ラウンド1:中央集権は悪なのか?
(舞台が少し暗転し、スクリーンにテーマ文字が浮かび上がる。)
あすか(司会):
さて、最初のテーマは――「中央集権は悪なのか?」です。
始皇帝陛下が確立した強固な中央集権体制。
対して、地方の自由と自治を重んじた思想家たち。
この構図は、時代を超えて今なお私たちの社会に問いかけています。
それでは、お一人ずつご意見を伺ってまいります。まずは、始皇帝。
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始皇帝(腕を組み、冷ややかに):
悪、だと?くだらぬ。
国とは、上が統べ、下が従うもの。
我が帝国は、六国が好き勝手に動く愚を正し、統一した。
文字も、貨幣も、法も、全てを揃え、混沌を秩序へと導いた。
これを“悪”というなら、貴様らは混乱を好む輩か。
(場内に緊張が走る)
トクヴィル(静かに口を開き):
確かに、混乱を防ぐ秩序には価値があります。
ですが、その秩序が“強制”によって築かれたなら?
民はただ、従わされていただけでは?
私はアメリカで見たのです。地方の民が、互いに議論し、合意し、自治を行う姿を。
始皇帝(鼻で笑う):
民に任せて何になる。
合議の果てに決まるのは、曖昧な妥協。
“決断”とは、帝の剣のように鋭くあらねばならぬ。
リンカーン(ゆっくりと語り):
ですが、剣だけでは人の心は動かせません。
始皇帝、あなたの偉業を否定はしません。
だが、強さだけでは持続しない。
私は、分裂の危機にあった国をまとめるため、言葉を、信頼を使いました。
始皇帝(薄く目を細め):
ならばなぜ戦争になった?
民が好き勝手に振る舞い、南北に割れたからではないか。
リンカーン(少し険しい目で):
……その通りです。
だが、その分裂を“力”だけで封じていたなら、今のアメリカはなかった。
私は“理念”で国を保とうとしたのです。
石丸伸二(少し前のめりに):
お三方の議論、非常に示唆に富んでいます。
私は現代の日本で、首都・東京が一極集中している現実を見ています。
その構造は、始皇帝が作り上げた中央集権の論理と非常に似ている。
でも、地方が吸い上げられ、干上がっていく構造は持続不可能です。
制度と秩序が先にあって、地方が黙って従う――そんな時代じゃない。
トクヴィル(うなずく):
私も同感です。
地方にはその土地に根差した知恵と希望がある。
中央の論理では見えない“暮らし”がある。
それを「黙って従え」と言うのは、文明の否定ではないですか?
始皇帝(少し声を荒げ):
言葉ばかりで国は動かぬ!
地方が勝手を言えば、国は崩れる。
お前たちは“混乱”を美名で飾っておるに過ぎぬ!
リンカーン(低い声で):
混乱を恐れるあまり、自由を奪ってはならない。
中央が強すぎれば、地方の不満は積もり……やがて、爆発する。
石丸伸二:
まさに、今の日本ですね。
人口も、資金も、情報も、首都である東京への流れが加速し、
地方は東京を模倣するばかりで疲弊しきって声も出せない。
――それでも「都が秩序を保っている」と言えるのでしょうか?
(舞台の空気が少し張り詰める。始皇帝が口を閉じるも、瞳は冷たく光っている。リンカーンとトクヴィルも言葉を探しながら、視線を交わす。)
あすか(タイミングを見て):
皆さん、ありがとうございました……!
論理は冷静ながら、すでに火花が散り始めていますね。
中央が統べるべきか、地方が育つべきか――
その哲学の違いが、じわじわと姿を現しはじめました。
この静かな熱、やがて次のラウンドで爆ぜるのか……?
それでは次回、ラウンド2「地方は首都に従うべきか?」
――皆さん、どうぞお楽しみに!
(照明がゆっくりとフェードアウト。観客席にもざわめきが広がる)