パニッシュメントの歴史
津島さんの言葉で皆の動きが止まった。
「近衛さんが、パニッシュメントですか?」
しばらく止まった後に、穂香さんが津島さんに聞いた。聞かれた津島さんは深く頷く。
「そうだ、近衛蓮はパニッシュメントに参入しているのではないかと思っている。今までの行動がそうだったとは思わないが、今回の動きはあの組織の動きに見えた」
「どういったところが」
僕の言葉に、まだ腕を組んだまま津島さんが答える。
「一探索者を自分の組織に入れようとして攻撃するのは、国立探索者協会には有り得ない事だ。勧誘は認められているが、あそこまで派手に戦闘をして、人員を確保するのは奴らのやり方だと考えられる」
はっきりと言いきった津島さんを見たまま、富士さんが言った。
「津島さんはやけに詳しいけど、パニッシュメントと戦ったことがあるのか?」
富士さんをチラッと見てから津島さんが頷いた。
「昔の話になるが。伝説の〈ワンダラー〉と戦った〈ユニヴァース〉というクランがあった。当時は二分してダンジョン制覇を争っていたクランだ。そこが対立した。…正確には〈ユニヴァース〉が〈ワンダラー〉を一方的に襲って二名の人員を連れていなくなった」
組んでいた腕を解いて津島さんがお茶を飲む。皆が注目する中で、また津島さんが口を開いた。
「後ほど、パニッシュメントと争った探索者から報告が入った。見知った人物がパニッシュメントに居ると」
「…箱橋さんと駮馬さんの話だよね?」
藤原さんが津島さんに聞いて、津島さんは頷く。
「あいつらは説得をして連れて行くのではなく、連れて行ってから繰り返し話して聞かせて、洗脳まがいをするのかも知れない。少なくとも俺が話していた人は、その時点でパニッシュメントのような考え方では無かった。普通の探索者だった」
「小競り合いはあるけど、誘拐みたいなことを探索者はしないからなあ」
津島さんが黙った後に、富士さんがそう言った。
僕は話を聞きながら、パニッシュメントに賛同する理由も分かる気がしていた。あの山羊頭が言う事を真剣に考える人は、結構多いだろうなと想像できたからだ。
この世からダンジョンをなくしたい。
そう考えることはおかしな事ではない。
今の世の中が、エネルギーを魔石に求め、レベルアップという人体強化された人間を求める世界だとしても。陰陽や魔法が表舞台に立ち、異能者がもてはやされる時代だとしても。その恩恵を全世界が受けていたとしても。
戻りたい人たちがいるのは、納得できる話だった。
「強制はいけないですね」
宗典さんがそう言った。
「新しい世界を望むなら、自由意思でなければならないでしょう」
その言葉に僕は頷く。穂香さんも他の人も頷いた。
たとえそう思っていても、強制されて思うのは全く違っている。
「だから、近衛蓮はパニッシュメントなのかもしれないと、そう言う話か」
伊達さんが言って、津島さんが頷いた。
「でも、そうだとして、何が悪いんだ?」
富士さんの言葉に、津島さんが半目になる。
「それは近衛さんの自由だろ?俺達が強制するのも違うんじゃないか?」
「そうじゃないよ、富士。九条君がパニッシュメントに目を付けられたという話だ」
きょとんいう顔で、富士さんが伊達さんを見た。
「うん、まあ、そうだろうけれど」
溜め息を吐いて伊達さんが言う。
「つまり、今回だけで諦める訳がないから、パニッシュメントならば対策をしなければならないという話だろう」
「対策?」
富士さんが聞き返すと、もう一回溜め息を吐いてから伊達さんがこめかみを揉んだ。
「パニッシュメントは、異能者しかいない集団だ。また来るならば何がしかの対策をしなければならない」
「え、パニッシュメントってそうなんだ」
伊達さんの言葉に富士さんがそう言うと、隣の北角さんが頷いた。
「魔法使いと言うか、異能使いと言うか。敵対するには少し大変だろうね」
話を聞きながら、僕は面倒な事になったなあと思っていた。
今はまだ、仮定の話だけれど、それが真実ならば確かに対策した方が良いと思えるわけで。
