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ダンジョンパニック//池袋敢争・4




津島さんが僕を見ている。

「九条君と会った時には、もうダンジョンの雰囲気が変わっていた。重くなっていたな」

「重く?」

瓶のポーションを飲み干すと、続きの言葉もなく津島さんは前衛に戻った。


言われて気付いた。

穂香さんを助けに入った第七ダンジョンには、確かに十階層にボスフロアはなかった。普通の階層に転移装置があるだけの草原の場所だった。


雰囲気が重いとは津島さんの感性だろうが、常に潜っていたダンジョンをそう感じ取るのはランカーならではなのだろうか。

「有架くん?」

穂香さんが隣で話しかけてくる。

「はい?」

「大丈夫?」

僕は穂香さんを見返す。何か変な顔をしていただろうか?


「この先にまた、ボスがいるのよね?」

「多分、二十階層にいると思うけど」

「そうよね」

そう言ってから前衛の二人を見る。僕も一緒に二人を見た。

安定した立ち筋に任せてしまっているが、二人だって疲れているだろう。


一息に魔法を使ってしまってもいいのだが。

この事態を十分に考えるには、もう少し時間がある方が良い気がしていた。


「ダンジョンパニックは、どうして起こったのかしら」

考えている僕の横で、穂香さんが呟く。

「…原因は分からないよ」

「そうよね。そうなのだけど」

そこまで言って穂香さんが口を閉じた。話の続きは無い。


ダンジョンパニックは、この数十年に数回しかないと聞いている。それも初期のころは多かったが、最近では全然なくて、探索者協会でも話は聞かなかった。

僕達が探索者になる時も、協会では注意もなかった。

つまり、こんな事態が起こったのは異常で。ダンジョンの進化というものも、僕らが探索者になってから初めて起こっていて。


「…邪神ちゃん、まさかとは思うけどあいつじゃないよね?」

「それにドう回答しテいいか分からない。けれド、あいツじゃないトは言いきれない」

僕の考えに邪神ちゃんが答える。それは願っていない答えだけど、半分ぐらい想像していた答えだった。


小さな声で話している僕達を穂香さんが見ている。

「原因があるの?」

小さな声で聞いて来た穂香さんに、どう答えればいいのか。

「もしも推測している相手が、実行したのなら。僕が原因だろうな」

「え?有架くんが?どうして?」

その問いには答えられない。


鳴っていた曲がふっと途切れる。前に行っている二人が階段に足を掛けたのだろう。まだ僕を見ている穂香さんに目を合わせる。

「クランに帰ってから話すよ」

「…分かったわ」

信じて頷いてくれる穂香さんが嬉しかった。

だからもし、あいつが原因ならば、僕が決着をつけなければならないだろう。


十八階層に降りてからも別段に変わりなく前に進む。

けれど、モンスターの数が驚くほどに増えていく。横浜でもここまでの数はいなかった。

「〈絶の黒雲〉」

指先を整えて魔法を打つ。

真っ黒な雲が辺りを一瞬包み、モンスターを消す。その度に沢山の魔石が僕の腕輪に吸い込まれていく。ガラガラと石がぶつかり合う音が、何かの楽器のように鳴り響く。


「これは、どうしようもないな」

少し息が荒くなって来た藤原さんがそう言ってから立ち止まった。津島さんも眉根を寄せている。北角さんは僕の横で何かを考えていた。

「九条君、横浜ではどうやって抑え込んできたんだい?」

北角さんに問いかけられて、答えに詰まる。


前回一緒に行動した限りでは、ここのクランは非常に合理主義だと思っていた。自分たちが倒した以外の全ての魔石が、僕に収納されているのが嫌なのかもしれない。

何回か、三人の目線が僕の腕輪に絡んだことを、僕は知っている。


「魔法で封鎖状態にしました。あまりいい方法ではありませんでしたが」

「どんなふうに?」

「ダンジョン自体を崩しました。再生に時間がかかる間に建て直せればと思いまして」

話した僕の顔を、北角さんがじっと見る。

「まだ出来るかな」

「…やろうと思えばできますけど」


津島さんが腕を組んで悩んでいる。

藤原さんは北角さんを睨んだ。

「そこまでして貰うのは、私は反対だけど」

「これ以上同じことを続けても、負担は一緒だと思う。九条君にだけ頼っている状況は変わらない。それならさっさと決着を付けて貰った方が良い」

