◆5話◆本性〜真偽〜
◇◇◇
「……………。」
それでっ、跳ね退け
どうしてっ、殴る
こいつはっ、押しやり
いつ迄もっ、蹴り飛ばす
俺の隣で寝るのだっ!ヨシよく飛んだ
「った〜!毎回毎回、気安く蹴るなよっ。納得したんじゃなかったのか?」
仮面をはいだルゥイは苛立ちを隠す事なく抗議を入れる。
誰が納得するもんか。俺はそう簡単に平穏とオサラバ出来る程、人間が出来ていないし、災難を仕方がないと受け止められる程、悟ってもいないんだ。
「大体どうして一緒に寝る必要がある。」
「云ってなかった?」
俺の不機嫌は既にこいつにとって、ごく当たり前の光景と取られているらしく、ルゥイはケロリと云いやがる。
眉を潜める俺に、床から這い上がり、ベッドの端に腰掛ける。
「お前の体温を少しでも貰わないと力が衰えるから。」
「…………。」
どういう意味だ?
「一度寝た事で、ある意味、俺達は繋がってるんだよ。だからこそお前の合意なしには力が使えない。これは解るな?」
解りたくないが、頷いた。
「つまり中継地点がお前の中に有るって事なんだが、それに触れないでいると、俺の力が吸い取られるばかりなんだよ。だから出来るだけ俺はお前の傍に居るって事になる。」
俺は唸った。
ルゥイは困ったなと首を傾げる。
その仕草ひとつ取っても、人を小莫迦にしているとしか云い様のないイヤミったらしさで、こいつ、友達いないだろ?と云いたくなる。
「そうじゃねェよ。納得したくないんじゃない。納得出来ないんだ。」
ルゥイが俺に嘘をつかないのは、もう解っている。
掟に縛られているから、告げようにも告げられないのだ。
しかし。
「何か隠してるだろ。」
そう。
全く違う人格を演じて見せたように、隠し事などは実に多い。
今も、都合の悪い事を云わずにいると、俺には解る。
「何を?」
ルゥイの見下し笑いは、別に何かを隠してるからと云う訳ではない。これは単なるデフォルトで、天性のものだと理解する。性格の悪さが滲み出で、何か企んでいるように見えるが、これが彼本来の姿であって、本当に企んでいるかどうかは、また別問題である。
だから、態度で気付いた訳ではない。
思い出せ。
昨日の話を。
「そんなに一緒にいなくても、良い方法がある筈だ。」
そうだ。
他所に行けと云った俺に、イヤだとは云っても、その可能性を否定はしなかった。
隠し事はする。
多分。それはもう山程の。
しかし嘘は付けない。
「違うか?」
そんな奴には、それ相応の尋き方がある。
イエスかノーで答えさせれば良いだけだ。
案の定、ルゥイはイヤそうな顔で俺を見下ろした。
「何で、そう思う?」
「何でだろうな。で、どんな方法があるんだ?」
応えたくなさそうに、ルゥイは口ごもり、けれど仕方なさそうにため息を吐いた。
隠し事はしても、問われたら応えなければならないのも、掟のひとつらしいと気付いていた。
「セックスだ。一方通行の力を、交流させる。チャンネルを変えるのは、その手段だけ。しかも、一定期間しか保たない。」
「どれくらいだ。」
例え、どんなに動揺しても、それを表面に出さずにいられるってのは、果たして良い事と云えるんだろうか?
「24時間。」
却下。
「………聞きたかったんだが。」
ふてくされた様子のルゥイに俺は問い掛ける。
「お前の世界も、時間の流れとか、地球と同じなのか?」
「……?多少、違うかな?何でそんな事聞くのさ。」
「随分と、こっちに合わせた魔法を使うからな。」
こんな云い方で通じるかな?
何て云うか……確かにこいつは、俺から知識を盗まなけりゃ異邦人丸出しだったと思うんだよ。だけど、ちょっと知識を覗いただけで、こんなに溶け込めるもんだろうか?
例え、先祖が一緒だとしてもさ。
「………。」
ルゥイは開きかけた口を閉じて考え込んだ。
聞いちゃ不味い事だったかな?
そう思った時。
「まいったな。何て云ったら良いのか、解んないや。」
困ったように、そう云った。
「確かに違うんだよ。風習も、掟も、何もかも……と云えば云える。だけど、お前の云う通り、地球での掟は、何て云うか……こっちの流儀に則するんだよね。」
そう云って、また沈黙する。
俺は口を挟む事なく待っていた。
他の人間はどうか知らないが、俺は沈黙を居心地の悪いものとして捉えないので、唯々無言のニラみ合いも、苦になる事はない。
「心を覗くのもそうだけど、向こうでは当然の事もこっちでは違うだろう。地球での掟は、……………地球の為って云うか、地球の人間に影響を与えない為って云うか………。」
つまり、こちらの規準に合わせて、迷惑でなく影響を残さないよう、適宜即した掟が定められている。
と、そういう事か?
充分迷惑だが、確かに頷けない事でもない。
俺は無事に、俺として此処にいる。記憶を変えられた人たちも、単にこいつを知人として受け入れる事以外は元のままだ。
俺が「郷に入りては郷に従え」と云ったままの行動を、こいつは取っているに過ぎない。
地球に干渉してはならないって掟は、確かに守られているんだと思う。
しかし、その割には干渉せざるを得ない掟が有るってのも、また事実なんだよな。
一体どーゆーの?セックスでの力制限とかメチャ原地人に干渉してない?
「例外って云ったな?それはお前の行動にも含まれるか?」
「えっ?……ああ、そう。いくつか…ね。その例外のひとつと、俺と関係あるよ。確かに……。」
けれど……と、ルゥイは云う。
「悪いけど、それは云えない。云いたくもない。」
「どんな場合でも云えない事か?」
ルゥイにダマされない為には、しっかりとした確認が不可欠である。
それを裏付けるかのように、ルゥイは舌打ちした。
「例外は……ある。」
「どんな?」
「……云いたく…ない。」
苦しそうに云う。
俺は無視を決め込んだ。
「どんな?」
重ねて問うと、ルゥイは悔しそうに唇を噛んだ。
質問には応じなければならない掟が、ルゥイを苦しめているのは解っていた。しかし、一体どういう掟なんだかな。ルゥイは呼吸をするのも苦しそうだ。
そして。
俺を射殺しそうな眸で視つめて、ルゥイは云った。
「恋人には、告げても許される場合が……多い。」
ムリヤリ云わされた事は、彼のプライドを逆なでしたらしい。
キッとニラんで。
「お母さ〜〜ん!洋が俺んこと泣かすぅ〜〜!!」
叫びやがった。
バタバタと音がして。
階下から物凄い勢いでやって来るのは
「弟を泣かすなと何度云ったら解るっっ!!」
容赦ない蹴りを息子に喰らわせる、母だった。
俺は逃げる間もなかったね。
クソッ。
莫迦っぽい弟は、俺にこそ嫌われていたが、母には愛されていたんである。
本性は更にタチが悪いし。
俺も性格が良いとは云えないが、お前に比べたら百倍マシだぞ!
心の中、叫ばずにおれなかった。
だから!さっさと帰れっ異世界に!!
☆☆☆