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◆3話◆帰れよ異世界に

◇◇◇


 あれから3日。


 異世界から来た魔法使いの王子サマとやらは、俺の家に居ついている。


 物置と化していた部屋を、いつの間にやら整えて、そのくせ俺の部屋に住み着いているんである。


「お前、ちちんぷいで用意した部屋があるだろうが!俺のベッドで寝るんじゃねェ!」


 目が覚めたら、こいつをベッドから蹴り落とすのが、もはや日常化していた。

 寝顔にドキリとするのは、絶対に知られてはならん秘密である。


「ちちんぷいって何だよ。別にィ、一緒に寝たからって減るもんじゃないしィ。」

「減るわ莫迦!」

「何がぁ?」

「神経がだ!」


 その代わりに俺の口数は加速度的に増えている。

 こいつを前にして、無口でいられるようなら、人間が出来ているとしか云えまい。


「減るような神経があるの?」


 ヘロリとそんな事を云うのは、この口かっ!

 えっ?この口か!?


「いひゃい〜〜っ」


 口の両端を引っ張っていると、後頭部をガツン!とやられた。

 俺が口より手足を出すのは、多分母からの遺伝では無かろうか?


「朝から弟泣かしてるんじゃねぇよ。」


 キレイな顔に似合わぬ毒舌も、多分母に似たのだ。


「お兄ちゃんだろう!?」


 俺は声を大にして云いたい!


「誰がお兄ちゃんだっ!」


 ルゥイに怒鳴ると、ガッ!!と蹴りを入れられた。


「てめェだ!アホンダラ!!」


 お母さん。

 あなたはダマされています。

 それは単なる暗示ですぅ!

 例え口にしたとしても、益々俺の傷が増えるだけだろう。


 可哀相すぎるぜ、俺っ!!


 誰にも理解されない苦しみを、この3日で知り抜いてしまった俺サマなんである。


 クッソォ。

 それもこれもルゥイのせいだ!


 可愛い顔して俺の弟におさまって、ちゃっかり母のお気に入りの息子として居着いている、あの魔法使いな王子サマのせいなのだ。


 ムカつくのは当然なんだが、何でか強く云えねェんだよなあ。

 俺は嘆息して立ち上がった。


 蹴りの痛みにうめく俺を置き去りにして、ルゥイの奴は母に連れられて朝飯にと部屋を後にしていた。

 ひっでェよなぁ。


☆☆☆


 二人して登校していると、色々な奴が声を掛けてくる。

 いつも通りの光景だが、いつも通りでナイものもある。


「川崎ィ。おはよ。」

「よぅ。川崎兄弟。」

「洋くぅん。ルイくん。オハヨー♪」


 俺の名前だけでないって事にプラスして、ほんの少し…女の子が増えている。

 しかも、女はともかく男も少し増えてる気がするんだが。


 危ねェなっ。ったく。


 己を棚に上げていると承知で、俺は苛立ちを覚えた。

 元々、俺はかなりモテるって自覚がある。だからこそ、ルゥイに向かう視線も、うろんなモノは見分けられるのだ。


 まぁ、俺の場合、無口すぎるのと無表情とガラが悪いのとで、顔がお人形みたいにキレイでなけりゃ人気もなかったと思われるんだが、現実の俺は黙ってりゃヒジョーな美少年だったりする。


 黒目勝ちのでっかい眸に、陽に焼けにくい肌はBox育ちの連中みたいに色白で、うすい唇の形も良いし、鼻筋すっきり細眉キリリの美少年。

 無表情さえ女の子の人気の的。

 なのである。


 コレだけ美少年でなけりゃあ、口を開いた時のガラの悪さで、ついでに目付きも少し悪いかも知んねェから、クールなんて誤解を受ける事もなかったろうな。


 多分、いつもより周囲がうるさいのはコイツのせいだ。


 人当たり良く。


「おはよぅ。あ、知子ちゃん昨日はありがとう!田町ィ、これ返すぅ。次の貸して♪」


 ニコニコニッコリ。愛想を振りまく、お調子者の王子サマ。


 3日で溶け込みやがった。


 ちなみにコイツは学校の奴らには暗示をかけてない。


「メンドーだから。」


 書類だけゴマカシて、その辺だけ少し暗示も使ったか知れねェが、基本はその「まんま」で来やがった。

 ダマしてるのは一緒だけどよ。

 何せ。


「体が弱くて」

「ずっと、空気の良いところで育てられた」

「丈夫になってきたから」

「戻って来た」

「別々に育てられた俺の弟」


 だったりするらしいからさ。


 3日前はびびった。


 起こしに来た母親に、隣りで寝てるこいつを、どう説明しようかってパニクッた。

 無表情に母を見上げた俺は、けれど一言も口にしないまま事態を悟るハメになった。


「仲良くなれたらしいな。覚えちゃいねェだろうが、幼稚園上がる迄は双子ってのは四六時中一緒にいねェとやってけねェのかってくらい、ひっついてたんだ。十年以上も離れ離れだったからって、弟イジメなんかすんなよテメェ。」