「リエ・ゼロ。情報は取れるかな」
「はい魔王さま。いま情報を集めている最中です。もう少しお待ちを」
「分かった」
話していた六人が僕の方を見る。
「では、情報が集まるまでの間、パニッシュメントについて今現在分かっている事を話しましょう」
ローズさんがそう言ってから、一歩前に出た。
いま、魔法を使っているのはエリカさんという訳か。
「頼む」
「畏まりました、魔王さま」
軽く頭を下げた後で、ローズさんが話し出した。
「パニッシュメントが活動を始めたのは今から三十年ほど前です。時期的には、安定して探索者がダンジョンに潜り始めて、魔石をエネルギーに変換するシステムを錬金術師が確立した後になります」
無花果さんが、皆のテーブルに新しいお茶のポットを置いていく。僕の足元でも、穂香さんがお茶を飲んでいた。
「初めは千葉の舞浜ダンジョンに出没しました。最初の記録がそこです。ダンジョン内で探索者と争い、怪我人が出ましたが、亡くなった人はいませんでした。そこのダンジョンの基礎核を砕いて立ち去りました。その時まで、踏破した後に現われる石を砕くという行為をした人物はいませんでした」
「世界でもいなかった?」
藤原さんが聞くと、ローズさんは頷いた。
「はい。試した人は居たみたいですが、壊れなかったそうです」
「あれ、固いって有名だもんね」
聞いた藤原さんが頷く。
「その後はノルウェーのオスロダンジョンに現われました。やはり踏破し基礎核を壊して去りました。当時は安定してダンジョンに潜れるようになったものの、反対派もたくさんいましたので、喜ばれたそうです」
「なるほど、そんなものか」
僕が肯くと、ローズさんも頷き返してきた。
「はい。その後も世界各地に現われてはダンジョンの基礎核を壊して回っています。魔石がエネルギー問題を解消してからは、嫌われているようですが、それまでは救世主だと言っている人もいたようです」
無花果さんが、僕のお茶も入れてくれたので、カップに口を付ける。
「…ちょっと待って」
「はい、魔王さま」
僕が声を掛けると、ローズさんが口を閉じた。
「話は聞きたいけれど、そもそもの答えを貰ってない気がする」
そう言ってから、近衛さんを見る。
「近衛蓮さんは、パニッシュメントなのですか?」
皆と同じように話を聞いていた近衛さんは苦笑した。
「やっぱり答えないと駄目かな」
「答えを知っているのであれば」
「ああ、知っている」
そう言ってから、近衛さんは僕の顔を見た。
「蓮は、パニッシュメントの〈キングダム〉に所属している。山羊頭の主宰とは違う派閥だ」
「パニッシュメントにもクランがあるのですか?」
「そう、探索者ほどは無いけど、結構な数が存在している」
そう言った近衛さんを、津島さんが睨んだ。
「お前は?」
問いかけられた近衛さんが津島さんを見る。
「お前は所属しているのか?」
「俺が?いや、俺は関係ない。蓮達が入っているだけだ。俺と宮は入ってない」
「くう、さん?」
穂香さんが聞くと、近衛さんが頷いた。
「ダンジョンに残った末っ子だよ」
「それを信じろと?」
「…ここでの話では、信じて貰えないかもしれないが。後の九条君たちとの話で信用はして貰えると思っている」
近衛さんがそう言うと、お茶を飲みながら藤原さんが片眉を上げる。
「秘密の話だね?まあ、その判断は九条君にして貰うよ。今は君の話に頷いておこう」
「ありがとう」
藤原さんに素直にお礼を言った近衛さんに、津島さんもそれ以上は突っかからなかった。
「もう一つ話があるんだ、九条君」
津島さんがそう言って、僕を見上げる。話の続きをしようとしていたローズさんが一歩下がった。真面目な顔で僕を見ている津島さんを見たのだろう。
「なに、大和?何の話?」
「藤原は黙っていろ、北角もだ」
自分のクランに声を掛けてから、もう一度僕を見る。
「話とは、何でしょうか?」
「話と言うか、お願いだな」
「お願い?」
津島さんがピッと背筋を伸ばした。
「俺達のクランを九条君の傘下に入れて欲しい」
「…は?」