「…他力本願過ぎる。助けて貰ったのに、それ以上なんて」

藤原さんの声に、少しだけ北角さんが黙った。


「九条君は、どう思うんだ?」

津島さんの問いかけに、僕は小さく溜め息を吐く。そう問いかけられては選択肢が二択になってしまう。やるかやらないか。僕が決めなくてはならない。

「…邪神ちゃん」

「有架のしタいようにすればいいけド。疲れるのは有架ダし」

分かっております。

魔力が尽きないとはいえ、あれは大技だから、かなり体が疲れる。



僕は十九階層に行くための階段の手前まで歩いていった。

「有架くん」

「穂香さんは下がっていて。他の人も後ろに居て下さい」

使えるものは使うべきだ。その意見に異論はない。事態は早急に解決すべきだと僕も思う。


両手を伸ばして範囲を決める。此処は踏破されていて三十階層までのダンジョンだったはずで、だから横浜の時よりも大きめに。


「〈玄之又玄〉」

両手の先の空間に巨大な円球の魔法を打つ。ダンジョンの最下層まで到達するように探りながら、大きさを調整しながら数分の魔法を掛ける。

その力が強いほど、あいつには居場所がばれるだろう。

けれどそれは今更だ。横浜で使った時に既にばれているだろう。日本に僕がいると気付いてあいつは来るだろうか。


残っていた十数階層分を削り切った魔法が消えた後に、風で浮いていた光る石に触れる。それはまた光を失ってはるか下の床に落ちていった。

かつんと小さな音が響くほど、辺りは静かだ。


振り返ると、四人が僕を見ていた。


僕が彼らの正面を向いても、誰も口を開かない。

こういう魔法だと想像していても、現実で見るのは違う気持ちになるのだろう。この魔法は本当に破壊的だから。


「…魔王様。此処は終わりましたね」

穂香さんに、そう言われて苦笑する。

「……本当に魔王のようだね、九条君の魔法は」

そう言った藤原さんを強めの力でグイッと押した後に、津島さんが僕に頭を下げた。

「有難う、九条君。助かった」

その津島さんを見て藤原さんも慌てて言ってくる。

「あ、ごめんね九条君。ありがとう!」

北角さんはまだ僕を見ている。見返すとやっと口を開いた。

「驚いてすまない。有難う九条君」

三人三様の声を聴いてから、首を横に降った。


「これで少しは時間が稼げると思います。地上に戻りましょうか」

僕は言ってから、削れた壁を上る。ダンジョンになっていなければ、ただ上に昇ればいいだけの簡単な作業だ。

穂香さんが僕の手を取る。

「…指先が冷たくなってるわね」

「少し疲れているからかな。あれはちょっと使うのが大変なんだ」

「そうなのね。じゃあ何処かで休みましょう?」

「出来れば、そうしたいかな」

指先から穂香さんの体温が伝わってくる。それはほんのりと冷えた身体を温めてくれる。


地上に戻った僕達を、協会の職員さんが出迎えてくれた。

「〈漆黒の魔王〉九条さん。有難うございました」

そう言って頭を下げてくれたのは、ダンジョンに入る時に話した職員さんだ。ここでずっと待っていたのだろうか?


「待っていたんですか?」

「九条さんに頼んで、職員の僕が安全な所に居るなんて出来ません。帰ってくるまで待っていようと思っていました」

何日かかるかもわからないのに。


「あの、それで。大変申し訳ないのですが」

本当に泣きそうな顔でパソコンをそっと持ち上げるのを見て僕は溜め息を吐いた。それでも拒否は出来なくて、開かれたパソコンを見る。


『九条君。池袋も何とかしてくれたようだな』

「無理矢理ですから、責任は取れませんけど」

『有難う感謝する』

それから五十嵐さんは黙った。良いよ、沈黙なんかいらないから。


「…で?」

『第二ダンジョンに入っていた近衛が一回外に出て来た。まだ踏破できていない様なんだ』

「それは。…出来そうなんですか?」

『ギリギリ無理らしい。帰っていいかと聞かれている』

無責任だな。それは。


『…それで、すまないのだが』

「本当にすまないと思った時だけ言ってください。修飾語ならいらないです」

僕の剣幕に、五十嵐さんが画面の向こうで苦い顔で黙った。

『九条君、八王子に行ってくれないか?』

「本当に。超高額を請求しますからね?」

その言葉に更に苦笑された。


もう一生働かなくても良いぐらい、貰ってやるからな。覚悟しろよ?




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