 普段の怒ったような口調で母は云った。


「あたしゃあね。何年もほっといた分、留衣をヒイキする事に決めたからね。十分覚悟して兄弟喧嘩をするんだね。」


 傲然と笑う母に、俺は逆らえる気力もなかった。

 家族にさせてね、とか云ってたが……こう来るか。

 俺は呆然としたね。


 そして3日間で、まるで十年一緒にいたかのごとき図々しさで、俺に錯覚させる。


 本当に弟………な訳ねーだろ!

 しっかりしろっっ!俺っ!!


 自分自身が信じられなくなって来た今日この頃。

 やっぱなぁ。

 人間平凡が一番って云うけど、本当だと思うね。

 魔法だなんだってのは邪道だろうがよ。他の奴に……それも母親に、思いっ切り違う記憶押し付けられる身にもなってみやがれ。

 周囲じゃなくて自分の方がおかしいかも………なんて、ほんの一瞬でも思っちまうじゃねェか。

 ちくしょう。

 早く帰れよ異世界にっっ!


☆☆☆


 クラスも一緒。

 席も隣り合わせ。

 うっとうしいったら、ありゃしねェ。


 最近の……つっても3日間だが、俺は窓の外ばかり眺めてる。

 登校は義務じゃねェから、来るのをヤメようかと思ったくらいだが……するとコイツも行かねェとか云うし、二人キリの空間なんか嫌すぎるだろう。


 諦めて、登校する俺。

 今時、珍しいリアル登校は……めちゃエリート集団な筈だが、学校の奴らを見てそんな風に思えた事ねェし、コイツがそこに加わったら尚更思えねェ。


 せめて窓際の席だった事を倖運に思うべきなのか?俺の倖せってささやか過ぎるぜ。


「川崎!」

「はぁい!」


 俺が応じる前に可愛らしく手を挙げるのは、俺の「弟」…………に、成り済ましたルゥイだが…。


「………お前じゃない。川崎洋!」


 ま、教壇に見向きもしねェオレの方だろうな、教師がニラむ相手は。

 そうでなくとも、普段から俺を毛嫌いしている数学教師は、他の奴にはイヤミっぽい乍らも穏やかで、それはルゥイに対しても同様だ。

 俺にはしょっちゅう怒鳴るクセによ。


 俺は黙って立ち上がり「端やん」と呼ばれる端野センセイを見た。

 向こうは「無表情にニラまれた」と思ってるかも知んねェ。


「問2だ。」


 俺は黒板の前まで行って、カカカッと白墨で書きなぐる。つうか今時チョークってどうよ?懐古趣味にも程がある。

 まあ俺は小学生からリアル登校で慣れてるけどな。

 そして手早い割に俺の板書はかなりキレイだ。これも小学生4年生まで、お習字に通った成果だろうか。


 横目に見た端やんは悔しそうだ。

 俺はフンッとせせら嗤ってやる事を忘れずに席に戻る。

 バ〜カ。お前の出す問題なんてタカが知れてんだよ。

 思い切り莫迦にした「心の声」を眼差しにのせた。

 俺は無表情なくせに、見下す目付きだけは得意なのだ。


 端やんは歯を食いしばり、ギリギリと不気味な音をさせて俺をニラんだ。俺の心の言葉は性格に届けられたようである。


 端やんは耐えた。

 しかし不機嫌は隠せず、八つ当たり気味に声を張り上げる。


「伊藤!問3だ!」

「エ〜〜?………解りません。」

「田町っ。お前はどうだ?」

「出来る訳ねぇでしょ。高2の問題と違うでしょセンセー。」


 ヘロッと応じる田町に端やんは、ほんのちょっぴりキレたらしい。


「どいつもこいつも!川崎なんぞに負けて、悔しいと思わないのか!?」

「勝てると思う方がおかしいってセンセ。」


 田町ののんきな声にかぶさるように、みんな好き勝手に声をあげる。


「川崎くんわ〜、人間と違いますぅ。」

「小学校んときは、天才少年でテレビに出たんだよね?」

「顔も頭も良っから、性格ゆがんでんだな。」


 本気で好き勝手云い放題かこいつら。後で一発ずつ殴ってやる。


「川崎っ!もう良い、お前やれっ!出来なかったら罰掃除だっ!!」


 ヒスかよ。別に出来るから良いけど。

