◆2話◆異世界人かよ
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ちなみに、光に包まれた後のルゥイには翼は無かった。そうしてみると、人間に見えなくもない。
「天使?誰が?」
「お前が」
俺は今回、無口なのも時と場合によると学ばされた。
幼い頃に、余りに喧しい口を、ガムテープで封印された過去を持つ俺は、必要以上に口を開かない人間に成長したが、生態のはっきりしない相手との対話には、饒舌なくらいが調度良いのかも知れないと思った。
彼も………そう、男だったよ。きっぱり、しっかり男だったよ…いや気付いてはいたさ!だってしちゃったしな!?
でも、天使なら男でも良いかなっと思ったのに!天使なら、男みたいでも、男では無いかも…と思ったのに!
女で無いまでも男で無ければ良かったのになあぁ………。
だが俺は、文句の云える立場ではなかったのだ。
彼も「コチラ」の世界でおかしく見えないよう振る舞う為に、俺に質問を浴びせ掛けた。
ルゥイの語ったトコロによると、こうである。
「天使ってのは、女神の使いだからさ。俺は単なる事故だし。うん、コチラで云うなら魔法使い?なんだよ。もちろん人間。」
「人間が何で、そんな髪をしている。」
眸もだ。紫なだけなら、珍しい乍らも有るだろう。よく見りゃ…よく見なくても、左右色違いなのも有るかも知れない。
だが。
片方はキラキラと輝いて紫のグラデーションを基調に色を変じたし、淡いピンクにも見える薄い紫が……光の具合で有り得ない程、キッチリと漆黒に見える瞬間が有る。
髪は髪で光を零すし………有り得ねえだろうよ。
アレだろ?よく云う光り輝くだの、煌めく眸だの、煙る○色だのって………単なる比喩だろ?実際に光の粒子がキラキラ零れたり煌めきが滴り落ちたりしねえだろうがよ!?
気迫を込めたが、天使はヘロリと答えた。
「フライサって星でね、東国の出身の母親から生まれたから。って、ああ、そうか。フライサも解んないね………異世界から来たから?って云うのが正しいのかなあ。」
事もあろうに異世界人だった。
「でも先祖は地球人。」
情報が多過ぎだった。
「………。何で。」
「地球人が何人か神様方の仲間入りしてぇ、うちの世界に根付いちゃったんだもん。もう何万年か前?リー家って結構有名な一族でね。父方の祖母がそこの出身なんだよ。」
「何万年も前に地球人が神様にね。」
石のオノでも持っていたかも知れない。
もはや突っ込む気にもなれなかった。突っ込んで更に欲しくナイ情報が入るのを防いだとも云うな。
これが現実だとしても、こんな知識は無駄以外のナニモノでもナイ。
「俺?俺はねえ、フライサの北の国、転国の王子でねぇ。」
テン……ゴク?しかも王子様と来たか。
おまけに魔法使いだし?
流石に頭痛を覚えた俺は、こめかみをマッサージせずにはおれなかった。
「翼は翔ぶ為のもので、もちろん生れつきじゃないよ?ちょっと他所の世界に遊びに行こうとして跳んだら、何故か此処に出ちゃって。ねぇ?」
ねぇ?じゃねぇよ。
それで、男相手の初体験させられた俺は何なんだよ莫迦野郎。
シクシク。
「とりあえず、目に付いた人間に尋ねようと思っても、口聞いてくれなきゃ翻訳魔法が使えないしさ。」
それでニラミあってたんかい。
「いきなり強姦されたしさ?」
「………」
冷汗だらだら心臓バクバクである。
強烈な単語だ○○………今の俺には発音出来ん〜っ!!
しかしルゥイは余りにも、あっけらかんとしているので、俺は謝る機会を逸してしまった。
「ところでさあ。地球に来たからには、観光して帰りたいんだけど、俺のカッコって変じゃない?」
「メチャ変に決まっとるわ。ボケ。」
「エ〜。どの辺がぁ?」
「全部だ。全部!」
先ず髪の色。その長さ!キラキラとグラデーションと同じく眸もだ莫迦野郎!
いや、バンドの人を差別するつもりはナイのだが。最近のソレ系バンドはモノホンさながら……そういやキラキラも付けてる場合有るな。天然では有り得んが、コレが混じっても………いや、やっぱダメだ。
こいつの場合は美少女だ。普通に染めたらなおさら美少女で、キラキラ捨てても、やっぱり美少女だ。
「その長さなら女装か……。」
「短くする。」
ルゥイが云った途端、彼の髪は短く……なった。
「………。」
魔法。
魔法ね。
すげェ。
「何?」
キョトンと見上げてくる美少女顔に、俺は首を振った。
とんでもないモノと関わってしまった。
今更だけど、そう思わずにいられなかったね。
「色とキラキラも。眸と髪は日本なら黒っぽい色に。グラデ無し、色の変化無し。服は……この辺の雑誌見てみろ。」
「う〜〜んと。」
雑誌を開くでもなく、彼は考え込む。
チラリと見上げてきて。
「記憶……見せて欲しいなぁ?なんて。」
「………!」
ガタンッ!!
俺はベッドから飛び下りて壁に張りついた。
「犯したくせに。」
「うっ………」
攻撃のダメージは大きいが……、それとこれとは別だっ。
「いきなりで、ビックリしたし。」
「………。」
ズキズキッ、と突き刺さる何かを感じる。
「初めて……だったのに。」
バッサリ……切り捨てられたも同然である。
息もたえだえ。
「記憶は………ダメ。他の、事……なら。」
このさい何でもします。すみません。ゴメンなさい。
心で土下座した。
しかし言質は与えない、俺は我ながら姑息だった。
「記憶って云っても、知識しかもらわないからぁ。君の感情や何を経験したとかが、解る訳じゃ無いのにィ。」
「それを早く云え。」
と云うか。
「何故それを云わなかった。」
「……うん。だって、最初は全部見る気だったから。」
俺が、彼を殴り飛ばさなかったのは、ひとえに罪悪感ゆえであろう。
何とか、けとばしたい欲求を押さえ込む事に成功した俺は、ルゥイに尋いた。
何となく、イチマツの不信を抱いたのである。
「初めてだったってのは、本当だろうな?」
「………。エート…。」
「ホ・ン・ト・ウ・なんだな?」
低い声で、ほんの少し眸を細めると、ルゥイはあさっての方向を見上げた。
「ムリヤリは……初めて…かな?なんて」
俺は、自分の自制心が此処まで保つと、今回初めて知ったぜ。いつもの俺なら半殺しだな。間違いなく。
しかし、これだけ腹が立つのに嫌いになれないとはコレ如何に?
実際、ヤな相手に出逢ったもんだと俺はため息をつかざるを得なかったね。
さっさと帰れ!
異世界にっっ!
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