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〈ワンダラー〉




ダンジョンが出来てから一年が過ぎた時に、ダンジョンの内部に入る一般人が多数出現した。軍隊が使う武器、銃火器がモンスターにはほとんど効かないために、異能を使う人種が試験的に投入された。


魔法使い、霊能者、陰陽師、呪術使い、超能力者。

あらゆる異能使いと言われる人たちが世界中でダンジョンの内部に入るように、それぞれの国からお願いという名の強制力に促されて、殆んどの能力者が潜っていった。


その中で、歴史に埋もれていた強い力の種族が、ダンジョンのモンスターを撃退出来る事が判明した。ダンジョンが出来てから負け続けていた人類はやっと、異能力者たちのおかげでダンジョン攻略を進めることが出来た。


ダンジョンによってもたらされた新時代は、異能者たちを表舞台に引きずり出し、能力主義という新たな歴史を築き始める。

どの国でも能力者の派閥が幅を利かせ始め、異能者の一族が優遇されて、政治にすら意見が出来るようになっていった。ダンジョンが出来て十年が過ぎたころには、異能者がダンジョンを攻略するのが普通になっていった。


その中で、ダンジョンに出現している宝箱に入っていた魔術書の使い道が分かり、全人類がその書物を求めるようになる。

ダンジョンの中のみだが、魔法使いの血筋ではない一般人でも魔法が使えるようになる事が判明したのだ。魔術書は使用する事で魔法使いになる。剣術書は使えば奥義のような魔法を伴った剣術が使えるようになった。


宝箱から排出される書物は、多くの人が求める物になり、販売を望まれた。

利益が伴えば、混沌とした環境が生まれる。魔術書は一時期、どの国でも一億円以上の値段が付けられた。


その時代に探索者が協会を立ち上げて、登録と管理が始まり、法律が作られて上限のなかった暴力が収まっていく。


そんな時代に〈ワンダラー〉は結成された。


「あの頃の私達は、若かったせいもあってダンジョンを誰よりも早く攻略する事に全力を注いでいた」

南小路父は、少しはにかんだ顔でコーヒーを飲んだ。

「だから他人の思惑には気付かずに、前へ進む事だけに熱中していたんだ。意味が分からない言葉は誹謗中傷の類いだと勝手に解釈して。私達がその忠告に耳を傾けられたのは、〈ワンダラー〉がほとんど瓦解した後だったけれど」

問いかけがないまま小さく肯いた南小路父は、僕を見て困ったように眉尻を下げる。


「私達は、パニッシュメントの標的にされた」

僕が肯くのを見て片眉を上げる。

「おや、知っているのかい?」

「いま、僕に協力してくれている探索者の中に、昔〈ワンダラー〉に参加した事がある人がいますので」

「…ランカーのあの子たちかな?知っているのなら説明は省くけれど、クランメンバーが数人パニッシュメントに鞍替えした。自分の意思か洗脳かは今では解明できないけれど、そのおかげで〈ワンダラー〉は弱体化して勢いを失った。どうにかして前に進みたかった私達は、ダンジョン内最強にこだわったんだよ」

長く喋ってから、何かに気付いたように南小路父は、はにかんで笑った。


「昔話を真剣に言ってごめんね。あんまり聞きたい話じゃないと思うけれど」

「いえ、クランの在り方を窺えるのは、良い機会だと思います」

主に邪神ちゃん的に。


僕の返事に南小路父は首を傾げる。南小路娘は話を聞く気が無いのか、スマホをいじっている。

「私達はダンジョン内の宝箱を得るために、手当たり次第にダンジョンを踏破した。仲間の身体が欠損しようとも仕方ないで済ませて。酷く無情だったと今では思っているよ」

目の縁が赤い色になり、涙をこらえているのが分かる。けれど、その表情に耳元の邪神ちゃんは警告を伝えてきた。


「魔法使いを〈ワンダラー〉に入れることは悲願のようになってしまった。ダンジョン内では最強と言われたけれども、現実社会では普通の人間で、暴力には対抗できない。外では銃で撃たれたら死んでしまう。私達は常にダンジョンの中にいるようになったんだ」

「…なるほど」

その事に関しては僕からは何も言えない。僕達は異能者の集まりなので、ダンジョンの外では一般人の感覚が想像でしかない。


「でも、ダンジョンの中にいると新しい人間関係は生まれない。だからいつまでたっても改善はされない。友情をはぐくむのはダンジョンの中では難しいからね」

「そうですか」

「だから私は、ダンジョンに拘るのを止めたんだ。人生の目標を諦めるのは大変だったけれど、おかげで、妻と子供に恵まれた」

僕はコーヒーカップに指を掛けるが、警告がまた飛んできたので不自然の無いように指を掛けたままにする。ふと南小路娘を見ると、チラッと僕を見て本当に小さく首を横に降った。


「けれど、うちの娘は魔法使いの彼氏を作ってはくれなくてねえ」

邪神ちゃんが三回目の警告を口にする。

「九条君はどう思うのかな?」

微笑んで僕を見ている南小路父の顔は、笑っているように見えて、その実何か怒っているような泣いているような狂気をはらんだ表情をしていた。




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