 そう思って、立ち上がろうとしたら。


「はぁい。」


 ルゥイがトコトコとフワフワの茶髪をゆらし乍ら前に出て。

 サラサラっと解きやがった。

 異世界人のくせに、あなどれねーぜ。ったく。


「出来ましたけど?」


 一瞬、静まり返っちまった教室の雰囲気なんぞなんのその。空気を読まないルゥイは、

キョトンと端やんの顔を覗き込むように見上げた。


「………あってる……な。」


 俺には怒鳴っても、ルゥイには怒れんらしい。ま、気持ちは解るが。つうか、俺の事だって最初はベタ褒め状態だったもんな。


 うっとうしくって「うるせェ!てめェの出す問題ぐらい解けねェ方がおかしんだよっっ!」とやらなきゃ、今でも不倶戴天の敵扱いされる事もなく、お気に入りやってたんだろうな……………………。


 さっさと怒鳴っといて正解だったな、俺!


◇◇◇


 莫迦なフリして結構賢い。

 ルゥイをそんな風に評した奴が居た。


 そんなもんじゃないね。その程度の猫っかぶりなら、まだ可愛気があるってもんだ。


 こいつは、人の油断を常に誘っているところがある。

 もしかして、あなどれねーなって云う、相手の感情さえも、侮れないけど……に変えさせる。底が知れてる奴なら、恐くねェからな。

 そこまでの奴だ……と、自分の事を思わせて立ち回る。


 一時の油断もならねェ。

 ダマされて莫迦を見るのはゴメンだ。


 それに気付いたのは、似てるよーで似てない、そんな女を知ってるからだな。


 その女の名は吉岡夢美。その名の通りの、夢見る乙女のようだと云われているが、成績だけなら学年2位の才女である。

 いつもポーッとしてて、時々コケているのを見ていた頃は、勉強は出来ても莫迦は莫迦だと思っていたが、付き合ってく内にそうではナイと知れた。


 いや。

 ルゥイの底の知れなさに気付くまでは、それでも時々疑っていたのだ。


 莫迦のフリではなく、本当に莫迦なのかな?


 確かにまるっきし演技ってわけでもねェかな?って思うが、天然入ってるしな。しかし、それだけじゃねーな。うん。それだけじゃねェ。


 家でも学校でも「あんなの」にひっつかれて、俺は息をつく間もない。せめて、部活くらいは付いてくるなと承知させたが、今度は「あんなのパート2」が居るんじゃ同じ事かと、少々悩まんでもナイな。


 俺は眇めた眸で、多分剣呑な空気をそこらに振り撒いている。

 やっと一息つける、この場所で。


 周囲の人間が遠巻きに声を掛けて来ないのを有り難く思いつつ、俺はため息をついた。


 しかし、そんな気遣いの心とは無縁の女も居るもんで、そいつは入って来るなりツカツカと近付いて俺の横に立ち、


「あ〜。今日も不機嫌だわぁこの人ぉ!」


 のんきそうに笑ってみせた、この女こそ。


「吉岡夢美。俺の傍に寄るんじゃねェ!」


 くるくるパーマのフワフワ茶髪に、天然ボケな言動の美少女。この女も何かと云うと俺にカラんで来る。今までは気にならなかったが、それもこの部活の時間のみだったからこそで、この3日間、俺はこいつに云い続けている。


「てめェが傍にいると、うっとうしくてやれねェ。」


 吐き捨てるように今日も云ったが、この女はひるむ事を知らない。


「ねえねえ。どうしてそんなに不機嫌なのお?」


 好奇心に満ちたキラキラした眸でうったえてくる。どうしてどうしてと、うるさい女だ。こいつは、不機嫌オーラが更に燃え盛る俺の様子に気付かないのか?いや、気付いてい乍らも嫌がらせをする。それがこいつらなのだっ!


 ムカつくッ!!


 俺は今まで尋いた事がなかったが、何でこいつは俺に近付くのか。今までは好きにさせていた。珍しい生き物がまとわり付いてくるな……くらいの認識しかなかったからだ。


 何を云われても気にならなかった。

 相手にしてなかったと云っても良いが……今は無理だっ!!


