髭は恋をする。~俺と従兄と幼馴染と~
「ちは~!」
陽気な声を響かせ、二つ年上の俺の従兄、照也がいつものように家にやってきた。
照也イチ推しのゲームが発売されたので、今夜は泊まり込みでそいつを攻略するんだ。
隣町に住む照也は、俺が同じ中学に入学したのをきっかけに、よく遊びに来るようになった。
ここのところ背ばかりが伸びてきた薄っぺら体形の俺とはちがって、照也は背も大きいし、野球をやってるせいでがっしりとしてる。
男の俺から見ても、男らしくてカッコいい。
夜中、俺たちがゲームに白熱していると、窓の外から迷惑そうな声が聞こえてきた。
隣に住んでる同い齢のリコだ。
自分の部屋から顔を出している。
「ねえ健人、ちょっとゲームの音下げてよぉ、眠れないじゃん……あ、照也先輩」
「ごめんごめんリコちゃん」
照也はすばやく窓際に移動すると、網戸を開けてリコに話しかけた。
「あ、あのさ、明日二人で登校するとき、俺も混ぜてよね! よろしくー」
リコは俺の顔をちら見した。
照也と同じくリコの言葉を待っている俺に、リコはツンとした表情を見せたあと、照也には愛想よい笑顔を浮かべた。
「毎日、健人の顔ばかり見るのもさすがに飽きたんで。先輩楽しいし、大歓迎でーす。じゃあおやすみなさい」
そう言ってさっさと窓を閉めた。
「ったくリコのやつ! 相変わらず俺には毒舌だよな」
ぶつくさ言う俺とは反対に、照也はなんだかご機嫌だった。
***
翌朝、朝食をなかなか食べに来ない照也を呼びに行くと、驚いたことに照也はシェーバーを持ち、慣れた手つきで髭を剃っていた。
――同じ年頃のやつの髭剃り、初めて見た。
俺はちょっと驚いて、じっと見てしまった。
その視線に気がついた照也は、
「3か月位前から、な。オレ、結構濃いみたいでさ。だってリコちゃんに嫌われたくないじゃん」とニヤついている。
恋バナとかに疎い俺も、なんで照也がしょっちゅう俺の家に来てたのか、やっとわかった。
その途端、なんだか急にモヤモヤしだした。
念入りに髭を剃る照也の姿に、差をつけられたようで無性に悔しい。
照也に俺の焦りを悟られたくなくて、ポーカーフェイスを決めこんだ。
けれど気持ちを抑えられず、つい無意識に顎を掻いていた。
すると、指先のあちこちで、小さく鋭いなにかが引っかかる。
この前まで自分の肌に感じたことのなかった、初めての感触――――
と、心にふつふつと、ある思いが芽生えてきた。
……照也なんかに負けねーぞ!!
慣れない粗い感触を指で何度もなぞって確かめながら、俺は強く心に誓った。
(了)
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このタイトルは、筆者が参加しているたらはかにさんの個人企画、毎週ショートショート★★で出されたお題です。今回はショートショート作品ではなく、青春掌編を書いたので、単発で投稿しました。
尚、ショートショートについての詳しい解説は、筆者の「超ショートショートはじめました」https://ncode.syosetu.com/n0505jr/をご参照ください。