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◆6話◆行動〜その前に日常〜

◇◇◇


 ルゥイが云い渋ったのは2点。


 セックス問題と恋人発言だ。

 まあ、気持ちは解る。

 つまるところ、奴は俺とベッドで仲良くしたくないのだ。恋人にだって当然なりたくはあるまい。


 そんなのは俺だって良く解る。

 誰が男とそんな仲になりたいかって云うんだ。

 ついでに、だ。

 俺にそれを云いたくなかった気持ちも、認めたかないが、理解しないでもない。ケダモノ行為に及んだ俺が、しょっちゅう引っ付かれてるより、一発やっちゃえっ!てな考えに走らないとも限らないと、ルゥイは警戒したんだろう。


 俺の自業自得と認めよう。


 そこ迄は百歩譲るとしてもだ!

 ムリヤリ云わされたからって、そこ迄怒るなよ。イヤ、怒るのは当然の権利と認めてやっても良い。

 答えたくない質問だったろうからな。

 パートナーだと俺を呼んだ後で、恋人になら秘密を告げられる等と云いたい方がおかしい。想像せずにおれないからに決まってる。

 俺のケダモノな行動はルゥイに安心しろよとは、とても云えない代物だったと自覚している。


 し〜か〜しだ!

 やり方が汚いだろう。

 俺は母に蹴りを喰らった後、朝食も抜かれた。

 非難に満ちた視線を、父親から浴びせられた。

 母は涙を浮かべた弟を抱きしめて


「メチャ可愛いぜっ!」


 と愛情を深め、俺に対して非情になった。

 元々、愛想のない俺は、母の愛情を刺激しない息子なので尚更なのだ。

 父は母に似た俺の顔を愛しいと云うが


「女の子じゃないから。」


 どうでもいい、と云う。孤立無援の可哀相な俺なんである。

 マジ哀れだぞ、俺。ちょっと悲しくなってきたかも。

 人間空腹な時は殊更に悲観的になるのか、それとも俺だけか、何だかもう、この街で一番不倖なのは俺かもって気になってきて足取りも重くなる。


「川崎ィ、おはよう。」


 語尾にハートマーク付き。聞くだけで可愛らしい声に、俺は足を早めた。

 振り向けば、見るだけなら愛らしい顔が、満面の笑みを浮かべて小走りに追いかけて来ているに決まってる。

 隣でルゥイが歩みを止めた。


 ええい!立ち止まっても良いから手を離せっ!

 嫌がらせか!?

 嫌がらせなのか!?

 朝のあれじゃ飽き足らないのか!?


「吉岡さんだっけ?」

「そうよん。留衣くんね、よろしく。」

「うん。邪魔しないから二人でゆっくり来てね。はい。」

「ありがと〜。うれしィ〜。」


 おいおいおい!

 ルゥイ。お前タチ悪すぎってもんだぞ!

