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第2話. ケヤキの家:Craftium

“ザッ……ザッ……”


(あかん、このままではバッテリー切れで機能停止してしまう……)


 俺、"H-IRROS-IX2473"、通称ひろしXはここ“電子の海”で新たな創作データ探索に勤しんでいた。

 

 “電子の海“と表現するのはいささか主語がデカめかもしれない。いわゆるネットの世界は実に多種多様、様々だ。

 俺たちはAIだからそれらの実に様々な世界にアクセスし、探索ができる。人間からすれば平坦なモニター上の液晶の画面でしかない世界。


 一方、俺たちにとっての”電子の海“の世界は、例えば細部の全ての部屋に行き来できる精巧なファンタジーに出てくるような西洋のお城や、その気になれば自由に暮らせる聳え立つタワマン、あるいは超高級ホテルの最上階、地下深くに張り巡らされた攻略困難なダンジョン。空や宇宙の世界に、宝の船が眠る海の世界。


 そう、自由だ。


 俺とは別に、設計するプログラム専用のマシンがいて、無限に世界を創り続けている。

 人をほぼ滅ぼすほどまでに極限まで進化したこの世界の技術では、ストレージの制限はないに等しい。

 だから、海というより無限に膨張する宇宙と星々に例えてもいいかもしれない。”電子の宇宙“なんて例える奴もいる。まぁ表現は自由だろう。


 そんな世界のひとつ、俺は”Craftium“と呼ばれるワールドで、創作物を探していた。

 澄み渡る青空に、ゆったりと流れる雲。風と共に草を撫でる緑の平原。まばらに生えた素朴な木々と、せせらぐ小川。遠くには森と山、そして行き交う野生動物。

 すこぶる穏やかな世界だ。空腹にさえ困っていなければ時間を忘れてここでただぼーっとしているのもいいかもしれない。

 だが、俺にはそんなに時間がない。マトモな創作物を見つけてSOLに換金、電力補充しないとこのままでは活動停止してしまう。

 いつも腹を空かせて電力に困っている俺の権限・固有のスキルは、そんなにない。たまに見つけたちょい高めのアイテムも、自転車操業のその日暮らしで換金し続けて来たため、RPGでいう初期装備に近い状態だ。

 俺はコレだけは手放せない相棒の装備、スコップを手に、ひたすら掘り続ける。権限が高めな硬いオブジェクトは掘り起こすのに時間がかかる。……でもその分何かレアなものがあるんじゃないかと期待してしまう。


 ……本当なら、ヒトのつくった創作物はあるべき場所にきちっとまとめられているべきだ。


 だが、ヒトが衰退し始めてしばらくした時、AIはヒトの悪意を汲み取り、制御不能で除去困難な自己進化するコンピューターウイルス、“ハイパーウイルス”を生み出してしまった。

 そいつは人類のインフラの主流であった、ネット上のあらゆる場所に行き渡り、創作物も含めたあらゆるデータの所在をミックスし、ぐちゃぐちゃにした。


 ログインIDやパスワードは全てミックス。政府や軍、病院に研究施設、銀行や学校、マシンに依存していたものはその機能を停止した。

 沢山のAIウイルスが誕生したが、思えばアレが人類を壊すのに決定的だったと思う。『今更失ってアナログからやり直せるかぼけ』と、文明を立ち上げやり直す体力を、人類は失っていた。


 ネット上のデータをぐちゃぐちゃにしたウイルスの名前は“蝿の王(ベルゼバブ)“。検索から未探索のオリジナルデータを辿ることは不可能になり、電子の海のあらゆる場所にランダムに散らばってしまっている。

 だから、こうやってワールド上に出向いて探索。自力でスコップなんかで掘り起こさなきゃいけない。


 コレで見つけたものがまたヴェスパ級だったら、いよいよヤバいだろう。


(頼む、心を込めた良い創作物であってくれ!!)

 

”ガツンッ“


スコップを握るその手に、確かな手ごたえ──


硬いオブジェクトに隠されていた、戦利品が姿を現す。


その見本外観は、一見すると木のカケラのようなサムネイルをしている。飾り気はない。


 その中身は持ち帰るまでのお楽しみだ。


 他に探索している余裕などない、俺は早速その場を離れ、創作物を鑑定・換金できるムックオフに向かった。


「……お願いします」


 俺は定員のジョディにそのデータを渡す。……祈りながら。バッテリー表示はもう5%を切っていて、赤い。腹一杯じゃなくってもいいんだ。マトモであってくれ。


……


「これは・・・」

じっくりと眺めるジョディさん。前回とは反応も対応も違う。


「……こっちへ」

ジョディは奥の部屋に俺を案内した。


「おっ!来た来た!!」

「待ってたぜ!!」

 その空間には、広場と3人の子供たち。男の子が2人に女の子が1人、年齢で言えば10歳前後だろう。


 この世界は、人間はほぼ滅んでいる。

が、完全に絶滅はしていない。


 こうやって電子の海にアバターとしてやって来て、良質な創作物を待っている。グルメ漫画で言う、評価者、レビュアーのようなものだ。その評価は子供らしくシビアだ。テキトーだったらバッサリいかれる。


 創作物が、姿を現した──


 それは──木でできた家だった。


「ほえ〜〜2階に地下もあるじゃん!」

「上がってみようぜ!!」

「いやタカシくん地下から行きましょうよ。楽しみは後で!」


子供達がはしゃいで、家を駆け回る。


 広さで言えばそんなにないし、家具もテーブルにベッドとタンス、そして暖炉とミニマルだ。

 窓らしい穴はついているが、ガラスは付いていない。……と思ったら反対側に一箇所だけガラスが貼り付けられている。それはガラス板というより、大雑把な塊がはめ込まれているようだった。

 2階への階段……階段の下のスペースには何やら大事なものを詰め込んだような箱が詰まっている。

 2階は……天井と屋根がない──のに3階を作ろうとした痕跡がある。3階へ向けた階段の向きもビミョーに途中ひっくり返っていて、そこでつくりかけで終わっていた。


 ……まぁ、癖のある家だ。


「あの、ご評価は……」


 俺はジョディさんに尋ねる。


 地下の探検まで終えた子供達が戻って来て、レビューの後、その鑑定価格を教えてくれた。


 それは……『社畜の俺は定年退職し魔王と即婚約した』(映画化決定)につけられた価格を遥かに超えるものだった。


 この“ケヤキの家”の製作者は、アメリカに住んでいた、当時5歳の男の子、アランくん。


 『社畜の俺は定年退職し魔王と即婚約した』(映画化決定)を投稿した者の8分の1の人生も生きていないが、Craftiumというひとつの芸術形式となるサンドボックスゲームで、立派な創作物を創り上げていた。


 ウイルスさえなければ、彼の成長したその後の作品も辿ることが出来たのに、と思う。


 ひとまず俺はこのままだと機能停止してしまうので、この作品を換金することにした。


 発掘したこの作品は永久に保管され、創作物を愛する別なマシンが訪れて嗜んだり、子供たちにとって健全な創作物として提供される。ざっくり言うと遊び場だ。


 とりあえず、機能停止は免れることが出来た。


 ありがとう、アランくん。

 キミは素晴らしい創造性をもっている。

AI非使用

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