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ダンジョンパニック//池袋敢争・3




その先はずいぶん楽に降りていけた。

津島さんと藤原さんが前に立って、僕の魔法が効きにくい相手を次々と切り捨ててくれる。やっぱり剣士が一人必要だよなあ。そんな感想を持ちながら歩いていく。


十二階層も十三階層も、かなりの数のモンスターがいた。

一つの通路に五、六体はいた。ダンジョンはたくさんの通路がつながってできているものだから、一つの階層に百匹以上のモンスターがいる事になる。

腕輪に吸い込まれる魔石は、まるで何かのゲームのように遠くからも飛んで来て収まる。


さすがに疲れたな。

そう思いながらも歩くのを止めないで、前衛について行く。此処が終わっても第二ダンジョンを頼まれる気がしてならないが、世界的に広がっているダンジョンパニックであるなら、仕方が無いだろう。


十四階層の手前で穂香さんが立ち止まった。

「あのね、有架くん」

「なに?穂香さん?」

「少し休まない?お腹が空いちゃったわ」

僕の手を取ってそんな事を言った。ここに入って三時間ぐらいだが、食事をとらないで駆けつけてくれたのだろうか?


先に歩いていた津島さんと藤原さんが戻ってくる。

「そうだな。九条君は休んだ方が良いかも知れない」

「もしかしなくても、連戦だよね?」

津島さんと藤原さんがそう言って階段近くをじろじろと眺めている。


「場所は此処でいいと思うわ」

壁際の今いる場所を穂香さんが指差す。

「黄色き小さな花冠が我らを癒す…〈ヤング〉」

穂香さんが唱えた魔法は、床に小さな花の円陣を作りだし、それがモンスター避けだと分かった。


「やっぱり魔法使いが二人いるって、九条君のクランはお得だよねえ」

そんな事を言いながら藤原さんが、北角さんからシートを受け取った。それを床に敷いてから僕らを手招きする。

「座りなよ。九条君」

シートの上に座ると、穂香さんも隣に座ってから何だか大きな重箱をバッグから取り出した。それを僕の前に置く。


「今日の為に作ってもらったの、うちのコックに。皆さんもどうぞ?」

三段の重箱にお料理がたくさん詰まっている。

「いただきます」

満面の笑みで、藤原さんが取り皿の紙皿を持って割りばしで、いなりずしを掴んだ。それをポンと口に入れる。


「美味しい~」

「では俺も」

北角さんも煮豚を口に入れる。ていうか、豪勢なのですが?

「これは旨いな」

津島さんも口に詰める。

空腹なのはみんな同じだったのかな。僕は紙コップにお茶を貰う。


「ありがとう、穂香さん」

「うん。救助の人もいたし、有架くんもいたから」

ニコッと穂香さんが笑う。僕はお稲荷さんを貰って、口に入れる。

甘酸っぱくておいしいな。プロの味付けってすごいな。

「うま」

「そう?良かった」

自分も食べながら、穂香さんが肯く。お稲荷さんの中身が五目の酢飯で、うま。


モンスター避けの花冠の向こうでは僕の魔法で消えていくモンスターが黒い欠片になっていく。誰も何も気にしないで雑談をしながら、ご飯を食べている。

ディストピア感がすごい。


この事態が収束して、世界が落ち着いても、この感覚が当たり前になるのだろうか?