 ルゥイに手渡された俺の腕をガッチリと捕まえて、ふわふわの髪をゆらしてニッコリ見上げてくる吉岡に俺は怯んだ。

 決して逃がさない、と云ってる顔だな……これは。


「吉岡夢美。腕を離せ。」

「イヤ。せっかく貰ったんだもの。学校につくまでくらい腕組んで歩きたいもの。」


 大嫌いだと何度云われても変わらない、その笑顔。

 嬉しそうに笑って吉岡は云う。


「川崎と一緒に歩けるなんて夢みたい。」


 そうか、悪夢だろう。

 しかし、この腕を振りほどけないのは、やっぱり…何つぅか、な。

 しがみついてくるから、当たるんだよ。

 何がと聞かれても困るが。

 吉岡は顔と声だけでなく、体もかなりイケてる女だ。

 ちょっと自分から離れるのは勿体ない、と思ってしまうくらいには豊かな胸をしている。


 いつもは声が聴こえた途端、逃げの態勢に入る俺だが、体当たりで来られると少し弱かったりする。色仕掛けとも云うな。フッ。


 この女も無邪気そうな形で心得てるから、ぐいぐい胸を押し付けてきて、ちょっとヤバイだろそれはっ!て感じだ。

 平常心、平常心。

 公衆の面前でしゃがみ込むのは避けたいぞ、俺は。


「川崎は今日も部活出るんでしょ?」

「出ない。」

「えぇぇ?残念。川崎出ないなら私も出ないけどぉ。ね、じゃ一緒に帰ろ?」

「約束がある。」

「もう!誰と約束してんの?私も一緒じゃダメ?」

「ダメ。」

「なぁんでェ?」



 俺は立ち止まると吉岡夢美から腕を引きはがした。右手を剥がせば左が、左手を剥がせば右手が絡み付いてくるので、少し難渋したが、鞄を小脇に両手首を取るとジタバタと暴れつつ半分諦めた顔をした。


 俺は吉岡夢美をじっと見つめた。


「よく聞けよ?」

「うんっ」


 視つめられて嬉しいっ。と吉岡夢美の眸がキラキラと輝く。

 俺は視線を逸らしたいのをぐっと堪えなければならなかった。


「俺はお前が嫌いだ。お前の傍にいると気分が悪くなるんだ。だからな……吉岡夢美。」

「うんっ」


 ニッコリ。全然聴いてない笑顔の吉岡に。俺は声を低めた。


「頼むから、俺に近寄んな。」


 辛抱強く云い聞かせても、吉岡夢美はニコリと笑う。


「イヤ。」

「フザケろよ、てめェ!俺はお前のそういう所が嫌いなんだ!俺に触んな。俺に近寄んなっ。話しかけんなっ!解ったかっっ!!」

「やだってば。云ったでしょう?私は川崎の顔が好きなの。一生付きまとうって、決めたんだもん。」


 一生?

 一生っ!?

 冗談だろう?

 俺は余りの不気味さに手を離した。すかさず絡み付いてくる手から後ずさる。


「てめェ、それ以上寄るんじゃねェ!」

「いやだってば。どうして解ってくれないの?川崎あたしの事好きじゃないの?」

「嫌いだって云ってるだれろうっっ!?」


 ストーカーに追われる恐怖って、こんな感じかも知れん。何とも言葉には云い表し難い気色悪さ。俺は怯えていたと云っても良いだろう。

 この女相手の敗北は恥では無いような気がした。

 とにかく逃げるが勝ちである。


「ちょっと待ってよ、川崎ィ。ねェったら。」


 吉岡夢美。お前の望みだけは聞けんっ!俺も自分が可愛いからなっ!!


☆☆☆


 机に鞄を放ると共に、俺は踵を返して振り返る。

 ニッコリと隣の席で悪魔が笑った。こいつは俺以外の前では猫を被り続ける事に決めたらしく、実に愛らしい笑顔である。

 眼差しひとつ、仕草のひとつひとつが、こうも違うか。


 此処に居るルゥイは、人の庇護欲を掻き立てる、小動物にも似た存在だ。現に周囲の人間は、俺の態度を感心しないって眸で見る。


「ルゥイ。素直にゴメンなさいって云ってみな?」


 ルゥイは首を傾げる。

 俺、何か悪い事した?とその眸が告げる。実に無邪気な様子だ。


「ルゥイ。俺にはお前が邪気のカタマリに見える。」

「えぇぇ!?何それ?」


 両頬をグイと引っ張って、暴れるルゥイを押さえ込む。


「か………川崎?」

「うわぁ…痛いかも。」


 辺りにたむろしてた連中は、長い付き合いである。こんな時、非難はしても、俺を止める勇気は持たない。田町くらいは出来るかも知れないが、奴は皆と同じように安全圏まで逃れつつ、面白そうに見物人と化すのが常である。


 まあ、俺が弱い者イジメはしないって奴らは知ってるからな。培った信頼っての?


