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神様と呼ばれるもの



「日本の神は、天に居る者と地に居る者があって、そこの関係者は大体が親戚だ。大昔からいるとされている血筋だから有名な神がたくさんいる。神社に奉じられている主神は大体そこらへんだ」

そんな大雑把な話し方をしながら、祝さんは眉根を少しだけしかめている。


「そこの神に関しては、ほぼ現代には影響力が降りて来ない、と言っていいと思う」

「降りて来ない?」

話に口を挟む形になってしまったが、疑問に思って聞くと、少し難しそうな顔になって、祝さんがほんの少しだけ顎を引く。


「この世は日本の神には生きにくいと、言い換えてもいいかな」

そう言ってから、祝さんが湯呑に口を付けた。

「神秘の認識が変わった、のかな。神の力だけが奇跡を起こすのではなく、怪異の力も奇跡に見えるし、今の人間が得ている怪力や鋭敏な視力なども、神秘に見えるだろう?ましてやダンジョン内では魔法や剣術などの、ダンジョン内だけで通じるルールが敷かれている。そこには日本の神の神秘が入る隙が無い」

とつとつと話す祝さんは、僕に分かり易いように考えながら話してくれている。その話を聞きながら、僕の耳元で別の考察を話している邪神ちゃんの存在が分かっているみたいだった。


「つまり、日本の神の力が及ぶ場所は、日本という国の上からほとんどが失われてしまったんだよ。だから日本の神はダンジョンに関与できない」

「陰陽はどうなんでしょうか」

「ああ、それだが」

そこまで言ってから、また祝さんが外を見る。

何かを確認するかのようだと、今になって気付いた。


「今の陰陽に関与している日本の神はいない」

「え」

「陰陽を使っている人間が信奉しているものは、ダンジョンが出現してから、別の物に成り代わられている」


僕は祝さんの言葉に絶句した。


生まれてから生きていた松崎家は陰陽を生業にしている家で、もちろんずっと神棚があり、そこに手を合わせているのを毎日見ていた。

僕は邪神ちゃんがいたので、物心ついてから手を合わせて拝んだ記憶はないけれど、家の者はずっとそこで拝み、季節ごとの参拝も欠かさずに行っていた。


家の神棚に何もいないのは分かっていたけれど、参拝に行っている神社にすら日本の神がいないと、言っているのだろうか?


「実際に神がいると本気で認識されたのは、ダンジョンがこの世に顕現してからだ。九条君も知っているだろう?」

祝さんの質問に小さく頷く。僕にとっては当たり前の感覚は、以前は違ったと目の前の人は言っている。その事実に頷いた。


「以前は神秘的な何かという感覚はあっても、一般人は神の存在なんて想像の産物としか思っていなかった。けれど、ダンジョンがこの世界に現われた時に、超常的な力がこの世にあるのだと自分たちの目で確認してしまった。その瞬間に認識が上書きされて、神はいると全世界の人間が思い込んでしまった。つまり信仰を全世界の人間が持ってしまったという事だ」

僕は開けていた口を閉じてみる。

信仰という言葉に含まれている、ある種の軽蔑がこの人が人間側ではない事を示している様で、少しお茶を飲んでみた。

僕は邪神を身に沈めている人間ではあるので、多分、祝さんとは立場が違う者だ。純粋な人間ではないというのは一緒だとしても、構築している何かの成分が確実に違うのだろう。その違和感を持ちながらも、説明をしてくれる事に感謝している。


「ダンジョンがある世界になってから、純粋な神は力を振るい難くなった。人間が信じている神と本当の神の認識が離れているために、本当の神の所に祈りが届かなくなったからだ」

「…では、人間が祈っている対象は何だと思っているんですか?」

問いかけた僕を見つめて祝さんが笑う。


「人間が祈れば必ず願いをかなえる機械の様なものだ。自己願望器と言っていいだろう。そこには本当の信仰はなく、ただ欲望を願われる人形に過ぎない“神様”がいるだけだ」

そのぞっとする笑いを見て、僕は頭を下げたくなったが、耳元でずっと考察している邪神ちゃんに止められた。


少し怖い状態になった祝さんを見ながら、名家さんがばりんと良い音をさせてお煎餅を齧った。がりんぼりんと噛みながら、僕を見る。

「月読が言っているのは神様サイドからの話で、俺ら怪異の感想とは違うから、月読の意見が全部とは思わないでほしい。月読はあくまでも正しい神様の血筋からの意見だから」

「…はあ」

派手な音を立てて食べている名家さんを祝さんが軽く睨んだが、別に否定の言葉は出て来なかった。


「俺達、怪異はダンジョンが出来る前から神様たちともいくらか交流があったけれども、ダンジョンが出来てからも特に近づいたり離れたりはしていない。力関係も変わったりしていない。ただ人間との距離が複雑になったかな」

「距離が、複雑に」

「そう。さっき月読が言っていた何でも願いをかなえる神様は、八割がた怪異が担っているんだよな」

「え」

「多分、異能者たちが崇めている、何でも願いを聞いてくれる相手は、怪異だと思う。神様が願いをかなえるためには結構な代償とか大量の犠牲とかが必要だけど、祈っただけで実質的な事をかなえてくれるのは、神様には逆に難しいからさ」

お茶で喉を潤しながら、名家さんは話しを続けた。


「日本の神様って言うのは、神様同士でも誓約をしあったりして力を加減する方が多いのだけど、ダンジョン現界以降に現われた神様は、ちょっと祈ったりすれば力を貸してくれるし、呪言を言えば陰陽師に力を渡してくれたりするし、まあ、とても簡単に人間が望む事をしてくれる訳なんだけど」

だんだんと言いたいことが分かってきた気がする。


「それは本来の神様にはできない事なんだよね。それで。まあ。俺ら怪異は自分の願いだけで、誰にでも何処にでも力を貸すことができる訳で」

そこまで言って、名家さんはフウッと息を吐いた。


「つまり、九条君が力を貸してくれない神様と思っている相手が、本来の神様で。色々と力を貸してくれている神様っぽい相手は、だいたいが怪異という感じかな」

「なる、ほど」

そう答えた僕の顔を見て、名家さんも祝さんも小さく苦笑いを浮かべた。




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