それならば、生き残るのは強化された探索者と一部の能力者しか残らないという事になる。恐ろしい考えだけど、可能性はある訳で。

…止めようとは思うけどね。普通に仕事をしてくれる人がいないと、インフラが全部止まってしまうだろうから。


電気も水も、毎日通って色々してくれる人たちがいないと止まっちゃうし。今食べているモノだって、農家さんが作ってくれないと食べられないし。


探索者だけが生き残っても、世界は滅亡してしまう。

うん、頑張ろう。


「もっと食べてもいいのよ?」

穂香さんが言ってくれるけど、僕のお腹には十分で。

「お腹一杯です。有難うございます」

「そうなのね?まあ、あまり時間もないし、いったん片付けましょうか」

そう言ってお重をまとめ出した穂香さんに、三人が礼を言っている。外のモンスターも数が減ってきていた。


「さて、行こうか九条君」

そう言った津島さんに頷いて、花冠から外に出る。全員が出た後に穂香さんが魔法を解いた。花はどこかへ消えていき、それを眺めた北角さんが微笑む。

「小鳥遊さんも強い魔法使いだな」

「おばあさまには遠く及びませんわ」

「大魔女は強いと聞くけど、見た事がないしなあ」

確かに、見た事はない。

けれど、あの魔導具、願い箱を見た事がある僕としては、強い人だとは知っている訳で。


頷く僕を穂香さんが見ている。

「おばあさまは、多分、近衛さんと一緒にいるはずだから。もしかしたら会うかもしれないわね、有架くん」

「え、第二まで行けとか、勘弁して欲しい」

軽口をたたきながらも、階段を下りた先で戦っている前衛の二人を見る。


僕の魔法が効かない相手を簡単に切り下している二人は本当に安心する。北角さんは僕の隣でモンスターの傾向や種類を開設してくれて、穂香さんと二人で頷きながら歩いていて、こんな混乱の中なのに、知識を得ながらダンジョン攻略とか、恵まれ過ぎている気がした。


十五階層に降りて、曲が少し変わる。それに耳を澄ませている僕に、隣の北角さんが笑いかけてくる。

「同じ曲を二回も聞くとは思わなかったけれど、九条君には珍しいかな?」

「…ここを踏破したのは皆さんなのですか?」

「俺達と言うか、一緒にいた人たちが踏破したというか」

僕達の話に興味を持ったのか、藤原さんが後ろに下がって来た。


「陸、ちょっと変わって」

「いいよ」

気軽に北角さんが津島さんの方に向かう。その手に巨大なハンマーが出現した。


え、ここの三人は全員戦える人なのか。

僕の顔を見て藤原さんが笑う。

「陸も戦えるよ?ただハンマーは動きにくいから後ろに居るって言うだけで」

カバンからポーションを出しながら話す藤原さんを見ながら、僕は納得する。ランカー二位は尋常じゃないな。


「さっきの踏破の話ね、私達はまだランカーにもなっていなかった時期の話なんだ」

「そうなんですか?」

わざわざその話をしに来たのだろうか?

「陸の彼女がそこのチームに居てね、一緒に来たんだよ」

半分ぐらいポーションを飲んでから藤原さんが話しを続ける。

「結局、私達は足手まといだったのだけど、陸と彼女がその後こじれちゃって。ちょっと陸には苦い話かな」

ああ、それで藤原さんが話しに来たのか。


僕が頷くとまた藤原さんが笑う。

「別に彼女が怪我をしたとかって訳じゃなくて、そのチームの人と出来ちゃったという話で、まあ失恋したというか」

「もう、それ以上は止めてくれないかな」

ハンマーを振るっている北角さんが前方から声を掛けてきた。津島さんはいつも以上に口を引いて刀を振るっている。


友達に恋バナをされるのは恥ずかしいよね。

顔が赤い北角さんを見ながら僕は頷くしか出来なかった。


「〈ワンダラー〉の話を久しぶりにしたな」

藤原さんが呟く、その名前はどこかで聞いたような。


「…〈ワンダラー〉はもう活動していないだろう?」

津島さんが口を挟んでくる。

「〈ワンダラー〉って昔の有名なクランですよね?」

穂香さんの質問に藤原さんが頷いた。

「そうだよ。この国のダンジョンの半分は踏破したって言われている、有名なクランだったから、伝説的に伝えられているかな」


そんなに凄いクランだったのか。

二十以上のダンジョンを踏破したクラン。恐れ多いな。


下に向かう階段を降りながら、穂香さんが話しかけてくる。

「有架くんも、伝説になりそうだね?」

「…ならないよ」

そんな大層な事はしていないと思う。僕一人ではとても踏破なんて出来ない。助けてくれる人がいるから出来る事で。


十六階層、十七階層と順調に降りていく。

このままいけば二十階層のボスに当たっても平気そうだ。

「しかし、十階層があんな形とは驚いたな」

そう言って津島さんが下がってくる。入れ替わりで藤原さんが前衛に立った。


僕の顔を見ながら、津島さんが聞いてくる。

「横浜も、十階層にボスがいただろう?」

「はい。十階と二十階と最後の階層にボスがいました」

そう答えると、津島さんは小さく首を振った。


「ダンジョンに以前はそんな階層はなかった」

「え」

僕は驚いて津島さんを見た。

十階層ごとにボスがいるのは、変化してからだという事だろうか。では津島さんと会った時はもう変化した後だったという事だろうか。

その割にはあの時、三人とも普通にしていた気がするけど。




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