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東京駅ダンジョン



お茶碗を持ったまま静の顔を見ている僕に、静が不思議そうに聞いて来た。

「何かおかしな話をしましたか?」

「え、あ、いや、人の名前に聞こえたから」

「はい、人間の方ですから」

うん?

僕も首を傾げると、隣のローフェが溜め息を吐いた。


「神の座にいないって、静が言ったじゃない」

「あ、そうか」

静が肯いて話を続ける。


「祝 月読さまと、名家 天火さまが来て下さるそうです。お二人とも見た目は人間ですので、お話しやすいかと思います」

「そうなんだ。分かったよ有り難う。…何処で会えばいいのかな?」

「東京駅でお会いしたいそうです」

東京駅で。


「え?東京駅で?」

「はい。そうおっしゃられていました」

「…分かったよ」

僕とローフェは顔を見合わせる。


東京駅で会いたいという事は、ダンジョンで会いたいという事になるのだけれど。神様だから、ダンジョンにも入れるって事なのだろうか。

悩んでいる僕の顔を見て、ローフェが苦笑する。

「相手が指定したのだから、仕方ないわね」

「そうだ、ね」

大きく口を開けてご飯と鮭を口に詰めて肯く。お願いしている立場なのだから指定された場所には行くけれど。


東京駅。第四十九ダンジョン。

日本で最後にダンジョンになった、国を代表する歴史ある駅だった場所。

まさか入る事になるとは思わなかった。しかも進化した後で、ほとんど誰も入っていないと聞いているのに。


「入り口にいればいいのかな」

「行けば判ると言われていますので、向かわれれば分かると思いますよ」

静の言葉に肯いて、食後のお茶を貰う。

とにかく明日会ってみなければ何も分からないだろう。



朝起きて身支度をして家を出る。

見送ってくれた静に行ってきますと告げてから、自転車に乗った。池袋に置きっぱなしだった自転車が、家に置いてあった。

静に聞くと、知らない誰かが運んできたらしい。身長の低い黒髪の眼鏡を掛けた人物だというので、僕の直接の知り合いではないのだけれど。


一晩悩んでから乗る事にして、ペダルをこいでいる。

何処かの誰かに家が把握されているのは怖いのだが、家にそこまで大切な物は置いていないし、静がいる限り人の手で壊される事もない。

家守と言うのは人知を超えた力があるのだと、僕は知っている。


何時もなら聞こえる電車の音が聞こえない事で、街は少し静かだ。

逆に今僕が走っている道路は通常よりも混雑していて、心なしか自転車の人も多い。


僕の自転車の後ろに乗っているローフェは、僕以外に見えることはないので交通違反にもならずに二人乗りが出来ている状態だ。

「ねえ有架。会って聞く事は決めてきた?」

僕の腰に掴まりながらローフェが聞いてくる。

「二つ三つは決めてきたけど、それ以外は話の雰囲気次第かな」

「そんなに機会は無いのだろうし、ちゃんと決めた方が良いんじゃない?」

「まあ、ぼちぼち」

そんな事を言った僕のわき腹がキュッと抓られた。

ちょっと痛くて、速度が緩む。


睨むにも、後ろに居るので視線は向けられずに、仕方なく強くペダルをこぐことに専念した。そんな僕の態度に気が抜けたのか、それ以降ローフェの攻撃はなかった。


三十分かけて東京駅の前に着く。

かつては多くの人が行き交う主要駅だった名残は、その建物だけになってしまっている。外側にダンジョンゲートの囲いがあるので、その外側の駐輪場に自転車を置く。盗まれないようにハンドルに人型を置いて、ゲートの中に入った。


厳つい人が三人ほど、内部ゲートの傍に立っている。辺りを見回しても他に人はいない。残念ながらその人たちは普通の探索者のように見えたので、探索者カードをゲートにかざそうとすると、その人達が話しかけてきた。


「おい、子供が一人で中に入るのは危険だぞ」

「大丈夫です」

この問答も何回目になるのか。

「此処は、日本でも最難関のダンジョンだ。お遊びで入るものでは無い」

「知っています」

僕の答えに、男たちが顔を見合わせる。

「所属を聞きたい」

彼らの顔を見ながら、溜め息を飲み込む。

「〈漆黒の魔王〉です」

そう言った途端に、男たちの顔が引きつった。


「あ、あの噂のか?」

「うわさ?」

「ダンジョンパニックをすべて沈めたという話の」

探索者協会の情報漏えいには、溜め息を禁じ得ない。

「どういう噂か知りませんが、僕は〈漆黒の魔王〉の所属です。では入りますね」

長話をしたい訳ではない僕は、さっさとカードをかざして中に入った。


後ろからついて来る気配はない。ないよね?

一度振り返ると、横のローフェが小さく笑った。

「着いて来ようとしたけど、錯覚させておいたからまだゲートの外よ」

「…うん、ありがとう」

向きなおしてしみじみとダンジョン内部を見る。


いつか富士さんが言っていたように、中は青い壁と床で、僕は異世界の小さなダンジョンを思い出す。あそこまで美しい装飾が施されている訳ではないが、それでも今まで入った何処のダンジョンとも雰囲気が違った。


大きくて広い通路を抜けると、大きい部屋のような場所に出た。

そこもぐるりと見渡す。綺麗な部屋なのだが。

そこから先に行くには、この違和感の正体が知れないと身動きが取れない。


「モンスターがいないわね」

「そうだね。一匹も会わないなんておかしい」

さして長い距離では無いものの、それなりの長さを奥に進んだのに、モンスターの気配すらなかった。


そこに足音が響く。

僕達が着た場所とは反対の奥に行くための扉のないアーチ状の入り口から男の人が二人歩いて来た。僕の姿を見て近くまで来て足を止める。


多分僕はポカンとした顔をしているだろう。

神様って、すっごい美形しかいないのかな。

眼の前に立っている青年は少し長めの銀髪に綺麗な青紫の瞳をしていて、鼻筋も通り白い肌の透ける様な感じとか、芸術品ではって言うような容姿端麗さが、もう、なんだか。


隣に立っている人も美形だけど、この人は静の同類だと分かった。

真っ赤な髪をして浅黒い肌が健康的な妖怪だなと目線をやると、困ったように微笑まれた。


「君が、静か餅の親戚が言っていた人かな?」

赤い髪の人が言うので肯くと、じっと見られる。あ、そうか。

「ちょっと緊張しています。すみません。九条有架と言います。僕の家の静か餅に頼んで来ていただきました」

「そこまで緊張しなくていい。俺は正式には神ではないし」

「月読が神にならないだけだろう?」

「利点が無いから、ならないんだ」

仲が良いのか、二人でそんな話をしている。


銀髪の人が幾分目を細めてから、僕を見て話す。

「俺は祝月読という。九条君?は何か話がしたいって聞いたけれど」

「はい。この国の神様に聞きたい事があったのです」

「…どんな事を?」

並んで立っている神様と怪異に、緊張しながら問いかけた。


「この国の創造神は、この国を守っていますか?」




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