「いひゃい〜〜〜ぃ」


 椅子から転がり落ちても逃がしゃしないぜ。殴る蹴るだと暴力だが、この程度ならオフザケで済むからな。まあ、やられる方は一発殴られた方がマシ!と云うかも知んないけどよ。


 俺はこのまま絞め技に入るか、情けないイジメをケンカに見えないから周囲も大人しい。このままの方が良いかも。


「い〜〜ひゃ〜」

「そうか。痛いか。」


 もっと痛くしちゃえ。

 押さえ付けた躯を、端からは解らないように痛め付ける。今日の俺は卑劣くんが入ってる。

 ほれ卑劣くん。

 こっちは卑怯くん。


「〜〜〜っ!!」


 多少不自然でも、口の両端を引っ張られて、表情は読み取りづらいし、声も出し難い。


 タチの悪いオフザケが入ったイジメは、実は念入りな暴力だったりする。こいつが本当に、躯の弱い弟だったら意識はあるまい。


 まあ登校してる時点で病気は単なる人嫌いって事になるから、普通はイジメてる俺が心配される立場じゃね?

 奴らチカラ暴走させるんだもんよ。


「――――」


 ジタバタと、生意気にも反撃を試みていたルゥイが、大人しくなった時点で、俺は手を離した。

 肘や足など、押さえ込んだ態勢はそのままだから、ルゥイはまだ動けない。

 肋骨辺りの痛みの所為か、ルゥイは顔をしかめて俺をニラみ上げた。


「ひど〜〜い。」


 眼差しは少々険悪だが、言葉の調子は莫迦っぽい。

 大したもんだ。

 俺は笑って立ち上がる。


「……………」


 手を差し延べると、ルゥイは呆然としている。

 俺は首を傾げた。

 後にひくような痛め付け方は、しなかった筈だが。

 弱い子ぶりっ子のひとつかな?


「どうした?どっか痛めたか?」

「いや……」


 慌てて起き上がり、顔をしかめる。そりゃ痛かろう。何でイキナリ動くかな?

 らしくないルゥイに、俺は眉を寄せた。


「ええっと、ありがと。」


 俺の手を取って礼を云うあたりは、充分に抜け作だが、今ひとつの演技でもある。

 俺は眸をすがめてルゥイな眸を覗き込んだ。


「……平気だ。…ってば。」


 そう云って、眸を逸らしたルゥイは、顔を赤く染めている。

 何なんだ???

 新手の企みかな?と、思わないでもないが、まあ良い。人前で追い詰めるのも何だしな。


 人前と云えば、他の奴らも何か変だ。見回すと皆が皆、申し合わせたように、俯いたり、そっぽを向いたりして、しかも一様に顔が赤い。


 ………もしかして。

 と、ルゥイを見る。

 席に着き、教科書を机に押し込む姿は、もう普段通りである。けれど、さっきのアレは、つまり。

 俺、そう云や笑ったかな?

 無意識の行動は、時に周囲の状況で自覚させられる。

 そんなに強烈なのかな?俺の笑顔って?

 普段が仏頂面だから、特に心臓に堪えると、田町などは云う。

 その威力は爆弾並みだとか。

 自分が楽しくないから、どうでもいい事実だな。

 何故なら、怒鳴るより余程効くからと、笑って見せても意味はないからだ。


 皆、さりげに眸が良いのか、それとも無心の笑顔にそれだけ威力があるのか………。考えても解らないので、いつも諦めるしかない。

 誰か写真でも撮ってくれりゃ良いのにな。

 当の本人なんだから、一度くらい見せてくれたってバチは当たるまいに。鏡に向かって笑って見せる虚しさを知る俺である。


「ルゥイ。ちょい上向け。」

「何?」


 仰ぐように見上げてきたルゥイは、キョトンとしている。

 既に全くの平常心のようだった。生意気な。


「今日は一緒に帰ろう。」


 耳元に口を寄せて囁くと、ルゥイはマジマジと俺を視つめた。


「何企んでんのさ。」


 小声で云い返すルゥイに俺は笑った。

 当然のように固まったルゥイに、あ…と思う。鏡を持っときゃ良かったな。

 一日に2度も笑うなんて、かつてない事だ。


 雨降らねェよな?

 我乍ら、窓の外を見上げずにいられない自分が虚しい。

 どうせ、人工の天気なのに時々予報を外すのが意味不明。

 だが杞憂だったようだ。


 空は青い。

 燦燦と照り付ける太陽は眩しいくらいだ。とても崩れそうにない天候である。

 今日は街に出るので、有難いと云えば有難い天気だった。


☆☆☆


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