxカードで身分証明すれば、丁寧な応対をされる。

 まあ俺は階梯だけは高いからな。


「いえ。忘れ物頼まれたので。」


 エレベーターの中で、ルゥイは俺を詐欺師と称した。

 やかましい。


「それより、大丈夫なんだろうな?」

「大丈夫だよ。聖野グループの芸能部門って此処の事だろ?」


 その通り。

 だが、それだけに…俺と列ぶ階梯持ちも居るぞ………。ルゥイの言葉なんか知らねェとか云われたら、いくら俺でもヤバイ気が。

 だが、ルゥイは当然のように自信に満ちている。


 しっかし、本当か?

 聖野グループのトップと、ルゥイの世界は交流があると云う。

 そして此処の社長は、ある種の連絡ポイントだと云うのだ。


「大丈夫だよ。これでやっと帰れる。」

「………。」


 その台詞。もう少し、努力見せてから云えや。

 あっさりと云われて、言葉に詰まる。

 それを望んでいたのは俺だ。

 早く帰りやがれとも思う。


 だが、もしも明日ルゥイが帰れるとしたら、それは随分と……呆気ないような、そんな気がするじゃねェか。

 ………いや、騙されるな俺。さっきの「さあ?」を忘れたか?それとも、一貫した嫌がらせ発言の続きなのか?

 もはや、俺には判断がつかない。


「こんにちは。エリジュアスの者です。」


 社長室に入った途端に、ルゥイはそう云った。

 広々とした部屋は、ホテルの一室のようである。


 振り返った青年は多少険のある色男だ。こういうのを美形って云うんだな……と思わせる。モデルか何かなら、顔を知っていてもおかしくは無い筈だが。

 どっかで見たように思いつつ、どこで見たかと首を捻ってしまう。


「林さん。今日は……その。」

「良いでしょう。明日にでも来ますよ。」


 林…清親だ。この世界…芸能界の天才と噂される男。と、云っても自ら芸能人を名乗ってもおかしくない美貌だが、裏方としての才。スターを育てる才、仕掛け人として、の天才だ。

 親父が云ってたし、確か雑誌でも見た。世界的に有名なモデルの、トール・サキヤのマネージャーでもあるとか。


 林さんは、ドアに手を掛け乍ら俺を見下ろして。


「モデルになるつもりが有るなら、連絡をくれ。」


 楽しそうに云って、出て行った。

 あんたの方がよっぽどキレイな顔してるじゃないか。そう云いたかったが、シャイな俺は無言で聞き流した。

 それにしても、ルゥイではなく何故俺なのか。


「ええと。」


 遠い目をする社長サン。

 何だか気の毒だ。


「エリジュアスの……。」


 言葉を続けつつ、何でこんな事に付き合わねばならないのだろう……と、その顔に書いてある。


「そう。比奈瀬・ウィドマーク・那利香姫と連絡を取りたい。」


 とぼけたフリしてないで、さっさとしろとばかりの態度でルゥイが云う。

 エラソーな態度に、社長は多少ムカついたような目付きでルゥイを見やる。


「お名前を伺っても宜しいかな?」

「惑星フライサ。北国転ホッコクテンの王子。ルゥイリア=シー=カイリァス。」

「…………左様で。」


 再度、遠くを見つめた社長サンの気持ちが、俺には良く解る。

 非現実すぎて、ついてけないんだよな。

 それでも黙り込んでばかりも居られないしさ。


 社長も諦めた様に嘆息して、机上に手を伸ばし、通信機のスイッチを入れた。


「ハイ社長。どちらにお掛けかしら?」


 金髪美女が立ち上がる。社長……割とミーハーな人だな。


「成見さんに、連絡を取りたいんだがね。」

「あらあら、女王様に?そう云えば日本に帰ってたかしらね。ちょっと待ってて。」


 テーブルの上を小さな美女が横切って、携帯にも便利なTelBoxに入り込む。


「お久しぶり。声だけで失礼するわ。何の御用かしら。」

「ああ。エリジュアスのお客様がいらしてるんですがね。」

「………どちらの国の方?」

「フライサの北国テンの……王子様らしいんですが。」

「………お連れして。誰か案内をお願い。家に……いいえ、マンションの方に帰るわ。」


 会話は短かったが。


 これって、成見那利香だよな?

 柔らかいトーンの、独特な声。上品で、優雅で、女王様みたいなカリスマだと有名だ。

 大女優のナリカ・ナルミ。

 もしかして逢えるのかな?

 ちょっと期待してしまうかも。

 ドッキドキ。

 ミーハーな俺だった。


☆☆☆


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