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旧知の人



僕達は上野まで電車に乗って歩いて錬金研究所まで移動した。南小路さんは真っ暗な路地に入る前にぴたっと立ち止まる。

「どうしたの?」

振り向き尋ねると僕の手を握って一歩、暗闇に入って来る。

「この錬金陣の構築は、信じられないくらい緻密ですね」

「そうだね。彼は錬金に関しては最高峰の一人だと思う」

「錬金に関しては?」

「え、そこは、突っ込まないで欲しい」

僕の言葉に南小路さんは小さく笑う。東京駅から離れても緊張していたけれど、この路地に入ってから緊張がほぐれたようで良かったと思う。


感じ取れる力は確かに強大で、何かの攻撃があったとしても大丈夫だと思えるような安心感に包まれているけれど。もう何回も通って慣れてしまっている僕には、南小路さんの言葉は新鮮だった。

十数年の記憶が、激しい環境の変化で薄れていく。

それで良いのだと、耳元で邪神ちゃんが呟いた。


真っ暗な路地の突き当りに、ほんのりと光る小さな明かり。それが灯す扉を開けて僕達は中に入る。

「お待ちしておりました、我が魔王」

相変わらず現世とは思えないローブを着こんだ宗典さんの姿に、南小路さんが僕の後ろに隠れる。それから恐る恐るという風に宗典さんを見た。

宗典さんの隣の無花果さんが、少し細い目で宗典さんを見ている。


「有架くん」

「あ、穂香さん」

何だか少しラフな格好で、穂香さんが傍に来る。本当に此処に住んでいるんだなあって思いながら見ていると、穂香さんは僕の背後の南小路さんを見て立ち止まった。

「新しい人?」

…何だか少しだけニュアンスが違った気がして、頷けないでいると南小路さんが僕の後ろから出て穂香さんの前に行くと頭を下げた。

「初めまして。南小路流詩逢と言います。九条さんに言ってクランに入れて貰えることになりました。よろしくお願い致します」

穂香さんが僕を見るので肯くと、困ったように眉を下げた。

「そうなのね。まあ、よろしくね」

「はい」

困った顔をしている穂香さんとニコニコしている南小路さんが相向かいに立っている横をすり抜けて、エリカさんが僕の傍に来る。


「お部屋は出来ています」

「ああ。ありがとう…っていうか、ここに幾つも部屋があるとか、あの広間があるとか、ほんとうに」

言いながら視線を向けたけれど、にっこりと笑っている宗典さんを見て、仕方なしと思った。


「じゃあ、私が案内するわ。南小路さんは付いてきて」

「あ、はい」

南小路さんが僕をチラッと見るので頷くと、肯き返してきてから穂香さんの後を付いていつの間にかできている階段を降りていった。いや、前に来た時には此処はただの壁だった気がしているのだが。

「考えたら負けよ、有架」

「そう、か」

邪神ちゃんの声に頷くと、宗典さんが傍まで来てニコニコと僕を見る。

「お茶でも飲んで行かれませんか?我が魔王?」

「情報もいくつかありますし」

宗典さんの横でローズさんも言うので、数人でソファに座ると無花果さんがお茶を持ってきてくれた。

ローズさんがどこかの地図を広げた後ろに、見知らぬ黒髪の少年が立ってぎょっとする。帽子を被って眼鏡を掛けた黒髪の少年は、僕を見てうっすら微笑んだ。

驚いているのは僕だけで、宗典さんもローズさんも驚いていない。

「え、と」

僕の声にローズさんが振り向き、少年を見てから僕を見た。

「魔王さまはお忘れですか?」

「え?」

僕が忘れている?


黒髪眼鏡の少年を見つめる。知り合いに居ただろうか。顔をじっと見たけれど、その顔に覚えはなく首を傾げてしまう。

僕が首を傾げると、少年は驚いた顔で見る見るうちに涙目になった。

「え」

「あんまりだよ」

とても低いその声を聴いた途端に、足元から地面が無くなった感覚に襲われた。


その声を僕は知っている。

だけどそれは、前世でも思いだせていなかった人物の声で。


古い錬金研究所で、覚えたての飛行魔法で飛んでいた僕が魔法切れで落ちた先。その頃からファイゲは居て、でも、錬金術師は初老の男性で。国でも有名な。

「賢者ボロウス…」

呟くと少年は今まで湛えていた涙をぱっと散らして、満面の笑みで頷いた。

「正解だよ。ディザイア」


僕らの会話に宗典さんが口を挟む。

「私の身体には父が混ざっていますが、そこに居る父には前世の混ざりものはありません。まあ、いわゆる普通の転生と言うやつでしょうね」

「自分がどこかの世界の生まれ変わりだと気付いたのは、小学生のころだよ。それからは覚えている事を書き留めて、いつか来る出会いを待ち続けていた」

賢者ボロウスは僕を見て嬉しそうに笑っている。


「息子にも勇者にも会えたのは、なんという僥倖だと思えばいいのかな」

そんな言葉を聞いている耳元で、誰かさんの溜め息を聞いた。

『面倒な奴が来たわね』

同意できない僕に、聞かせるのは止めて欲しいのだが。



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