閑話 松崎剛一
松崎家は日本の陰陽術師の家系で、東の藤原家を本家に持つ分家の立場だ。剛一はその家の次男として生まれた。長男が後を継ぐはずだったが、長男は家業が嫌で松崎家とは断絶して探索者をしている。
剛一はその空席に入った当主だ。
長男には敵わないと日陰者の道を選ぼうと思っていた剛一は、舞い込んだ当主の座に固執した。汚い手を使ってでもその座を譲らないと決めていた。
金も女も権力も、当主になった剛一には思いのままだったからだ。
親族の一人を妾として囲ってから、他の女に惚れた。
そう、最初は惚れて結婚したはずだった。
容姿の美しい儚げな女だった。その女の子供なら綺麗な子供に育つだろうと、何処かで思った。
息子が生まれた時は後継者が生まれた事に満足していたが、妻が原因不明の狂気に蝕まれてからは、結婚の前から付き合っていた女と、その子供をしっかりと陰陽師に育てようと決意をして、妻と息子は放置した。
妻が死んでからは、その息子が生きている事が嫌だったので、食事も与えず学校の手続きも行わなかったのだが、後妻に向かえた妾が何故か手続きをして通わせていて、その子供たちも元妻の息子に食事を与えていたようだ。
見る影もないほどに痩せていたので、いつか死ぬだろうと確信し放置していたのだが、何故か中学を卒業する前に元妻の親戚から養子に迎えたいと連絡が来た。仕方なく金銭を受理した後で養子の手続きをした。
息子が家を出たのが縁組の手続きを完了してからだったのは、元妻の親族の手引きだったのかも知れない。家を出て行った日にちも時間も、後妻から聞いて知った。
興味が無かったのだ。気が触れた女の息子など。
いや、と剛一は軽く首を横に振る。
己の心の中では嘘をつかなくていいだろう。
恐ろしかったのだ。妻の血筋が生み出す陰陽とは全く違う力が。
陰陽術師は主に呪札を媒体にして力を使う。紙がない時は木簡や木の葉を使うが、なんにせよ言の葉を唱え媒体をかざして術を行使する。
だが、あの力は違う。
思考するだけで力を放つ。陰陽道では無しえない巨大な力を自身の心ひとつで放てる力の持ち主は、陰陽道を突き進んできた剛一には恐怖の対象でしかなかった。
だから放置した。
剛一は探索者協会本部の前に車を止めて降りた。辺りを見回すと本部前の階段に人だかりが出来ている。その先頭には見目麗しい少女たちに囲まれた少年がゆっくりと階段を上っていた。剛一が見つめていると、何かに気付いたように少年が足を止め振り返った。
その日、久しぶりに松崎剛一は自分の息子の姿を見た。




