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クランとパーティ




「何を言っているんですか?」

ランカー第二位のクランが、僕のクランの傘下にって。有り得ないだろう?そう思って僕は焦っているのに、立っている宗典さんが嬉しそうに津島さんに言った。

「我が魔王軍の軍門に入ると、そういう話でしょうか?」

「そうだ」

少し笑いながら、津島さんが頷く。

「あなた方のクラン名はどういたしますか?」

「パーティ名として使いたい。クランはもちろん魔王様のクランだから、そう名乗る」

「そうですか。いかがいたしましょう我が魔王よ」

僕は宗典さんを軽く睨んだけど、そんな視線に動じる人では無い。


「本気ですか?津島さん」

僕が聞くと深く頷いた。

「本気だ。この先どう考えても九条君がいた方が良いだろう」

ああ、もともと非常に割り切った人だったよ、津島さんって。藤原さんも北角さんも全く異論を唱えないから、僕だけがおろおろと悩んでいる。


「本気なんですね?」

「勿論だとも」

「…それでしたら、お受けいたします」

「俺も参入したいのだが」

伊達さんまでがそう言ってきた。

「九条君も知っていると思うが、うちのクランはほぼ解体状態だ。ソロになっても良かったのだが、君と一緒に行けるなら、うちも魔王軍に入れて欲しい」


僕は今、きっと変な顔をしている。

「あの、伊達さん」

「勿論俺も本気だ。そうでなければ駆けつけない」

嘘の言えない真っ直ぐさが、伊達さんの長所だとは思うけれど。

「共闘ではだめなのでしょうか?」

「できれば同じクランでいたい。勿論俺達もパーティとして動く。迷惑はかけないつもりだ。駄目だろうか」

もうちょっと待ってほしい。

僕は両手で顔を覆って、考える。


「あらら、魔王様が悩んじゃってるよ」

藤原さんが笑いながら言っているのが聞こえる。

「伊達も考えていたのか」

「それはそうだろう。九条君は優秀だ。あ、いや、魔王様かな」

「そうだな、傘下に入るのだから魔王で良いだろう」

勝手に話が進んで行く。


「大丈夫?有架くん」

足元の穂香さんが、本当に心配そうに声を掛けてくる。

ちょっと、無理っぽい。

けれどこの場でそんな事は言えなくて。


「わかりました。伊達さんのお話もお受けします」

「ありがとう」

ふうっと息を吐いてから、お茶を飲む。


「情報は各リーダーにお渡しします。けれど優先順位は魔王様ですので、細かく連絡してくださいね」

ローズさんがそう言って、津島さんと伊達さんに連絡先を教えていた。

もうね、ちょっと急展開過ぎて、どうしようもない感じで。それなのに。


まだオタついている僕を無視して宗典さんが話し始める。

「では、我が魔王よ。話をしましょう。どのように我々は貴方を守るべきか」

けれどその議題は無意味な物で。

「あのさ、賢者殿。僕を守るって誰が?」

「…そうでしたね」

宗典さんが少し笑う。

分かっているはずなのに、パフォーマンスが過ぎると思うけど。


「ダンジョンの外にいるなら、僕が誰かに負けることはないよ。僕の力はダンジョン由来ではないのだから、何処でも使える」

「あの魔法も?」

富士さんが聞いて来た。

「そう。何処でも使える」

僕が答えると富士さんが唸った。


津島さんが少し考えてから、僕達を見る。それは少し段が付いた舞台に似た場所に居る僕らを見ている。

「魔王よ。もしや〈漆黒の魔王〉は、異能者しかいないのか?」

それは少し恐る恐ると言った声で。僕は肘掛に左ひじをつき頬杖をしたまま、津島さんを見返す。


「もちろん。魔王の軍勢が外の世界で害される訳ないだろう?」

魔王らしい笑みというのが、どういう顔だか分からないが、僕は自然に笑って津島さんに答えていた。どうやら横の四人も足元の穂香さんも、同時に前を向いていたようで、僕らに相対する場所に居る六人は、驚いた顔をしたまま固まっていた。


うん。この舞台装置よ。

そろそろ精神的に限界が近い気もするが、言わなければならない事はまだあって。

「僕達のクランに入ると言っても、すぐにすべての情報を共有する気はないし、使える施設も道具も、全て渡すわけではない。僕達は信頼が足りない。〈漆黒の魔王〉の面々にある信頼が今日から共闘すると言われた皆さんに、すぐには持てない」

