陰陽家の苛立ち
朝食の席で流れていたニュースを、いつもは流して聞いていた家族全員が目を見開いて見つめていた。
そこに流れているのは、探索者ランキングを昔から放送している朝の番組で、一家の長たる父親は感心を持たず、長男と長女が気になるからと流していただけの、雑音のような番組だったはずなのに。
日本で一番憧れる職業である探索者の、日本一といえるランカーのトップに、見知った名前が流れた。その事実に家族は画面から視線をずらさなかった。
『結成して僅か数か月のクラン、〈漆黒の魔王〉の九条 有架さん!!今回のダンジョンパニックの全てを治めた現代の魔法使いが、堂々のランキング一位です!!』
「…有架?」
長男の健流の口から、この間まで一緒に住んでいた義弟の名前が呟かれる。
「あれ?でも、九条って?」
長女の恵流も口を開く。首を傾げながら話す態度を何時もならば注意する母親も同じ疑問を持っていたのか、娘と同じように首を傾げた。
そして画面を見たまま黙っている父親の剛一に視線が集まる。
睨みつけるようにテレビの画面を見ていた剛一は、家族の視線に気付き眉根を盛大に寄せる。酷く気分が悪かったが、家族の視線は説明を求めていた。
「…家を出る際に、向こうの叔父の養子に入れた。だから苗字が違うのだ」
「え、じゃあ、本当に有架がトップランカーなの?!」
恵流が不安そうに言うと、隣に座っていた弟の芽流がテーブルに箸を置いてから、父の顔を見て溜め息を吐いた。
「いまさら金づるになったからって、縁を求めるのは違うと思うけど」
極めて当たり前な意見を言われて、剛一は無言で立ち上がって玄関に向かった。今日は会合などなかったはずだが、この事態に一族から話が来るだろうと想像はついた。
父親が出かけた後に、傾げていた首を元に戻してから、母親が三人の子供を学校へと急がせる。健流と恵流は革の学生カバンを持って揃って外へ出た。
芽流も斜め掛けのカバンを掛けて、二人とは反対の方向へ歩き出す。高校と中学は逆の方角だからだ。
芽流は徐々に足を速める。自覚はない。ただひたすらに怒っていた。
やはり本妻の子供であるあいつが一番優れていたのか。
魔法と陰陽が使えるだなんて、反則も良い所だ。どれだけ能力に恵まれているというのか。ただ母親の血が優秀だったというだけで。
靴がガツガツとアスファルトを削るかのように音を立てて、何処から見ても松崎芽流は怒りを身体中に巡らせながら中学校に登校した。
「今日は協会に行って、魔石の話の続きをしなければならないのに」
僕が呟くと、邪神ちゃんが嬉しそうに絡んでくる。
「変装しないとね?伊達眼鏡する?」
そんなもので誤魔化せるのか?静がどこからか黒縁眼鏡を持って来る。笑顔で渡されたので仕方なくかけてみる。眼鏡なんて初めてかけるけど。
「視界が歪んでいませんか?度は入っていないのですが」
「…うん、平気だけど」
玄関の鏡で見てみるが、そこまで変わっている気がしない。こんな扮装で果たして大勢の視線をかわせるのだろうか。
探索者ランキングでは、だいたい写真が放送される。僕の順位の時もおぼろげに写っている物が画面に流れていた。あれだけでも特定班にすぐに顔ばれさせられてしまう。
「帽子もかぶる?」
にやにや邪神ちゃんがキャップ帽を持って来るが、一体何処から。
「…帽子は良いよ、蒸れるし。だいたい僕なんて誰も分からないよ」
「いやあ、どうかなあ」
見た事もない様な顔で邪神ちゃんがにやついている。その後ろで静も一緒に肯いていた。いや、君達ね?
そうこうしている玄関口に、ピンポンと音が響く。玄関の外側に誰かが来ているようだ。僕がドアを開けずに見ていると、邪神ちゃんがぐふふと笑った。
なに、その笑い方。
「有架。ガールズが来たわよ」
「え、なに、ガールズって」
「さしずめ魔王ガールズかしらねえ」
え、なんだって?
邪神ちゃんが鍵を外すと、玄関のドアが開いた。
外には美少女たちが立っている。
流詩逢さんと、相庭さん。その後ろに穂香さんまでいる。
「え、なに?」
僕の家を教えていないけど、来るのは構わない。そうじゃなくて、どうして三人一緒にいるんだ?しかもみんな綺麗な服装で。
「今朝のランキングは知っていたから、私達が弾除けになるよ、魔王さま」
「うふふ、要するにゴシップ避けかなあ?」
「…マスコミは厳しいから、それならば有架くんはハーレムクランだと思わせた方が良いって」
穂香さんの言葉に、つい目が細くなってしまう。
「そんな事を考えそうなのは、一人だと思うんだけど」
「まあ、賢者殿よ。諦めて私達と行きましょう、魔王さま」
穂香さんにまで呼ばれて、僕は言葉が思いつかない。けれど、隣に居る邪神ちゃんは笑ったまま数回肯いた。
「いいわねえ、これで行きましょうよ、有架」
僕の後ろには静がいるけれど、彼女も反対はしなさそうで。
周りを見回してから、僕は肯くしか出来なかった。
「……分かったよ。みんなで協会本部に行こう」
こんな賑やかな外出は初めてだ。落ち着かないけれど、彼女たちは僕を心配して来てくれたのだし。
そう思いながらも、周りが女性だらけの状況が、僕には見慣れなかった。