「お前が嫌いだからだ、吉岡夢美っ!嫌いな女にまとわり付かれて、俺は更に更に更にっ!不機嫌になるんだっっ!だから俺の傍に来んなっ!視界に入るなっ!声も聴かせるんじゃねェっ!!!」

「………。」


 流石に云いすぎじゃあ………って視線が四方から俺に刺さる。部室の隅にグループを作って固まった奴らが、息をつめて俺たちを視つめていた。


「ええ〜〜。でもぉ、あたしが居なくても不機嫌じゃなぁい?」


 この女はっ!

 これくらいではっ!

 こりたりなんぞっ、しないのだっっ!!!


「うるせェっ!お前が更に不機嫌倍加させるって云ってんだろっ!嫌な気分が更に更に悪くなるんだよっ!」

「だからぁ。最初に気分悪くするのは、何なのお?」


 人のっ話をっ聞けいっ!!!

 この耳かっ!?

 この耳が聞いてねェのかっ。


「いたっ、いたいいたいいたぁ〜〜〜いっ」


 両耳を離すとクスンとでっかい眸をウルウルさせて俺を見る。


「耳がねェんなら、いらねェんじゃねーの?」

「謝るけどぅ。あたしは川崎くんの傍、離れるのやなんだもんっ!たがら、その点だけは聞く耳持たないんだもん。だから元を絶てば、あたしの事を〜また傍に置いても、まぁ良っかぁってェ、思うかなぁって思ったんだもん〜っ」


 クスン。

 しゃくりあげ乍ら云う。

 この発言に部屋の隅の連中はどよめいている。


「冗談だろう?」


 俺は頭を抱えたくなった。

 うんざりするってのが正直な気持ちだ。顔は可愛くても、俺は普通の女のが好きだよ。この性格だけは勘弁してくれって云いたいね。


「本気だもん!」

「何で傍にいたいんだよ。」


 力なく訊いた俺に、ニッコリと笑う吉岡夢美。

 もしや嘘泣きだったのか?

 思わず疑ってしまう程、見事に、華やかに笑って


「だってあたし、面食いなんだもんっ!!」


 握りこぶしで、力強く宣言された。

 俺はモハヤ何も云えんわ。


 もしかして、この手合いは俺にとって鬼門かも。早くも悟り始めてしまったね。敗北を認めたくはないが、何か……どうやったって勝てねー気がしてきたよ俺は。気のせいなら嬉しいんだけどな。


「ねェ。川崎はあたしの事、少しは好き?」


 しかし脱力しきった俺の腕を取って、こんな事を云う女に、俺は譲れない最後の一線だけは示さずにおれない。


 静かに諭した。


「俺はな、お前の事が大嫌いだ。出来れば遠くで倖せになってくれ。俺がお前に抱く好意はそれだけだ。頼むから、俺に関わるんじゃねェよ。」


 吉岡は首を傾げた。


「少しは好きって事?」

「大嫌いだと云うとろーがっっ!!!」


 頼むルゥイ。


 異世界に帰ってくれ。

 ついでに、この女も連れてってくれ。


 俺は心の底から祈らずにはいられない。


☆☆☆


「ええと……。何か…食ってく?」

「ああ…そうだな。」


 力なく俺は頷いた。

 流石に部室に居続ける気力を失った俺を、追いかけて来てくれた田町の友情が心に浸みる。


 心配……してくれてんだろうな。

 うん。

 俺、おかしかったもんな。

 例え怒鳴るにせよ、俺があんなに沢山喋るのは、もはや珍事と云って良いだろう。口を動かしすぎて疲れたぜ俺は。

 食欲はねェけど、帰宅すればルゥイが居ると思うと、帰る気も無くなるしよ。

 ……………。

 もしかしなくても、俺って……不倖なんじゃね?

 気付いた事実は俺を打ちのめす。


「お前さあ、ちゃんと眠れてる?」

「毎日6時間キッチリ。」


 睡眠くらいは確保しないと、やっていけないからな。


「そうか………打たれ強いな。」

「………。」


 どういう意味だろう?

 褒めた……ってのとは、少し違うよな。呆れてんのか?哀れんでんのか?


