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報告会



宗典さんの横にするりと賢者が座った。小柄な人だからか宗典さんは何も言わずに接触したまま紅茶を飲んでいる。賢者の前に無花果さんが紅茶を置くと、そのカップを嬉しそうに持ち上げてから、賢者は僕を見た。


「今の君は魔王様でいいのかな、黒の勇者?」

「どっちつかずな呼び方は止めて下さい、父上」

〈漆黒の魔王〉の中でも最年長の宗典さんが、小学生の様な体格の賢者に父と呼びかけるのは少し違和感がある。


「賢者ボロウス。あなたの名前は?」

「ああ、そうか」

ニヤリと笑って黒縁の眼鏡を指で押し上げてから、僕の質問に答えてくれた。

「今の私は薄塚 高嶺という。高嶺と呼んでくれたまえ」

「はあ、では、高嶺さん。さっきから魔力を何処に流しているんですか?」

「おや、気になるかい、魔王様」

「それは、もちろん」

肯いてから、高嶺さんの指先を見てみる。僅かに光っているが、魔力の行方を追えるほど開示はされていなかった。


「息子が作っている魔王城建設に、少し力を回しているんだよ」

「え、魔王城?」

聞き捨てならない単語に聞き返すと、高嶺さんの横で宗典さんが大きな咳をした。

「ゴホン。…我が魔王には、お披露目はもう少し先になるかと」

「…」

何してるの、とは言えなかった。

大量の魔力が必要になるだろう建築は、彼らの目標の一部でもあるかのようだし、口を出したところで、僕に変わりの案などない訳だし。

また耳元で小さな溜め息が聞こえたが、僕は吐息を飲み込むしかなかった。


不意にローズさんの身体から数羽の鳥が空間に飛び立っていった。エリカさんがローズさんを見るが、ローズさんは天井を見たまま顔を下げなかった。

「…何か事態が動いたようです。情報は後程。それで、魔王さまは新しい情報など在りますでしょうか?」

問われて、情報を共有するか悩むが、僕よりもよほど知恵者が揃っているクランの会議で、情報を渡さない事は知恵の泉を濁らせるだけだろう。


「確認してきただけなんだけれど、神の座にいない神様に話を聞いて来た。日本の神様だけど」

僕の言葉に周りが緊張したのが分かった。神様に会うのはさすがにやり過ぎだったのかと思うけれど、出来たのならばするのが当たり前だろうし。


「日本の神様は、ダンジョンには関わり合いが持てないし、協力も出来ないそうだよ」

「そうですか」

小さくエリカさんが呟く。宗典さんと高嶺さんは当たり前のように表情を変えなかった。

「それから、怪異ならば力を貸してくれるかもと言われたけれど」

僕はそこで、名家さんの笑顔を思い出す。

「ダンジョンパニックぐらいならば力を貸して貰えるかもしれないけれど、僕達が戦うかもしれない相手には、敵わないだろうし。…少なくとも神様相手の時は当てに出来ないと思う」


そうなんだ。名家さんはとてもいい人だけれど、怪異が日本の神様に勝てないのならば、僕達が相手にするかもしれない神には、戦力不足だというしかない。

僕の言葉に、その場に居る全員が肯いた。

確認が出来るのはいいけれど、少しも前に進めていない歯がゆさは、息が詰まるような不安を連れてくる。


「魔王さま。探索者協会から連絡が入っています」

目を開いてじっとしていたローズさんが僕を見て、そう言ってきた。

「探索者協会?」

「はい。五十嵐本部長から通信が入っています」

「え、なんだろう。繋いでくれるかな」

「はい」

ローズさんが大きく腕を横に動かすと、茶器が乗っているローテーブルの上にディスプレイのように画面が映った。


『やあ、九条君』

「どうも、五十嵐さん。何か用事がありますか?」

前置きを言わずに話をするのは、何時も通りなので五十嵐さんも何も言わずに話を続ける。

『九条君は、ダンジョンパニックの時に集めた魔石を売る気はないだろうか?』

「?」

首を傾げたら、非常に重い溜め息が五十嵐さんのいる画面から聞こえた。

『できれば売ってほしいのだよ。いま市場には魔石があまり出回ってはいなくてね、電気の発電量を押さえるかどうかの話になっていて』

「…僕が売れば、回復するんですか?」

『分からないが、九条君には魔石をため込んでおく理由はあるのか?』

そう問われて考えたが、明確な理由はなかった。ただ集めて魔導具に入ったままになっている。


「…じゃあ、本部に行けばいいですか?」

『助かるよ。本部で待っているから、早めに来て貰えると』

「分かりました」

電気が止まるのは困るし、仕方ないかな。



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