六人がほぼ同時に頷いた。

「特に今日見せた移動の道具は、暫くは皆には渡せない。便利だなと思っていただろうけれど他言無用で我慢をして欲しい」


藤原さんが肩を竦めた。

「大丈夫だよ、魔王様。私達はダンジョンの外で使える魔力なんて持ち合わせていないから」

北角さんも苦笑して頷いた。

「我々はダンジョンにいてこそ使える物が多いけれど、外では力が強いだけの人間でしかないからね。魔導具を使うなんてとんでもない」


言われて頷く。

全部いっぺんに話すとか無理だし、もうちょっとこの状態がほんと、無理。


僕が半目になってしまったことを察したのか、宗典さんが一歩前に出る。

「皆さんもお疲れでしょう。今日はこの辺でお開きにしましょう。帰りもあの円陣で外に出られます。帰りはどの場所が良いですか」

津島さんが藤原さんと顔を見合わす。

「私達は池袋で良いわ。公園のあたりに落としてくれると嬉しいけど」

「分かりました」

宗典さんはそのまま、伊達さんと富士さんを見る。

「俺は横浜にお願いする」

「俺は人形町に下ろしてくれると助かる。クランの仲間と話し合いたいし」

宗典さんが首を傾げる。それを見て富士さんは苦笑した。

「話して、ここに入りたかったら、あとから申請しても良いんだろう?」

「ええ、まあ。しかしよろしいのですか?」

「何が?」

少し剣のある声の富士さんに宗典さんが柔らかく笑う。


「恋敵の伊達さんと一緒のクランでも?」

「な」

富士さんが固まり、伊達さんも宗典さんを見る。

「…言い忘れていましたが、我が魔王のクランに入るという事は、全ての情報があけすけに見られるという事です。恥ずかしい事も嫌な事も悪いことも嬉しい事も。何せうちにはリエ・ゼロがいますし、魔王様の側にいる者の情報を、ひとつ残らず精査するのは我々の仕事ですから」


その微笑みに、五人が少し青い顔になった。


なるほど、あの険悪さはリア充への辛辣さだったのか。

納得していると、順番に円陣に入る人達が手を振って帰って行くので、僕も手を振り返して見送った。五人帰ると広間の雰囲気が落ち着いたものになる。


残った近衛さんがこっちを見ている。

「ここで話をするのか?」

僕は首を横に降った。

「もう、これに耐えられない。賢者殿、話は別の場所でしたいのだけど」

「そうですねえ。今回はお披露目会だったので、近衛さんとの話は何時もの店のリビングでしましょうか」

最初からそうしてくれればいいのに。


僕達も円陣に入り、魔王の間を離れる。一体あの場所が何処にあるかは今は聞きたくなかったので話題にしなかった。


店の片隅にある、前に教えて貰った円陣に移動したので、ほっとした。あんな大きな広間で話し合いなんて、疲れてしょうがない。

錬金研究所の奥にあるソファセットに座って、ひじ掛けにぐったりと寄りかかった。壁にかかっている時間を見ると、夜中の十時。マジで徹夜になりそう。


無花果さんが濃い目のコーヒーを持ってきてくれた。ありがたい。

「ありがとう、無花果さん」

「魔王さまは連戦の後にあんな事させられて、お疲れだと思いますので」

ちらりと宗典さんを見る無花果さんに、ローズさんもエリカさんも、穂香さんまで頷いた。近衛さんは不思議そうな顔で僕達を見ている。


さっきの話し合いよりも幾らか落ち着いた気配で皆が座っている。

お茶を貰った近衛さんも、まだ何も言わないでソファに座っている。何だか気配が身内のように馴染んでいるので、隣に座った穂香さんを見ると、顔色は戻っていたが何か考えているように、口をぎゅっと結んでいた。


「私は帰ります。少し疲れているみたいで」

紅茶を半分飲んでから、穂香さんがそう言った。僕は頷いて穂香さんの手を少し握る。

「気を付けて」

「ええ、ありがとう、有架くん。それではお先に失礼いたします皆さま」

一同が頷くと、部屋の隅の円陣に再び入って帰って行った。


「大丈夫かな穂香ちゃん」

ローズさんが心配そうに言う。

「疲れ以外に、何か考えているみたいだね」

エリカさんがそう言ってから、顔を天井に向けて立ち上がる。また光鳥がたくさん羽ばたいて降りてくる。それを両手を広げて受けているエリカさんを、何故か近衛さんは目を細めて見ていた。全て受け止めた後で、すとんとソファに座る。


「…じゃあ、俺の話を聞いて貰えるだろうか」

「はい」

僕が肯くと、近衛さんは僕をじっと見て、それから決意したように固い声で言った。


「俺が〈光輝の勇者〉だ」



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