 どれも、当て嵌まらん口調だったような……。


「弟……のせいだよな。吉岡嫌うの?」

「…半分、な。部活だけなら許せたんだ。」

「そうか。」


 今度こそ、同情をたたえた眸が俺を見る。

 俺は溜まった何かを吐き出すように、嘆息した。


「まあ――――大変……だろうなぁ。」


 それ以外に云い様がないって口調の田町に、俺は頷いた。


 そう。

 大変なのだ。


 朝から晩迄「あんなの」付きまとわれてみろ。しまいにゃ発狂するんじゃねェかと、俺は自分が心配でたまらねェ。


「お前の周りってさぁ、変な奴多いよなぁ。」

「………。」


 確かに多いが。自覚が足りないぞ田町。お前も相当変な類いだ。


 だが、アレらに比べたら可愛いもんだし、俺は平凡が一番だと思うが、だからと云って変人を差別する気はナイ。アレらみたいに害を及ぼすなら別だが、田町は「俺には」害がナイからな。


 それに田町は良い奴だ。

 だから、友達をやっている。


「類友って云うしな。呼び集めるんだろうなあ。」


 それは云えるな。

 誰が集めるんだかな……まったく。迷惑な話だ。


 うんうん。と頷く俺に、田町はフゥとため息を吐いた。


 長年の付き合いで、俺の云いたい事を違えず受け取れる田町である。


「………る?」


 小さく何かを呟いた田町に、俺は眸を眇めた。

 普通はニラまれた等と誤解されがちな俺の視線に、田町はちゃんと理解して「こっちの事」だと手を振った。

 深追いはしない。些細な事にこだわっていられる程、今の俺には余裕がナイ。


 いつ迄、こんな生活が続くんだろうな。


 うっとうしい。めんどくさい。うんざりして、気苦労ばかりな上に、何だか毎日怒ってばかりだ。いつ頭の血管が切れてもおかしくない生活だ。


 振り回されてるし。


 本来の俺は、他人の言動に左右される事は先ずナイから、自分自身の変わり様が何だか不気味だとさえ思える。たまにキレても、ぶちのめせばスッキリするのが常だった。


 なのに、あいつらは次から次に俺を怒らせる材料を持ち込むし、同じ事を何度も繰り返すのだ。もう、日がな一日怒ってなくてはならんのかってくらいに俺を怒らせる。


 わざとか?

 わざとなのか?

 俺を怒らせるのは、そんなに楽しいのか?


 最近の俺を見て、クールな美少年なんて誰も云えまい。「他人の言動に振り回される俺」……ありえねェ。しかし現実だ。


 俺はこんなにも感情的な面を持っていたのかと、自分自身に驚くばかりだ。

 こうして、アレら以外の奴と居る時には、多少口数が多くなったとしても、今までの「オレ」をはみ出す程の事はナイのだが………。


 アレとの再会を遅らせたくて、ファースト・フードで不味い珈琲をすすってる時点で……既に終わってる気もしないではない。


 情けない。


 愚か者の見本のごとき己を嘆くばかりだが、だからって早く帰ってアレと対決したいとは思えねェ。つうか力いっぱい嫌だ。


 立ち去り難い俺の心境を理解してくれるのか、田町はいつになく食べた。

 トレイの中身を片付けたら次の注文をしに行く、心の友田町。

 ゆっくり時間をかけて田町は腹を満たす。何も云わずに俺に付き合ってくれる様子に、友情を実感する。

 田町は微妙な性格をしているが、俺にとっては凄く良い奴だ。

 俺は田町が誰かの敵になっても、その誰かの味方はしない事をココに誓おう。無意識に田町が悪者設定だった。別に含むところがある訳ではないんだが……。


 まあ、あれだ。色々……、最近嫌な事ばかりで、主にルゥイとかルゥイとかルゥイとか吉岡夢美や吉岡夢美などだが……とは云え、そんな日々でも慰めは存在するもんだ。どうせなら可愛い女の子だともっと嬉しいが………吉岡みたいなのが来る事を思えば、全然田町でOKだ。うん。


 田町がこれ以上は食べれない、いや少しなら……とトレイをニラム姿を、友情って有り難いなあ、と眺める。

 でもお前、食べずに座っとくって選択肢はねェのかよ田町?


 真面目な話、実際いつまでこんな日常が続くんだ?

 3日で疲れきった俺は祈らずにおれない。


 異世界の神さまお願いします。そちらの迷い子を預かってます。

 すげぇ迷惑な奴です。

 出来るだけ早く、引き取って貰えないでしょうか?


 カエサルのモノはカエサルに。異世界のモノは異世界に。


 ルゥイ。お前との出会いは俺には不運以外の何ものでもない。マジ頼む。


 早く帰れよ異世界に。


☆☆☆



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